Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 躍動する忍者と、その奥の影の先──。森山開次、美木マサオがのぞむダンス作品『新版・NINJA』再演

躍動する忍者と、その奥の影の先──。森山開次、美木マサオがのぞむダンス作品『新版・NINJA』再演

ステージ

インタビュー

ぴあ

『新版・NINJA』2022年公演より (撮影:鹿摩隆司)

続きを読む

新国立劇場が、森山開次によるダンス作品『新版・NINJA』を再演する。2019年に『NINJA』として産声をあげ、3年後に『新版・NINJA』として新たに上演。暗躍する忍者たちの活躍とポップな世界で大人も子どもも魅了し、全国の劇場でも人気を博した。振付・演出・アートディレクションを手がける森山開次と、初演時から本作に携わる美木マサオに、創作の舞台裏、再演への思いを聞いた。

創作の現場は、“お喋り”が重要

『NINJA』初演から遡ること4年前、新国立劇場で森山が手がけた『サーカス』。ワクワク、ドキドキがたっぷり詰まったサーカスの世界をダンスで表現、話題をふりまいた。

『新版・NINJA』2022年公演より(撮影:鹿摩隆司)

森山 子どもたちも大人と同じ劇場に足を運び、同じように興味を持ち、でも見ている角度はちょっと違いながらも楽しめるダンスを届けたいと、『サーカス』を創作しました。ある程度の手応えを感じ、では次は何を、と劇場の皆さんとお話をしたとき、当時のチーフプロデューサー望月辰夫さんが「忍者なんてどう?」と言われた。薄々、「忍者」かなと思っていたので(笑)、「キター!」という思い出があります。 陰で支えたり潜んでいたりする存在には憧れますし、舞台上での“忍び”の表現みたいなものにも興味がある。それで忍者で、ということになりました。タイトルはド直球ですが、昔の忍者という存在だけではない、そこからもっと広げて、逆にそのワードを使ってしまおう!という感覚です。

『NINJA』2019年公演より 森山開次(撮影:鹿摩隆司)

美木 “忍者”で“ド直球”ですごくキャッチー。忍者をテーマにした漫画やアニメ、映画、舞台もたくさんあるだけに、解釈や拾えるところがすごく多いモチーフ。開次さんはどんなところをピックするか、興味がありました。


演出家、振付家、俳優として活躍する美木と森山との出会いは、13年ほど前のこと。その後、森山の数多くの舞台を補佐し、森山が東京2020パラリンピック開会式の演出・チーフ振付を務めた際も、彼のアシスタントとして八面六臂の活躍だったという。

美木 どちらかというと、いつも演出側の補佐としてついています。現場では、開次さんが振付けたもの、作ったシーンに対して、「こうしたらどうか」と提案したり、「こう見える」とお話をさせていただいています。

森山 “喋り相手”(笑)。それがとても重要なんです。僕はまず、頭で妄想したもの、その断片をスケッチで描き出してみるのですが、チラシにあるような絵を無数に描いていて、その1個1個を何となく眺めて、並べて、コラージュして、という作業をしています。

美木 忍者だから手裏剣とか、カエルとか、忍ぶとか、いくつかの“矢印”が開次さんの中で生まれて、それが絵になって、多分、それを並べてみると、だんだん全体で何がしたいのかが見えてくる。それから話を聞き、「こことここを繋いだら面白くないですか」などと喋っていると、だんだんだんだん、一つのシーンとして立ち上がっていくんです。

『NINJA』2019年公演より 美木マサオ(撮影:鹿摩隆司)

言葉遊びが面白い、でもダンスで笑わせたい

2022年には、中劇場へと場所を移し『新版・NINJA』として上演された本作。森山が描き出す世界はそこで、さらなる深みを見せていく。

森山 空間からイメージが想起されるってことがありますよね。僕がこだわっていたのは、山とか谷。森には様々な命が潜んでいて、虫とかいろんなものがいて、その奥に足を一歩、踏み入れていく──。小劇場ではその奥の影の先、という表現はなかなかできなかったけれど、大きい劇場だからこそできる奥行きと同時に、張り出し舞台でしっかりと近くに感じてもらいたいとも思いました。子どもたちは怖いもの、見てはならないものに対してすごく敏感。興味を持って踏み入ろうとする。だから天狗はちょっと怖くしたかったし、姫の役割もだいぶ変わりました。バレリーナの身体を使いながら、もう一歩、奥に引き込んでいく重要なキャラクターにしていこうと、変えていったんです。


集ったのは、新体操出身のダンサーを含む多彩な演者たち。そこで美木が担う役割とは──?

