松田凌 (撮影:友野雄)
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すべて見る加州清光が、舞台『刀剣乱舞』の世界に再び舞い降りる。「心伝 つけたり奇譚の走馬灯」と題された新作公演で、加州清光を演じるのは松田凌。本公演では「天伝 蒼空の兵 -大坂冬の陣-」に続いての出演だ。新選組 沖田総司が使用していたとされる打刀で、きれいにしていれば主に可愛がってもらえると思っている、加州清光。美しさの中に秘めた熱い想いを持つこの刀剣男士を松田が再びどのように演じるのか。そして、加州清光とは正反対に見えて似たもの同士の喧嘩仲間、大和守安定との関係性をどのように見せるのか。松田が胸に秘めた想いを語る。
「純度を高く保って演じないと難しい」
――今回、再び加州清光を演じることになりますが、現時点ではどのような準備をしていますか?
すごく正直なことを申しますと、(取材当時は)全く準備をしていません(苦笑)。加州清光を演じるにあたっては、純度を高く保って演じないと難しいと考えているので、お稽古が始まるまではあまり意識せずにいます。こうしてインタビューをしていただくことで徐々に実感が湧いてきているというところがあります。
――なるほど。「天伝 蒼空の兵 -大坂冬の陣-」では、加州清光についてどのように考えていらっしゃったんですか?
1から10まで緻密に役を作らせていただきました。例えば衣裳、ヘアメイク一つとっても、スタッフの皆さんと話し合い細かく決めたんですよ。爪紅も何種類も用意していただいて、その色をさらに混合させて作っていただいたり、ブーツのヒールも何ミリ単位まで細かく決めさせていただいたり。稽古では、加州清光という刀剣男士を演じるにあたっての所作から心情まで、自分なりにしっかりと作らせていただいて、公演期間中はつねに『刀剣乱舞』に触れているようにしました。3カ月間のロングラン公演でもありましたし、コロナ禍真っ最中だったこともあり、絶対に集中を切らしたくなくて、安直かもしれませんが、ホテルにいる間はずっと刀剣乱舞のTVアニメを見続けたり、自分の出演した公演のチェックをしたり、お借りした資料集を読んだりして、実生活の中にもその世界観を入れていました。
一瞬の隙で綻びかねないという不安があったんですよ。なので、できるだけそうした可能性を削る作業を意識的にやっていました。
――加州清光は、主に愛されたいという思いから常に身綺麗にしているというかわいらしさと、沖田総司の刀剣であったことからくる戦闘での勇ましさの対極的な面を持ち合わせた刀剣男士です。
まさにその通りですね。ただ、その両面は表裏一体だと思っています。僕が演じさせていただく加州清光という刀剣男士は、新選組隊士の沖田総司の刀といわれています。沖田総司たち新選組隊士は、江戸時代末期に尊王攘夷志士から京都の治安を守るために、そして、自分たちの夢を叶えるために人を斬って、自分たちの信じるものを守るために誠の旗を掲げていきました。そうした新選組隊士たちの戦に対する血生臭さや志は絶対に加州清光にも根付いているはずです。特に沖田総司は、返り血を浴びることさえも躊躇しない剣の天才で、美しさを持った人物とされています。
少し深読みをすると、沖田総司が近藤勇を慕い、慕われていた人たちに1番に可愛がってもらいたいと思っていたのだとすれば、それが加州清光にとっての主に愛されたいという思いにつながっているのかなと思います。そして、沖田総司が持っていた、その人を守るために命を落とすことすら躊躇せず戦場で戦うことができるものが加州清光にもある。それが根っこの部分だとするなら、加州清光の持つ両面は、根っこから枝分かれしたものなだけで、僕としては裏表で表現しているという感覚はありません。実はそれらは根っこで繋がっているのだと思います。
「たとえぶつかり合っても自分たちがこれだと思う道に進んでいきたい」
――本公演には、植田圭輔さんが演じる大和守安定も出陣します。加州清光にとって、非常に関係性の深い刀剣男士になりますが、植田さん、そして大和守安定についてどのような思いがありますか?
初めて出陣させていただいた「天伝 蒼空の兵 -大坂冬の陣-」のときに、加州清光として「あいつが」という気を持たせるセリフがあったのですが、僕自身も「いつか、いつか」と願っていたので、その願いを叶えていただいてありがたいです。まさに念願が叶ったという形です。
――これからの稽古を通して加州清光と大和守安定の関係性もさらに深まっていきそうですね。
そうですね。植田くんもおっしゃっていましたが、ぶつかってもいいと思っています。揉めたいわけでもけんかしたいわけでもないけれど、信頼しているからこそ、きちんと向き合えると思います。それは植田くんだけでなく、今回はそれくらい作品に向き合う人たちが集まったと思っています。なので、いろいろな可能性にチャレンジして、例えぶつかり合っても自分たちがこれだと思う道に進んでいきたいと思っています。
「これが僕たちなりの王道」だと言えるように突き進みたい
――今回は座長として公演に挑むことになりますが、どんなカンパニーを作っていきたいですか?
これまでも本当にありがたいことに座長という経験を幾度かさせていただいてきましたが、最近、向いていないなと気づきました。もちろんこれまでも、真ん中に立つことで僕の人生が変わったという経験ばかりでしたし、求めている場所の一つではあるのですが、僕自身は、一つの作品に取り組む俳優として、身も心もそこに投じてしまうタイプですし、どちらかというと賭け事をしているような危うさがあると思います。そうして役に臨んでいるからこそ、加州清光を演じるにあたって自分なりの魅力を出せているのかもしれませんが、そういう意味ではあまり向いていないのかなと。
とはいえ、今回は皆さまに甘えつつ、末満さんを筆頭に座組みの皆さんたちと王道に立ち返るということを念頭に置きたいと思っています。僕たちなりに進むとそれは「邪の道」になるのかもしれませんが、「これが僕たちなりの王道」だと言えるように突き進みたいと思っています。
――今作のサブタイトルに「走馬灯」という言葉がありますが、もし、松田さんが人生の終わりに走馬灯を見るとしたら、どんな光景を見たいですか?
どうだろう…パッと思いつくのは「人」ですかね。僕は一人では生きられないと思っています。僕は自分よがりで、自分のことには自分で責任を持って過ごしていきたいタイプで、自分に焦点を当てた人生を歩んでいるくせに、人に助けてもらっているばかりの人生で…。なので、亡くなった祖父をはじめ、家族、そして親友の俳優、自分がぶつかってしまった人…という人たちの顔ばかり浮かびそうです。鏡を見るのも好きではないくらい自分のことを見ることはないですが、今、思い起こしても周りの人たちの顔はたくさん出てきます。きっと人との思い出、誰かと過ごした時間だけで僕の走馬灯は終わると思います。人との出会いや繋がりは僕の人生にとっての財産で、それこそが僕の人生なんだと感じています。
――それは良いことだけでなく、ネガティブなことも含めて?
そうですね。悪いこともあってこその人生だと思うので。良いことばかりが続く人生なんて信じられないと思ってしまうんですよ。例え嫌なことがあったとしても、これはこれで自分の人生。ただ、人に迷惑はかけずに、より自分の人生が彩られていったらいいなと思っています。今回、サブタイトルに「心伝」とありますが、この作品が皆さまの心にも彩りや面白みといったものを、少しでももたらすことができるように作り上げていきたいと思います。
取材・文:嶋田真己 撮影:友野雄
舞台『刀剣乱舞』心伝 つけたり奇譚の走馬灯 ライブビューイングのチケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2450778
舞台『刀剣乱舞』公式サイト:
https://stage-toukenranbu.jp/
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