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緻密な考察と本能のままの大胆さ、危うい二人に魅せられて 『スリル・ミー』Review3 松岡広大×山崎大輝 ピアノ:篠塚祐伴

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ミュージカル『スリル・ミー』より 左から)松岡広大、山崎大輝   撮影:田中亜紀

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2011年の日本初演に始まり、今回で8度目の上演となるミュージカル『スリル・ミー』が東京芸術劇場シアターウエストにて開幕した。1924年にアメリカ・シカゴ郊外で起きた青年ふたりによる少年誘拐殺人事件を下敷きとした本作は、事件の当事者である“私”と“彼”、その独白と対話のみで構成し、二人の関係性と心理に究極に迫った異色ミュージカルだ。栗山民也演出のもと、2023年バージョンは3組のペアによる舞台が只今絶賛公演中。Review3では前回2021年公演に続く再タッグ、松岡広大(“私”役)×山崎大輝(“彼”役)ペアのゲネプロ(最終リハーサル)観劇での雑感を、稽古に入る前、彼らが取材で語った意気込み等を振り返りながら記していく。

取材時から、再挑戦への並々ならぬ意欲を語っていた二人。とくに松岡は「(前回は)すぐに答えを求め過ぎたから苦しかった」と難役を振り返り、今回も二人で食い下がるようにして栗山と話し合い、作品を積み上げていくと誓っていた。2年ぶりに『スリル・ミー』に戻って来た“私”と“彼”、その劇空間に広がっていたのは、考察をしぶとく重ねて築いたことが感じ取れる、独特の世界だった。危うさが面白い、とはこのストーリーにして不謹慎な感想かもしれないが、ある時は恐ろしくテンポの速い掛け合いで、ある時はジットリと湿度の高い距離感で、二人の強固な結びつきを突きつけて来る。その見せ方が興味深く、のめり込むようにドラマの行方を追った。

松岡の“私”に滲み出るのは、愚かな運命へ自ら進んだことの潔い懺悔、そんな落ち着きだ。それは過去を回想する老齢の“私”だけに見られるのではなく、“彼”に翻弄される少年期でも、ところどころで妙に悟ったような表情が覗く。恐怖におののき取り乱す“私”も真実なら、一瞬の老成を見せる“私”も真実。揺れ幅の激しさ、一貫性のなさに危うい魅力を感じて引き込まれるのである。対する山崎の“彼”は、2年前以上に本能のままの“彼”となって、素朴かつ大胆に舞台に生きている点に魅せられた。殺人のための道具をあんなにも無造作に、事務的に扱い、リュックを軽く肩に引っ掛け、散歩に出るかのように歩き出すなんて……! 事態の重みを微塵も想像しない傲慢さがささやかな笑みを誘い、それはのちに薄ら寒さへと変わる。繊細で複雑思考の“私”と無自覚の狂気を放つ“彼”、やはりコンビネーションの妙味に惹かれずにはいられない。

若さの一言だけで語られたくない、そう野心を掲げていた二人だが、突き抜けるように響くハーモニーも、醸し出される危うさにしても、やはり突出した若気の至りの悔恨や痛み、それとともにある種の輝きを刻みつけて来るペアである。しかし2年前と同様、目にしたのはゲネプロだ。前回、栗山に「なぜ初日を観なかった!? あの二人は大化けしたのに」と得意満面に言われたことを思い出す。公演中の今、そしてこの先も、日々揺らいで化けるポテンシャルに注目必至である。

取材・文:上野紀子 撮影:田中亜紀

★松岡広大さん×山崎大輝さんの稽古前インタビューは こちら

<公演情報>
ミュージカル『スリル・ミー』

【東京公演】
2023年9月7日(木)~2023年10月3日(火)
会場:東京芸術劇場シアターウエスト

【大阪公演】
2023年10月7日(土)~2023年10月9日(月・祝)
会場:サンケイホールブリーゼ

【福岡公演】
2023年10月11日(水)・12日(木)
会場:キャナルシティ劇場

【名古屋公演】
2023年10月14日(土)・15日(日)
会場:ウインクあいち 大ホール

【群馬公演】
2023年10月21日(土)・22日(日)
会場:高崎芸術劇場 スタジオシアター

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2343901

公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/thrillme2023/

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