出演:渥美清/光本幸子/志村喬/広川太一郎
今年で55周年! 今こそ観たい『男はつらいよ』入門ガイド
日本が誇る映画シリーズ『男はつらいよ』が、1969年8月27日の第1作劇場公開から55周年を迎えた。そんな節目の今年は、55周年を記念したキャンペーンやイベントなどが多数開催される予定だ。DVDやBlu-rayだけでなく、プライムビデオ「プラス松竹」チャンネルなどでシリーズ全50作が定額見放題となっているなど、気軽に観ることができる機会も増えている昨今、この、いま観ても色褪せることなく、笑えて、泣けて、明日への小さなヒントが見つかる稀代の人気シリーズの魅力に改めて迫る!特に「未だ観たことのない」人には、本特集記事でピックアップした作品を皮切りに、ぜひシリーズの芳醇な世界に足を踏み入れていただきたい!
1:日本映画界が世界に誇る『男はつらいよ』シリーズとは?
本作の主人公、車寅次郎は東京のいわゆる下町、葛飾・柴又で生まれ育った、テキ屋(縁日やお祭りなど人出のある場所で露店や興行を営む)を生業とする男。得意の軽妙洒脱な啖呵売(露店で客を相手にした販売促進のための口上)は一級品で、多くの客の心を笑いと感心で鷲掴みにする。心優しく、真っ直ぐで不器用な一方、惚れっぽい性格の彼が、日本各地を巡る旅先で起こす騒動、恋愛(主に一目惚れ&失恋)と、家族や友人連中の待つ故郷・柴又での人情ドラマを描いたのが、『男はつらいよ』シリーズだ。
名優・渥美清が寅次郎(寅さん)を、倍賞千恵子が母違いの妹さくらを演じ、さくらの旦那・博に前田吟、叔父(通称おいちゃん)・竜造に森川信、松村達雄、下條正巳(三人が代替わりで演じた)、竜造の妻(通称おばちゃん)・つねに三崎千恵子、さくらと博のひとり息子・満男に吉岡秀隆、博の勤める印刷工場の社長(通称「タコ社長」)で寅次郎の幼馴染に太宰久雄、柴又帝釈天こと題経寺の住職(通称「御前様」)に笠智衆、帝釈天で使用人として働く、寅次郎の舎弟・源吉(通称「源公」)に佐藤蛾次郎と、個性豊かなお馴染みの面々と、作品ごとに寅次郎が恋するマドンナ役、ゲスト俳優が登場。
テキ屋の仕事で日本中(時に外国)を旅している寅さんが旅先でマドンナに出会い、恋をして世話を焼いたり、助けたりするうちに騒動に巻き込まれ、故郷の柴又に戻るも最終的には失恋し、再びテキ屋の旅に出る……というのが定番の展開。毎作、劇中のロケ地や豪華ゲスト陣が変わるのも見どころで、かつては毎年、新作が公開され、日本の映画ファンの恒例行事になっていた。
渥美清が1996年8月4日にこの世を去ったことでシリーズは一旦終了するも、なんとシリーズ50周年の2019年に、第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』が公開された。なお、ひとりの映画俳優が主人公を演じた世界最長の映画シリーズとして、ギネスブック国際版にも認定されている。
2:シリーズ入門はここから! 『男はつらいよ』厳選レビュー
※「出演」には、先述のレギュラー陣は割愛し、マドンナ、および重要ゲストのみ記載
その1:初心者でも楽しめる!ハズレなし! 鉄板の人気作6選
『男はつらいよ』(第1作/1969年)
寅次郎が20年ぶりに故郷・柴又に帰ってくるところから物語が始まるが、開始早々歓迎ムードも束の間、寅さんは妹さくらの縁談をぶちこわす騒動を巻き起こし、再び旅へ。奈良で旅行中の御前様とその娘で幼なじみの冬子に再会した寅さんは、美しくも気さくな彼女に恋をし、帰郷してからも冬子のもとへ日参する。一方、裏の印刷工場につとめる諏訪博は、さくらへ想いを寄せていた…。初代マドンナである冬子を新派のトップ女優で本作が映画初出演の光本幸子が演じた。シリーズのベースとなる要素が初作からしっかりと描かれていることがわかる、記念すべきシリーズ第1作。
『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』(第15作/1975年)
出演:渥美清/浅丘ルリ子/船越英二/岩崎加根子/早乙女愛
