鈴木亮平が掲げる新時代の俳優の矜持「演技だけやっていればいい、では足りない時代に来ている」
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鈴木亮平 (撮影:Jumpei Yamada)
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すべて見る「最近、いい目尻のシワができるようになったんですよ」
そううれしそうに笑う。人の顔とは、生きてきた証だ。特に年齢を重ねれば重ねるほど、単純なパーツのバランスの良さよりも、生き様や人格が美しさとなって顔に出る。そういう意味でも、彼はきっと今がいちばんいい顔をしている。
俳優・鈴木亮平、41歳。4月25日に世界独占配信がスタートするNetflix映画『シティーハンター』で主人公・冴羽獠を演じる。エッチで、おバカで、だけど強くて優しくて、どことなく陰がある。まさに男の美学が凝縮したようなキャラクターだ。そして、そんな冴羽獠を演じた鈴木亮平もまた誰もが憧れずにはいられない人だった。
ちゃんと『シティーハンター』を届けるまでが自分の責任
単行本累計発行部数5000万部超。まさに“レジェンド”と呼ばれる作品の一角である『シティーハンター』がついに日本で初めて実写化される。子どもの頃から憧れ続けてきたヒーローを演じるにあたって、鈴木亮平は妥協をせず、作品と向き合った。
「脚本をつくっていく過程では、少しでも面白くするためにアイデアが飛び交い、いろんな方向に話が進みます。けれど時には、原作ファンから見たときに、それは『シティーハンター』らしくないと思うものもある。そういうときに、意見を言ったり、代案を出したりするのが僕の主な役目でした」
たとえば、と鈴木はこんな例を挙げる。
「本編冒頭で、獠と槇村はある事件を追いかけています。この事件が、最初は政治家の性的スキャンダルを揉み消すという内容だったんですよ。だけど、シティーハンターはそんな依頼は受けない。シティーハンターが依頼を受けるのは、自分の心が震えたとき。これは原作にも書かれている重要な主人公の哲学です。というふうに、出てくるアイデアが原作のポリシーから外れそうになったときは、もう一度ここ(原作)に戻りましょうとお伝えしていました」
原作オタクが脚本会議に参加してきた感じですね、と合いの手を入れると、「そうなんです」と鈴木は陽気に笑い飛ばす。
「面倒くさいやつになってしまっていた自覚はあります(笑)。でも僕がやる以上、単に冴羽獠を演じるだけじゃ、役割を果たしきれない。ファンに向けて、ちゃんと『シティーハンター』を届けるまでが自分の責任だと思った。だから、言わなければいけないと思ったことは勇気を持って言おうと決めていましたし、脚本に関わったチームのみなさんも驚くほど真摯に徹底的に向き合ってくださいました」
作品が与える影響について俳優も責任を担わなければいけない
俳優にとって最もうれしい評価の一つが、「この俳優が出ている作品は面白い」だろう。クレジットに名前があるだけで、「見たい」と思わせる、「面白い」と期待させるだけの信頼は一朝一夕では築けない。積み上げてきた作品が、揺るぎない礎となる。
代表作となった『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』や『エゴイスト』、主演だけではなく助演としての存在感も改めて証明した『エルピス-希望、あるいは災い-』、そして近作の『下剋上球児』まで、秀作続き。鈴木亮平は、今や最も次回作が待ち望まれる俳優の一人である。
「今は『自分はただの俳優だから』『演じただけだから』では足りない時代になっていると感じています」
俳優は、あくまで作品の一部であり、作品の質や社会的意義を担うことはできない、というのが従来の見方だった。だが、作品の顔として観客に認知され、毀誉褒貶を先頭に立って浴びる立場だからこそ、「台本に書いてあったものを演じただけ」では通用しないと鈴木亮平は考えている。
