人気声優 黒沢ともよのポリシー「長い間、ワクワクしていられるために」
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黒沢ともよ (撮影:鬼澤礼門)
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すべて見るアニメ『アークナイツ【冬隠帰路/PERISH IN FROST】』が放送中だ(テレビ東京ほか)。
スマートフォン向けゲームアプリ『アークナイツ』が原作である本作。
人々の体を徐々に結晶化させ、死に至らしめる不治の病「鉱石病(オリパシー)」。製薬会社ロドス・アイランドは鉱石病の治療法を研究し、病を引き起こす問題を解決するための取り組みを行っていた。そんなロドスの前に立ちはだかるのが迫害を受け続けた感染者組織「レユニオン」。渦巻くさまざまな思想、主義が新たな対立を生み……。
殺伐とした中でも仲間たちとともに戦い続けるのは主人公・アーミヤ。彼女が進む先には何があるのか。アーミヤ役を務める黒沢ともよさんに話を聞いた。
黒沢ともよが感じるアーミヤの変化
――原作ゲームからずっとアーミヤを演じていらっしゃいます。アニメ1期から2期へとお話が進んでいく中、アーミヤの変化をどのように感じていらっしゃいますか?
実はアーミヤって、1期が始まる前にそれこそテレビシリーズで2クール分ぐらい作れるぐらいの重厚な過去がある子なんです。そこがゼロとして最初に描かれているのが斬新な作品なんですけど、そこからの成長や変化で言うと、リスタートして、1期でドクターを新たに迎え入れて、進むときはがむしゃらに、というか。赤ん坊をまたひとり連れてきたような状態だったんですよね。この命は守らなくちゃいけない、だとか、行かなきゃいけない場所があるだとか、目の前のことに対して、出産をしたあとの女性のようと言うか。普段より少し感情的にもなるし、守らなきゃいけないものに対しての愛情が凄まじいんですよね。まるでひとりで戦っているような気分になって、感情がグシャグシャになっていたんですけど、1期で大きな出来事がありました。ミーシャちゃんのことがあって、さらに新たな問いに出会って、問いの答えを考えていく中で、自分で組織の長であることなどを改めて自認して……発散期を終えて抑圧期に入った気がしていて。
――今は、抑圧期なんですね。
どんな感情的に訴えてもダメなときはダメなんだから、理性的にやってみよう。一度、言うことを全てきちんと聞いてみよう、という時期に入っているんですよね。アーミヤ本人の意思というよりは、「弊社的には」だとか、「我が国としましては」みたいな(笑)。
――なるほど、分かりやすい!
そんなふうに、変化としては人と対話していくフェーズに入っている感じがしますね。
演出を信頼して、思いっきり演じている
――アーミヤを作られていくことも難しいかと思います。2期のここまででも感情の起伏がすごく難しいんじゃないかと拝見していて思ったのですが、気持ちはどのように作っていかれたのでしょうか。
ひとりの女の子として、と言っていいか分からないのですが、喜怒哀楽というか、情緒の乱れと言うか……。同時に責任者でもあるので、誰と話すかによって、どの顔で話をするかが変わってきてしまうんですよね。
家で人と話をしているときと、会社の人と話をしているときとでは「他人かな?」と思うぐらい人格が全然違うときってたまにありません?
――確かに!
私もあるんですけど、それをアニメでやるとキャラが破綻してしまいがちなんですよね。でも、「大丈夫です、演出的にはならないので」っていただいて。それは監督の渡邉さんの圧倒的な演出力のもと、お言葉に甘えてと言いますか。信頼して思いっきりやっています。
――ここまでのお話をお聞きしていても、本当に難しい役だな、ということを感じます。
そうですよね。まずお話が難しいですよね(笑)。
――確かに。ゲームからではなく、アニメから観始めた方も、集中して観ないと、というところはありますよね。
本当にそう。映画館で観たほうがいいですよね。スマホを触ったりして目を離すと「今、どこだ!?」となりそうです(笑)。
「あっぱれ!」と言いたくなる構成
――13話までを振り返ってみていかがですか?
