【コラム】“伝統芸能の殿堂”57年の歴史が紡いだ物語は新たな世界へ 初代国立劇場閉場に寄せて~演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『妹背山婦女庭訓』<第二部>
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『妹背山婦女庭訓』<第二部>大詰「同 入鹿誅伐の場」 左から)金輪五郎今国(中村芝翫)、藤原淡海(中村梅枝)、蘇我入鹿(中村歌六)、藤原鎌足(中村時蔵)、采女の局(尾上菊之助)、大判事清澄(河原崎権十郎) 提供:国立劇場 撮影:二階堂健
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すべて見るいよいよ10月26日(木)の10月歌舞伎公演『妹背山婦女庭訓』<第二部>千穐楽をもって閉場する初代国立劇場。当アプリ・WEBの「水先案内人」としてもお馴染みの演劇ジャーナリスト・大島幸久さんに思い出を綴っていただいた。

“ありがとう、国立劇場”
東京・三宅坂の国立劇場が建て替えのため閉場となる。1966(昭和41)年の開場以来57年の歴史に幕だ。何とも寂しく、あ〜あ、名残惜しい。開催中の「さよなら特別公演」の歌舞伎は9・10月連続で通し狂言『妹背山婦女庭訓』。9月の第1部は中村時蔵が女形の大役・定高。尾上松緑が大判事清澄を初めて勤めて健闘した。10月(26日千秋楽)は藤原鎌足役で出演予定だった尾上菊五郎の休演が残念だが、鎌足を時蔵がおむらとの二役、菊之助がお三輪と采女の局の二役で菊五郎の穴を埋めている。



国立劇場は市川猿之助(二世猿翁)が初めての宙乗りを『義経千本桜』の四ノ切で披露した。坂東玉三郎は『椿説弓張月』の白縫姫で人気が爆発した。その劇場での思い出は山ほどある。開場40周年記念で2006(平成18)年の『元禄忠臣蔵』の3か月通し上演、2014(平成26)年の『伊賀越道中双六・岡崎』で中村吉右衛門が演じた唐木政右衛門が抜群だった。30周年記念で玉三郎初役の『壇浦兜軍記』で美しい阿古屋に目が眩んだ。正月公演では尾上菊五郎の楽屋でふたりで一服しながら雑談、情報交換。勤めていた新聞社が当時、劇場裏にあり主催した「舞踊華扇会」の取材で通ったのも忘れがたい。
功績を忘れてはいけない。
歌舞伎の復活・通し上演・小劇場での文楽や日本舞踊公演、中・高校生の鑑賞教室。枚挙にいとまがない。再開場は早くて2029 (令和11)年以降のようだ。代替劇場などでの公演は例えば歌舞伎は来年1月は新国立劇場で、邦楽公演も同劇場で1月27日に「源氏物語音楽絵巻」が決定している。

歌舞伎座が歌舞伎の殿堂なら国立劇場は伝統芸能の殿堂である。57年の歴史が作り上げた物語の新たな世界へ。プログラムには大半の関係者が「感謝」と色紙にメッセージを寄せている。ありがとう、校倉造りの国立劇場、そして、さようなら。
文:大島幸久 写真提供:国立劇場
<今後の公演予定>
■令和5年12月文楽公演
『源平布引滝 (げんぺいぬのびきのたき)』
竹生島遊覧の段・九郎助住家の段
2023年12月4日(月)~2023年12月14日(木)
■令和5年12月文楽鑑賞教室 / 社会人のための文楽鑑賞教室
・『団子売(だんごうり)』
・解説 文楽の魅力
・『傾城恋飛脚(けいせいこいびきゃく)』新口村の段
2023年12月5日(火)~2023年12月14日(木)
※12月8日(金)「Discover BUNRAKU - 外国人のための文楽鑑賞教室 -」開催
会場:東京・シアター1010(足立区文化芸術劇場)
■令和6年1月邦楽公演『源氏物語音楽絵巻』
―演奏と朗読でたどる光源氏の生涯―
2024年1月27日(土)
会場:東京・新国立劇場 小劇場
※最新の公演情報は、「未来へつなぐ国立劇場プロジェクト」サイト内にてご確認ください。
「未来へつなぐ国立劇場プロジェクト」
https://www.ntj.jac.go.jp/future/
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