「作品が発表されることで、世間にどのような影響を与えるのか。その責任は、俳優もある程度は担わなければいけないんだろうなと思います。もちろん新人の頃にはそんな余裕はありませんし、全ての俳優にそれを求めることは間違っていると思います。ただ、いただく役の重みが増すほど、責任が大きくなっていくことは感じていて。だけど僕はそれをあまり後ろ向きには捉えていないかもしれない。むしろそれだけ俳優の責任が増え、求められることが増えることには良い面もあるんじゃないかと思っています。だから俳優は作品を選ばなければいけないし、自分が参加すると決めた作品に対しては、ただ演じるだけじゃなく、もっと深いところまで関わる覚悟を持つべきなんだろうと感じています」
鈴木が『シティーハンター』の脚本開発に参加したのも、自分が主演を務める作品として納得のいくものを観客に届けたいと思ったからだ。
「脚本開発では原作ファンとしての視点と同時に、今この時代に世に出る作品としてふさわしいかどうかも話し合いました。獠はああいう性格だから、女性に性的に迫る場面が何度もある。原作が連載されていた当時は問題にならなくても、今読むと違和感のある表現はやっぱりあって。その修正には特に気を配りました。今、僕たちが実写化することで、冴羽獠が嫌われてしまうことだけは絶対にあってはいけないと思ったんです」
それは、コンプライアンスによって表現を曲げられたという意味ではない。実際、本編を観ると、驚くほど冴羽獠は冴羽獠のままだ。予告編で披露された“もっこりダンス”もファンの間で大きな反響を呼んだ。
賛否の声が沸きやすい人気漫画の実写化も、鈴木亮平の名前があると、なぜかファンも安心してしまう。この絶大なる信頼は、鈴木亮平の深い原作愛、そして作品の担い手としての強い責任感から生まれたものだった。
職人ではなく、フィルムメーカーとして
「俳優は演技だけやっていればいい、では足りない時代に来ている」――そう鈴木亮平が繰り返すのは、目線の先に海外市場を見据えているからだ。
「本来、勉強して自分を広げていくことは、どの仕事でも必要なこと。ですが、これまではなぜか俳優はそういうことをしなくていい、という風潮があったように思います。俳優は演技だけしていればいいんだと自分たちでも聖域化していたような。でもそれだと、自分の制作会社を持ち、自ら主導して映画作りをしている海外の俳優にどんどん差を付けられていってしまう危機感を感じています。今は1年何も学ばなかったら、すぐに置いていかれる時代。僕たちもちゃんと勉強して常に成長していかなくちゃいけない、という思いは自戒を込めていつも心に置いています」
ここで鈴木亮平が指す勉強とは、決して役づくりのために何かを学ぶことではない。今求められているのは専門性ではなく、総合的に作品に関わる力だ。
「今の映画の現場では、それぞれの部署が職人として与えられた仕事を突き詰めている印象があります。それは素晴らしいことですが、これからはもっと一人ひとりが自分はフィルムメーカーなんだという意識を持つ時代になるんじゃないかと思っています。映画もドラマも、全員が作品づくりに対して意識を高く持つ必要が出てくるんじゃないかなと。たとえば俳優なら自分が出ている作品の資金調達の仕組みについても少しは知るべきだと思うし、企画の立て方、演出術や脚本の書かれ方、照明さんがどういうロジックで光の当て方をデザインしているのか、みたいなことも勉強できる。逆に演出家の方々には、俳優の演技法についても今後さらに深く知っていただいて。そうやってみんながコミュニケーションをとり合い、自分の部署を横断して一つのチームとなることが、結果的に全体の底上げになるんじゃないかと思っています」
多彩なフィルモグラフィを誇る鈴木だが、意外にもNetflix作品は初参加。近年、日本作品が週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)にランクインする快挙が続いている。重く閉ざされていた扉は、今、少しずつ、けれど確かに動きはじめている。
「今は過渡期で、映像業界のみんなが『このままじゃまずい』と思い、一気に行動に移し始めているのを感じます。少し「幕末感」のようなものを感じると言いますか。海外の列強に飲み込まれないよう、日本をもう一歩前に進めようという気概を上層部から現場までいろんな人が胸に抱いているような。どの立ち位置なのかはわかりませんが、微力ながら僕もまたその流れに貢献できる一人であれたらという思いはあります」