『新版・NINJA』2022年公演より(撮影:鹿摩隆司)
『新版・NINJA』2022年公演より(撮影:鹿摩隆司)

森山 マサオくんは、あの──、形容しがたい存在なんです(笑)。言葉も使う人、ダンスもやるけれどしっかりと言葉とともに表現する人として、とても頼りにしています。 私は意外と、オヤジギャグのような言葉遊びも好きで、この作品の中でも「なめくじにょろにょろなにぬねの〜」といった、ひらがなを組み合わせた言葉の面白さを取り込んでいます。忍者も術の名前や呪文を唱えたりしますよね。そんな中で、マサオくんにはダンスというより言葉を発する役割として出てもらっています。声が特徴的で、「殿のおなーりー」なんて本当に高いトーンで、すごく遠くまで届く。

美木 演劇から入ったということもありますが、小さい頃から声は大きかったです(笑)。

森山 この作品にはいろんな動植物が出てきて、いろんな忍び方があって、たとえば、裏方の演出部の人たちが忍者のように居たりもする。日本の伝統芸能でいえば、黒衣とか後見とか人形を遣う人とか、そこには居ないけれど役割を果たして表現する、裏と表の中間、狭間に存在できる身体に、すごく興味がある。でも悔しいのは、お客さんが笑ってくれるのは「結局、言葉じゃん!」ってこと(笑)。川瀬浩介さんの音楽が「ゲコゲコゲッコー」とかいって、それは可笑しいよね。いや、でもダンスで笑わせたい。

『新版・NINJA』2022年公演より 森山開次(撮影:鹿摩隆司)

美木 それは結構、難しいです(笑)!

森山 虚しくなることもあります。『春の祭典』をガーッて踊るにしたって、あのストラヴィンスキーの音楽あってこそ、そこに到達できる。ダンスは、そうした“何か”と接続して豊かな表現ができるモノ。だから、マサオくんの発する言葉、ひらがな言葉が、身体とともに子どもたちに届き、はじめて想像が膨らんでいくのだと思います。

生と死、存在と不在──深いことをポップに届ける

ワクワク、ドキドキ観ているうちに、すっかりその世界に引き込まれてしまうのが魅力。でも実は、そのポップさにこそ、森山作品の表現の秘密が隠されている。

美木 黒衣とか後見とか、狭間にいるのはすごく好きだなあと思います。開次さんの作品はだいたい、死が出てくる。死生観というか、生と死というか、その生と死の間というか──。開次さんの中で狭間や境界が曖昧になっていることがすごく重要なんだと思うと、そういう役割を担うのはめちゃくちゃ楽しいです。

森山 存在と不在について、チープな手法で表現する、その“忍者心”を、僕は届けたい。「ドロン!」って言ったら消えたことになります──そう思ってもらえる感覚を届けられたら。

美木 そういう表現だからこそ、子どもにも違和感なく届く。子どもの方が、よくわかっていたりするんですね。

森山 死というものを超ドライポップでお届けする川瀬さんの音楽が最大の強みで、深いことをちゃんとポップに届けていく。トラウマにさせない。そこが、芸術の出し方の“塩梅”だと思うんです。ムーチョ村松くんのポップな映像も、それがあることでより深いこともドライに伝えられる。ある意味日本の伝統芸能はポップだと思いますが、超リアルにではなく、何か型に押し込めて届ける、そのポップさが重要だと思います。そこはギリギリの駆け引きで、ただ外面だけやっていては届かない。僕らの勝負どころは、1幕でわりとバカをやって、2幕では僕たちが本当に汗をかいて、身体に痛みを感じながら引き込んでいって、最後にはまたドライに、ポップに戻って──。終わり方についても、いろいろと話をしているところです。

『新版・NINJA』2022年公演より 森山開次(撮影:鹿摩隆司)


その後も、手ずから膨大な数の小道具を作ったこと、自身の“裏方気質”について熱っぽく語る森山。が、本作でも、ダンサーとしての存在感を一気に見せつけるソロの場面が、しっかりと用意されている。

美木 開次さんのカッコ良さ……? ずっと悶々としているけど、舞台上に行ったら関係なくなるところかな(笑)。そこでちゃんと生きているというか、演出家、監督する立場としてそこまで進めてきたとしても、いざ舞台にのったら、ちゃんと爆発する。そういうところです。

『NINJA』2019年公演より 美木マサオ(撮影:鹿摩隆司)

森山 ダンサーとしての本能みたいなものがある。スイッチが入ったら憑依しちゃうタイプではあって、そこは楽しみたい。稽古場以外にも費やした膨大な時間とかいろんなものは、舞台にのったら捨てていいし、皆とわちゃわちゃしながら、この身体を捧げていく、というところまでもってきたい。それは祭り事の感覚に近いかもしれない。皆が準備して、祭りの当日はひたすら願い、ひたすら生きている喜びを放出する──それが、ダンスのやるべきことだと思うんです。

2024年6月森山開次『新版・NINJA』告知映像


取材・文:加藤智子

<公演情報>
森山開次『新版・NINJA』

演出・振付・アート・ディレクション:森山開次
音楽:川瀬浩介
照明:櫛田晃代
映像:ムーチョ村松、Thomas PAYETTE
衣裳:武田久美子
音響:黒野 尚

出演:
森山開次 青木泉 浅沼圭 佐藤洋介 根岸澄宜 府川萌南(新国立劇場バレエ研修所)
美木マサオ 水島晃太郎 南帆乃佳 吉﨑裕哉

2024年6月28日(金)~6月30日(日)
会場:東京・新国立劇場 中劇場

【兵庫公演】
2024年7月6日(土)
会場:兵庫県立芸術文化センター

【新潟公演】
2024年7月14日(日)
会場:長岡市立劇場

チケット情報

公式サイト:
https://www.nntt.jac.go.jp/dance/ninja/