GACKT&二階堂ふみ主演『翔んで埼玉』続編はよくぞここまで!のバカバカしさ【おとなの映画ガイド】
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『翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜』 (C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
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すべて見るとことん茶化した内容で、埼玉県を一躍スターダムに押し上げてしまった大ヒット作の続編が、『翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜』というタイトルで11月23日(金)から全国公開される。 前作を観たことのある関西方面在住、もしくはゆかりの皆さんは、「埼玉の次は滋賀か。いいとこ突いてきたな」と、ニヤリとされるはず。そう、次なるターゲットは、地図で見ても“湖”しかわからない、あの滋賀県。今回もすこぶる面白いです。
『翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜』
まるで1.5倍速のような「予告編」を観ていただくとわかるように、とても、とても情報量が多い。さて、何から書いたらよいか悩む。何せ、翔んでますので、理屈っぽく考えないことが一番。
これだけ知っておけば、という部分をご紹介して、「あとは映像とギャグの波に乗って笑いまくるのみ」の態勢をとってもらうのが良いと思う。
まず、予告編のっけで、埼玉解放戦線のリーダー・麻実麗(GACKT)の「埼玉に海を作る!」という発言に、壇ノ浦百美(二階堂ふみ)が思わずのけぞり…「いざ、和歌山へ」となった件、あたりから。
「通行手形がないと東京に出入りできない」という迫害を受けていた埼玉県人が、埼玉解放戦線の活躍により、手形制度の撤廃に成功したのが前作。その3ヶ月後に、埼玉県人は横の繋がりが薄いという問題が浮上。「日本埼玉化計画」を推し進める麗は、まずは県人の心をひとつにすることが肝心だと考える。そして「海なし埼玉にビーチをつくる」ことを思いついたのだ。越谷に適当な土地はある。課題は砂をどうするか。彼は、和歌山県・白浜から運ぶと言いだして……。
航路で嵐に遭い、なんとか和歌山の白浜海岸に流れついた麗は、砂浜で(なぜか)滋賀解放戦線リーダー「滋賀のオスカル」こと、超絶スタイルの桔梗魁(杏)に助けられ、運命的なシンパシーを感じる。
桔梗の話によると、関西はかなり怪しげな勢力分布が出来上がっていた。当時(っていつのことやらわからないが)の関西は、大阪府知事(片岡愛之助)・神戸市長(藤原紀香)・京都市長(川崎麻世)連合の支配下にあり、奈良、和歌山、滋賀県人は、まるでかつての埼玉を彷彿とさせるような非人道的な扱いを受けていたのだ。 麗は桔梗らと共闘し、“関西解放”に邁進することに。しかし、それがとんでもない東西対決へと発展してしまう……。
第1作は『パタリロ』で知られる魔夜峰央が1982年に発表したコミックを原作としている。今回は埼玉勢のキャラクターはそのままに、監督武内英樹、脚本徳永友一、プロデューサー若松央樹のチームがオリジナル・ストーリーを作り出した。
メイキング関連の記事をいろいろ読むと、わりといい加減、というか、いきあたりばったりなところがあったようだが、それが逆に効果的にはたらいた。悪ノリをどんどん形にしていく、作り手たちのそのノリに圧倒される。
監督たちは最初、白浜がある和歌山を中心に考えていた。でも、シナハン(台本を書くための取材)の段階で、どんどん浮かび上がってきたのが滋賀。大阪や京都からディスられがちなポジションに、埼玉と似た境遇を感じたという。確かに。NHKで放送しているガイド番組「“いけず”な京都旅」とかを見ていると、MCを務める滋賀出身の西川貴教が、京都人に結構イジられ、リアクションもやや自虐的だったりで、何となくそれはわかる。
実は、前作の大ヒットで、全国各地から「ディスってほしい」とのオファーが大量に来たそうだ。滋賀の窓口であるフィルムコミッションが一番熱心だった。ここならどれだけディスっても怒られないだろう、と踏んだらしい。
そんなこんなで、滋賀県人なら知っている交通標識「とびだしとび太」クンの存在といった地元ネタ、さらには、京都市内にもある洛中洛外の差、兵庫の鉄道沿線ごとに細分化されたヒエラルヒーなど、関西の地域ディスりネタを集めて脚本化した。
そこに、濃ゆい関西ゆかりのキャストが、ここまでやるかという熱い演技を披露する。生粋の大阪人片岡愛之助と神戸の学校に通っていた藤原紀香は、結婚後初の夫婦役。大阪・枚方育ちだが京都生まれの川崎麻世。京都の女将役で山村紅葉、元大阪府知事役でハイヒールのモモコ、滋賀解放戦線員にくっきー!や堀田真由、和歌山解放戦線員に天童よしみ。書ききれないが、そのエリア出身者をビシッとそろえた。あ、でも杏は東京出身(お父さんはタイガースの熱烈ファンだけど)。
もうひとつ、紹介しておかねば。埼玉県内の田舎道をドライブする家族が、カーラジオから流れる〈埼玉にまつわる都市伝説〉を聴いている、つまりこの話は劇中劇ですよ、という構成は前回同様。今回は和久井映見、アキラ100%、朝日奈央の家族。和久井演じるお母さんの祖父母が滋賀出身という設定だ。永遠のライバル、大宮と浦和にまつわる埼玉イジりの方は同時進行で描かれるこの家族のパートでどうぞ、というわけだ。
どうなることかと思った第2作だけれど、さらに手が込んでいる、お金もかかっている。バカらしさも、悪ノリもさらに増している。これを言ったらまずいんじゃないの、とか、神経過敏な世の中で、よくぞここまでドギツイ冗談をやってくれた。
こんなに罪がないディスりコンテンツを成立させたのは、やはり、いじりをされる側に人としての余裕があったからだ。それだからうまいこと相乗効果が生まれた。きっと埼玉の人は、地元紹介をするときに、今話題の、と言ってみたり、ちょっと自虐ネタを披露したりして、以前より親近感を持ってもらうなんてことがあるだろう。それがどこかたわいなくて、いい。自虐ネタも気づけば、ふるさと自慢に転じたわけだ。
やはり、この映画、もう一度、埼玉の都“池袋”あたりで観ようかな。
文=坂口英明(ぴあ編集部)
【ぴあ水先案内から】
笠井信輔さん(フリーアナウンサー)
「大傑作! あ、映画賞を受賞するという意味ではない(笑)……」
よしひろまさみち(オネエ系映画ライター)
「物語を全部解説したところで、全てが笑いのネタなので問題にもならないという奇跡のコメディでは?」
(C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
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