今年、結成35周年を迎えるthe pillows。昨年10月の熊谷からスタートした全国ツアー「LOSTMAN GO TO CITY 2023-24」のファイナルが1月26日(金) 東京・Zepp DiverCityで開催された。
1989年9月16日に結成されたthe pillowsは、海外を含むコンサート・ツアーと作品のリリースを活動の軸に据えてきた。新作をリリースするたびに行われる全国ツアー、そして2006年から不定期で、新作にこだわらないコアなセットリストで行う「LOSTMAN GO TO CITY」は、2013年、2015年にも行われた。2017年からは「RETURN TO THIRD MOVEMENT!」と題した、過去のアルバム2枚全曲を演奏する“再現ツアー”も展開。これまで「Vol.1」では5thアルバム『Please Mr.Lostman』(1997年発表)からリリース順に2枚を対象として、「Vol.4」で12thアルバム『GOOD DREAMS』(2004年発表)までその企画は継続中。よって、今回「LOSTMAN GO TO CITY」シリーズの開催は、実に8年ぶりとなる。
「こんばんは。the pillowsです」。フロントマン・山中さわお(Vo/Gt)がひと言。普段はギターを弾きながらパフォーマンスする山中の肩にギターは掛かってない。彼らのライブでは珍しい打ち込みのビートやホーン・セクションをフィーチャーした同期のサンプリング音源と共にオープニングを飾ったのは「Tokyo Bambi」だ。続く「Coooming sooon」では、山中がハンドマイクで前方に出て、柵に足を掛けステージ左右の最前列のBUSTERS(the pillowsファンの名称)を煽りまくる。いつにないパフォーマンスで驚かせてくれる予感。
「今夜はみんなの大好きなthe pillowsを見せつけたい!」と宣言する山中。鳴り止まない拍手と歓声。その熱さと長さをかみしめながら「久しぶりの曲からスタンダート、バランス良く披露するよ。楽しい夜になるぞ~」と語る山中に高ぶるBUSTERS。佐藤シンイチロウ(Ds)の「ワン・トゥー・スリー」のシャウトと共にビートが繰り出されて「プロポーズ」へ。2012年リリースのアルバム『トライアル』収録曲「Flashback Story」、1999年リリースのシングル「カーニバル」のカップリング曲「Come Down」と、シングル「RUSH」のカップリング曲「Sleepy Head」など、レアな曲が続々と投入される。「思った以上に楽しいだろ? 次の曲もすごい久しぶりに「She is perfect」。」とマニアックな曲にも熱狂的に反応するBUSTERたちに山中も満足そうだ。
2017年から計4回、8枚のアルバム全曲を披露した「RETURN TO THIRD MOVEMENT!」は、20年近く前のアルバムがどれだけ時代を先取りした名曲が詰め込まれた作品だったかを証明したツアーだったが、王道のライブ常連曲とはひと味違う選曲でワクワクさせる「LOSTMAN GO TO CITY」を体感すると、the pillowsのバンドとしての奥深さを改めて思い知る。
今回の「LOSTMAN GO TO CITY」で自分の心の中で大きくなった謎が解決したのが、「Ladybird girl」を演奏したあとの山中のMCだった。「この曲はね、歌詞を書くときにもし小学生の自分が聴いても、何を歌っているかわかるようなラブソングにしたいと思って書いたんだ。自分が50歳を過ぎて、この顔面で歌っていいのか?(笑)。そう思って封印していたんだ。だけど、去年、佐野元春さんのライブに行って、とってもいいライブだった。佐野さんは俺よりも10個以上年上なんだな。自分が年齢に対してどういう歌を歌うとか、些細なことは気にしてないと感じたんだ。その素晴らしいライブに勇気をもらって、このツアーでまた歌いたいと思った。歌ってみたら、ただ“良い曲”だったよ。これからも歌うよ」。
ここで腑に落ちた。the pillowsの“孤独でも困難に対して自分のスタイルで立ち向かっていく”姿勢に共感できるナンバーがBUSTERSの心を奮い立たせるという一面が印象的だが、実はthe pillowsには、微妙な恋心や切ない想いを実に巧みに救い上げるラブソングも多い。山中の言葉を借りれば“封印していた”良い曲が、今回の「LOSTMAN GO TO CITY」には満載されているのだ。
「Tokyo Bambi」「She is perfect」「Ladybird girl」、そして後半で披露された「Like a lovesong(back to back)」、「My girl」など、これまでメニューの中心にならなかった名曲たちが惜しげもなく演奏される贅沢に溺れてしまう。究極は2008年リリースのアルバム『PIED PIPER』収録曲「Last Holiday」の最後のフレーズで“今日で世界が終わるなら キミは誰に会いたい 僕は地平線で待ってる”の心に染み入る余韻がいつまでも会場中を漂った。「どうやらカッコよかったようだな」と突っ込む山中。歓声で応えるBUSTERS。ステキなシーンだった。
