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ぴあ 総合TOP > 【REPORT】 和田彩花が見た竹久夢二。独学で学んだ夢二の油彩画の魅力とは

《アマリリス》の前で 和田彩花さん

『生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界』特集②

【REPORT】 和田彩花が見た竹久夢二。独学で学んだ夢二の油彩画の魅力とは

ぴあアプリの連載「和田彩花のアートさんぽ」では、大学院で学んだ美術への造詣と瑞々しい感性で、アートの楽しさをビビッドに伝えてくれている和田彩花さん。今回は、『生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界』開催中の東京都庭園美術館を訪れた和田さんが、東京初公開となる竹久夢二の幻の名画《アマリリス》で描かれた美人画にも似た縞模様のアンティークな着物姿で展覧会をレポートします。

和田さんを案内してくださるのは、同展担当学芸員の鶴三慧さん。庭園美術館の本館は、もとは旧皇族・朝香宮家の自邸で、賓客をもてなす大広間からプライベート・エリアの寝室までアール・デコ様式の意匠を凝らしています。鶴さんによると、建物には妃殿下の意向が強く反映されているといいます。「フランスに朝香宮殿下と妃殿下がいらした時に、アール・デコ様式に感銘を受けられて。自邸を建てられる際にアール・デコ様式を率先して取り入れられたのは妃殿下です。妃殿下へのリスペクトを込め、同じく流行に敏感でアール・デコ様式も取り入れた夢二の作品を、朝香宮邸の空間に調和するように展示しました」。和田さんと鶴さんのアート談義から、新たな竹久夢二像を浮かび上がらせます。

幻の名画《アマリリス》との対面

── 最初の展示は、今回目玉となる幻の油彩画《アマリリス》。描かれたのは1919(大正8)年頃。約80年ぶりに発見され、東京では初公開となる作品です。

和田 竹久夢二は油彩画家というよりも、やはりデザインや日本画、水彩画の印象が強いので、油絵というのは珍しいですよね。人物に対して、植物や静物画の輪郭線がすごく太い。第一印象は、夢二の作品なのに全体的に暗い絵というのが驚きました。その中でも帯締めの赤い色がポイントですね。

鶴 半衿が真っ赤なのも印象的ですよね。

和田 パッと見た時は、「女性の頭とアマリリスの花びらがあまりに被りすぎていない?」と思ったのですが、これは主題が女性ではなくアマリリスだからですよね。

鶴 そうですね。夢二なりの工夫で、アマリリスが女性の髪飾りに見えるようにしたのだと思います。あと夢二の特徴は、手をすごく大きく描くこと。手で人の心情を伝えるのが彼のこだわりですね。

── 油彩画であっても頬紅をきちんと入れているのが印象的です。

鶴 女性らしさを出すために、頬に紅をさすことも含めて、作品の細かい部分で気をつけているところがうかがえます。夢二は油彩画を独学で学んでいて、西洋画では肌を白く見せるために青を敷くのですが、おそらくそういうところも真似ているのかもしれません。

和田 夢二の油彩画は独学なんですね。当時の洋画家はヨーロッパへ留学する人がほとんどでしたが、夢二はそういった人たちとも交流はあったのでしょうか?

鶴 交流はありました。夢二は、敬愛する岡田三郎助に「洋画を教えてほしい」とお願いしに行ったこともあったんです。でも岡田は夢二の作品を見た時に、「学校などで学んでしまうと、夢二の個性が死んでしまう」と思い、敢えて「独学で進んだ方がいい」とアドバイスするんですね。そこで、夢二は自力で洋画を学ぶことになるんです。

和田 岡田三郎助のアドバイスが素晴らしいですね。日本では洋画というと、西洋の技法を一生懸命学ぼうとした画家が多いですよね。でもこんなにも日本の環境下で西洋の価値観に影響されずに、まっすぐに油絵を描いた人はいないような気がして。西洋の影響下に入らずに洋画を学んだという文脈で、夢二をきちんと評価していくこと。これこそが日本の美しさを語る上で、欠かせないのかもしれませんね。

着物を着ると夢二作品の見方が変わる?

