歌あり笑いありの新翻訳 夏川椎菜が3度目の深作組で名作に挑む
ステージ
インタビュー
夏川椎菜 (撮影:吉田沙奈)
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すべて見るヘンリック・イプセンの代表作のひとつである『人形の家』が、深作組によるドイツ・ヒロイン三部作 第一弾として上演される。『ノラ -あるいは、人形の家-』でヒロイン・ノラを務めるのは、これまでも深作組に参加し、魅力的なヒロイン演じている夏川椎菜。数多くの女優が挑んできた役を演じる上での意気込みを聞いた。
自分との違いが大きい役を丁寧に作り上げたい
――まずは出演に対する意気込みを教えてください。
今まで深作組に2回お世話になっていて、今回3回目です。3回目にして普通の会話劇だったので、今までのオファーよりは心持ち穏やかでした(笑)。スッと受け入れられ、稽古が楽しみだと思っていました。
――深作組で作る舞台、深作さんの演出の魅力はどんなところに感じますか?
そんなにセットが派手なわけではないし、大掛かりな小道具があるわけでもない。でも、限られたものを役者たちが工夫して使うことで場面が切り替わったりするのがとても素敵だと思っています。台本にもよりますが、ちょっと刺激が強かったり、印象に残るシーンが多かったりするのも魅力。あとは舞台上で生演奏をして効果音やBGMを作っていく。演奏も含めて舞台装置なのが深作組ならではかと思います。
――『人形の家』という物語、ノラという女性の印象を教えてください。
正直、何も考えずに台本を読んだ時は、ちょっと愚かというか、あまり好きにはなれませんでした。ちょっと浅はかだったり、世間知らずすぎたり。友達にはなりたくないタイプだと感じて、最初の印象は良くなかったです。ただ、彼女のことを深く知っていくにつれて、世間知らずで考えなしな部分はあるけど、物語の中で彼女が追っていく感情や考え方に共感できる部分もあると感じるようになりました。孤独になるとノラのようなことを考えてしまうんだろうなと。感情の起伏も激しくて、笑っていると思ったら怒ったり落ち込んだり、相手との関係値によって接し方や自分の在り方がコロコロ変わったり。そこがノラの特徴だと思います。
――ノラは設定的にも新たなチャレンジかと思います。演じる上で楽しみにしていること、役作りでこだわりたいポイントはありますか?
私が今まで演じてきた中で母親役はなかったですし、年齢設定としては近くて等身大ではあるけど、自分とはライフステージが全然違う女性です。母親ってどんな考え方するんだろう、母親として子どもと接するってどういう感情になるんだろうというところを稽古で掴んでいきたいです。あと、ノラは夫のトルヴァルに対して愛はあるけど、ちょっとフィルターがかかっている。家族のために上手く付き合っていかなきゃいけない存在だと思っているところがある。トルヴァルも難しい人なので、ノラが無理に笑顔を作ったり自分を下げたりすることで関係を保っている。ちょっと歪な関係性です。それを演じる時に、ノラが無理しているのがお客様に伝わるように演じられたらと思います。
ノラの感情を歌に乗せて表現するシーンも
――今回は作品の舞台を現代に移していますが、見どころはどこになりそうでしょう。
セリフの裏に隠された思い、そのセリフを言った理由や意味など、何重にもレイヤーが重なっているようなセリフがすごく多いです。まだ稽古中ですが、役者同士の目の動き、体の動きで補完していくような感じになると思うので、一人ひとりの細かい部分まで注目してもらえたら嬉しいです。あとはエミーという異質な存在が舞台上にずっといるので、お客様にどう感じていただけるかこちらも楽しみ。あと、ノラは歌を歌うシーンが何ヶ所かあります。ミュージカルとまではいきませんが、彼女のその時の心情に寄り添って歌うので、楽しみにしていただけたらと思います。
――全体を通して楽しみなキャラクターや注目してほしいシーンがあったら教えてください。
まだ稽古が進んでいないのでわからないことも多いですが、トルヴァルと対峙するシーンですかね。何ページにもわたって話し合いをするシーンで、演劇的には何かの動きがないといけないと思ってしまうけど、どう演出されるのか楽しみです。ある意味声優としての本分が活かせるシーンでもあるのかなと思います。おそらく派手に演出が入ることはなくて、声だけでトルヴァルと話し合わないといけないし、話し合いの中でノラの感情がいろいろな方向に移り変わっていくのを表現しないとならない。私が声優として活動してきた中で培ったものが活かせる場所がたくさんあるんじゃないかと思っています。
――『未婚の女』も能舞台での上演でした。空間や会場の魅力をどんなところに感じましたか?
