「はじめまして、タデクイです」【前編】ぴあ音楽編集部イチオシアーティストインタビュー
音楽
インタビュー
左から)OMI(ds)、廣野大地(b)、下倉幹人(vo/g) Photo:吉田圭子
続きを読むText:吉羽さおり Photo:吉田圭子(インタビューカット)
北海道釧路市の阿寒湖畔出身で、幼馴染の3人で結成したバンド、タデクイ。札幌を中心に活動をし、今年3月には初音源「日常」、「屁理屈」を配信リリース。3月8日には1stワンマンライブ「ブルースを蹴飛ばせ」を札幌cube gardenで行なった。また現在は、10代限定夏フェス「マイナビ 閃光ライオット2024 produced by SCHOOL OF LOCK!」にエントリーし好感触を得るなど、今年はバンドが大きな一歩を踏み出していく年となっている。
「日常」や「屁理屈」では、子供から大人へと移ろいゆくなかでの、少しずつ処世術を身につけていることへのむず痒さ、不可逆だからこその痛みや切なさ、それでも流されることなく等身大でありたい思いが素直に綴られた。フォークやブルースをベースに、3人の歌うようなアンサンブルで奏でられる曲は抒情的だが、どこか達観したような青白い炎も放つ。同世代だけでなく、大人の心をもスッと撃ち抜く鋭さを持ったバンドだ。
タデクイというバンド名は、ことわざ“蓼食う虫も好き好き”からきたもので、ジャンルにとらわれず自分らしくある思いで冠した。ここからその歌とライブでリスナーを増やしていくだろう3人にインタビューをした。前編ではタデクイの音楽について、後編ではライブやこれからへの想いを語ってもらった。
──結成は2021年ということですが、どういう感じでバンドがはじまっているんですか。
下倉幹人(vo/g) 元々前身バンドがあったんですけど、そこでそれぞれ僕がギター・ボーカルで、OMIがドラムで、大地がベースをやっていて。そのバンドが中学を卒業するタイミングで解散になったんです。その後3人とも同じ高校に行ってたんですけど、3人でバンドやりたいねってなって、改めてオリジナルでやろうとはじまったのがタデクイです。
──中学時代のバンドはコピーバンドですか。
下倉 コピーと、オリジナルの歌も歌ったりしていました。
──この3人になったのは、好きなものや音楽性が近いからですか。
廣野大地(b) 3人とも好きなものは結構違うんですけど、共通する感覚みたいなものがちゃんとある感じがしますね。
下倉 たしかに。これいいよねっていうのが合うというか。
大地 幼馴染で小さいときから知っていて、同じような環境で育ってきたみたいなものはなんだかんだであるかもしれないです。そういうのも音楽には関わっているのかなと。
──ではそれぞれ好きな音楽、バンドなど聞かせてください。
下倉 僕はレディオヘッドとかが好きですね。あとエレファントカシマシとブルーハーツと、最近だとハイエイタス・カイヨーテとか、エスペランサっていうベーシストとかディアンジェロも好きです。Björkもすごく好きで、最近勉強みたいな気持ちで聴き直してます。
──レディオヘッドからはじまって、ずいぶん幅広いバンドやアーティストが出てきましたね。
下倉 落ち着かないんです(笑)。根っこにあるのはブルーハーツとかですけど、好きなものが増えていってる感じですね。
──ではOMIさんはどうですか。
OMI(ds) 僕は日本の音楽が好きですね。Tempalayとか、Tempalayの小原さんのバンド・小原稜斗とフランチャイズオーナーとか。最近はbetcover!!を聴いたり、柴田聡子の新しいアルバムとかめっちゃ聴いてます。
──大地さんはいかがですか。
大地 今日ここに来るまでに聴いてたのは、スティーヴ・レイシーでした。あとは最近だとハシリコミーズとか。アース、ウィンド&ファイアーとかをプロデュースしていたチャールズ・ステップニーのデモ音源集(昔録音していた音源を新譜としてアルバムリリースしたもの)がめちゃくちゃ好きです。
──音源を聴いた感触ではルーツミュージック的な、ブルースとかソウル、フォークとかがあがってくるのかなと思っていたんですが、年代もジャンルだいぶもバラバラですね。
OMI 今あげたなかでは出てないかもしれないですけど、それぞれいろんな音楽を幅広く聴いていると思いますね。タデクイのブルース的なところだとエレカシとかが近いのかな?
