思春期の少年たちの心模様を3ペアそれぞれのアプローチで ミュージカル『GIRLFRIEND』まもなく開幕
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ミュージカル『GIRLFRIEND』公開稽古より、左から)井澤巧麻、島太星、高橋健介、萩谷慧悟、吉高志音、木原瑠生
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すべて見る90年代アメリカでヒットしたパワーポップの名盤、マシュー・スウィートのCDアルバム『GIRLFRIEND』をベースにしたミュージカル『GIRLFRIEND』の日本初演がまもなく幕をあける。舞台に登場するのはふたりの俳優だけ。挑むのは高橋健介・島太星・井澤巧麻(トリプルキャスト)、萩谷慧悟・吉高志音・木原瑠生(トリプルキャスト)というフレッシュな俳優たちだ。翻訳・演出は小山ゆうな、訳詞は上田一豪。6月14日(金)の開幕を控え5月28日、本作の公開稽古が行われた。
高橋&萩谷、島&吉高、井澤&木原それぞれのウィル&マイク
物語は、ネブラスカ州の田舎町を舞台に、高校を卒業するタイミングのふたりの少年の恋と青春を描いていく。学校に馴染めないウィルに、プロムキングでスポーツ万能、人気者のマイク。接点のなさそうなふたりはしかしなぜか、他の人には言えない心の奥底をお互いにだけは話せるようになっていく。次第に距離を縮めていくふたりだが、マイクはまもなく大学進学のためにネブラスカを離れることになっていて……。
ウィルを演じるのは高橋、島、井澤。マイクを演じるのは萩谷、吉高、木原。公演中盤にシャッフル公演はあるが、高橋&萩谷、島&吉高、井澤&木原が基本ペア。この日の公開稽古でも、その組み合わせで演じられた。まず登場したのはウィル:井澤、マイク:木原のコンビ。披露されたのは初めてふたりでドライブインシアターに出掛け、マイクの運転する車で帰り別れたあと、ふたりが別々の場所で同じ音楽を聴いている……というロマンチックなシーンだ。歌われる『Reaching Out』はローテンポのナンバーで、井澤が星を見上げながら音に思いを乗せ丁寧に歌えば、木原は父親に対するいらだちなど青臭い少年らしさをストレートに表現。井澤と木原が、夜の静けさの中に様々な思いをめぐらす思春期の少年たちの姿を、まだぎこちなさのあるウィルとマイクの関係性とともに繊細に描き出した。
続いてウィル:高橋&マイク:萩谷が、タイトルナンバー『GIRLFRIEND』のシーンを披露。父親とケンカをしたマイクが強引にウィルを誘ってドライブに行く、という場面だ。
むしゃくしゃした気分を吹き飛ばすかのように大音量でカーラジオを流し、それにあわせふたりが歌う。マイクの気分を上げようとはしゃいでいるウィルを高橋が笑顔全開で演じ、萩谷も少しずつそれに気分が乗せられていくマイクをナチュラルに演じていて、こちらも良いコンビネーション。途中から弾けて派手なダンスも披露、ウィルとマイクの心の浮き沈みがダイレクトに伝わるノリの良い楽しい場面だった。
最後に登場したのはウィル:島&マイク:吉高のコンビ。少しずつ距離が縮まっているが、はっきりと言葉にすることをためらっているようなふたりが、言葉少なくぽつりぽつりと探り合うように一歩踏み込んでいく姿が描かれる。
ここでマイクのギターにあわせふたりが歌うのが『We’re the Same』。ロマンチックなバラードで、島と吉高が綺麗なファルセットでのハーモニーをしっとりと聴かせる。さらに島がウィルの繊細さを自然体で演じれば、吉高はマイクの人気者らしい華とそんな彼が抱く緊張を的確に表現し、人物造形もしっかり伝わってきた。
短い時間中でも、大人と子どものはざまにいるウィルとマイクのセンシティブな心模様を、それぞれがそれぞれのアプローチで描き出していることが伝わる稽古披露だった。
「相乗効果で良くなっている関係性」課題は“アメリカの田舎町感”
3場面の披露のあと、出演者6人に加え、翻訳・演出の小山ゆうなも参加して質疑応答が行われた。
――楽曲を披露した感想を。
高橋 稽古場にこれだけの人がいることがあまりないので、ちょっと緊張しましたが楽しくやらせていただきました。
萩谷 楽曲が多く、全体で12曲あります。マシュー・スウィートさんのアルバムから使っていますが、ミュージカルにあたって様々なアレンジが加わって、色々な要素、楽曲的解釈が加わっています。ウィルもマイクも音楽が好きなので、ふたりが音楽で楽しんでいる姿も見せられたら。僕らが披露した『GIRLFRIEND』は本当に楽しいシーンなので……楽しかった!
高橋 楽しかった!