能舞台に入ってみると、神様に見られているような感じがすごくあります。役者も観客の皆様も、自然と集中させられてしまう。照明だけでも目が吸い寄せられてしまうような吸引力があると気がます。『未婚の女』でも思ったんですが、劇が始まると、お客様の視線の食いつき方が普段とまた違う感じがするんです。没入とも違うけど、集中して見てもらえるというか、一言一句が鮮明に伝わっている、不思議な感覚があります。お客様が舞台を囲むような形になっていていろいろなところに目があるのも理由かもしれませんが、集中して見ざるを得ない環境という気がします。実際は床も軋むし、足袋を履かないといけないから気をつけないと滑るし、きっと難しいと思うんですが、それ以上に味方してくれる。それを『未婚の女』で感じたので、今回はなんの心配もなく、純粋に楽しみにしています。
役者と声優、アーティスと活動が良い相乗効果を生み出している
――舞台主演は今回3回目。声優やアーティスト活動と演劇の違い、それぞれの魅力とはなんでしょう。
2022年に『オルレアンの少女』に出演し、他の活動に活かせることがすごくたくさんあると感じました。そもそもこういう世界に興味を持ったきっかけが中学演劇なんです。子どもの頃に「これ、ずっとやっていたい!」と思った気持ちが呼び起こされ、良い作用になって他の活動に精神的・物理的に活かされています。魅力で言うと、声優の仕事は目の前にお客様がいることが少ないので、技量を試す場所、自分がいろいろなところで学んだことを活かす場所というイメージです。ライブや舞台はお客様が目の前にいるぶん、その場限りの瞬間を楽しむ場所。準備段階ではテクニックも気にするけど、最終的にはそれよりもその場の感情の動き、お客様とのエネルギーの交換を楽しむ場所。その上で、やることが歌か芝居かという違いです。
――深作さんがコメントで座長としての成長を讃えていました。ご自身で感じる成長や変化はありますか?
大胆になったなと思います。『オルレアンの少女』の時にどうしても動けなくて。声優の時はセリフを発しながら動くことが基本的になかったので、セリフと動きが連動していなかったんです。最初は思い切ってできなかったのが、『オルレアンの少女』、『未婚の女』を経験して、徐々に感覚がわかってきました。「こうすればやりやすい」、「ここまでやっても別に怒られないんだ」とわかってからは、自分で台本を読んでいるときに動きを考えられるようになりました。考えて、動きながらセリフを言えるようになったのが一番大きな成長だと思います。
――今後挑戦してみたい役や作品があったら教えてください。
自分が見にいくときはコメディを選びがちなんです。コメディはやりたいなと思っています。新喜劇や漫才、コントもすごく好きで、自分のイベントでも近いことをやっているんです。コントも突き詰めると演劇的なので、一回挑戦してみたいなという気持ちがあります。
――楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。題材で「難しそう」と感じる方の背中を押せるようなポイントもあれば、合わせて教えてください。
今までの深作組を見てくださった方だと、「また難しい感じなのかな」とか、ドイツの戯曲を翻訳でというところで理解が難しいと思われるかもしれませんが、今回は本当に見やすくなっていると思います。
台本を開いて驚いたのが、モノローグがほとんどないこと。『オルレアンの少女』や『未婚の女』はモノローグだらけでしたが、今回は会話劇。場面が移り変わったり抽象的な描写が多かったりするわけでもないので、すっと理解できると思います。そこに歌や笑える演出が入ってくるので、すごく見やすいんじゃないかなと思いますし、楽しみにしていただきたいです。
でも、相変わらずとてもメッセージ性の強い戯曲だし、今やることに意味がある。見る方によって違う感想を抱くお芝居になっていると思います。私は「深作組の演劇を見にくる時は、楽しみにというか考えにきてください」とよく言うんですが、それは変えずに、「自分の考えが変わるかもしれない」、「自分の考えを確かめにきた」という気持ちで見にきてくださると、我々役者としてもやりがいがあるなと思います。
取材・文・撮影:吉田沙奈
<東京公演>
ノラ-あるいは、人形の家-
公演期間:2024年5月23日(木)〜2024年5月26日(日)
会場:銕仙会 能楽研修所
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/nora2024/
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