奥平大兼 20歳が苦境に直面したとき選ぶもの「迷ったら、難しいほうへ」
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奥平大兼 (撮影:友野雄)
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すべて見る会うたびに、しなやかになっていく。
20歳の俳優・奥平大兼が映画『MOTHER マザー』でデビューしたのは、2020年。オーディションで勝ち取り、食事制限をして挑んだ周平役は、多くの人の記憶に残った。心臓の奥に痕を刻むような佇まいと、目の色。観る側をドキリとさせる強さはそのままに、どこか淡々としたしなやかさが年々増している。
そんな彼が、また新たな挑戦をした。ディズニープラス「スター」で2023年12月に配信されるファンタジー・アドベンチャー大作『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』。実写とアニメで2つの世界を描く急進的な本作で、ドラゴン乗りの少年・タイムを演じる。
監督、スタッフ、キャスト……全員で作り上げた感覚がずっとある
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初のアクション、初の声優。キャリア3年目の奥平大兼にとって、本作『ワンダーハッチ 空飛ぶ竜の島』は挑戦の連続だった。ひとつの作品内で実写とアニメが切り替わっていく、斬新な手法をとった本作において、実写とアニメの双方で同じキャラクターを演じる。
「実写とアニメの融合って、とても新しい試みだけど、台本として文字で見るだけだと設定が難しいな、と思いました。どういう絵になるのか、萩原(健太郎)監督がどんな想定をしているのかもわからない。そこを曖昧なままに撮影を進めてしまうと、中途半端になっちゃうじゃないですか。だから、クランクインする前に萩原監督としっかり話し合いました」
奥平が演じる少年・タイムが生きるのは、ドラゴンとドラゴン乗りが存在するファンタジックな世界。ドラゴン乗りが集う空団のリーダー・アクタ(新田真剣佑)に憧れるも、タイムはドラゴンの声が“聴けない”。それはドラゴン乗りにとって、致命的なのだ。
「タイムにはタイムの、これまで過ごしてきた時間がある。培ってきた習慣や常識、文化もあります。それを無視してしまうとリアリティに欠けるので、すべてを頭のなかに叩き込んで演じました。タイムというひとりの人間をつくるにあたって、萩原監督自身にも見えているものや、描きたいものがたくさんあって。僕の思う“タイム像”とミスマッチが起きないように、気をつけました」
撮影現場は、初挑戦に満ちていた。アクション初挑戦の奥平を筆頭に、まだ演技経験が浅い中島セナ(ナギ役)やエマニエル由人(ソン役)。実写とアニメの融合に挑む萩原監督にとっても試行錯誤に満ち、CMやMVを多く手がけてきたカメラマンにとっても、模索の連続だったはず。
それでも奥平は臆することなく「みんなそれぞれに挑戦することがたくさんあって、みんなで一緒に作り上げている感覚がずっとある現場でした。この作品にとって、それは良い方向に働いていると思います」と自信を覗かせる。
「世界で“ジャパニーズアニメーション”と言われるほど、質が認められている日本のアニメ界において、実写と融合した作品に関われることを、あらためて誇りに思います。込められたメッセージはもちろんですが、大人たちが本気で作った映像作品をシンプルに楽しんでほしいです」
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新田真剣佑と初共演「コルセットが流行りました」
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本作で奥平は、国境を超えて活躍する新田真剣佑と共演している。新田が演じるのは、タイムの憧れのドラゴン乗り・アクタだ。新田はNetflixでリメイクされた実写版『ONE PIECE』で剣豪・ゾロを演じたことも話題となっている。そんな彼とのエピソードを聞くと「すごい人とアクションをやるんだ……って、ずっと思ってました」。
「新田さんとご一緒できて、アクションもお芝居も見習うことがたくさん。かっこいいのはもちろん、絵としても綺麗に映るように計算されていて、ただただ、すごいな……と。アクションは初挑戦だったので、動きを覚えるのが大変でした。『こんな足場でアクションするの!?』と思っちゃうような場所でのアクションも多くて。怪我をしないようにするので精一杯でした」
そう語る奥平には、アクションをするにあたって不安材料が一つあった。もともと腰痛持ちで、新田からは、おすすめのコルセットを教えてもらったそう。
「腰のところで、紐を横にギューッと絞るタイプのコルセットで。新田さんから『すごく良いんだよ』と教えてもらったんです。お値段もそこまで高くなかったので、スタッフさんも含め、みんなでお揃いで買いました。僕は今でも愛用しています」
特技はウーパナンタ語?