続いてメンバー紹介。サポートの有江嘉典(Ba)は「8年前からツアーでベースを弾かせていただいていて、まだ僕が演奏したことのないカッコいい曲との出会いがありました」。佐藤は「再現ツアーを想定して、次のアルバム『MY FOOT』を復習していて、“曲順です”と送られてきたとき『MY FOOT』やらないのか~い!と思ったんですけど、人生において無駄なことなど何ひとつない。それが血となり肉となります」と爆笑をかっさらう。真鍋吉明(Gt)は、「このツアーに向けてリハーサルに入っていくうちに自分がむちゃくちゃ楽しくなって。俺のツアー史上一番楽しかったかも」と上機嫌だ。これだけキャリアの長いライブ・アーティストの史上一番なんてホントに凄い。
the pillowsのライブではお馴染みの、拳を突き上げ、大歓声とクラップがステージに降り注ぐナンバーも次々と投入される。「LITTLE BUSTERS」「About A Rock’n’Roll Band」で交わされたライブの醍醐味は、本来は心を開放する場であったコンサートがコロナ禍であらゆる不自由を強いられたこの数年を思うと、“戻ってきた”実感に泣けてきた。エンディング曲「Ready Steady Go!」は会場中を揺るがすビートで、最後のフレーズ“Only this fact is wonderful”の”is”を、ここまで声を伸ばせるのかと人の限界を超えるロングトーンで轟かせて、”wonderful”で優しく締めた瞬間に心の奥底をギュッと鷲掴みにされた。
アンコールに促されて名曲「Funny Bunny」。恒例の“キミの夢が叶うのは 誰かのおかげじゃないぜ 風の強い日を選んで走ってきた”のフレーズを、BUSTERSに歌唱を預け、山中はオフマイクで「ありがとう~」と叫ぶ。涙腺崩壊だ。
「Primer Beat」を演奏したあと「最高だな、今日!」と叫ぶ山中。言葉を選びながら「人の人数も、そして雰囲気も、俺の好きな世界がやっと戻った感じがしたよ。ありがとう」。言葉のすき間に気持ちがこもっていた。「今演った「Primer Beat」は、ずいぶん前の曲だけど、最近また気分がフィットしていて、新曲で作ったかのように錯覚する、そんな感覚でステージで歌っていた。とっておきのロックンロールを届けたい。そしてくたばる前にもっと君たちに会わなくちゃ。俺たち、まだ迷走中だよ(笑)。それも悪くないだろ? また会おうぜ」と歌詞になぞらえて、このツアーを走り切った今の心情を語った。コロナ禍で矢継ぎ早にソロ・ツアーが中止に追い込まれ、対抗するかのようにソロ・アルバムを次々と制作し、ツアーが再開できても入場人数制限、運用制限に悩まされ続けた山中が吐露した“好きな世界を取り戻した実感”が、表情にも表れたとびきりの笑顔だった。
ダブルアンコールに応えてステージに登場したメンバーたち。「35周年記念ライブ「ABOUT A ROCK’NROLL BAND」9月16日、豊洲PIT。会いに来いよ!」とインフォメーションされた。2010年に発表されたシングル「Movement」も爽快だった。さらなる鳴り止まない拍手、歓声に応えてトリプルアンコール。「ありがとう、いいツアーだった」と語り、「POISON ROCK’N’ ROLL」で会場を揺らしまくって、充実に溢れたツアーは締めくくられた。the pillowsの歌、言葉、音、そして想い、情熱が、自分の人生の血となり肉となっていることを改めて確認できた。僕はこの日を忘れない。
Text:浅野保志(ぴあ) Photo:橋本塁
<公演情報>
the pillows「LOSTMAN GO TO CITY 2023-24」
1月26日(金) 東京・Zepp DiverCity
セットリスト
1. Tokyo Bambi
2. Coooming sooon
3. Mr.Droopy
4. プロポーズ
5. Flashback Story
6. Come Down
7. Sleepy Head
8. She is perfect
9. Purple Apple
10. Have You Ever Seen The Chief
11. Ladybird girl
12. Like a lovesong (back to back)
13. My Girl
14. Last Holiday
15. LITTLE BUSTERS
16. About A Rock’n’Roll Band
17. Stroll and roll
18. Ready Steady Go!
En1.
1. Funny Bunny
2. Primer Beat
En2.
1. Movement
En3.
POISON ROCK’N’ROLL
<ライブ情報>
the pillows 35th Anniversary ABOUT A ROCK’NROLL BAND
2024年9月16日(月・祝) 東京・豊洲PIT
※詳細は後日公開
the pillows公式サイト:
https://pillows.jp/