経験を力に 綱啓永が決めていること「良いお芝居をするしかない」
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綱啓永 (撮影:遥南碧)
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すべて見る「よろしくお願いします!」と一際大きな挨拶が響く。それだけで、取材現場の空気が洗われたように質感を変える。どんな現場でも大切にしていることは、礼儀と挨拶。綱啓永の軸は、過去のインタビューで語られていたことと何らブレてはいない。
フジテレビ月9ドラマ『366日』で綱が演じているのは、コンサルタント会社勤務の吉幡和樹。メガネに七三分けというビジュアルも含め、これまで彼が演じてきた役柄とは少し毛色が違っている。初の月9出演でもある作品、綱自身にとっても思い入れが強いようだ。
脚本家・清水友佳子に「勘弁してください!」
現在放送中の『366日』は、先日7話の放送が終わったばかり。あらためて、これまでの展開や和樹という役を振り返ってもらうと「高校時代の回想シーンと現代を描くシーンの対比について、演じている僕らのなかでは上手く差が出せているな、と思います」と俯瞰した答えが返ってくる。
「まだ現代パートで、明日香(広瀬アリス)を含む幼馴染5人の仲良しなシーンが撮れていないので、僕自身も早くその姿が見たいなって。あと個人的にはやっぱり、3話のクライマックスでもある、病室でのシーンを思い出しますね」
眞栄田郷敦演じる水野遥斗が入院している病室に、高校時代からのわだかまりが残る和樹が訪れ、涙ながらに心中を吐露するシーン。俳優・綱啓永として、これまでにないプレッシャーのもとで撮影された。
「遥斗とのやりとり、明日香たちとのことを思い出しながら涙を流すような、少し重ためのシーン撮影が二日連続であって。そうしたら二日目の撮影に、脚本家の清水(友佳子)さんがいらっしゃったんです。『今日は和樹の芝居を観にきました』って、すごいプレッシャーをかけてきて(笑)。いやいや勘弁してよ! って思いました。しかも、段取りの直前ですよ?」
監督、プロデューサー、そして脚本家に囲まれながら、感情を発散させる重要なシーンの撮影に臨んだ綱。「気持ちがブレそうになって……」と撮影時期を振り返りながら語る表情には、なんら臆した様子はない。「観てくださった方に『良かったよ』と言ってもらえるシーンになりました。また一つ、ステップアップした自分を見せられたのかな、と思います」と口にする彼は、飄々としているようでありながら、しかし確実に得た経験を血肉にしている。
根底に流れる、作品を良くしたい想い
ドラマ『366日』は、綱にとって初の月9出演作となった。さきほどの病室のシーンで感じ取ったというプレッシャーになぞらえて「月9出演に対するプレッシャーは?」と水を向けると「ありませんでした。ただただ嬉しかったです」と即答。
「正直『俺が出てもいいのかな』って気持ちは、一瞬だけありました。でも、実際にいま和樹を演じていて思うのは、とにかく『この作品を、もっともっと良くしたい』に尽きるんです。キャストのみんなとご飯に行ったときも『私たちが良いと思うものをつくろう』って、熱い話をしました。自分が携わっている以上、自分がこの作品にできる精一杯のことをしたい。それって、僕にとっては良いお芝居をするしかないんです」
だから、プレッシャーを感じるのは月9で主演をやるときですかね、と真面目に語ったあとは必ず外す。しかし、月9主演も遠くはない未来なのでは、と問いかけると、ふたたび真面目で真摯な一面を覗かせる。
「うーん……難しいですね。その質問に対して簡単に『そうですね!』とは、まだ言えない自分がいます。もちろん月9主演は憧れで目標ですけど、心の奥底では、まだまだその地点に達していない、そんな発言をするまでにも至っていない、という感じです。でも、いつかはやれたらいいな」
25歳。ちょうど20代の折り返し地点に立っている綱は、俳優として初のドラマ出演を果たしてから6年目を迎えている。テレビ朝日系列『騎士竜戦隊リュウソウジャー』(2019)で特撮の現場を経験し、TBS系列ドラマ『君の花になる』(2022)でドラマ撮影とボーイズグループ活動を並行させた綱。注いできた労力と時間は、彼に地に足の着いた自信と、実力を誠実にまなざす視座を与えたようだ。