青森で知り合った冴えない中年男と旅を続ける寅次郎は、函館で運命の女・リリーと偶然再会する。初夏の北海道を三人で旅するが、ある出来事がきっかけで寅さんとリリーは喧嘩別れ。以降、旅から帰ってもリリーのことが気がかりな毎日を過ごすが、ある日リリーが寅さんの故郷・柴又を訪れ……。浅丘ルリ子演じる、シリーズ屈指の人気マドンナであるリリーが(第11作『寅次郎忘れな草』以来の)再登場。リリーと喧嘩した寅さんが、雨の降る柴又駅へリリーを迎えに行く“相合い傘”シーンや、「メロン騒動」と名高いメロンをめぐってのおかしみ深い一悶着シーンなど名場面の多い、シリーズの中でも特に人気の高い作品のひとつ。
『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』(第17作/1976年)
出演:渥美清/太地喜和子/宇野重吉/岡田嘉子/寺尾聰/桜井センリ
上野の飲み屋でみすぼらしい老人と知り合った寅さんは、その老人を気の毒に思い、とらやに泊めに連れて来るが、彼の正体はなんと日本画の大家・池ノ内青観だった。世話になったお礼にと青観老人が絵画を描いて贈ったことから、その絵を巡り大騒動が巻き起こり、寅次郎は再び旅へ。寅さんは兵庫県龍野で来賓として招かれていた青観老人と再会し、出会った芸者・ぼたんと意気投合するのだが…。太地喜和子がマドンナ役を演じるほか、息子・寺尾聡との親子共演となった名優・宇野重吉演じる日本画家と寅さんの、身分も年齢も分け隔ての無い友情物語も描かれる、完成度の高い1作。
『男はつらいよ 知床慕情』(第38作/1987年)
出演:渥美清/竹下景子/三船敏郎/淡路恵子
北海道知床で老獣医の上野順吉と意気投合した寅次郎は、順吉の家にやっかいになることに。近所のスナックのママ・悦子が順吉の生活の面倒を見ているが、そんな折、順吉のひとり娘・りん子が結婚に失敗して東京から帰ってくる。お互い頑固で不器用な父娘のぎくしゃくした生活が始まるが…。知床の雄大で美しい自然を舞台に、自然に負けないぐらい力強い人間賛歌の物語が描かれる、シリーズ第38作目。竹下景子がシリーズで2度目のマドンナ役を演じるほか、日本映画界が誇る名優・三船敏郎、三船との共演作である黒澤明監督『野良犬』でデビューした淡路恵子が出演するなど、豪華キャストも話題に。
『男はつらいよ ぼくの伯父さん』(第42作/1989年)
出演:渥美清/檀ふみ/後藤久美子/夏木マリ/尾藤イサオ
さくらと博のひとり息子・満男は浪人生で予備通いの日々。勉強に身が入らず、久しぶりに戻ってきた寅次郎が相談に乗ろうと飲み屋に連れ出す。そこで、高校の後輩・泉に恋心を募らせていることを吐露。しかし、泉は両親の離婚で名古屋に転校、さらには母・礼子との折り合いが悪く、母方の叔母夫婦の暮らす佐賀に身を寄せていた。一目会いたさに名古屋を経由し佐賀へバイクを飛ばす満男は、佐賀で偶然にも寅さんと再会する。二人で泉を訪ね、美しい叔母・寿子に迎えられるが、泉の伯父は厳格な教育者で満男の行動を手厳しく諫める…。第27作から満男を演じてきた吉岡秀隆が物語の中心になるシリーズ第42作。後藤久美子が泉を演じ、大きな注目を集めた。マドンナ役は檀ふみ。
『男はつらいよ 拝啓 車寅次郎様』(第47作/1994年)
出演:渥美清/かたせ梨乃/牧瀬里穂/小林幸子
大学を卒業し、靴メーカーの営業マンとなった満男は、大学の先輩に招かれ、休暇で滋賀県の長浜を訪れる。そこで先輩の妹・菜穂に恋心を抱く。一方、寅次郎は琵琶湖畔で趣味のカメラを楽しむ旅をしている主婦の典子に出会う。旅から旅を続ける寅次郎と、年に1度の旅行に来た典子。単調な日々に埋没している自分に疑問を持つ満男と、勝ち気な女性・菜穂。それぞれの淡い恋模様が描かれると共に、「本当の幸福について」優しく語られるシリーズ第47作。終盤、満男と寅さんが交わす江の電駅での別れの会話は、味わい深い名シーンとして語り継がれている。かたせ梨乃が倦怠期の主婦・典子を、牧瀬里穂が満男の大学の先輩の妹・菜穂を演じる。小林幸子が旅先を巡業する歌手役で出演。
その2:心に響き、刺さる名言! 感動の6作品
YouTubeほかSNSで人気(2024年3月開始、同年8月時点で視聴総数1000万回)の、寅さんの名言を切り出したショート動画と共にご紹介!
