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『フィリップ・パレーノ:この場所、あの空』開催中 箱根・ポーラ美術館の建築や立地をいかしたサイトスペシフィックな展覧会

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《私の部屋は金魚鉢》2024年 Courtesy of the artist  写真提供:ポーラ美術館

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国際的に活躍するフランス人アーティスト、フィリップ・パレーノの個展『フィリップ・パレーノ:この場所、あの空』が、箱根のポーラ美術館で12月1日(日)まで開催中だ。記者内覧会で行われたトークからパレーノの言葉を抜粋しつつ、展覧会を紹介したい。

フィリップ・パレーノは、1964年オラン(アルジェリア)生まれ、パリ在住。1990年代から今日まで、音、光、映像、彫刻、オブジェ、テキスト、ドローイングなど多岐にわたる表現方法で、現実/フィクション/仮想の境界を行き来するような作品を制作。作者性や既存の芸術の概念を問い、数多くのアーティスト、建築家や音楽家などと協働している。また、映画監督として『ジダン 神が愛した男』(ダグラス・ゴードンとの共同監督、2006年)なども発表。今秋には長編映画の撮影も控えている。

フィリップ・パレーノ Photo© Ola Rindal

同展の英語タイトル「Places and Spaces」の通り、パレーノが重視しているのは、ものとしての作品そのものよりも、場所や環境、建物に反応しながらどう作品を配置して展覧会をつくりあげるかということ。「太陽光がどう入るか、建物の構造やデザインはどうなっているかなど、ポーラ美術館を訪れた客人のひとりとしてどう介入していけるかを考えながらつくりました」。彼は展覧会を「カメラのない映画」と喩え、観客もいつの間にか演者のようにさまよい歩いている。

「私にとって、作品とは楽譜の音符のようなもので、それぞれの作品がどう一緒になって新しい曲を奏でるかが大事。さらに今の私の気持ちが加わったり、新しいテクノロジーに挑戦したりしながら、作品がまた新たなイメージを持っていくのです」。つまり、過去の作品であっても毎回その場所に応じて新しい見せ方となり、設営中に作品が変わることもあるため、今回も「すべてが新作ともいえる」という。

例えば魚のバルーンはパレーノのおなじみのモチーフだが、同展では、窓越しに森が見える展示室が水槽のようになり、魚たちが重力やスケール、時間の流れといった地上の法則から解放されて泳いでいるように見える。天候や光、空気の流れ、鑑賞者の動きがバルーンに作用し、偶然性を含む変化をもたらすのだ。

また、ポーラ美術館の新収蔵作品でもある2012年の映像作品《マリリン》を、自動演奏ピアノ、溶けて半分汚れたような人工雪《雪だまり》、太陽光を捉える巨大ミラー作品《ヘリオトロープ》とともにひとつの舞台空間のごとくしつらえたのも初めてのことだ。《マリリン》は、マリリン・モンローが映画『七年目の浮気』のロケのときに住んでいたニューヨークの高級ホテルのスイートルームを舞台とした作品。人物は登場せず、声や手書き文字などで不在の存在を浮かび上がらせていく。映像が終わると空間が劇的に変化していくので、ぜひ最後まで体験してほしい。

《マリリン》2012年 ポーラ美術館蔵 Photo by Ken Kato
《マリリン》2012年 ポーラ美術館蔵 筆者撮影
《ヘリオトロープ》2023/2024年 Photo by Ken Kato

パレーノにとって「作品をつくる作業は会話をするようなもの」だという。「人と話しているときは、何を話すとかどこで終わるとか、はっきりしたプランがあるわけではなく、相手の話から次の話したいことがだんだん出てきますよね。そんなふうに作品を作っているので、完成した作品がそこで止まるのではなく、流動的に更新されていくことがごく自然なことだと思っています」。

さらに先の展示室では、コウイカを主人公にしたSF的な映像作品《どの時も、2024》に出くわす。コウイカは、目にしたイメージを自らの皮膚に再現すると言う高度な擬態の能力や知性を持つという。生命の叙情詩ともいえる映像が終わると、光の明滅や暗転、別の映像の出現などがある。ここでも複数の作品の構成や展開を見届けてほしい。

《どの時も、2024》2024年 Courtesy of the artist Photo by Ken Kato

また、「蛍」をモチーフとした、日が暮れないと見えない作品もある。「以前にも、小さな美術館の庭に、蛍のように見える光が点滅する作品をインストールしたことがありました。日中は見ることができず、テキストだけを受け取る、つまり存在しているけれど目に見えないものを表した作品」。テキストはイタリアの映画監督ピエル・パオロ・パゾリーニが、蛍を、戦後の消費主義とファシズムによって失われた儚いものや、ファシズムへの抵抗の象徴として書かれたものであったという。今回の展覧会でもパゾリーニのテキストは別の形で展示されている。

《ホタル》2024年 写真提供:ポーラ美術館

「何かを見て頭の中にイメージが残ったり、見た後にもずっと残響があったり、呪文をかけられたような効果、それがアートだと思っています。形は彫刻でも絵画でも何でもいい、そこに視線を注ぐ行為そのものが作品だと思っているのです」。展覧会全体を通じて、光、雪、バルーン、生きものなど、変化する儚いものがよく登場する。そのためか、通奏低音のように寂しさや憂いのような感情が流れていると感じた。それはこうしている今も、遠いどこかで戦争が止まない現代、あるいは自分自身の心を鏡のように映しているのかもしれない。あなたは何を感じるだろうか。

併せて、過去にポーラ美術振興財団の助成を受けた作家を紹介するシリーズ「HIRAKU Project」vol.16の『鈴木のぞみ The Mirror, the Window, and the Telescope』も必見だ。古い家屋の窓や長年使われていた鏡などを用いて、人々がかつてその窓越しに見ていた風景や、鏡に映して見つめていたもの、あるいはそれらが使われていた時代の大衆の記憶を彷彿とさせるイメージを焼き付け、“事物に潜む記憶”を浮かび上がらせる。鑑賞者を彼方へと誘う作風は、パレーノの世界とも響き合うものがある。会期が長いので、季節の移ろいとともに箱根のアートの旅を楽しんではいかがだろうか。

鈴木のぞみによるアーティストトーク Photo: Ken Kato
展示風景:HIRAKU Project Vol. 16 鈴木のぞみ『The Mirror, the Window, and the Telescope』ポーラ美術館 2024年
Photo: Ken Kato 写真提供:ポーラ美術館


取材・文:白坂由里

<開催概要>
『フィリップ・パレーノ:この場所、あの空』

2024年6月8日(土)~2024年12月1日(日)、ポーラ美術館にて開催

公式サイト:
https://www.polamuseum.or.jp/sp/philippe-parreno/

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