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『東山魁夷と日本の夏』山種美術館で開催中 同館所蔵の魁夷作品全点が一堂に

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展示風景 東山魁夷《満ち来る潮》1970年 山種美術館蔵

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1908年に生まれ、1999年に亡くなった東山魁夷(ひがしやま かいい)は、まさに20世紀を生きた日本画家。その没後25年を記念して、自館が所蔵する魁夷作品を約10年ぶりに全点公開する展覧会が、東京・広尾の山種美術館で開催されている。

四季を通じて自然との対話を重ね、詩情豊かな風景画を描き続けた魁夷は、涼やかで透明感あふれるブルーを用いた絵を多く描いたことから、ときに「青の画家」とも呼ばれる。さらに今回は、同館所蔵の他の画家たちによる夏をテーマとした絵画も一緒に並び、猛暑のこの夏、「涼」を運んでくれる作品をゆったりと楽しめる爽やかな展覧会となっている。

展示風景 東山魁夷《月出づ》1965年 山種美術館蔵

山種美術館のコレクションは、山種証券の創業者であり、館の初代館長を務めた山﨑種二が収集した作品群を核とする。画家と親しく交流して集めた作品も多いことから、この館の作品解説には、しばしば画家とコレクターとの間の対話や特別なエピソードが記されている。画家自身の言葉の紹介にも力が入れられており、その言葉を手がかりに作品がより身近に感じられることも多い。魁夷もまた、山﨑と親しかった画家のひとりで、春宵の風景を描いた《月出づ》から始まる第1章「東山魁夷と日本の四季」でも、心惹かれるエピソードや言葉が紹介されている。

展示風景 左から、東山魁夷《白い壁》1952年/《滝 素描》1954年頃 山種美術館蔵

19点が並ぶ魁夷作品のなかでも印象深いのは、京都の風情と季節のうつろいを描いた「京洛四季」の連作だ。「京都は今描いといていただかないとなくなります、京都のあるうちに描いておいてください」という作家の川端康成の言葉をきっかけに始まったという有名なシリーズだ。

展示風景 東山魁夷《年暮る》1968年 山種美術館蔵

定宿だった京都ホテルから俯瞰した大晦日の京の町並みを描いた《年暮る》は、特に人気の高い一点。しんと静まりかえった町並みの一面の屋根の上に雪が降り積もった静謐な情景は、深く心に残るものだ。連作なので一気に描かれたと思いがちだが、同年に鷹峰を背に桜を描いた《春静》と《年暮る》を山﨑が入手した後、夏の《緑潤う》は美術館の開館10周年の、《秋彩》は20周年の記念展に出品されたのだとか。約20年をかけて四季の作品を揃えた画家とコレクター、そして美術館の濃密な関係がうかがい知れる。

展示風景 左から、東山魁夷《緑潤う》1976年/《春静》1968年 山種美術館蔵 ブルーが美しい《緑潤う》は、同展では来場者もスマホでの撮影が可能となっている。

もうひとつ、今回特に注目されるのは、幅9メートルを超える大作《満ち来る潮》。1968年、皇居の新宮殿のために壁画《朝明けの潮》を完成させた魁夷に対し、一般の人々が気軽に見られる場所にもその壁画を偲べる作品を描いてほしいと山﨑が依頼したものだ。当初、引き受けるのを躊躇したという魁夷の言葉からは、画家の誠実さがにじみ出ている。同じ構図にすると差し障りがあるし、描くための情熱も湧いてこない。だが、あまり違うものになってしまうと、依頼の趣旨にそむくことになる、というのだ。

展示風景 東山魁夷《満ち来る潮》1970年 山種美術館蔵 「満ち来る潮」の画題は、『万葉集』からとったという。

結局、思案の末に魁夷が思いついたのは、新宮殿の壁画がゆったりとした波の動きを描いたものだったのに対し、美術館のための作品では、満ちてくる潮が岩にしぶきを上げる動的な構図にするということだった。新しい意欲をもって制作に向かった魁夷は、岩に打ちつける白波の躍動感が際立つ鮮烈なエメラルドグリーンの海原に、金とプラチナの箔や砂子を散らした装飾性豊かな大作を描いた。今回は、岩や波のスケッチや、同じ構図の小下図なども一緒に並び、見比べながら鑑賞できるのも興味深い。

展示風景 《満ち来る潮》とスケッチが並ぶ
展示風景 左から、結城素明《夏渓欲雨》1940年/同《躑躅百合》1930年/川合玉堂《早乙女》1945年 山種美術館蔵

第1章ではまた魁夷の師の川合玉堂や結城素明、そして一緒に研鑽を積んだ友人画家たちの作品紹介があり、また第2章「日本の夏」では、浮世絵版画から現代の日本画まで多彩な作品が並ぶ。川端龍子が高価な群青の絵の具を約3.6キロも使ったという大迫力の《鳴門》や横山大観の《夏の海》など「海」をテーマとしたもの、夏の花々を描いたもの、夏を舞台とした物語絵、夏らしい風物をモチーフとしたものなど、同じ夏でもテーマや画風は様々だ。

展示風景 川端龍子《鳴門》1929年 山種美術館蔵
展示風景 左から、奥村土牛《海》1881年/横山大観《夏の海》1952年 山種美術館蔵

屋台の虫売りの女性と子どもたちを描いた愛らしい作品もあれば、急な夕立で雨宿りをする市井の人々をとらえた屏風の大作もある。蚊帳をつろうとして、ふと蛍に気づいた女性の優美な姿を描いた上村松園の美人画など、バラエティに富む優品を楽しめるのが、同展の魅力のひとつだ。

展示風景 左から、伊藤小坡《虫売り》1932年、川合玉堂《鵜飼》1939年頃 山種美術館蔵
展示風景 池田輝方《夕立》1916年 山種美術館蔵
展示風景 左から、上村松園《夕べ》1935年/同《蛍》1913年 山種美術館蔵

涼みながら作品鑑賞を堪能した後は、併設のカフェで一息つくのもお薦めだ。展示作品をイメージしたオリジナルの和菓子が人気を集めているが、今回は、魁夷の《満ち来る潮》の岩と波をモチーフにした和菓子も登場。絵を思い浮かべながら、美味を味わいたい。

Cafe椿のオリジナル和菓子 魁夷のほか、大観、土牛、玉堂、古径の作品をイメージしている。

取材・文・撮影:中山ゆかり

<開催概要>
特別展『没後25年記念 東山魁夷と日本の夏』

2024年7月20日(土)~9月23日(月・振休)、山種美術館にて開催

公式サイト:
https://www.yamatane-museum.jp

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