── 1階の大客室は、夢二の掛け軸に飾られた日本画をたくさん見ることができます。

和田 まさに夢二の作品、夢二式美人の世界ですね。実は、今日アンティークのお着物を着付けていただいた時に、スタイリストさんに「夢二作品に描かれた着物の着方をぜひ見てほしい」と言われていたんです。実際に着物を着てみると、夢二の美人画に描かれた着物は日常生活の中で、いい具合に着崩れているのがわかります。

── 和田さんの縞模様のお着物も、歩くたびに直線が曲線に見えたりして、動きが出ているのが面白いですね。今回の着付けは、帯板も入れていないそうですね。

和田 そうなんです。夢二が生きた時代とほぼ同様に“布と紐だけ”で、着付けていただきました。今は帯板とか着物に関する便利アイテムがたくさんあって、着物をきっちり着ることが求められますが、今回はそういったものを付けてないので、着物なのに前かがみになれるんですよ。

鶴 今回の展覧会はドレスコード割引があるんです。期間中に着物を着て来館された方は観覧料が100円引きになるので、和田さんに着物のお話をしていただくと、とてもうれしいです。

和田 これを機に「着物でぜひ」と思いましたね。帯板がないとみぞおちのところでつっかえることがないので、夢二の作品で描かれた女性のように、少し猫背にもなれるそうです。着物はきっちりとキレイに着ることだけがすべてじゃないという発見がうれしいですね。

── 着付けも踏まえて、1914(大正3)年に描かれた《林檎》という作品を見ていきましょう。

鶴 これは初期の日本画で、最初で最後の妻であるたまきさんをモデルにした作品です。たまきさんはすごく目が大きく美しい女性だったそうで、いわゆる夢二式美人の特徴が顕著に表れています。目が大きくて、少し物憂げで、身体のラインはS字のカーブを描いて、手足が大きい。

《林檎》 1914(大正3)年 夢二郷土美術館蔵

和田 本当ですね。身体全体に対して手足が大きくて、言われてみればバランスとしては不釣り合い。手足を大きく描くというのは、実際の夢二は女性を力強い存在として捉えていたと考えた方がいいのかもしれませんね。

鶴 うふふ。実は私、夢二が描く女性に対して物憂げと感じたことがないんですよ。頼りなさげで、寄りかかっているような女性に見せかけて、実はしっかりと地に足が着いている。夢二の描く女性は意外と強い。そんな風に感じられる絵かなと思っています。

屏風の中にテラスを描く。和洋折衷の日本画作品

── 朝香宮邸で賓客を招いた大食堂では、昭和初期に描かれた《憩い(女)》という大きな日本画が目を惹きます。

《憩い(女)》 昭和初期 夢二郷土美術館蔵

和田 昭和になると女性が洋装なんですね。ショートカットの女性は、当時流行ったモダンガールでしょうか。

鶴 いわゆるモガですね。ヘアスタイルも大正期に流行ったもので、女性が左指に指輪をしています。

和田 この時代は日本と西洋の文化が、画面の中に混ざり合っていますよね。屏風の中に西洋のものであるテラスを描くのが、すごく素敵です。

鶴 このテラスは、夢二が自らデザインし生活したアトリエ兼住居の「少年山荘」にあったものです。時代の転換期に活躍した夢二の作品では、新しい時代を描きながらも、少し前の時代を偲ぶようなところもあって、それが当時の人の心にすごく響いたんじゃないかと思います。実は私、《憩い(女)》をどうしてもこの大食堂に置きたかったんです。

和田 それはどうしてですか?

鶴 《憩い(女)》の上部にぶどう棚が描かれていますよね。天井にはルネ・ラリック制作の照明器具がありますがこちらにもフルーツがあしらわれていたりと、この大食堂の壁面のレリーフや壁画などは、庭と呼応するようにすべて植物やお魚などのモチーフでまとめられているんです。建物と一緒に作品を観た時に、大食堂のラウンドの設計と夢二の描くテラスの丸テーブルが自然と響き合うような気がして。すごくうまくハマったなと思っているんです(笑)。

和田 すごい! まさにここでしかできない鑑賞体験ですね。

大食堂の照明はルネ・ラリックが手掛けた《パイナップルとザクロ》、植物文様の壁面はレオン・ブランショのデザインによるもの

市井の人を見る夢二の眼差しの優しさ

── 本館2階の殿下寝室には、夢二が1912(大正元)年に初めて開いた個展「第一回夢二作品展覧会」のポスターが展示されています。

左:《男 第一回夢二作品展覧会ポスター》 右:《風景 第一回夢二作品展覧会ポスター》 1912(大正元)年 いずれも夢二郷土美術館蔵

鶴 こちらは夢二が最初に開催した展覧会のポスターなんですが、左のポスターの赤字のところに何と書いてあるかわかりますか?

