『スリル・ミー』キャスト対談第3弾：松岡広大×山崎大輝　何度でも～2年前の思いを胸に～

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インタビュー

ぴあ

23/7/21(金) 7:00

左から）松岡広大、山崎大輝　撮影：杉映貴子

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舞台にいるのは“私”と“彼”、そして衝撃のドラマをともに綴る一台のピアノ。2011年に日本初演を迎えて以降、再演を重ねるたびに熱視線を浴びてきた異色ミュージカル『スリル・ミー』（原作・音楽・脚本：Stephen Dolginoff）が2023年、さらなる進化を見せる。1920年代アメリカで実際に起きたふたりの天才少年による驚愕の事件をモチーフに、“私”と“彼”による息もつかせぬ濃密な100分間の心理劇が展開。今回、この二人ミュージカルに挑むのは、尾上松也＆廣瀬友祐（私＆彼、以下同）、木村達成＆前田公輝、松岡広大＆山崎大輝の３チームだ。初演から演出を担う栗山民也とともに、それぞれのペアが衝撃のドラマをいかに構築するのか注目必至！　インタビュー第3弾は、前回の2021年公演で初登場し、鮮烈な印象を残した松岡広大＆山崎大輝。3チーム中、唯一の経験者ペアが、再演への新たな心意気を語った。

毎回吐きそうになっていた“私”× 開演5分前に歯を磨く“彼”

――前回公演に続く二度目の『スリル・ミー』ですね。おふたりでもう一度挑みたいと考えていらしたのでしょうか。

松岡　はい、何度でも。

山崎　うん、そうだね。何度でも。

松岡　前回は、コロナ禍での公演中止という事態もあって、悔恨の思いがそれぞれの心に深く刻まれていました。また呼んでいただけて非常に嬉しいですし、主催の方々が「まだ終わりじゃない」と思ってくださったからこそだなと。演劇に「分かった」はないと思いますし、腑に落ちるまで一生をかけて考えるものだと思っています。

山崎　本当に、前回ふたりでやっていて、さらにその先に見つけられる何かがありそうだなと思っていた時でしたから。作品の内容自体は重いものがあるけれど、東京公演の終盤あたりでは手放しで楽しめていたように思うんですよ。そんな中での中止だったので。

松岡　僕は毎回、吐きそうだったけどね（笑）。

山崎　この人（松岡）、よく吐きそうになるんですよ！　初日に何回もトイレに行っていて、そんなに緊張するんだ！って思ったのをよく覚えています。

松岡　僕は毎回、怖いです。

――吐きそうになるくらい、稽古から本番にかけて過酷な日々だった？

松岡　はい、精神的に過酷な日々でした。作品を理解しようとずっと努めていましたが、どうしても理解し切れないところもあって。すぐに答えを求め過ぎたから苦しかったんだろうなと。時間をかけて詰めていくべき、というのは今なら分かるんですけどね。“私”の回想で物語が進行していくので、僕の回想や記憶にしっかりとした背景がないと“彼”が生きてこない。“彼”は僕の記憶の中で生きている存在だから。喉元にグッと上がって来るものを必死に抑えてやっていました（笑）。

――かたや、山崎さんは吐きそうになるほどでもなく？

松岡　開演５分前に歯を磨いている人ですから。そうだよね？（一同笑）

山崎　そうそう、５分前に歯を磨いているのは本当ですけど（笑）、もちろん緊張や不安はありましたよ。でも精一杯を尽くしていたから、あとはもう流れに任せるしかないなって、ある意味“割り切り”みたいなものが出来ていたので、とくに「もうヤバい！」みたいなことはなかったかもしれないですね。あと、緊張してこんなにトイレに何度も行きまくってるヤツを見ていたら、俺はそうでもないな〜って気持ちになるもんですよね。

松岡　今、喧嘩売られていますね。（一同笑）

演出の栗山（民也）さんからもらった嬉しい言葉

――前回、私はおふたりの公演をゲネプロ（初日前日の最終リハーサル）で拝見したんです。後日、演出の栗山さんが「あのふたりは初日に大化けした。すごく良かった」とおっしゃったのを聞いて、初日を見逃したことを悔やみました（笑）。

松岡　そうだったんですね、嬉しいです！　栗山さん、我々にも言ってくれたんで。本番が終わって、楽屋でふたりしてハァ〜ッて憔悴していた時に（笑）、「お疲れ」って来てくださって。その後、着替えてノートをもらいに行った時に「『スリル・ミー』の本質を見たような気がした」とおっしゃってくださいました。ゲネプロではギリギリまでダメ出しをもらっていて、「これじゃあ幕を開けられないよ」とまで言われていたから、初日のその言葉は嬉しかったんですけど、もちろん他にもたくさんノートをいただいて。でも今の話を聞いて……。

