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『スオミの話をしよう』男たちに「別れても愛してる」と言わせる、スオミの魔性──長澤まさみ主演の三谷幸喜にしかできない映画【おとなの映画ガイド】

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『スオミの話をしよう』 (C)2024「スオミの話をしよう」製作委員会

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三谷幸喜監督5年ぶりの新作『スオミの話をしよう』が9月13日(金)、全国公開される。ラブストーリー、アクション、シリアスドラマ、そしてもちろんコメディまで、多彩な役を魅力的にこなしてきた長澤まさみが三谷監督と初めて映画でコンビを組み、色とりどりの顔をみせる、なんともゴージャスな作品の誕生だ。長澤演じる主人公スオミが失踪したことを知り、元夫の4人が現夫の大邸宅に駆けつけてくる。その男たちがまた今をときめく実力派俳優、西島秀俊、松坂桃李、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎。彼らが入り乱れての、これぞ三谷幸喜タッチ!の映画です。

『スオミの話をしよう』

この映画の面白さをどう説明すればいいのか……。三谷監督が巨匠ビリー・ワイルダーをお好きなことは知られているけれど、例えば、そんなワイルダーのシチュエーション・コメディの粋さ、ハリウッドのオールスター・キャスト映画の醸し出す華やかな雰囲気、 ポアロやミス・マープルが大邸宅でおきた事件を解決していく、登場人物が多いミステリーのリッチさ、それらをすべて含んでいるような作品。さらに、三谷監督は、黒澤明監督の最高傑作のひとつ、『天国と地獄』からこの物語を発想したというではないか!

『天国と地獄』といえば、三船敏郎扮する製靴会社の重役が誘拐事件に巻き込まれ、仲代達矢扮する警部らがそれを追う、息詰まるサスペンス。三谷監督は次のように語っている。「この映画を何度か観ていてふと浮かんだのが、“この二人が同じ人を愛していたら?”というアイデア。いっそ事件関係者全員が同じ一人の女性を愛していたら、コメディになるぞ……というところから、だんだんと構想がまとまっていきました」。なんともすごい妄想、いや発想だ。

出入りの業者風のバンが玄関に横付けされ、中から作業服を着た男たちが邸宅に入っていく。作業服はカモフラージュで、それを脱ぐとスーツ姿の刑事たち。彼らは入るなり、室内のカーテンを閉めさせる……。このまるで『天国と地獄』のパロディのような導入から、映画ファンは楽しくなってしまうだろう。

この家の主人は、人生訓めいた詩で財をなした詩人・寒川(坂東彌十郎)。一日前から妻のスオミが行方不明で、誘拐事件の可能性があるとみた寒川の世話係(戸塚純貴)が旧知の刑事・草野(西島秀俊)に内密の調査を依頼したのだ。

実は、草野はスオミの4番目の元夫。彼は、正式に警察へ知らせて捜査対応をしてもらうべきだと主張するが、寒川は大ごとにするなということをきかない。そこへ電話が鳴り……。

事件を知ったスオミの元夫たちが次々と集まってくる。1番目の夫は訳あってこの家で庭師をしている魚山(遠藤賢一)、2番目は怪しげなYouTuberで羽振りのいい十勝(松坂桃李​​)、3番目は実直そうな警察官の宇賀神(小林隆)。全員で対策を話し合うなか、彼らは「自分がどれだけスオミに愛されていたか」を熱く語りはじめ、どんどんヒートアップしていく。

そして男たちはふと気づく。各々の語る“スオミ”が、全く違う人物像であることに。もしやスオミは五重人格? そもそもスオミって何者? それより彼女はどこに消えたの? 様々な謎が渦巻き、映画は、思いもかけぬ展開を見せる。

『天国と地獄』同様、映画の3分の2は大邸宅のなかでのシーン。三谷監督にとっては、初監督作の『ラヂオの時間』以来の「ワン・シチュエーション・ドラマ」だ。

重要な役割を果たすのは、細部まで注意ぶかく作られた邸宅内のスタイリッシュなセット。天井が高く、至る所に美しい照明器具があり、広いリビングには、グロリア・スワンソンでもでてきそうな階段。さらにダイニングキッチンやバーなどが広がる。このセットを活かした「芝居場」で、芸達者たちの速射砲のようなセリフとアクションが繰り広げられる。

そして、廻り舞台が設置されているかのように、スオミの過去の人生がインサートされ、また邸宅内のセットにもどる。良質な舞台劇に映画ならではの転換が実にうまく組み合わさり、引き込まれる。そして、舞台は意表をついたラストとフィナーレを迎えるのだ。

長澤まさみと名役者5人の夫たちのほか、寒川の世話係に朝ドラ『虎に翼』やSnow Manラウールと共演した『赤羽骨子のボディガード』で話題の戸塚純貴​​、草野の部下役に瀬戸康史、神出鬼没な女の役で宮澤エマが出演。瀬戸、宮澤は、坂東、小林、長澤(ナレーション)とともに大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の出演組だ。

映画は、撮影の約1か月前から入念なリハーサルが行われ、三谷監督によるかなり仔細な演出指示が加えられたそうだ。それも、いかにも映画好きの指示。例えば、坂東彌十郎​​には「映画『恋愛小説家』のジャック・ニコルソンのイメージで」。宮澤エマには「フランス女優のマリオン・コティヤール(『アネット』他)になったつもりで」とお願いしたという。

特に、何でも知っている謎めいた女性役、宮澤エマは事件のカギをにぎる存在だ。ビリー・ワイルダー作品でいえば、『お熱い夜をあなたに』でクライヴ・レヴィルが演じたホテル支配人のような、奥深い役どころ。

そういえば、長澤の役名スオミだが、この「スオミ」に反応するひともいるはず。あのことかな、と気づいた人はビンゴ。あなたの想像通りです。ラストシーンできっと、嬉しくなるはずです。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

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笠井信輔さん(フリーアナウンサー)
「……誰が一番愛されていたかというマウントの取り合いがまず楽しい……」

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