和田 「特に子どものための絵もあります」。夢二はこういうことを書いていたんですね。

鶴 夢二は女性や子どもといった社会的に弱い立場の人への眼差しが優しくて。自分の展覧会においては、そういった部分もすごく大事にしていました。

和田 一般的に知られている夢二の作品からは、当時の社会で彼がどう立ち振る舞っていたかというのは、あまり見えてこなかったんですよね。でも今回お話をうかがったり、展示を見て、初めて夢二が社会をどう見ていたかということがわかってすごく嬉しくなりました。みんなが憧れる女性像を作り出すだけじゃない、夢二の意外な一面が発見できて、もう少し奥深い夢二の姿が見えた気がしました。

殿下寝室近くの書庫には、「第一回夢二作品展覧会」に出品された夢二の最初期の油彩画《初恋》が展示されている

鶴 夢二が目指した理想の姿に「生活の中の美」というのがあります。生活をデザインや美で潤す取り組みとして、「港屋絵草紙店」というショップをプロデュースするんですね。そこで自分のデザインした封筒や日用品を売るのですが、あるものをご紹介したいんです。

── 姫宮寝室に展示されている、大正前期に作られた漆黒の帯「いちご」ですね。

《帯「いちご」》 大正前期 夢二郷土美術館蔵 ※作品保護のため6月30日までの展示

鶴 この帯「いちご」のように女性が身につけるものも港屋絵草紙店で販売していました。今回、お借りしてよく見てみたら、裏にもお花が描いてあったんです。

和田 本当ですね! 帯の裏にデザインするなんて、着る人にしか見えないのに。やっぱり夢二は、着物を着る人の気持ちをよく理解しているし、日常に楽しみを見いだせる視点でものを作っていたんですね。実は、私が今日着せていただいているアンティークの襦袢にも柄があったんですよ。ほんのちょっと見える柄を楽しむのは、まさに夢二と一緒だなと。大正・昭和初期に、若い女性が生活の中にある美を嗜んでいたことを想像するだけでも楽しいですが、現代に視点を移しても、日常にアートを取り入れることはコロナ禍以降、より身近なことになってきていますよね。あと、現代のデザインはシンプルなものが多いですが、夢二のデザインは装飾が本当に可愛らしくて。そういう柄の楽しさに、改めて気づかされましたね。

鶴 ちなみに朝香宮の次女・湛子(きよこ)女王は実際に夢二のファンで、彼の色紙や短冊を飾っていたお部屋はこの姫宮寝室です。

和田 え〜? 確かに、薄っすらと何かを貼っていたような形跡がありますね……。

鶴 特に説明は入れていないんですけど、さり気なくわかるようにしてあります。そちらは実際に展示をご覧になった時のお楽しみに。

「港屋絵草紙店」で扱っていた着物の半襟や、封筒、絵はがき、千代紙なども展示されている。右は今回お話しをうかがった担当学芸員の鶴三慧さん
草花をモチーフにした夢二デザインの千代紙

西洋絵画の基本、裸婦を描かなかった夢二

── 新館に場所を移して、夢二が晩年に外遊先で描いた油絵を見ていきます。こちらは1931〜32(昭和6〜7)年に描かれた《西海岸の裸婦》です。

《西海岸の裸婦》 1931~32(昭和6~7)年 夢二郷土美術館蔵
《西海岸の裸婦》 1931~32(昭和6~7)年 夢二郷土美術館蔵

鶴 こちらは夢二がアメリカで描いたもので、唯一金髪の女性のヌードを描いた作品です。

和田 なんだかこの作品は夢二っぽくないですね。モデルは外国の方なので化粧や肌の色も日本で描いたものとは違いますし、背景のストライプの色を見ても和と洋を感じます。夢二は日本にいる時も裸婦を描いていたのですか?

