すずきたくま(SuU) Photo:石崎祥子
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すべて見るText:小川智宏 Photo:石崎祥子
すずきたくま(vo/g)の宅録プロジェクトとして2019年にスタートしたSuU(スウ)。昨年のファースト・フル・アルバム『Build』を経て今年7月にはサポートメンバーだったminako(vo/ag)が正式加入、マイペースに歩んできたSuUの道のりは新たな局面を迎えている。そんな節目となるタイミングで開催されるのが、9月28日(土) に下北沢SHELTERでの自主企画『骨-日-』だ。盟友・時速36kmを迎えて行われるツーマンに向けて、すずきにSuUの今、そして時速とのかかわりについて語ってもらった。
――7月にminakoさんが正式メンバーとして加入しましたが、SuUとしては現在どういうフェーズなんですか?
すずき もともと活動初期はバンドの動き的にはものすごいマイペースな動き方をずっとしていたんです。1年に1回デモCDを出すか出さないか、みたいな。あとは気分でSoundCloudに曲を上げたり、趣味みたいな動き方をしていたんですよね。今回minakoが加入したというのは、そういうマイペースな動きから脱却しようかな、みたいなのも自分の中ではあって。「一緒にガツガツやって行こうぜ」みたいな。
――じゃあ今はガツガツやってる?
すずき いや、そんなやってないかもしれない(笑)。
――(笑)。でも気持ちとしては、ちょっとギアを入れてやって行こうということになっているわけですよね。それはなんでですか?
すずき いろいろ関わってくれる人が多くなったというか。今日みたいなインタビューもそうですし、ライブやるときもそうですし、新譜を作るときもそうですけど、俺以外でSuUに真剣に関わってくれる人が増えて。俺がもしかしたら一番チャランポランかもしれない、と思って。SuUのメンバーであるのに、自分のことだけど自分のことじゃないみたいな感じになったときがあって。なのでちょっと気持ちを入れ替えないとな、しっかりせんとな、みたいな感じです。
――昨年リリースされたファースト・フル・アルバム『Build』、個人的にもすごく好きな作品で。あれを作ったことに対する手応えはどうですか?
すずき 結構、間口が広くなったかなと思います。間口が広くなればいいなっていう音作りもちょっとしていて、今まですごく聴きづらい、棲み分けがまったくできてない音を録音していたんですけど、今回はハイ、ミドル、ローみたいなところをある程度棲み分けさせて、一般的なJ-POPとかを聴いている人もまあ聴けるかな、くらいの音質にはしましたね。
――間口を広げたいという思いがあった?
すずき はい。でも自分の体感はあまり変わっていないんですよね。「よかったよ」って言われることは増えたんですけど。そこまで劇的に変わったというわけではないので。
――あのアルバム、確かに耳ざわりはいいというか、聴きやすくなってると思うんですけど、そのぶんヤバさというか、暗さみたいな部分も際立つものになった感じがしていて。
すずき 確かにそうかもしれない。メリハリはつけたいかな、というか、大衆に寄った音作りにはしたけど、寄りすぎて聴く人にペコペコしたくないなというのはあって。自分が好きなものは好きだし「ヤバいな」って思われたいっていうのは確かにあったなと思います。
――そうなんですよね。音の感触とかジャンル感だけでいえば、たとえばすごくおしゃれなものとして受け取られてもおかしくないと思うんですけど、実際にたくまさんの周りにいるミュージシャンって尖っている人ばかりじゃないですか。
すずき なんか多いですね。
――今回も時速36kmと自主企画をやりますけど、CRYAMYとかPK Shampooとか。そういう人たちと同じ空気を吸っている感じというのが、あのアルバムにも確かにあるなって。
すずき シンプルに、お酒飲んでて波長が合うっていうか、それこそカワノ(CRYAMY)とも遊んでいるときなんて音楽の話なんてまったくしなくて。歳も一緒なんですけど、本当にくだらないことを2時間くらいずっと酒飲んで話してるみたいな感じなんですよ。だけどその中で「こいつ、俺と同じ部分あるな」とか思う瞬間がめちゃくちゃあって。波長合うなみたいなのを勝手に感じるんですよね。価値観がわりと近いというか、性格は違うけど、なんか根っこはわりと似てるのかなって。慎ちゃん(時速36kmの仲川慎之介)とかもそういうとこあるかもしれないですね。
――でも音楽性的にはだいぶ違うじゃないですか。逆にたくまさんがいわゆるバンドとかロックではないところに今来ているというのはどういうことなんだと思います?
すずき 慎ちゃんがやってることを俺がそのままやっても慎ちゃんには勝てないんですよ。彼の良さは簡単に言うと「歌が上手い」とか「めちゃくちゃいい歌詞書く」とか「いいメロディ作る」とかで、正面からそこでぶつかっていっても絶対勝てないんで。なので俺は俺で俺にしかできないことをやろうと思って進んでいったら、なんかひねくれた音というか、暗い音になった(笑)。
――いや、音自体はすごく温かい、アナログな手触りじゃないですか。優しい音だと思うんですけど、じゃあそこで何を歌っているのかなとよくよく耳を凝らしていくと、生きづらさを感じていたり、閉塞感があったりするっていう。
すずき 根が暗いんですかね。
――それは分からないけど、そういうところはそれこそ時速36kmとも通じる部分があるし。
すずき うん、あると思います。慎ちゃんも根が暗いのかな。こういうこと言っちゃよくないけど(笑)。なんか、ずっとイラついてるんだと思いますね。俺もずっとイラついてますし、慎ちゃんもずっとイライラしてるんじゃないかな。だけどそういうのをまったく表に出さないというか、普通に喋っててもすごい気持ちのいい人だし、めちゃくちゃ優しいですね。慎ちゃんって、絶対人のことをけなさないんです。だけどたぶん裏ではめちゃくちゃイライラしてて、それを曲に全部ぶつけてるんじゃないかな。ほんと勝手な想像ですけど、そういう部分が俺は愛おしいですね。
――時速との付き合いは長いですか?
