新章開幕。2年ぶりの新作を携えたライブであらわになったego apartmentの大胆な挑戦【ライブレポート】
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ego apartment presents『O do ri Ku ru i』2024年6月27日(木) 大阪・Yogibo META VALLEY (Photo:渡邉一生)
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すべて見るText:梶原有紀子 Photo:渡邉一生
ego apartmentの2年ぶりの新作『ku ru i』のリリースパーティー、その名も「O do ri Ku ru i」が6月27日に大阪yogibo META VALLEYで開催された。フードの出店やゲストDJの招聘、さらにego apartmentのミュージックビデオも手がけたRYOMA MATSUMOTOによるVJもあり、音楽と映像を融合する形で『ku ru i』の世界を表出。前作から2年をかけて取り組んだ新作でego apartmentが新章へ突入したことを十分に見せつけるステージとなった。
拍手と歓声に迎えられ最初にステージに現れたのはDyna(b)。ジョイ・ディヴィジョンのアルバム『Unknown Pleasure』のジャケを思わせる波形が流れる映像を背に、Zen(vo&g)やShu(vo&g)の声もリミックスされたSEがオーバーチュアのように会場に広がっていく。冒頭「Nautilus & Nemo」を歌うShuのハイトーンは神々しさをまとっていて、Zenもステージに現れ3人が揃ったところで「浮世」へ。「So so dirty」というフレーズで始まるこの曲をZenがセンターにあるマイクで歌い始める。ドシャメシャに歪んだギターと、アジテートするようなボーカルがこの曲をよく現している。
Dynaが「C’mon Let’s go!」と呼びかけると無数の手が上がる。ego apartmentの3人がアルバム『ku ru i』で挑んだこと。それは、たとえば戦争。たとえば格差社会。そういったごく身近にある不条理への違和感や、日々、瞬間瞬間に湧き上がる感情をとことん突き詰め、自分たちの音楽表現へ落とし込むこと。好きな音楽をプレイリスト的に繋げるやり方ではなく、コンセプトありきで2024年の今、世界に発信したい音楽を生み出した『ku ru i』。そのオープニングを飾るレベルミュージックでライブがスタートした。
これまでのライブでは、ステージに三角を描くようにマイクが立てられ3人の立ち位置も決まっていることが多かったが、この日はその縛りがなく奥行きのあるステージを3人が自由に動き、暴れまわる。「B.A.T.S.」ではDynaが一瞬ベースを弾く手を止め、上体を折り曲げるようにして体を大きく揺らしリズムを取る。そのアクションがさらにフロアを揺り動かす。Zenのインダストリアル嗜好が存分に発揮された「TV」。3人の姿が瞬時に背後に投影され、観ている方は無条件にアガる。歓声も大きくなる。楽しくてしょうがないと言わんばかりの表情でギターを弾きまくるShu。この日の彼は、ウェーブがかった黒髪に膝上丈のショートパンツ、重ね付けしたネックレスにハイソックスはギターの色と同じグリーンという目を見張るようなスタイリング。とても似合っていた。
暗転した場内に雨音が聞こえ、「七夕」へ。いつか見た風景を思い出させる音像はしっとりと重くブルージー。間奏でポツリポツリと言葉を発するように鳴るベースに、感情をあらわにしたようなギターが絡みついていき最後はアグレッシブに収束する。この日の大阪は雨模様で、「涼しかったのに、みんな熱くしてくれてありがとう!」とZenが言えば、Dynaは「けど、まだ足りひんなあ」「今日という日は今日しかないから、後悔のないように暴れて帰って!」とさらに焚きつける。
「pools」でShuがボーカルをとる背後でZenとDynaが目を見合わせる。同じようにZenとShuが、またShuとDynaが、ステージの上で目を見合わせ向かい合ってプレイする姿が何度も見られた。英語詞多めの彼らの曲は、パッと聴き洋楽と勘違いするリスナーがいても不思議ではない。10代の頃からそれぞれにトラックメイク、曲作りをしていた彼ら3人が、SoundCloudやInstagramを通じて出会いego apartmentとして動き出したのが2020年。重なるところもあれば少しずつ異なる音楽ルーツを持つが故に、3人のセンスが融合して生まれる楽曲は、ジャンルもスタイルも自由で幅広い。出会って4年以上を経た今も互いに影響を与え合い、音楽的なセンスにおいて絶大な信頼を寄せていると3人が話しているのを聞いたことがある。