『男はつらいよ 葛飾立志篇』(第16作/1975年)
出演:渥美清/樫山文枝/桜田淳子/米倉斉加年/大滝秀治/小林桂樹
御前様の親戚で、大学で考古学研究の助手をしている筧礼子が、とらやの二階に下宿することになった。旅から柴又に戻ってきた寅次郎は、知的で努力家の礼子にひと目惚れ、俄然「己を知るために」向学心に燃え、礼子が家庭教師となる。伊達眼鏡をかけて猛勉強する寅さんは、やがて礼子の恩師・田所教授と意気投合するが、その田所は礼子に思慕を寄せていた…。主にテレビドラマで華々しく活躍していた樫山文枝をマドンナに迎え、映画やテレビの『日本沈没』で地震学者を演じていた小林桂樹が、役名も同じ田所先生として登場!もしや寅さんが実父ではないかと、とらやを訪ねさくらたちを困惑させる女学生は、当時人気アイドルだった桜田淳子。
『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』(第27作/1981年)
出演:渥美清/松坂慶子/芦屋雁之助/正司照江/正司花江/笑福亭松鶴
瀬戸内海の小島で、美しい浜田ふみと知り合った寅次郎は、大阪で偶然彼女と再会。芸者をしているふみには、幼くして生き別れた弟がいた。寅さんのすすめで一緒に逢いに行くが、弟は婚約者を遺し、病死していた。悲嘆と失意のふみに優しくする寅さん、そしてそんな寅さんに惹かれてゆくふみだったが…。東京の下町で生まれた寅次郎が浪花・大阪で恋に落ちるシリーズ第27作。松坂慶子が健気な美人芸者・ふみを演じるほか、芦屋雁之助、かしまし娘の正司照枝・花江、笑福亭松鶴ら関西の芸達者たちが次々に出演。また、本作から吉岡秀隆が満男を演じている。
『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』(第29作/1982年)
出演:渥美清/いしだあゆみ/片岡仁左衛門/柄本明
葵祭でにぎわう京都で、寅次郎がちぎれた履物の紐を直してあげた老人は、人間国宝の陶芸家・加納作次郎だった。お礼にと招待された作次郎の家で寅さんは住み込み女中・かがりに出会う。凛と美しい中に影のある彼女にたちまち魅了される寅さんだが、彼女は心を寄せていた男性の裏切りに近い結婚を知り、仕事を辞め、失意で故郷の丹後半島に帰る。なぐさめようと寅さんが訪ねると、かがりも寅次郎に好意を寄せ、なんと夜には寅さんの寝床に迫り、いわゆる夜這いをかける…。寅さんがマドンナに惚れられるどころか「男と女の関係」を働きかけられるという、シリーズの定番の展開を軽く揺さぶる物語が刺激的な、異色の名篇。いしだあゆみがマドンナ役を演じるほか、片岡仁左衛門、柄本明らがゲスト出演。
『男はつらいよ 寅次郎物語』(第39作/1987年)
出演:渥美清/秋吉久美子/五月みどり/河内桃子/松村達雄
かつてのテキヤ仲間・政吉の忘れ形見である秀吉少年が、預けられた児童養護施設を脱走し、亡父の位牌を持って寅次郎を訪ねて来た。寅さんの生い立ちを思わせる秀吉少年に、おばちゃんは涙を流す。どこかに居るという秀吉の産みの母を探す旅に出る二人。大阪から和歌山を経て、奈良で旅の疲れから高熱を出し生死をさまよう秀吉を、宿で出会ったミステリアスな女・隆子と懸命に看病する。やがて寅さんと隆子は、本物の夫婦で秀吉の父と母であるかのような気持ちに…。マドンナに秋吉久美子。秀吉の母に五月みどり。他、河内桃子、二代目おいちゃん役だった松村達雄。
