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福士蒼汰×松本まりかの役者の業「一瞬の快感を味わいたくて、お芝居を続けている」

映画

インタビュー

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左から)福士蒼汰×松本まりか (撮影:映美)

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リズムよくシャッターを切る音が重なる。レンズに捉えられた2人はぞくりとするほど色っぽい。独特の緊張感に包まれた中、不意にその空気が緩む瞬間があった。

それが、セットチェンジのとき。カメラマンから「座ってください」と指示が飛ぶと、スタッフが椅子を用意する前に、福士蒼汰がわざと空気椅子のポーズをする。そのおどけた仕草に、松本まりかも思わず笑い声をあげた。飾らない、素顔の2人がそこにいた。

5月17日(金) 公開の映画『湖の女たち』でW主演を務める福士蒼汰と松本まりか。2人が演じるのは、歪んだ支配欲を抱く若手刑事・圭介と、圭介の冷たい視線に恍惚を覚える介護士の佳代。目の前でにこやかに笑っている2人と同一人物が演じているとは思えない。パブリックイメージを覆す、倒錯した関係性に観客は衝撃を覚えるだろう。

役者として新境地を切り開いた2人に、圭介と佳代として生きた日々を振り返ってもらった。

チャレンジングな作品なので周りの方々が気を遣ってくださいました

――普段仮面をかぶって隠している人間の欲がさらけ出されたような描写が数多くありました。この役を引き受けるのには覚悟が必要だったと思うのですが、やってみようと思った一番の決め手は何だったのでしょうか。

福士 いつかこういった作品にも挑戦してみたいと思っていました。お話をいただいたのが29歳のときだったのですが、それまでエンタメ作品に出演させていただくことが多かったので、違うこともやってみたいなという思いが自分の中で沸々としていた。だから、このお話をいただいた時は、躊躇うことなく受け入れられたんです。チャレンジングな作品ではあるので、周りの方々が気を遣ってくださっていました。

松本 私も福士くんと同じで、このお話が来たときは、バラエティーとか、すごくポップな作品をやっていて。こういう作品をやれるところに行きたいけど、自分の現実と乖離しているし、という状況だったんですね。そんな中、(監督を務める大森)立嗣さんが「佳代をまりかでやりたい」とおっしゃってくださって。立嗣さんが覚悟を持って挑む作品の重要な役を私に任せてくださる。それだけで、台本を読む前にやりたいと思いました。

――内容に対する抵抗はそんなになかったんですね。

福士 僕は抵抗はありませんでした。自然と導かれるように現場に立っていたように思います。

松本 私はむしろ台本を読んでから逡巡しました。正直、自分の理解が追いつかなくて、やりたいけど、やれる自信がなかったんです。でも、本能的に行きたい場所だったし、そこに立った景色が見たいという欲求が、できるかどうかわからないという不安を上回っていた。未知のものに立ち向かいたい気持ちが、私をあの場所へ連れて行ってくれました。

これほど極限状態に行ける作品とめぐり会えることはそうない

――壮絶だったのは、佳代が四つん這いになってこれまでの経歴を圭介に告白するシーンです。答えるのも大変なシーンかもしれませんが、あの場面を少し振り返っていただけますか。

松本 極限状態でした。役と同化する感じで、自分も追いつめられているけど、佳代も追いつめられているから、それではそれでいいやと思うしかないというか。抜けられない沼の中にいて、どんどん深みにハマっていくような感覚でした。早く抜け出して楽になりたいんです。でも、佳代が同じ状況なら、私もこの感覚をそのまま持っていってやろうと。

――そこには、佳代と同じような、ある種の恍惚もあるのでしょうか。

松本 キツかったからこそ、そう感じていたのではないかと思います。そこまで極限状態に行かせてくれる作品とめぐり会えることもそうないですし、この作品はそれほどの作品でした。作品に力がなければ、極限までは行けない。それだけの作品にめぐり会えた喜びはあった気がします。

――圭介は、佳代の告白を聞きながら瞼に涙をためていました。あの涙はト書き通りですか。

福士 実はあまり覚えていないんです。

松本 ト書きには書いてなかったですね。

福士 自分の中でそういう心理状態に持っていかれていたのだと思います。佳代に向けて言った言葉が、全部自分に返ってくるような感じがして。圭介は、佳代にすべてをさらけ出させようとする。でもそれは同時に自分の開示でもあったのではないかと思います。佳代を通して自分を見つめているようなシーンです。

嫌われる覚悟で距離を保っていました

――映画の中では緊迫した関係だったので、素のお2人がなごやかな雰囲気でちょっとホッとしています(笑)。

松本 でもね、撮影中は、福士くんのこと嫌いでした(笑)。

福士 今回は現場で雑談などは一切交わさず、嫌われる覚悟で距離を保ちました。

松本 ほとんど話さなかった。

福士 僕は人とお話しすることが好きで。現場でも自分から積極的に話しかけるタイプなんです。でも今回は、現場で僕が笑顔を見せたら圭介という人物が完成しない気がして。今思い返せば本当に申し訳ない気持ちになるのですが、松本さんに対してだけ距離を置いていました。

松本 嫌いだった〜(笑)。でもそれがいいというか。サディスティックなんだけど、色っぽくて惹かれちゃう。福士さんって優しくて爽やかなイメージがありますけど、私は本当はこういう人だっていまだに疑っています(笑)。

福士 僕が本当に圭介のような人物だと思われるんですか?