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タイムやアクタは、本作のために一から制作されたオリジナル言語「ウーパナンタ語」で話す。彼らが現実世界にやってきてからは馴染み深い日本語での会話になっていくが、基本的には母国であるウーパナンタの言葉でコミュニケーションする。
言語学者とゼロから創出した言語での芝居も、間違いなく、奥平にとっての挑戦のひとつだろう。「特技はウーパナンタ語です!」とはにかむ様子には、20歳らしい茶目っ気が見え隠れした。
「この世にない言語でお芝居ができれば、もう怖いものはないですよね。といっても、話していたのは一年前なので、ほとんど覚えてないんですけど……。ウーパナンタ語にまつわる資料をたくさんつくってもらって、毎回、監督や言語学の先生と『こんな感じで大丈夫ですか?』と確認しながら進めていました。架空の言語ですけど、どうせやるなら妥協せずにやりたかった。納得できないところがあったら、何度も撮り直して。譲れないこだわりのひとつでした」
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正解がわからないなかで、ゴールを共有し、そこに向かってチームで進んでいく。それぞれが本気を持ち寄った撮影現場で、文句を言う人は誰一人いなかったという。『ワンダーハッチ』には、その熱量がそのまま反映されている。
慣れない言語での芝居はもちろん、実際に身体を動かす表現と、アニメに声をあてる技法の違いを意識することも多かったという。実際の撮影順は「実写パート」を終えてからの「アニメパート」だったため、あえてアニメキャラクターに寄せた動きや喋り方を意識したのだとか。
「僕がこれまで演じてきた役柄は、どちらかというとナチュラルな演技を求められることが多かったと思います。今回は『普通そんな動きしないでしょ』と思われるような動きをしたり、誇張したセリフが多かったり、僕だけ衣装が違ったりして。でもその土台があったことで、僕のなかでのタイムというキャラクターが仕上がった感覚がありました。そのおかげで、アニメに声をあてるのも、やりやすかったです」
真似はできない、タイムの受容力
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初挑戦のアクション、声優、オリジナル言語「ウーパナンタ語」での芝居。奥平にとっての「冒険」が詰まった今作での経験は、役者としてどんな引き出しを増やしてくれたのだろう。
ドラゴンの声を聴けないドラゴン乗りの少年を通じて得た感覚を「あらためて、僕には彼の真似はできないと思いました」と振り返る。
「タイムは、自分と相手との『違い』を気にしないんです。相手がどんな人でも、分け隔てなく接するのが彼の良いところ。それがたとえ、自分を攻撃してくる相手だとしても、です。これって、すごく難しいことだと思うんですよ」
本作で描かれるウーパナンタの世界では、ドラゴン乗りになる資質として「ドラゴンの声を聴ける」ことは必須とされている。そんななか、奥平が演じるタイムは、相棒のドラゴン・ガフィンの声が聴けない。
それでも落ち込まず、腐らず、憧れのドラゴン乗り・アクタに素直な羨望を向ける。人間世界で出会うナギたちに対しても、臆することはない。
「相手の声を聴く、寄り添う、痛みを理解しようとする……。タイムのやっていることって普通のことかもしれません。だけど間違いなく、僕には真似できない。見習わなきゃいけないんですけどね。そんなタイムと出会ったナギの成長にも、メッセージが込められていて。そこが、この物語の面白さでもあります」
タイムのような人が増えたら、タイムのような感覚を持てたら、相手や物事に嫌な気持ちを覚えることもなくなるのかもしれない。SNSが発達した時代に生きる私たちにとって、自分ではなく相手の立場を最優先にするのは、きっと想像以上に難しいことだ。
奥平は「難しいこと。だけど、見習いたい」と繰り返す。その真っ直ぐな姿勢を見ていると、タイムの曇りなき瞳を思い出す。
迷ったら、難しいほうを選ぶ
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奥平にとっての2023年は、映画『あつい胸さわぎ』『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』『ヴィレッジ』『君は放課後インソムニア』と出演作の公開が続いた。2024年春には、鈴鹿央士とのW主演作『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』の公開も控えている。
渋谷駅の改札でスカウトされたことが、この業界に入るきっかけだったという奥平。「これまでの人生における大冒険は?」と訊ねると「この業界に入ったことですかね」と答える。
「語弊があるかもしれませんが、役者の仕事は、やりたいと思って始めたわけではないんです。ありがたいことに声をかけてもらって、役をもらえて、いざ芝居をするようになってから興味がわいてきて。自分が心からやりたいと思っていないこと、かつ責任がともなう仕事をすること自体が、僕にとっては冒険でした」
今でも、してよかったなと思える冒険です、と結ぶ。直近では日テレ系列ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』で、一風変わった生徒・星崎透を演じた。役によっては演じるのが怖くなる、という奥平は「この人の感覚をわかりたくない、と思ってしまう役もある」という。
「役者としては、やっぱり演じる役柄の感覚を100%理解してあげたい、全部はムリでもできるだけ近づきたい。そうすれば楽しいだろうな、と思います。でも、わかってしまったらダメだな、という感覚になることもあって。お芝居は楽しいです。でも、そういう危なさもあるんだって、だんだんわかってきました」
楽しさと、危うさ。『最高の教師』の星崎透や『ヴィレッジ』の筧龍太など、奥平が演じてきた役柄には、その相反する感覚が共存している。わかりたい、でも、わかりたくない。せめぎ合う葛藤のなかで、怖さを感じ、逃げ出したくなることはないのだろうか。
「自信、ないです。プレッシャーも感じるし、勇気もありません。迷ったときは、あえて難しいほうを選びます。そのほうが、後に引けないから、もうやるしかないじゃないですか。できなかったら終わりだし、それならやるしかない。そもそもできないことって、そうそうないと思うから」
楽な道へ行けば、得られるのはそれなりの結果。けれど難しいほうを選べば、苦労しただけの結果が手元に残る。「自分を追い込むしかないんです」と語る奥平の20代は、まだ始まったばかりだ。
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取材・文:北村有 撮影:友野雄
ヘアメイク:速水昭仁(CHUUNi Inc.)、伊藤省吾(sitor)
<作品情報>
『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』
ディズニープラス「スター」で12月20日(水) より独占配信
監督:萩原健太郎
アニメーション監督:大塚隆史
脚本:藤本匡太、大江崇允、川原杏奈
原案: solo、日月舎
キャラクター原案・コンセプトアート:出水ぽすか
プロデューサー:山本晃久、伊藤整、涌田秀幸
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
アニメーション制作:Production I.G
キャスト:
中島セナ、奥平大兼、エマニエル由人、SUMIRE
津田健次郎、武内駿輔、嶋村侑、三宅健太、福山潤、土屋神葉、潘めぐみ、宮寺智子、大塚芳忠
田中麗奈、三浦誠己、成海璃子/新田真剣佑(友情出演)、森田剛
話数:全8話
(C)2023 Disney
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