島 6者6様で、何回リピートしてもらっても違う世界観を味わえる、心に響く素晴らしい舞台になっていると思います。楽しみにいらしてください、僕らも楽しみながらお芝居を務めたいと思います。詳しくは(相手役である)マイク役の志音が……。
吉高 いやいやいやいや(笑)!……説明というか、今披露した『We’re the Same』という曲は、ウィルとマイクの距離が縮まるシーンで、とても素敵なシチュエーションの中で歌いますが、作品の中でもすごくキーになるシーンなので……すごく緊張したね?
島 まだ緊張が抜けてない。
吉高 でもふたりの世界観を大事にしてできたので、すごく楽しかった。本番も楽しみにしていてください。ありがとうございました。
井澤 僕も稽古場にこんなにたくさんの記者の方が来てくださるのは初めてで、しかもトップバッター、さらに『Reaching Out』はウィルから歌が始まるのでちょっと緊張しました。でも瑠生と一緒に稽古してきて、お互いを信頼してやってきたので乗り切ることができました。曲が素敵で、ペアによって全然色も変わってくるので、何回来ても楽しんでいただける舞台になっていると思います。ここからさらに本番に向けていいものができるよう頑張っていきたいと思いますので応援のほどよろしくお願いいたします。
木原 いわゆる未来のスターたちが並んでいらっしゃるので、そこに僕も混ぜていただいてすごく嬉しいです。巧麻くんと一緒に『GIRLFRIEND』を作り上げていけたらと思っています。ありがとうございました。
――小山さんから見て、6人それぞれの魅力は。
小山 本当にみんな全然違う。ある種ライバルだと思いますが、そういう感じを見せず、お互いをシャットアウトするのではなく渡し合い、相乗効果で良くなっている関係性です。
まず巧麻くんはおそらくすごく真面目で、だからウィルの誠実な部分と重なり合う。稽古も一度やったことを着実に身につけちょっと改良し、どんどん積み上げていってくれる安心感があります。
島くんは皆さんお気づきのとおりムードメイカー(笑)。華やかで、彼がいると楽しくなるし、狙っているのか狙っていないのかわからないユーモアがキラキラしていて、それがお芝居にも表れています。
高橋さんと萩谷さんのペアは、色々な事情で稽古のスタートが少し早かったせいもあるのですが、高橋さんはお芝居を実際にやってみた上での提案が本当に優れている。引き出しも多く、「こういう風に見えたいんだけど」と言うとどんどん出してくれます。
高橋 通知表をもらっているみたい……。
萩谷 あと、なんでみんな「くん」付けなのに、僕らふたりだけ「さん」なんですか? (自分たち)ちょっと怖いですか? 「くん」で呼んでほしい(笑)。
小山 いや、みんなちゃんと「さん」付けにしようと思っているんだけど、つい「島くん」って言っちゃうんだよね……(笑)。
高橋 でもどこかしら俺と萩ちゃんの圧は強い感じはある(笑)。
小山 そうなんですよ。ウィルとマイクは疎外された子たちで、マイクも学校での人気者とはいえ田舎町の子。なのですが(キャストが)みんなキラキラしてて。そのキラキラ、もうちょっと消せる? という稽古場なんですが(笑)。萩谷さんはギターもダンスもめちゃめちゃ上手で、アメリカの田舎町という感じが……。
萩谷 公開でダメ出しが……(笑)。もうちょっと田舎感を出します。
小山 いや、できることがまずすごいから! 転換しながらお芝居するところも多いのですが、萩谷さんは多分誰よりもそれも全部把握しているし、振付のSotaさんにも「こうしてみるのはどうですか」とアイディアをどんどん出してくれて。だから稽古の進みが早いです。
吉高さんは、稽古最初の時から、稽古着も90年代アメリカ風で。すごく考えているなと思うし、そういうのは大事じゃないですか。こういうところからこだわって作っていくということをやっている。また(島との)ふたりのペア感も、絶妙に助け合っていて本当にマイクとウィルみたいなんです。
木原さんは、個人的な話なのですが、うちの小学二年生の息子がファンで、(木原が出演したスーパー戦隊シリーズ)『魔進戦隊キラメイジャー』をずっと観ていたんです。当時から器用な方だなと思っていましたが、その時に感じていたセンスみたいなもの、意外な表現がふっと出てきたりする瞬間がたくさんあって、ハッとするアイディアがたくさん出てくる方です。
ふたりの物語を「のぞき見しにきて」
――稽古中に印象的だった出来事や、印象的だった発言などがあれば。
高橋 ちょうど昨日のことなのですが。メインペアがいて稽古もその組み合わせでやることが多いのですが、スケジュールの都合で他の人と組むこともあるんです。で、瑠生が来れない時に巧麻くんが志音に声をかけてやっていたのですが、理由が、萩ちゃんには声をかけづらいと。
萩谷 なんでなんで!