松本 仮の姿です(笑)。でもそれが魅力なんですよ。むしろもっとそういう顔を見せてほしい(笑)。

福士 そう言っていただけるようになってよかったです。

――ハードな役だったと思いますが、もう一度この役を演じられるとしたら、やりたいですか。

福士 この先の圭介には興味があります。この先どういう人生を送っていくのか想像がつかないので、彼の今後を演じられるなら面白そうです。

松本 私はやりたいです。本当に追いつめられましたけど、その先に見えるもの、手にするものがものすごく大きかったので。この映画をやるまで、様々なことに追われる日々で、何を見ても美しいと感じられなくなっていて。でも、この映画のラストが朝焼けのシーンなんですけど、撮影当日、湖の前で朝日を逆光に準備しているスタッフさんを見て、久しぶりに心から美しいと思ったんです。それは、私が今まで見てきた中で一番美しい景色でした。そして、自分の限界に挑戦しなければ見られない景色でした。あのとき、明確に思ったんです、ここにいたいって。あの美しさに出会えるなら、また佳代という役をやりたい。今度は、あのときとは違う目線で演じられるかもしれないですしね。

底なし沼にいる感覚は最近までありました

――本作の湖は、どこにも行けない閉塞感や、いろんなことを象徴しているように感じました。お2人の中にも、湖のような感情はありますか。

松本 全然あるな。

福士 知りたいです。

松本 ずっと混沌としていたので(笑)。私はそれを湖ではなく、沼と表現していたんですけど。売れない時期は底なし沼に自分が溺れて、誰にも見つけてもらえないような感覚でした。別に苦労話をしたいわけではないし、それを苦労だと思っていないけど、底なし沼にいる感覚は、本当につい最近までずっとありましたね。

福士 撮影期間中に、琵琶湖を船でまわらせていただいたのですが、琵琶湖は一番深いところで水深100mくらいあるらしくて。底に沈んだ昔のものが、網などに引っかかって出てくることがあるそうなんです。でもそれだけ深いと、水圧の関係で水面に上がっていく途中で泡みたいに溶けたり爆発してしまうこともある。その話を聞いたときに、なんて面白いんだろうと思いました。きっと原作の吉田(修一)先生もそういう象徴として湖を用いたのではないかと。

――福士さんにも、そういう気持ちがあると。

福士 あるんだと思います。湖は、海や川と違って、流れがないから堆積する。それは、僕たちの行きづまる感覚に似ていて。掘り起こされた瞬間に爆発するのも、僕らの感情に通じるものだと思います。自分の中で鬱積していたものが、ある瞬間に何かの弾みで表に出る。大抵そういう感情はネガティブなものだと思いますが、でもそれが表出された瞬間は、ある種発散に似ていて気持ち良かったりするんですよね。

――俳優というのは、そんな湖の底に沈めた感情を引きずり出して表現する仕事でもあります。そうした仕事を生業にしていることへの業を、今回やってみて感じましたか。

松本 (「どう?」という視線で福士を見つめる)

福士 ……感じました! 感じたというより、大森監督がそれを引き出してくれました。大森監督は、台詞に対して心から言いたくなったタイミングで言ってほしいという監督。極論、そういう感情になるまで言わなくてもいいという意味なんです。これは心の扉を開いて、その奥にあるものを引っ張り出してくる作業ですし、一番手前の扉では物足りない。何重にもなっている鍵を開けた先にあるものを、大森監督は見たがっている。監督のおかげで、否応なく役者の業を突きつけられている感覚になりました。

松本 今回の作品がまさにそうですけど、こういう場を与えられたときに、尻込みしながらも挑戦したいと思ってしまうことがすべてなんですよね。これだけ役者という仕事を続けながら、いまだに私はこれができると自信満々に言えるものが何もない。そのくせにお芝居以上の快感を得られるものが見つからないままなんです。演技をしていても、最高潮だと思える瞬間なんて滅多になくて。でも、時折、そう思える瞬間がある。その一瞬に、私はずっと病みつきになっているんです。きっとその瞬間こそが、私が生きていると思える瞬間。一瞬の快感を味わいたくて、お芝居を続けているところがあるかもしれません。

取材・文:横川良明 撮影:映美

福士蒼汰
スタイリング:オク トシヒロ
ヘアメイク:佐鳥麻子

松本まりか
スタイリング:コギソマナ(io)
ヘアメイク:桑野泰成(ilumini.)

衣装協力(※すべて税込価格):
トップス¥18700,プリーツパンツ¥61600/HATRA
ピアス¥231000/メシカジャパン(メシカ)
サンダル/スタイリスト私物

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<作品情報>
『湖の女たち』

5月17日(金) より全国公開

『湖の女たち』ポスタービジュアル

公式サイト:
https://thewomeninthelakes.jp/

(C)2023 映画「湖の女たち」製作委員会

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