AIと人間の戦争を描く『ザ・クリエイター/創造者』。監督が語る真意は「AIはメタファー。自分とは異なる者のこと」
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ギャレス・エドワーズ監督
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すべて見るAI(人工知能)が進化した近未来。人類に反旗をひるがえしたAIがロサンゼルスで核爆発を引き起こしたことから両者の戦争が勃発。元特殊部隊員の主人公・ジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、人類を滅ぼす兵器を生み出した創造者=クリエイターの暗殺を請け負い敵地に潜入するが、その中枢で少女の姿をした進化型AI“アルフィー”と出会い、ある理由から彼女を守ることになる……。
『GODZILLA ゴジラ』『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で多くの映画ファンからの支持を集めたギャレス・エドワーズ監督、その最新作『ザ・クリエイター/創造者』がいよいよ日本でも公開された。AIと人間の関係という近年特にホットになっているテーマを、AIと共存するアジアvs.AIを殲滅せんとするアメリカとの戦争の構図の中で描いた、ギャレス監督によるオリジナルストーリーだ。
日本での公開を目前に控えプロモーションで来日したギャレス監督に、そのアイデアや意図、自身のバックボーンなどを語ってもらった。
善と悪のようなシンプルな基準で観てほしくない
――アメリカ人が徹底した悪人として描かれているのに驚きました。アイデアを通すとき、問題はなかったの?
ギャレス スタジオのトップはフランス人で、僕のプロデューサーはドイツ人。そして僕はイギリス人。問題はなかったよ(笑)。僕はこの話を練りながら未来を想像したわけだけど、スーパーパワーをもっていそうなのは中国かインド、そしてアメリカだろうと考えた。で、僕が一番しっくり来たのはアメリカだったんだ。確かに悪者だけど、見方によってはアメリカは最強ですと言っているわけだから、大丈夫だろうってね。
ただ、ひとつ言っておきたいのは、僕はこの作品を善と悪、白と黒というふうにシンプルな基準で観てほしくないんだ。むしろ、そうやって見ることが今の世界の誤解を生むことにつながっていると思っている。本作の場合、AIはメタファー。自分とは異なる者を表現している。お互いを知ることができれば、共通点があることに気づき、本作のような軋轢が生まれることはないはずだと思わないかい?
――ということは、アメリカを悪く描いたつもりはない?
ギャレス そうなんだけど、こんなことがあったんだよ。ほら、村に大型の戦車が突っ込んでくるシーン。実は最初、そのタンクにアメリカ軍のロゴは入ってなかった。ところが、テスト試写をしたら、多くの人が「あのタンクはどこの?」と言ってきた。なのでいろんなバージョンを試してみたら、みんなが一発で納得してくれたのは「アメリカ軍」のロゴだったんだよね(笑)。あのシーンで反米的と思う人もいるようだけど、そんな裏話があったんだ。実際、米国は後進国に兵器を持ち込んで戦争しているから、みんなが納得してしまうんだよ。

――アジアの方がAIと共存しているというアイデアはどういうふうに生まれたんでしょう。
ギャレス 僕は二極化した世界を創りたかった。そうした場合、これもアジアの方がAIを受け入れているというのがしっくりくると思ったんだ。僕がこだわったのは、主人公のジョシュアの内面で起きていることが、外の世界にも反映されているようにすること。ジョシュアは任務である、AIの少女アルフィーを殺すことはできる。でも、そこで葛藤が生まれるんだ。AIには意思があり、命もあるのか? それとも命令どおり殲滅させるべき存在なのか? アルフィーと行動を共にすることで募っていくこの葛藤が、外の世界にも反映されている。世界と彼の葛藤が呼応していることが重要だったんだ。
――今回、登場するアメリカ軍の移動型の攻撃基地“ノマド”のデザインは『スター・トレック』に登場する宇宙船バード・オブ・プレイに似てます。また、“ノマド”というネーミングの宇宙船も最初の同シリーズ『宇宙大作戦』(66~69)に登場していますが、これは偶然ですか?

ギャレス まず最初に言っておきたいのは、僕が好きな『スター・トレック』は最初のシリーズだってこと。映画になってからはイマイチでさ(笑)。
ということはさておき正直、それは偶然なんだよ。まず“ノマド”を作った後に「ちょっと待って。もしかして『スター・トレック』に出て来てなかったっけ?」って感じでチェックしたという順番なんだ。実際にはアメリカ軍のNORAD(北アメリカ航空宇宙防衛軍/North America Air Defense Command;NORAD)がベースになっていて、その描写は自分の経験に基づいている。
SFファンのアーティストの友人とエリア51に行ったとき、後ろの山にレーザーが投影されて凄くビビったことがあって、その経験をいつか映画で活かそうと考えていた。僕にとっては“神の閃光”みたいな感じだったから。もうひとつ、若い頃、パナマ運河でTVの仕事をしていたとき、振り返ったら、運河をまるで町のようにでっかい船が通っていたんだ。まったく無音でね! それがめちゃくちゃ怖かったので、今回の音もなくビームが放たれるという描写になったんだ。
ウソをつくならできるだけ大きく、ありえないような話をつくりたい

――前作の『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』も戦争映画でした。SFのフィールドで戦争を描くことに興味をもったきっかけがあれば教えてください。
ギャレス なぜ、その組み合わせに惹かれるのか? やっぱり『スター・ウォーズ/エピソード4 新たなる希望』(77)だと思うよ。
5、6歳の頃、学校に行く前、ベータマックスのビデオでいつも『スター・ウォーズ』を観ていた。とりわけオープニングを集中して観ていて、まさかそのシーンにつながる映画を自分が撮ることになるとは思いもしなかった(笑)。マジで不思議な縁を感じてしまったんだ。当時、家では父も母も英語を喋っていたけど、僕は“スター・ウォーズ語”を喋っているような感じ。それぐらい夢中だったからね。
おそらく、そのせいでSFバトルが大好きになっちゃったんだと思う。むしろ今では、なぜ他の監督がそれに魅力を感じないのか不思議なくらい。僕のデフォルトだと言っていいよ。

――あなたの長編はこれまで4本ですが、そのすべてがSF映画です。SFのどういうところに魅了されているのでしょう?
ギャレス ひとつ聞きたいんだけど、他のジャンルってあるの? ロボットや宇宙船が登場しない映画って観たことないんだけど(笑)……というのは冗談にしても、僕はストーリーテリングというのは“ウソ”だと思っている。ストーリーを語るということは、何かをつくっていることで、それはウソの話を作っていることなんだよ。
だから僕は、ウソをつくのなら完璧に大きく、まったくありえないような話をつくりたいと思っているんだ。SFならば、世界を逆転することだってできるし、それによってこれまで信じていたことがウソだったという設定も作れる。世界に対してそういう疑問をもつことは非常に重要で、さまざまなことを考えさせられる上に、哲学的ですらある。僕は、そういう瞬間があるストーリーテリングに無性に惹かれてしまうんだ。
今まで信じていたことをより確信するのではなく、それがウソだという展開が大好きだ。それを叶えてくれるのが僕にとってはSFなんだ。そう、この映画のようにね!
取材・文:渡辺麻紀
<作品情報>
『ザ・クリエイター/創造者』
上映中
(c)2023 20th Century Studios
(c)2023 Getty Images
Getty Images for Disney
Photo by StillMoving.Net for Disney
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