最初の2話がロドス側で、そのあとの2話がチェンさんのお話ですね。アーミヤもドクターもいないシーンでのチェンさんって初めて描かれるんですよ。戦闘中に「一方そのころ……」という形では今までもあるんですけど、やっと彼女の日常が描かれるターンなんですよね。観ていて、親みたいな気持ちになると言いますか。人となりが分かる話でしたよね。周りから愛されているんだな、って。
そして、13話のメフィストとファウストの話がすごい! 突然この2人の話になって、終わり方のカットアウトもすごくカッコよくて。
トータルで観ると、13話はブリッジで、これから視点が反転していくんですよね。2期の真ん中の話で、このあと、全然違う話になっていくんですけど、強い絆を感じていたメフィストとファウストの話がドン!と入ることによって、すんなり受け入れてもらえるんじゃないかな、と思います。2期、ここまでの5話は構成もそれだけで「あっぱれ!」みたいな(笑)。
――より話の重厚感が増しましたよね。
1期でとても丁寧に世界観の説明をしたので、2期はフルスロットルで1話から当たり前を当たり前として描いています。世界の階級だとか、貧富の差、権力関係だとか、そういうものも何の説明もなく当たり前に描いていくことで重厚感が増しましたね。人も増えましたし(笑)。
――確かに!(笑)
未来の話をできるのは素敵なこと
――立場的なこともあると思うのですが、アーミヤの仲間に対する想いがすごく強いな、ということを感じます。黒沢さんご自身は仲間の大切さを実感されるのはどういうときですか?
会社という意味の仲間だと、マネージャーさんとか、今日も一緒にいてくれているスタイリストさんとかメイクさんが仲間なんですけど、私、2年前まで違う会社にいて、全然業態が違うんですよ。 前までは結構行く場所によって一緒に戦う仲間が違ったんですけど、新しい事務所になって、ずっと一緒の人たちと仕事をしていく、となったときに未来の話ができることってこんなに幸せなことなんだ、って思って。
――素敵……!
今まで「仲間ってこういうものなのかな、はて?」、みたいな。イマイチ具体的ではなかったんですけど、マネージャーさんとかヘアメイクさんたちと「来年のあの件なんだけど」とか、「これからこうしたいから髪伸ばそう」だとか、話していると「これが仲間なんだ」って思いました。未来の話を一緒にできるのは幸せなことですよね。同時に、ロドスのみんなは未来の話はできるけど、明日生きてるか分からないじゃないですか。
――そうですよね、つらい……!
そうなんですよ。絶対に未来の話はできるのに、未来の話ができない関係性ってこんなにつらいものだったんだ、って最近感じますね。
ちゃんと相手の目を見て仕事ができていたら
――仲間という点に通ずる部分もあるかもしれないんですけど、最後に黒沢さんがいま、お仕事で大切にしてらっしゃることを教えてください。
お仕事で大切にしていることは……なんでしょうね……。消費しないことですかね。自分のこともそうだけど、減らすことって先には0しかないんですよね。
削ったら削った分だけ何か足していければいい、仕事で削ってプライベートで補えばいいと昔は思ってたんですけど、若かったんだな、って(笑)。
やっぱりそれだと1年のうち2ヶ月ぐらいしか仕事できないんですよね。
――それだけ削られる部分が多い?
仕事で削るだけ削ってたら、回復にどれだけ時間がかかるんだ、という話になってきてしてまうんですよね。削る瞬間もあってもいいけど、補える仕事をしたいですよね。ちゃんと相手の目を見て仕事ができていたら、消費しないと思うので。
――すごく刺さります。
でも、そうじゃないですか。言われたことだけを聞いてたらめちゃめちゃすり減っていくだけだと思うんですよね。対話する中で自分がやることの意味だけでも得られていたら、削られることは少ないですし、それは大事にしていかないと長く続かないんだろうなと、最近は思っています。
――やっぱり、大人になったからできるようになってきた、というところはありますか?
そうだと思います。20代の方ってまだ必死な感じだと思うんですけど、どこかで補っていってほしいな、と思いますね。
転職先もたくさんありますけど、それでもし失敗し続けると、結局、行く先がなくなっちゃうので、うまい具合に今いる場所で補っていけたらいいな、と思います。
――どう積み上げていくかが大事ですね。
そうですね。長い間、ワクワクしていられるために、自分をある意味ちょっと騙しながらでもあるんですけど。同じものをずっと食べてるとワクワクしなくなっちゃうので、いろんなものを三角食べして補っていきたいですね。そう思ってやり始めてからすごく健やかになりました。
取材・文:ふくだりょうこ 撮影:鬼澤礼門
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