和樹は「過去の自分を思い出しながら演じている」
『366日』では、制服を着た高校時代の和樹と、12年経った現代の和樹、両方を演じている。「二つの時間軸を行き来するお芝居は初めてなんですけど、そこまで苦労はしてません。……って、こんなこと言っちゃうと『コイツ舐めてんな』って思われますかね!?」と慌てる様が微笑ましい。
「制服を着て現場に入ったら、不思議と高校時代の和樹になる。そして、スーツを着てメガネをかけて、髪型をピシッと七三に分けたら、12年経った現在の和樹になる。こういった外見というか、ヘアメイクと衣装のおかげで役作りができていると、僕は思っています。いろいろな面を視聴者の皆さんに見ていただけるのが、嬉しいです。あとやっぱり大切なのは、アリスさんや(眞栄田)郷敦をはじめ、ほかのキャストさんと心を通じ合わせることですかね」
まだまだ制服を着てお芝居をしたい、と過去のインタビューでも口にしていた綱。「僕、自分では違和感がないと思って制服を着ているんですけど、どうですか? 違和感、ないですよね?」と朗らかに話す。制服卒業のタイミングについて聞くと「30歳、いや、29歳かなあ……」と迷う場面も。
「本当にここ数年、インタビューなどで聞かれたらずっと『まだまだ制服着たいです!』って言っていて。いつまで大丈夫かな、できることなら30歳?」
一つひとつの質問に、時間をかけて真摯に考え、綱らしい言葉で回答するのを見ていると、ファンが増加中なのも頷ける。取材現場に登場した瞬間から、場の空気を変える元気な挨拶をした様子から考えても、さぞ綱自身の学生時代は、絵に描いたような青春を楽しんでいたのだろうと思ってしまうが……。
「小学校のころとか、学生時代は控えめな性格で、自分からガツガツ前に出ていくタイプではなかったです。後ろで大人しく笑っている子だったなあ。中学校ではサッカー部に入ったので、そのおかげで少し明るくなれたかな? と思うんですけど、本来の僕は静かですよ。和樹を演じているときは、そんな過去の自分を思い出しながら演じているかもしれません」
だからなのか、綱が『366日』でもっとも共感するキャラクターは、坂東龍汰演じる小川智也なのだとか。明るく陽気に振る舞っているけど、本当は悩みを抱えて人知れず苦しんでいる……。つらいけれど笑顔で、仲間の前ではテンションで乗り切り、本当の姿は見せない。「僕自身も、どこか似た生き方をしてる気がします。それが悪いってわけではないんですけど」と話す綱の、いつもとは違った表情が、和樹を通して想像できる。
仲良しな現場で流行っているのは「前歯を……」
撮影現場の様子や、共演しているキャストに話が及ぶと「すごく和気あいあいとしていて、楽しいです。このキャストで良かったな、と思います」とチャームポイントの八重歯を覗かせながら語ってくれる。
「仲良しなんですよ。みんなの仲の良さや関係性が、それぞれの役に上手く投影されているんじゃないかな。でも撮影では、回想パートと現代パートを撮るときで自然と場の空気が変わって、お互いがしっかり自分たちの役を持ち寄ってきているのが伝わってくる。自然とそういった流れになるのは、やっぱり主演の広瀬アリスさんが、場を引っ張ってくれているからだと思います」
ドラマ撮影そのものが楽しくなる現場。全員が真剣に、作品づくりや役に向き合っている姿を間近に見られる現場。お互いが刺激し合える環境で、関係性に甘えすぎることもなく「仕事は仕事」と切り替えができるのは健全だ。そんななか、キャストの間でちょっとした遊びが流行し、場が和むことも多いという。
「ついこの前、おもしろかったことがあって。『前歯を乾かして変な笑顔をする』っていう遊びが流行ったんですよ。それも確か、アリスさん発信で始まって、僕も真似して、龍汰くんや(下田)莉子を演じている(長濱)ねるちゃんも流れに乗って。郷敦もやり出したのにはびっくりしたなあ。意外とお茶目なところ、あるんですよ。彼、現場では赤ちゃん扱いで、郷敦が何かするたびにアリスさんが『かわいいね〜赤ちゃんだね〜!』ってあやすやりとりが定番化しつつあります。『バブドン』ってあだ名までついてて(笑)」
ともにドラマ撮影に臨む仲間の話をし出すと、止まらない。いかに『366日』の現場を楽しんでいるか、キャストやスタッフをかけがえなく思っているかが、否応なく伝わってくる。
綱啓永の憧れ青春デートは?