下倉 音源で出ている曲がブルースとトラディショナルフォークみたいな感じなので、逆に、今ライブでやっている感じを見てがっかりされないかなって思っているんです(笑)。
──今のところストリーミングサイトで聴ける曲が今年3月にリリースした「日常」と「屁理屈」の2曲です。言っていたようにブルースやフォークを感じさせるものなので、こういうサウンドを軸としたバンドなのかなという印象でしたが、そういうことではないんですね。
下倉 ブルースも好きなんですけど、いろんなこと全部やりたいんですよね。
大地 今のライブはたしかにレディへが好きって言われてもわかるかもしれないですね。
タデクイ「日常」
タデクイ「屁理屈」
──では、最初に多くの人に聴いてもらえる曲として「日常」「屁理屈」をリリースしたのは、どんな理由からですか。
下倉 思い入れが強かったというのはあるんですけど。本当はもう1曲録ろうとしていたんですけど、レコーディングまでに完成に持っていけなかったから、「日常」やる?ってなったんだと思う。「屁理屈」は大事な曲ですね。自分の中学時代から高校の2年生くらいまでの気持ちを書いている曲で。「日常」も「屁理屈」ともちょっと通じる部分があるので。聴く人がそれを感じることができたらラッキーだなって思って、書いた曲でしたね。
──大事な曲だという「屁理屈」はライブでもやり続けている曲ですか。
OMI タデクイとしての2回目のライブからやっている曲ですね。
大地 ライブで演奏している、弾き慣れている2曲という選び方でもあった気がする。
下倉 そうだね。弾き慣れていて、曲の風景をちゃんと共有できている曲というのはあった。
OMI レコーディングでちゃんとできるかの不安もあったしね。
下倉 タデクイはライブをしながらアレンジしていくので。音源として聴いてもらうなら、曲として固まっているものをやりたくて。パフォーマンスじゃなくて、曲として見せる音楽だったらこの2曲だなっていうので決めたのかな。
──ライブしながらアレンジもされていくということですが、普段の曲作りはどういう感じで進めていくんですか。
下倉 メンバーが、「これかっこいいよね」みたいな曲を送ってくれて、それがインスピレーションになったり、ギターを弾きながらなんとなく歌ってみたり。歌いながらこういうの好きだなっていうのができたら、思ったら、「ちょっと歌にしてみたんだけど?」ってふたりに弾き語りで送ってますね。それでスタジオに入ったときにセッションみたいな感じで、ここからここまでがひと回しだから、好きなようにやってという感じで。あとはなんとなく歌いながらメロディを決めてという感じでやってます。
──曲の形が見えたり、ある程度固まっていくのは早い感じですか?
大地 固まるっていう感じではないんですよね。それがいいのか悪いのかではありますけど、アレンジを詰めるっていう感じではないかもしれない。
下倉 スタジオだったり、ライブでちょっとずつ研いでいってる感じなんです、角がなくなったり、逆に角ができたり。もっと暴れてくださいっていう日もあったり。
大地 どんどん変わっていくんですよね。
下倉 めっちゃ失敗する日もあるしね。
──例えばデモ段階で、こういう曲にしましょうっていうテーマやイメージだったりを伝えるということは少ないんですか。
下倉 テーマだけ決めてます。最近できた“灯台”という歌は、ボサノバを主体にしたいって言って、こういうアーティストが好きですっていう参考も聴いてもらって、あとは好きなようにやってという感じですね。それで結局ドラムンベースになるっていう(笑)。嘘でしょ!?みたいな。
──それくらい形は変わっていくんですね(笑)。ただボサノバですって言われても、すぐにボサノバのリズムやビートができるっていうわけではないですよね?
OMI まあ、それに関してはちょいちょい練習してたりしてたから、そういう曲を引っ張り出してきたのかなって思うんですけどね。
下倉 ブラジルとかポルトガルとかの音楽の雰囲気は好きなんですよね。ブルーノ・ペルナーダスっていうバンドがすごくかっこよくて。それはボサノバというよりもインディポップみたいな感じなんですけど。そういうバンドから掘っていって、ボサノバかっこいいなって。
──誰かの頭のなかにあるものを作り上げる、形にしていくのではなく、まさに3人で作っているという感じがありますね。同年代のバンドだと当たり前のようにDTMで使ったりもするじゃないですか、タデクイはそれよりはセッションで作りたいというのがありますか。
大地 DTMも、タデクイでは使ってないというくらいなんですよね。
下倉 やろうとしていたんですけど、どちらかというとDTMでできることが楽しくなっちゃって。タデクイっていう感覚でいじれなくなったというか。アンビエントみたいなことをやろうと思ったら、俺は使っているんですけど。いまいちタデクイのバンドサウンドをこれで作るのはちがうかなという感じで、最近は弾き語りでやってます。
OMI 3人ともとくに言葉にするわけじゃないけど、生音でやるかっこよさというのはずっと持っているし、憧れていると思うんですよね。
──それはすごく感じます。今年3月8日の1stワンマン「ブルースを蹴飛ばせ」のライブ映像を観せてもらったんですが、その映像からでも、3人特有の空気感、タイム感やグルーヴ感があって。1stワンマンにしてこの空気が出るものなんだな、すごいなと思ったんですよね。
下倉 うれしいですね。
──ちょっとした間合いにも、3人の息づかいがあるというか。まだまだ前のめりでいきたくなるところだってありそうなものですけど、自分たちの空気で観客を飲み込んでいく感じがあるのは、そのセッションで練り上げるからこそかもしれないですね。
大地 明るい曲がそんなに好きじゃないからかもしれないですけどね。
下倉 そうだね。根が暗いので(笑)。一応、明るい曲もあるんですよ。でもなんか嘘ついてる気分になるっていうか。にこにこしながらやってると虚勢張ってるなって気持ちになるときもあるので。
OMI その感じを、一回経験してるからじゃない(笑)? それこそ──。
下倉 言わなくていいよー。
OMI Instagramでも上がっていると思うんですけど、札幌で初めてやったライブのときだけやった曲があって。
下倉 それはもう封印した!
