尾上松也「冒頭から結末までワクワク」 北村想『夫婦パラダイス～街の灯はそこに～』で憎みきれないクズな夫に
ステージ
インタビュー
尾上松也 （撮影：源賀津己）
フォトギャラリー(5件)
すべて見るシス・カンパニーが主催する、日本文学へのリスペクトを込めた人気シリーズ「日本文学シアター」。今回第7弾として選ばれたのが、織田作之助の傑作『夫婦善哉』だ。その主人公である柳吉と蝶子をモチーフにしつつ、なんともファンタジックで、ユニークな世界観を紡ぎ出したのは、本シリーズおなじみの北村想。同じく寺十吾が今回も演出を担い、唯一無二の劇空間を立ち上げる。そこで柳吉役の尾上松也に、作品の魅力、北村ワールドに臨む上での心持ちなどを訊いた。
『夫婦善哉』の柳吉よりはクズじゃない、こちらの柳吉の生きがいは……
――『夫婦善哉』の主人公・柳吉と蝶子をモチーフにした、北村想さんの新作です。台本の初見の印象は？
『夫婦善哉』をベースにしているということで、普通の夫婦の物語かと思いきや、決してそうではないんですよね。冒頭からなかなかファンタジックですし、北村想さん独特の世界観が心地よく、ミステリアスでもあり、冒頭から結末までずっとワクワクするような感覚がある。とても楽しみながら読ませていただきました。
――読み重ねていく中で、その印象に変化はありましたか？
いや、変わらないですね。今まで読んだことのないような感覚の台本で、それがずっと落ち着くことなく、最初から最後まで一貫して起こっている感じ。非常に面白かったですし、これからのお稽古でその謎と感覚をどう自分たちの中に落とし込んでいくのか。それはとても面白そうな作業だなと思っています。
――松也さんが演じられるのは、『夫婦善哉』の主人公と同じ名の「柳吉」です。ふたりの柳吉の間にどんな共通点が？
役名は同じですが、『夫婦善哉』の柳吉はとことんクズですからね（笑）。なにをやっても憎み切れない、どうしても愛されてしまう、そういう人物像は変わらないのですが、こちらの柳吉はあそこまでどうしようもない奴ではないというか……。少なくともやりたいことが明確にある人物だと思います。
――それが“浄瑠璃パンク・ロック”ですね。
ええ。ちょっとわけのわからないジャンルですが（笑）、少なくとも柳吉はそのために生きている。これまで僕はあまりパンク・ロックと触れ合う機会はありませんでしたが、あの旋律と音色、リズム感というのは、いわゆる伝統芸能、特に歌舞伎との相性は絶対にいいと思っています。僕自身、いつか“パンク・ロック歌舞伎”を上演したいと思っているくらいですから。そういう意味で、柳吉が“浄瑠璃パンク・ロック”をやりたくなる気持ちはよくわかりますね。
柳吉と蝶子は一見すると凸凹だけど、合わせてみたら実はぴったり！
――そんな柳吉の愛する連れ合いが、瀧内公美さん演じる蝶子です。この夫婦のやり取りや見え方として、意識したいと思っていることは？
それこそそのあたりは、『夫婦善哉』の空気感というものが生きてくるのかなと思っています。なにがあっても結局このふたりは離れない、愛し合っている感じ。劇中でもずっと一緒にいるわけではないのですが、そういう時でもお互いの存在が意識できるような関係値でありたいなと。一見すると凸凹だけど、合わせてみたら実はぴったり！ みたいな、そんなところがうまく生まれていくといいなと思っています。
――ちなみに柳吉がこれほど蝶子に惹かれたのはなぜだと思いますか？
ふたりの中で芸事に対する想い、というのは共通してあると思います。それから月並みにはなってしまいますが、お互いにないものを持っているからなのかなと。ふたりの出会いに関してはあまり劇中で描かれていない分、そこも『夫婦善哉』のほうから想像していくことになるのではないかと思っています。そして瀧内公美さんそのものというか、ご本人とお稽古をしていく中で、いろいろなことに気づいていかれたらいいですね。
――本作でも北村さんらしい、不思議で軽妙で愛らしい世界が展開されていきます。ご本人とはなにかお話されていますか？
いや、まだ一度もお会いしていなくて。演出の寺十吾さんもですが、うかがいたいことはたくさん、特に北村さんにはありますね（笑）。正直、凡人にはわからないような表現がたくさんありますから。ですが、北村さんご本人から正解を聞くのがすべてでもないような気がしています。もしかしたら自分たちだけで消化したほうが面白くなるかもしれないですし、そのわからなさ加減が、北村ワールドの魅力でもあるのかなと思います。
――なるほど。そんな北村ワールドの住人として、なにか大事にしておきたいことはありますか？
逆に言えばその世界観は、物語の構成自体で作り出してくれているものですから。まずは『夫婦パラダイス』の中で与えられたキャラクターと北村さんが意図する方向に、寺十さんと一緒にできるだけ近づけていく。そういうことを意識してみんなで作っていかれれば、自ずと北村ワールドにはなっていくのかなと。また柳吉と蝶子の夫婦が真ん中にはいますが、実はこの作品って、その周りにいる方たちの物語なんですよね。つまりはチームプレーでありつつ、それぞれがそれぞれの世界をしっかりと生きていく。それこそが、この北村ワールドを作っていく近道なのかもしれないなと思っています。
取材・文：野上瑠美子 撮影：源賀津己
スタイリスト：椎名宣光 ヘアメイク：岡田泰宜（PATIONN）
衣装：ジャケット¥60,500（オーハル）/ パンツ¥36,300（ア ノーベル デイ／ともにジョワイユTEL.03-4361-4464）/ その他スタイリスト私物
＜公演情報＞
『夫婦パラダイス～街の灯はそこに～』
作：北村想
演出：寺十吾
出演：尾上松也、瀧内公美、鈴木浩介、福地桃子、高田聖子、段田安則
【東京公演】
2024年9月6日(金)～9月19日(木)
会場：紀伊國屋ホール
【愛知公演】
2024年9月22日(日･祝)・23日(月･休)
会場：穂の国とよはし芸術劇場 PLAT 主ホール
【大阪公演】
2024年9月26日(木)・27日(金)
会場：森ノ宮ピロティホール
チケット情報：
https://w.pia.jp/t/meoto/
フォトギャラリー(5件)
すべて見る