鶴 実はほとんど描いていないんです。外遊先では裸婦をスケッチでも描いていて、今回あわせて展示しています。

外遊時のスケッチには裸婦を描いたものもある

和田 夢二の生涯を考えると描いていそうですが、実は描いていないんですね。夢二に裸婦のイメージがなかったので、改めて西洋美術を学ぶうえで、裸婦を描くことは重要なんだと思わされました。夢二がほぼ初めて描いた裸婦。その絵を見て、何かを感じられることはすごくいいことですよね。

── 夢二は、女性の肉体にあまり興味がないのでしょうか。実際に興味があるのは、女性のしぐさや雰囲気といいますか。

鶴 それはあると思います。だからこそ、「こんな構図はあり得ない」「実際にポーズを取ろうとすると無理がある」みたいな作品が多いのかもしれません。

和田 異質な構図を使って女性を表していく。それも夢二のすごいところではありますよね。

── 《西海岸の裸婦》は女性を描いていますが、外遊先では油彩の風景画も描いているのですね。

鶴 夢二が若いころから望んでいた外遊を実現したのは、40代に入ってからです。これまでの自分の作品から脱却していきたいという思いがあり、欧米で何かを掴んで帰りたいという意識を感じます。《ワイニマの桟橋》は水しぶきに白を乗せてみたり、さり気なく小さな釣人を出してみたりしていますね。

和田 思い返してみると、夢二は人物を中心に描くことが多かったので、まさか夢二作品の中で、こんなに小さい人間を見るとは思わなかったな……。

《ワイニマの桟橋》 1932(昭和7)年 夢二郷土美術館蔵

── 夢二の展覧会の中で見ているから彼の作品とわかりますが、風景画は作家名を伏せられたら、一見して夢二の作品だとわからないかもしれませんね。

和田 確かにそうですよね。女性が描かれていれば、夢二式美人の延長線上で油彩画も見られるんですが、風景画はわからないかもしれない。あと画面いっぱいにすべてを描くのは、夢二にとっては大変だったんじゃないかと思いました。夢二は余白を使うのが上手で、余白の中から美を引き出してくる人だと思うんです。でも、油彩画は余白が使えない。「何も塗らない」という判断は油絵でほとんどできないですものね。すべてのスペースを塗る夢二の作品を見ることができて、今回はそれがとっても楽しかったです。

館内に入ってすぐのところにあるフォトスポット

取材・文:横山由希路  撮影:村上大輔  スタイリング:岩田ちえ子

掲載画像:東京都庭園美術館『生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界』展示風景 ※出品作品の所蔵は全て夢二郷土美術館

プロフィール

和田彩花
1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。2015年よりグループ名をアンジュルムと改める。2019年にアンジュルム及びハロー!プロジェクトを卒業し、以降ソロアイドルとして音楽活動や執筆活動、コメンテーターなど幅広く活躍。2022年、フランス・パリへの留学を経て、2023年にはオルタナティブバンドLOLOETを結成。4月からは愛知、京都で初のライブツアー「LOLOET NEW TRIP TOUR 1」を開催。

<開催概要>
『生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界』

会期:2024年6月1日(土)~8月25日(日)
会場:東京都庭園美術館
時間:10:00~18:00(入館は17:30まで) ※7/19~8/23の毎週金曜日は~21:00(入館は20:30まで)
休館日:月曜(7月15日、8月12日は開館)、7月16日(火)、8月13日(火)
料金:一般1,400円、大学1,120円、中高・65歳以上700円
※第3水曜日は65歳以上の方は無料
公式サイト:
https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/240601-0825_yumeji/

〈イベント〉
『生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界』ぴあプレミアムナイト

美術館の閉館後、「ぴあアプリ」ユーザー限定でゆっくりと鑑賞していただく貸切鑑賞会。夢二のデザインをあしらった箱入りで、付録の「レターブック」がついた豪華図録セットのお土産、ギャラリートークも聴講できるプレミアムな鑑賞会。

■日時:6月29日(土) 18:30~20:30(入館は20:00まで)
■料金:【ぴあニスト】 ¥5,000 【よくばりぴあニスト】 ¥4,000
 ※チケットの購入には「ぴあアプリ」のダウンロードが必要です。
■内容:
・展覧会鑑賞(通常:1,400円)
・図録セット (箱入り・レターブック付き/通常:4,500円)
・ギャラリートーク
講師:岡部昌幸(本展監修者:帝京大学名誉教授・群馬県立近代美術館特別館長)
■応募ページ:
https://lp.p.pia.jp/article/news/370022/index.html

フォトギャラリー(24件)

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