OMI あれくらいかな。
下倉 あと前身バンドのときオリジナルでやっていた曲は完全に、にこやかでいこうっていう空気感があったというか、幸せを見せるタイプの曲で。ただ根暗なもので、笑顔を作る意識をはじめるとどんどん、どんどん顔が引き攣っていくんですよね。だから無理ですって言って、解散したんですけど。反動で、今暗い曲が多いのかもしれないですね。
──暗いというか、素直に自分を出すものになっていると。
大地 なんか冷めてる感じはあるよね。もちろん、熱いバンドは好きだけど。
──自分を客観視していますよね。「日常」も「屁理屈」の歌詞にしても、自分の状況や状態、自分の思いを俯瞰的に捉えている感じがあります。
下倉 なんでなんですかね? そういう第三者視点みたいなものが癖になっちゃっていますね。
──その明るい曲は自分ではないなっていうのがわかって、自分が書くもの、書きたいものがわかってきた感じですか。
下倉 そうですね。北海道の冬って、吸う息も凍るというかヒリヒリするし、目を開けるのがつらかったりするんですよね。そこで無理して目をパッと開けてたときすごく青い感触があるんです。
大地 冬はとくに空がめっちゃ青いのもあるしね。
OMI 白いだけじゃなく、雪の影になったところとかが、青っぽく光ったりもするし。
下倉 なんかそのイメージなんですよね。この目で全部を見ているわけではない感じというか、それがさっきの俯瞰的なところにもつながっているのかもしれないんですけど。誰かひとりが見ているだけじゃない、いろんな視点があるっていうのかな。それが、歌に出ていたらいいなって思っているんです。
──それぞれの視点でいろんな感情が引き出されたり、新たな気持ちを見つけられたりみたいな感覚ですかね。
下倉 さらに、バンドをやめない限り、それを歌い続けていくわけじゃないですか。“そのときのこの歌”みたいなものをちょっとずつ増やしていく感じがあるんですよね。例えば、チャーハン食うときに隠し味とか香り付けで入れる醤油と、卵かけご飯にかける醤油は、同じ醤油を使ってるけど別だよねみたいな──これ、ふざけてるわけじゃなく真面目な話で。曲もそういう考え方で。
大地 曲が醤油ってことでしょ?
OMI (笑)曲が醤油。
下倉 うまい喩えができないから醤油になっちゃったけど。同じ曲だけど、別の角度があってもいいという気持ちでやっているんですよね。
──タデクイとしていろんな曲があるようですが、今後のリリースはどうなっていきそうですか。
下倉 10月ごろにはまたレコーディングができたらいいなと思ってますね。今考えているのは海をモチーフとしたのEPを作りたいなというのとか、今リリースしている2曲も入ったアルバムをまず作って、その後に商業的自殺と言われた『Kid A』(レディオヘッドのスタジオ・アルバム)のような作品を作るのもありだし。曲の振れ幅が大きすぎて、どうやってリリースしていっていいのか考えているというのはありますね。
大地 ブランディングというか見せ方は考えたいですね。リリースする順番でだいぶ変わってきてしまうのもあると思うので。
下倉 天邪鬼だから、あまり“こんなバンド”っていうのにはなりたくないんです。それを自分らで考えながらも、把握し切らずにやりたいんです。自分でこういうものをやってる、俺らはこういう人たちだって決めすぎたくないので。
OMI 消費されないようにね。
下倉 バンドについて好きなように呼んでくれても構わないんですけど、自分らはそうは思いたくないんですよね。
★後編に続く
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