高橋 なぜかというと、ここ(高橋&萩谷)の空気感が“お互いのもの”感が強くて……と言われて。僕らはそんなに意識していないけど、まわりから見たらもうふたりの空気感が出来上がっているんだと思ったのが、印象的でした。
萩谷 稽古場にマイクが僕ひとりしかいない時もあったから、僕はけっこう皆さんとやっていて。僕、唯一全員と稽古ができているんじゃないかな。
高橋 目の前でめちゃくちゃ浮気してたもんね(笑)。すごい複雑な気分になった。
萩谷 でもそう見えてるんですか? 志音とはできるけど、って……。
井澤 いや……なんかでもペア感が一番出来上がっている感じはある。でも結局(シャッフル公演で)全員やるからね(笑)。
――小山さんへ、翻訳や演出上のこだわりを教えてください。
小山 訳詞は上田一豪さんですが、元々の英語はポップスなので同じ歌詞の繰り返しが多いのですが、日本語にするにあたり、全部(英語のままの)繰り返しではないけれど、ある程度その繰り返しの要素は活かしてくれています。それは、まだ彼らは若く語彙力もそんなに多くない。シンプルな言葉しか持たず、流暢にしゃべれないから間もできてしまう。その中でも一生懸命、相手にこのことを伝えたいというものがある。そのシンプルな言葉を意識しています。今みんなで「この言葉の裏の本当の意味はなんだろうね」という作業をずっとやっているような状態です。
――皆さんにとって“音楽”はどういった存在ですか。
高橋 今日はじめてお客様に見てもらって……なんか、「見んなよ」という気持ちになったんです。なんでこいつら見てるんだろう、俺たちふたりで楽しんでいるんだから見るなよ、と。音楽って人と楽しむものでもあるけれど、限られた空間でひそかに楽しむものでもあるんだなと今日感じました。
萩谷 ふたりの物語だからね。
高橋 そう。誰かに伝えるということもあるのですが。だからこの作品をアピールするとしたら、「観に来てください」というより「のぞき見しに来てください」と思う。
萩谷 名言だね。でも本当に日常をのぞき見てもらうような作品。音楽……。音楽をめっちゃ嫌いって人、いるのかな。音楽って色々なジャンルがあるからその人の趣味嗜好がそのまま反映されるし。でも音楽のパワーというものはあると思う。音楽があるから何か頑張れるとか。マイクはウィルにミックステープを渡しますが、カセットテープに一から録音して、という作業はすごく大変で特別なことだと小山さんに教えてもらいました。そういう音楽を通してマイクとウィルが繋がれる時がある。色々なものを繋ぐ、音楽を介してコミュニケーションがとれる。いいものだな、と思います。
島 僕は本当に、ご覧のとおり会話が超苦手で。でも音楽は、唯一自分が安心できるホームであり、僕のコミュニケーションのひとつです。喋るより歌うことで伝えたいことが伝えられる。気持ちが込めやすい。だから逆に、ウィルとして演じていても歌になったとたんに安心して自信満々になりすぎちゃったりして、そこが難しかったりもするのですが。歌は本当に“もうひとりの島太星”のような、支えのようなものです。
吉高 たしかに人と人が繋がるひとつのツールだと思うし、僕にとっても大切なものです。僕は音楽が好き、歌が好きという力だけで今ここにいるような気がします。言葉にできない、音楽でしか伝わらないものをずっと探し続けていくことが人生の課題なのかなと思っています。
井澤 昔バンドをやっていたこともあり、進路を決めたりする際に音楽が関わっていたことが多いんです。高校に進学した時も、軽音楽部が盛んな学校だったのでそれを理由にそこに決めたり。東京に出てきたのも、最初は音楽をやろうと思ってのことでした。人生のターニングポイントにいつも音楽があり、その中で色々な出会いがあったので、音楽を通して色々な人と繋がり、コミュニケーションをとってきた。この作品の中でも、さきほど太星たちが披露した曲などは(劇中で)即興的に生まれた音楽だと思うのですが、音楽が生まれていく感覚などは自分の中にリアルにあります。音楽に乗せることで気持ちが言える、気持ちが動くというのも感じます。音楽は自分にとってかけがえのないものだと思います。
木原 僕にとっての音楽は、命なんじゃないかなと思います。命と引き換えにできるものが、音楽ともうひとつある。どれだけ齢をとっても音楽はやっていきたいし、これからもずっと自分と一緒にあるものなのかなと思うので……命と同じくらい大切なものです。
取材・文・撮影:平野祥恵
<公演情報>
ミュージカル『GIRLFRIEND』
脚本:トッド・アーモンド
作曲・作詞:マシュー・スウィート
翻訳・演出:小山ゆうな
出演:
高橋健介、島太星、井澤巧麻(ウィル役・トリプルキャスト)
萩谷慧悟、吉高志音、木原瑠生(マイク役・トリプルキャスト)
2024年6月14日(金)~7月3日(水)
会場:東京・シアタークリエ
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/girlfriend/
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