海の中にいるような青から赤へと映像が切り替わり、眩しいライトがフロアを刺す「Cabin Fever」ではZenがスタンドマイクを傾け、歌詞に託した苛立ちや葛藤を吐き出す。向かい合ってギターを鳴らすShuがめちゃくちゃに顔をほころばせていたのも見逃していない。それを経てなだれ込んだ「eight ball.」は、今にもメーターを振り切ってしまいそうなプレイの応酬が熱狂の荒波を起こす。拍手も歓声も耳に届くすべての音が熱く、爽快でさえある。呼吸を整えるように場内が暗転し、MCでZenが「次の曲はみんなが好きな曲だと思うよ」と「神無」を紹介。透明感のあるShuのボーカルに、Zenの声が色を重ねていくような情感豊かな曲。Shuのギターソロもいい。「神無」はアルバム『ku ru i』のラストを飾る曲で、VJが映し出す、凪いだ海と滲むような夕空、青や群青と波頭の白さが混ざり合う映像に心がふわりと温まる。
場面が切り替わりスクリーンには「mad cooking machine」のタイトルが。波が寄せては返すようなギターと、音数を絞った曲展開が生み出す余白が心地いい。スクリーンに映し出された空は徐々に表情を変え、やがてアルバム『ku ru i』のジャケットが大写しになる。藍色と濃緑の深い色合い。それが合図のようにDynaが「オーライ!踊って狂っていけますか?」と呼びかける。「huu」だ。照明がギラリと回転し、暴れ出した音があっという間に場内の温度を上げる。歌うShuがスクリーンに映り、Dynaは目を閉じて髪をかきあげ、Zenは床に座り込んでどこまでもギターを歪ませる。この音と光の渦の中にいつまでもいたい。どこまで人がいるのか見えないぐらい大きな場所で、大勢の人たちとこの曲で手を上げて踊ることができたらどんな興奮が待っているのか…と妄想が広がる。
続く「6a6ylon 6illy」と書いて「バビロン・ビリー」と読むこの曲は、6が3つ並ぶ不穏で爆発力に満ちた曲。曲の中でZenは何度もRiot!と叫び、フロアに向かって差し出した手は小指と薬指を折り曲げピストルを撃つような格好。歌詞に「With a gun」とある通りだ。Shuはさっきまでとは違う太い声で歌詞の一節を叫ぶように放つ。「愛と平和を願って」(Zen)と笑顔で言葉を添えた最後の曲は、『ku ru i』の中でも最強といっていいエッジを効かせた「The Black Pearl」。グランジ色濃いダーティな音もメッセージ色濃い歌詞のフレーズも耳を引きつける。何より、ShuとZenが日本語で歌うパートはショッキングな歌詞との相乗効果もあって、一段と深く重く胸に響く。もっと聴きたいという熱気と、思いきり音楽を浴びた充実感でいっぱいのフロアに「まだまだパーティーを楽しんで」と手を振り、3人はステージを後にした。
この後再びDJ ryotaのプレイが始まりアンコールはなし。しばらくするとShuとZenがフロアに姿を見せファンの人たちとハイタッチしたり、おしゃべりを楽しんだり一緒に写真を撮ったり。その後DynaがDJブースへ。Childish GambinoやSuchmosも交えた選曲にファンは大喜びだ。フードを楽しむ人、グッズの列に並ぶ人。初めて会った人同士がego apartmentが好きという一点で言葉を交わし、連絡先を交換する光景も目にした。
終盤のMCで7月10日(水) に東京代官山SPACE ODDで「O do ri Ku ru i」の開催が決定したことが発表された。ライブを重ねるごとに『ku ru i』の曲たちもよりしなやかに強度を増し、彼らが音楽に込めたメッセージもより多くの人の心臓を撃ち抜くに違いない。ちなみにego apartmentの3人はもう次作へ向けて動きはじめている模様。彼らを聴くなら今だ。
<公演情報>
ego apartment presents『O do ri Ku ru i』
2024年6月27日(木)
大阪・Yogibo META VALLEY
<イベント情報>
ego apartment presents『O do ri Ku ru i』
東京追加公演
2024年7月10日(水)
東京・代官山SPACE ODD
開場19:30 / 開演20:00
出演:ego apartment
VJ:Ryoma Matsumoto
【チケット情報】
スタンディング:4,800円
※整理番号付き。ドリンク代別途600円必要
https://w.pia.jp/t/egoapartment-tokyo/
<リリース情報>
2ndフル・アルバム
『ku ru i』
発売中
【収録内容】
M1. Nautilus & Nemo
M2. 浮世 (ukiyo)
M3. pools
M4. mad cooking machine
M5. ENTER-MISSION
M6. 七夕 (tanabata)
M7. Cabin Fever
M8. 6a6ylon 6illy
M9. eight ball.
M10. The Black Pearl
M11. B.A.T.S.
M12. 神無 (kanna)
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