自分の滑舌の悪さは、ずっとコンプレックスでした
鈴木亮平に寄せられる信頼感の一つに、知性がある。東京外国語大学卒業という経歴もさることながら、そのインテリジェンスを支えているのは、彼の話し方だ。美しい日本語を、落ち着いた口調で操る。だが、実はそんな武器は長らく彼のコンプレックスだった。
「やはり俳優をやる以上、よく響く日本語、いわゆる標準語と言われるものをしっかり身につけないといけないと、自分が関西人だからこそ強く思っていました。でも、実は僕は滑舌が絶望的に悪くて。それが長年コンプレックスだったんです」
この4月から『世界遺産』の9代目ナレーションに就任。心地よく耳に染み込む語りに早くも絶賛の声が上がっているだけに、滑舌に難を抱えていたというのは意外な告白だった。
「ずっとナレーターの仕事もしたいと思っていたからこそ、自分の話し方を直さなくちゃいけないという意識は強かったです。今もやっているのは、外郎売り。特に関西人として気をつけなきゃいけないのは鼻濁音。あとは無声化です。関西圏で育った僕は、どうしても全部有声発音になりやすい。それを無声音で話せるように一生懸命練習しました。このあたりは今も気を抜くと忘れることが多くて。滑舌やイントネーションに関しては今も誤魔化しながらやっているというのが正直なところです」
他者が羨む美点も、決して天からのギフトではなく、不断の努力によって磨き上げたもの。最初からダイヤモンドだったわけではない。何度も濁流に揉まれ、石肌を削られ、やがて無二の輝きを放つ天然石のように、彼の中に流れる歳月の蓄積に私たちは美しさを感じ取っているのかもしれない。
未熟を理由に何も伝えないのは年長者の甘えかもしれない
「俳優という仕事は役との出会いが大きいです。いい方向ばかりとは限りませんが、役から影響を受けて自分の人格が徐々に変わっていっている感覚もあります」
中でも大きかったのが、大河ドラマ『西郷どん』で演じた西郷隆盛だった。
「あの変革期で西郷さんが行ったことは歴史に残るものだし、政治的にもすごく大きな役目を背負っていました。でも彼が今もこうして愛され続けているのは、それ以上の何かがあったからだと思います。現代の言葉で言うなら、カリスマ。西郷さんを演じたことで、彼の持っていたカリスマ性の1/10くらいは学ばせていただいた気がする。それは今の自分を形成する上でとても大きなものになっています」
そう話しながら、「でも、自分はそんなにできた人間じゃないですよ」と困ったように笑って、かぶりを振る。
「役とリンクしちゃって、変に祭り上げられている感じがする(笑)。そう『見える』のはありがたいことですけどね、俳優としては。でもあまり立派な人のように思われすぎるのは、ちょっと生きづらい。早く悪役がやりたい(笑)」
決して完璧な人格者なんかではない。いつまで経っても、未熟者。だから学び続けるし、努力し続ける。
「自分が大人になればなるほど、自分の未熟さも、成熟も同時にわかってきました。ただ最近は、自分が未熟だからといって、後輩に伝えることを怠っちゃいけないなとも思っています。「自分も未熟だから偉そうに言わないでおこう」というのは簡単で。でも業界全体が今後成長するためには、次の世代に自分たちが経験してきたことを伝えていく必要もあって。『教える』なんて偉そうなものじゃなく、ただ伝えて、そこから自由に感じ取ってもらうといいますか。自分の未熟を理由に何も伝えないのは年長者の甘えかもしれないなと思うんです。そういう意味でも、全体で知識を共有して次の世代に伝えていくことは、今とても興味のあることの一つです」
Netflixでは、よりクリエイティビティを発揮できる環境づくりを目指してリスペクトトレーニングの導入や、労働環境改善のために1日の撮影時間を原則12時間までとするなど、先進的な試みを行っている。こうしたNetflixとの仕事も、鈴木亮平にとっては新たな刺激となった。