『男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日』(第40作/1988年)
出演:渥美清/三田寛子/尾美としのり/鈴木光枝
信州小諸で知り合った老婆の家に泊めてもらった寅次郎は、実は病気を患っている老婆の担当医師・原田真知子と知り合う。夫と死別後、息子を東京の実家に預け、信州の医療現場で日々命と向き合う真知子に惹かれる寅さん。やがて、柴又に戻った寅さんは、満男の大学受験の下見に、真知子の姪・由紀の通う早稲田大学を訪ねる。まもなく真知子も息子に会うために一時東京へ戻って来た。皆でにぎやかに過ごす日々は寅さんにとって幸福であったが…。俵万智のベストセラー歌集『サラダ記念日』を冠し、所収の句を随所に引用した第40作。寅さんが夢中になる女医に、ドラマで医者の役が多かった三田佳子。姪の早大生・由紀に三田寛子。由紀の気のいいボーイフレンドに尾美としのり。
『男はつらいよ 寅次郎 心の旅路』(第41作/1989年)
出演:渥美清/竹下景子/淡路恵子/柄本明
旅先の東北で自殺しようとしていた男を思いとどまらせ、励ました寅次郎は、男にオーストリアのウィーン旅行に誘われ、なぜか同行することに。絵画や文化に一切興味を示さないどころか、ドナウ川を江戸川に見立て、神父を御前様と呼ぶマイペースぶりの寅次郎は、現地在住で観光ガイドをしている日本人女性・久美子に出会い、恋心を抱くが…。シリーズで初めて海外進出した第41作。オーストリアのウィーン市の積極的な招聘を受けて撮影が行われ、劇中には風光明媚なウィーンの美しい街並みが多数登場。竹下景子を三度目のマドンナ役に迎え、自殺未遂を起こすサラリーマンに柄本明、ウィーンで出会う柴又の近所・金町出身のマダムに淡路恵子。「平成」最初の作品である。
その3:最新作にして最高の入門編!
『男はつらいよ お帰り 寅さん 』(第50作/2019年)
出演:渥美清/倍賞千恵子/吉岡秀隆/後藤久美子/浅丘ルリ子
小説家になった満男は、妻を亡くし、中学三年生の娘と二人暮らしていら。妻の七回忌を機に柴又を訪れ、かつて伯父・寅次郎と過ごした、騒々しくも楽しかった日々を、毋・さくら、父・博たちと共に振り返る。シリーズ初公開から50周年を記念して公開された第50作目。4Kデジタル修復された寅さんの過去の映像と、本作のために新たに撮影された“現在”のパートで構成された。これまでの名場面が次々に登場するほか、シリーズを支えてきた主要キャラクターも集結。シリーズ最新作にして、入門編としても楽しめる1作。
なお、『男はつらいよ』公式サイトでは、ロケ地情報までも含めた、全作品のあらゆる情報が網羅されている。
3:プラス松竹チャンネルなら『男はつらいよ』全50作が定額見放題!
Amazonプライムビデオ内のチャンネル「プラス松竹」では『男はつらいよ』全50作品がいつでも好きなだけ定額で見放題だ。さらに日本の映画史を彩った人気作、名作や、人気のアニメーション、最新ヒット作も続々登場。プライム会員は月額330円で多彩なラインナップを好きなだけ繰り返し楽しむことができる。
プラス松竹はこちら
4:新企画続々! 55周年記念「Go! Go! 寅さん」プロジェクト
『男はつらいよ』公式サイト tora-san.jp
©1969/1975/1975/1976/1981/1982/1987/1988/1989/1989/1994/2019松竹株式会社
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