「毎日『会いたい』と連絡をもらうと困ってしまう」「基本的にペアルックをしたくない」過去のインタビューにおいて、軸のある恋愛観を隠すことなく披露してきた綱。『366日』の明日香と遥斗のように、長くお互いを思い続ける関係性について聞くと「共感はできないですね、ここまで長い間、思い続けることはできないかも」と、やはり歯に衣は着せない。
「もちろん一人の相手を一途に思う気持ち、ありますよ! ありますけど、やっぱり片思いはつらいです。振り向いてもらわないと、途中で挫けちゃいます。僕、なぜかお仕事でも片思いをする役が多くて……。今では切り替えられるようになったんですけど」
「片思いしているとき、いちばんつらい瞬間は?」と重ねると「自分以外の人と喋っているのを見ただけで、もう」と止まらない。
「つらい気持ちは、友達に会って解消させます。恋愛の悩みに限らず、どんな状況でも僕は、だいたいこれで解決できちゃうかも」
ドラマ『君の花になる』で、期間限定で活動していたボーイズグループ『8LOOM』をとおして関係性を深めた宮世琉弥や森愁斗、さらには恋愛リアリティショー『恋とオオカミには騙されない』で共演し、たびたび綱のInstagramでも名前が登場する樋口幸平など、友人が多い綱。自身のことを「つらいことがあっても、表では陽気に振る舞ってしまう」と分析している彼だが、大切な人を心配させたくない気遣いが伝わっているからこそ、自然と周りに友人が増えていくのだろう。
20代も折り返し。10代のころとは違う悩みを抱くこともあるのだろうか。「そもそも10代のころは、悩みそのものがなかった」と言う。あったとしても「勉強めんどくさい〜」くらいだったのだとか。
「あのころと比べると、確かに増えましたね、悩み。仕事をいただけるのもありがたいし、人間関係も安定しているんですけど、何かモヤモヤすることが起こったら『すぐ解決しなきゃ!』って速攻、動きます。何をするかって、やっぱり友達と会うこと。これは何歳になっても変わらないかも」
そんな綱に、カジュアルに「いまでもやってみたい憧れの青春デートは?」と聞いてみると、これまた「お揃い遊園地!」と即答だ。
「基本的に僕はペアルックはしたくないんですけど、夢の国だったら魔法にかかっている状態だからOK! スタンダードに、耳のついた被り物とか二人で揃えたいです。ベタに、僕は男の子のキャラクター、相手は女の子のキャラクターで」
「普通に、遥斗を見てほしいかも(笑)」
5月20日に7話が放送された『366日』。最終回が視野に入ってきたタイミングだ。これから物語はどう転がっていくのか、綱にヒントをもらう。彼いわく「一気に次の流れが複雑になってきます」。
「3話で明日香たちと和樹が和解する展開があり、遥斗が目を覚まして、智也や莉子の内面に焦点が当たるパートがいったん着地します。ここから物語が一気に展開していきます。ある人からある人へ、いろいろな矢印が生まれて、この先どうなるんだろう? って思えるのがラブストーリーならではかな、と」
眞栄田演じる遥斗を見ていると「思わず感情移入しちゃう」のだとか。
「遥斗が悩んでいたり、頑張っていたりするのを見ていると、僕の涙腺が刺激されます。もちろん僕が演じる和樹の行く末も気にしてほしいですが、いちばん見てもらいたいのは遥斗かも(笑)。明日香と遥斗の関係がどうなるのか、そして、そこに和樹がどう絡んでくるのか。ぜひ楽しみにしてもらいたいです」
前に出過ぎず、主演である広瀬アリスや、眞栄田郷敦、坂東龍汰、長濱ねるなど他キャストを立てる語り口には、さきほど示唆された「本来のおとなしい、控えめな綱啓永」の一面が表れている。取材を終えて場を去る、その最後の瞬間まで、スタッフ一人ひとりに挨拶と気配りを忘れない姿は、どこまでも堅実な、俳優・綱啓永だった。
取材・文:北村有 撮影:遥南碧 スタイリング:三宅 剛 ヘアメイク:牧野裕大(vierge)
<番組情報>
ドラマ『366日』
毎週月曜夜9時より放送中
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