「日本でも今では映適という組織がスタートして環境が改善されてきていますし、今後もNetflixのような撮影環境が、日本でもスタンダードになっていけばいいなと思っています。ただし、それをすると撮影日数が増えて予算が大幅に増える。今までつくれたものがつくれなくなって、作品の本数が減ることも覚悟しなくちゃいけない。でもその分、若い世代が入りたいと思える持続可能で健全な業界になる。僕はなるべく健全であることが優先されるべきだと思いますが、今後も日本の現実に合った、より良いルールが作られていくべきだと思います」
自分の目先のことだけに拘泥しているのではない。作品全体のことを、ひいてはこの業界の未来のことを第一に考えて、行動する。その視野の広さが、鈴木亮平という人間の大きさにつながっている。
ドジは僕の代名詞みたいなものですから
鈴木亮平と話していると、その人間力の高さに圧倒されてしまう。だが、そう伝えても、彼はきっとまた困ったように笑うだろう。だから、あえて聞いてみた、鈴木亮平のポンコツなところを。
「ポンコツばっかりですよ。まず、すぐ風邪ひくんですよね」
待ってましたとばかりに話し出す彼に、「そんなに鍛えているのに……?」と疑いの目を向けると、「出た!」とオーバー気味に笑って、こう続ける。
「体を鍛えている人は健康だと思ってるでしょう。関係ないですから。むしろ筋トレして体をいじめた後ほど免疫が下がって風邪をもらいやすいんですよ。筋トレ後は回復が大事なので、ちゃんと寝なきゃいけないのに、仕事が忙しいと寝られなかったり。そしたらもうヒュンッて免疫下がって、すぐ風邪をひきます。基本、全部の菌をもらっていくスタイルです(笑)」
自分のダメなところを語るときほど、鈴木亮平はイキイキとしゃべる。出身は兵庫県西宮市。関西人らしいサービス精神の塊みたいな人だ。
「あと、ドジは僕の代名詞みたいなものですから。この間も、次に入る映画の方々とお会いして、みんなでご飯でも食べに行きましょうとお店に入ったんです。そして、1品目が出てきて、箸袋から箸を抜こうとした瞬間、勢い余って箸がスパーンッと向こうの方へ飛んでいきました(笑)。まだみなさん緊張されているので、呆気にとられてるんですよ。だから僕から説明しました、『僕はみなさんが思っているようなしっかりした人間ではありません。こんなことを毎日やるのでお見知りおきを』って」
そうおかしそうに笑う目元には、豊かなシワが刻まれていた。男の可愛さと色気が同居したシワだ。大人の余裕と包容力。そして、少年のような好奇心と探究心。その両方が鈴木亮平にはある。
50歳、60歳になった鈴木亮平はどんな顔をしているだろうか。きっと今よりもさらにいい顔になっているに違いない。たっぷりに刻まれた目尻のシワは、鈴木亮平の生き方そのものを語っていた。
取材・文:横川良明 撮影:Jumpei Yamada
スタイリスト:丸山晃
ヘアメイク:宮田靖士(THYMON Inc.)
<作品情報>
Netflix映画『シティーハンター』
4月25日(木) Netflixにて世界独占配信
出演:鈴木亮平 森田望智 安藤政信 華村あすか 水崎綾女 片山萌美 阿見201 杉本哲太 迫田孝也/木村文乃 橋爪功
ストーリー
新宿東口の伝言板に書かれた「XYZ 妹をさがしてください」というメッセージを受け、相棒の槇村秀幸と共に、有名コスプレイヤーくるみの捜索依頼を請け負った“シティーハンター”こと冴羽獠。その頃新宿では謎の暴力事件が多発し、警視庁の敏腕刑事 野上冴子は手を焼いていた。息の合ったコンビネーションでくるみを追う獠と槇村だったが、捜査の最中、槇村が突然の事件に巻き込まれ死んでしまう。獠が事件現場に駆けつけると、そこにいたのは槇村の妹の槇村香。兄の死の真相を調べてほしいと香は伝言板で獠に依頼するが、香を巻き込みたくない獠は香を避け続ける。
しかし香がくるみを発見、保護したことで状況は一変。くるみがコスプレイヤーとして出演するイベントに、獠と香は護衛役として潜入することになった。ステージに登壇するやいなや、一気に注目の的となるくるみ。しかしそんな彼女に視線を送るのは、観客やメディアだけではなかったーー。
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