山崎　本当にそう思ってもらえていたんだね。

松岡　うん、そう確信したし、ありがたいけど、これからも謙虚にやっていかなきゃダメだなと思いました。

山崎　ゲネプロではアクシデントもあって、それで気が動転してしまったのもあったんですよ。僕らも「初日、大丈夫かな」と思っていたし。栗山さんはいつでも冷静に教えてくださるんですけど、「このままでは幕を開けられない」というのは、栗山さんにしては感情的な言葉だなと思ったんですよね。

松岡　分かる。いつも論理的に話す方だからね。

山崎　だから、相当なことをしてしまったなと僕は思っていて。それで初日を迎えたわけですけど……変な話、ゲネプロのことはよく覚えているのに、初日のことは全然覚えていないんですよ。

松岡　俺も初日、まったく覚えてない（笑）。

――２年前の栗山さんの稽古場で、どんなことを学び得たと実感されていますか？

松岡　そうですね。他の現場でも栗山さんの稽古は短くて、集中してやることでよく知られていますけど、『スリル・ミー』の場合、3ペアもあると物理的に稽古の時間が少なくなる。俳優はその短い時間の中で、120％の力を出して評価してもらわないといけない、それは本当に骨身に染みました。120％出すというのは、やはり自分たちでしっかり考えたものを提示しなければいけないということ。また、ここは恥をかいていい場所だよな！とあらためて思ったのが、栗山さんの現場でした。今日はこれを持ってきました、どうですか？っていうことを繰り返し、いろんなことを試して、議論して、対話する。ちゃんと声に出して話し合おうっていうのは、栗山さんの現場で実感しましたし、稽古が好きだな！ってあらためて思いました（笑）。

山崎　今言ったように稽古場は失敗していい場所で、一番最初に僕らが言われたのは「技巧に走るな」。栗山さんの稽古って、本当に心で対話しているという感じですね。ノートを受ける時もすべてをさらけ出して、心で聞く。人の言葉の受け入れ方、みたいなものを教えてもらったというか。

松岡　思い出したんだけど、栗山さんが山崎くんにノートを伝えている時に、「ああ〜そうですよね」って言いながらいちいち横を向いて僕を見るんですよ。（一同笑）いや、今のは山崎くんのダメ出しだから〜って思うんですけど、僕にも責任があるので。

山崎　ハハハ！　そう、ペアだからね。

松岡　相手が言われているノートも自分のもの、ってことだね。栗山さんの言葉を、皆が車座になって聞くのもいいんですよね。歌唱指導の方や音響など演出部の方たち皆がバーッと集まって、話し合う。こういうのを建設的って言うんだなと思いました。

――またその日々が始まりますね。

松岡　楽しみです！　最高だ。

山崎　楽しみだね。

2年前は見えていなかったこと、出来なかったことを形に

――２年前の経験を踏まえて今回はこうやりたい！といった野望などあれば、教えてください。

松岡　僕、今すでに台本を持ち歩いて読んでいるんですけど、単語一つひとつの意味にしてもやっぱり以前とは全然捉え方も違っていて。1920年代のアメリカ社会、資本主義、ユダヤ教のことなど。いろんな産業が勃興して欲しいものが手に入る時代になったけれど、“私”も“彼”も、自分たちは何も新しい価値を見出してない、どうしたら誰かに認められるだろう、とか思っていたかもしれない。そういったエッセンスは入れ込みたいと考えています。演劇は他者と共有されるものでなければいけないと僕は思うので、現代の社会と密接につながる何かを見出してやりたい。共有するにはなかなか手強い題材ではありますけど。まあ、そういうことを考える歳になったんですね。

山崎　歳って……今回のキャスト6人のなかでキミ一番若いでしょ！（一同笑）26になった？

松岡　公演の時（9月）には26になってるね。

山崎　とにかく、絶対に2年前と同じものは出来ないし、今回どういう舞台になるかは僕自身も楽しみです。これまで出来なかったことがきっと出来るようになっていると思っていて、栗山さんと稽古をしていく中で、それが見つかっていくのだろうなと期待していますね。

――最後に全チームに聞いている質問ですが、ほかの２チームとは違う、どんな雰囲気、色を持ったペアになりそうですか？

松岡　そうですね……う〜ん。

山崎　本当なら僕らが一番、答えやすいはずなんですけどね（笑）。

松岡　分からない……っていうところが再演をやる意味だと思うんです。台本をあらためて読んで、我々につきまとっている影のようなものを題材にしていると思ったので、僕は、生々しすぎて見られないと感じるくらいの作品を今回は作りたい。２年前は栗山さんに“生の暴走”や“若さの暴走”といったものを求められたけれど、今回はもう少し明確な理由を持って罪を犯した、そんなふうになればと。生の暴走という柱だけでは脆弱に思うので、いろんな柱を見つけて、それを栗山さんに見せて、しつこいくらい対話して、立ち上げていきたいと思っています。