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38人のキャストで生み出す新たな色。カンパニーデラシネラ『点と線』小野寺修二インタビュー

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インタビュー

チケットぴあ

小野寺修二 (撮影:鈴木穣蔵)

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マイムをベースとした演出を取り入れ、身体性の高い演劇を生み出すカンパニーデラシネラの『点と線』が7月27日(土)、28日(日)、神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホールにて上演される。1958年に刊行された松本清張の代表作を舞台化した今作。2009年の初演から15年経った今、改めてこの作品に取り組む意図と見どころを、主宰の小野寺修二に聞いた。

今、約65年前の作品を舞台化する意味

──カンパニーデラシネラによる『点と線』は2009年に初演、その翌年に北九州で上演をして以来、14年ぶりとなります。今作を再演することになった経緯は?

小野寺 元々、この作品は初演時から美術を担当しているニコラ・ビュフさんが松本清張を大好きで、『点と線』をやりたいと言ったことがきっかけで始まっているんです。ニコラさんとは僕が2007年にフランスに留学していたときに出会ったのですが、当時の彼は美術を志す学生でした。その後来日し、いまや世界中を飛び回るアーティストですが、そんな彼が「また何か一緒にやろうよ」と声をかけてくれて。話していく中で、『点と線』の美術をもう少し発展させたいという希望があったので、じゃあもう一度やってみようと。

──今回の上演に際して、小野寺さんは「ある友人が古き日本を『もはやSF』と言いました」とコメントされていましたね。『点と線』の原作は新幹線開通前に書かれた作品で、そこで描かれた列車のトリックは初演の時点でもかなり時代を感じるものだったかと思います。そこからさらに14年を重ねて上演するにあたり、取り組み方の変化はありますか?

小野寺 とくに震災以降、「なぜ今これをやるのか」ということを考えるようになりました。今は新幹線でいろんな場所にすぐ行けるようになっていますし、あらゆることが便利になりました。効率が最優先の世の中になっている気がします。そんな中で、パソコンも携帯もなく、新幹線さえなかった時代の物語をやってみる。取り立てて「あの頃はよかったよね」と言うつもりはないんです。ただ、自分は人力であるとか、無駄の多さに愛情を注ぎたいという思いがある。だからこそ、効率とは反対側のこと、東京―博多間が20時間かかった時代のことを、この作品を通じて想像することで、改めて今を見直せるんじゃないかと思うんですよね。

38人のキャストの「人力」が生み出すもの

──今回新たな試みとして30人のキャストを公募で集め、計38人で上演するというのもまさに「人力」ですよね。

小野寺 15年前の自分と比較したときに、進化していると思いたいですよね。その中で、興味や関心自体もずいぶん変化している。「30人のキャストを公募で集めてやろう!」ということ自体、15年前の自分では思いつかなかった気がします。普段は少数精鋭で作品を作っているのですが、言語化できない空気感を共有共感し、体現いただくことは、演劇の醍醐味だと思って。それを、はじめましてのしかもたくさんの人とできたら、それはもうすごく贅沢なことですよね。10代から70代までの各世代、なかなか出会うことのない人たちに集まっていただいて、稽古は毎回刺激的で楽しいですよ。

──そんなにも幅広い年齢層の方が集まっているんですね。

小野寺 上の世代の人たちは昭和のことをいろいろと教えてくれますし、「着物を着ましょうよ」なんて言ってくれます。楽しんで演劇を作っている。そして、それだけの人数となると、ここばかりは効率が重要になってくる。できるだけ短い時間で大人数ならではのことを作品に入れてみようと。稽古は五日間だったのですが、丁寧の真逆。やりながら集団としての共通言語を体得していくやり方で、かなり荒い進行でしたが、皆さん前向きに取り組んでいただき、思いもよらなかった形に着地出来た気がしています。

──効率と相反する時代の原作を題材にしながら、30人の公募キャストと効率的に作品を作っていくというのは面白いプロセスですね。

小野寺 そういうことの繰り返しですよね。どちらがいい悪いではない。いい効率もあるし、非効率に見えても人力であることの強さもある。その人々の生を自分で味わいたいし、観る方にも味わっていただきたいなと思いますね。デラシネラという団体にとって、新しいことができている気がします。

──小野寺さんは外部でもステージングなど、さまざまな活動をされています。その中でご自分の団体であるカンパニーデラシネラだからこそやれること、やるべきことはどんなことだと考えていますか?

小野寺 大げさに言うと、他にはないものを探すのが演劇だと思っているんです。自分たちの手法、アイディア、色みたいなものって一度つかんでも明日にはもうなくなってしまうものでもある。けれど、それを常に積み上げていくことで、どんどん変化してまた新しいものが生まれていくわけですよね。今回改めて15年前の自分を振り返ってみると、考え方もやり方も変わっている。そんな中で、僕のメソッドを知っている人、長年一緒にやってきた人と、成河さんや武谷公雄さんといった新しい才能とが出会って、また少しずつ変化が起きていく。それはまた、デラシネラならではの色となっていくのだと思うんです。その繰り返しで、自分たちの色をより濃くしていって、デラシネラでしかできないものになるといいなと思いますね。

──今作ではまさにカンパニーデラシネラの新たな色が見られそうですね。

小野寺 ニコラさんの美術含め、デラシネラならではの視覚的な面白さはぜひ味わっていただきたいなと思います。その上で、今回はセリフを通じて物語をより楽しんでいただけたらと。松本清張さんの原文の、硬質な文体みたいなものを舞台上でできるだけ再現しようと取り組んでいるところです。シンプルで引き込まれる原作の面白さはそのままに、演劇だからこその『点と線』をお伝えできたらと思っています。

取材・文:釣木文恵
撮影:鈴木穣蔵

<公演情報>
第309回神奈川県青少年芸術劇場 カンパニーデラシネラ「松本清張『点と線』」

公演日程:2024年7月27日(土)・28日(日)
会場:神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホール

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/tentosen/