すずき SuUをやる前に僕は違うバンドをやっていて、そのバンドで時速と1回対バンしてるんですよね。時速もまだ3ピースとかのときで、客もゼロだったのかな。もう演者しかいない、みたいな。俺が21歳とかで、慎ちゃんが22とかかな。お互いトゲトゲしていて、楽屋でも一言も話さなくて。「なんだよ、時速36kmって」みたいな。向こうも同じように思ってたと思います。そんな感じで1回共演はしてますけど、そのときはまったく会話もしなかった。今になって「そういえば対バンしてたんだよね」みたいな話をすると「ああ、分かる、分かる」みたいな。「あのときは俺たちは暗黒時代だった、思い出したくない」って言ってました(笑)。
――そこからどうやって仲良くなったんですか?
すずき 仲良くなったきっかけは、いつだか忘れたんですけど、CRYAMYのカワノと遊ぶようになってからだと思います。カワノが紹介してくれたんじゃないけど、ライブの打ち上げで飲んでるときとかに、俺がいて、カワノがいて、慎ちゃんもいて。そこで繋いでくれたんじゃないかな。記憶が曖昧なんですけど。バンド周りの友達って、結構カワノに紹介してもらってるんで。
――それっていつ頃?
すずき 2、3年くらいじゃないですかね、めちゃくちゃ仲良くなってから。そこから弾き語りでちょいちょい同じイベント出るようになったりとかして。でも俺は最初に対バンしたときから時速のことは気にかけていました。ずっと続けていてすごいなって、ずっと劣等感を抱いていましたね。
――最近の時速についてはどういうふうに見てます?
すずき うーん、「もっといってくれ!」というか。なんか、マンガでいうと『ジャンプ』じゃないですか。
――ああ、うん。
すずき カワノが言ってたのかな、「俺たちって『マガジン』だよね、『ヤングガンガン』だよね」みたいな。王道というよりは邪道だよね、っていう。でも時速ってめちゃくちゃ王道のロックスターじゃないですか。その王道をそのまま突き進んでほしいなと思うんです。変な、邪道な気持ちは入れずに、まっすぐな音楽をずっと作り続けてほしいなと思っていますね。
――逆にいうと、自分は邪道というか、『ヤングガンガン』的なオルタナティブなものであるっていう自覚のもとにやってるって感じですか?
すずき 自覚はあります。作り終わった後、「ひねくれてんな」って自分でめちゃくちゃ思います。
――王道に憧れる気持ちもあるんですか?
すずき ありますね。もともとバンドを好きになったきっかけって、王道なものから入ったんで。BUMP OF CHICKENとかASIAN KUNG-FU GENERATIONとか、中学生のときにそういうものを聴いたのが入口だったんで。ああいう王道のロックスターにはずっと憧れはあります。
――でも、どうも俺はそっちじゃねえなっていう。
すずき なんか違うな、性格的に無理だなって。だから邪道をやってます。
――でもそんな中でも、SuUは正式メンバーも加えて......そういえば今のSuUってなんなのでしょうね? バンドでもないし、ソロでもないし――。
すずき ユニット、なんですかね(笑)。minakoと話したのは、「俺たちが令和のハンバートハンバートになろうぜ」みたいな。そう言って正式メンバーに誘いました。
――それ、最高ですね。
すずき 「いいじゃん!」って言って入ってきた(笑)。
――だから、minakoさんやスタッフも含め他者をちゃんと受け入れて、他者に囲まれながらやっていこうとしているわけじゃないですか。そうすると「俺、邪道だから」っていうアティテュードだけだと難しくなってくるところもあるのではないですか?
すずき そうですね。めっちゃぶつかるというか、ぐっと飲み込む瞬間は結構あります。でも、自分が妥協できるラインを超えたら言いますけどね。それこそグッズひとつにしても、今までの自分にない発想が来たらめちゃくちゃうれしいし、前のめりに「いいですね」ってなるけど、なんか違えなって思ったらたぶん「違う」って言う。でもそのラインはわりと優しめには設定しているかもしれない。気分屋な部分もあるので、機嫌にもよるんですけど。
――でも、ちょっとドア開けてるぞみたいな感じはある?
すずき ああ、そうです。ありますね。客観的に見てくれる人が増えたんで、なんか本当にいろんな意見が出てきて。そうなると、ライブひとつにしても自分がかっこいいって思っていても、俺じゃない人はかっこ悪いって思ってる瞬間があるかもしれないじゃないですか。そういう意見がちゃんとスムーズに入ってきて「ああいうふうにするとかっこいいかもよ」って言われて「確かにそういう見せ方もあるのか」とか、勉強になるときはありますね。
――そういう意味では、ひとりのプロジェクトとして始まったSuUですけど、バンド的なものに近くなっているところもあるんですかね。
すずき 結構あると思いますね。
――でも、もともとはそれがめんどくさいからひとりでやったんじゃないんですか?
すずき そうなんですよね。矛盾しているんですよ。だからひとりでやっていて寂しくなって、たぶん今があるんじゃないですか?
――ああ、なるほどね。
すずき それって音の部分でも出ているなと思っていて。ひとりでやってるときって、寂しいからなのか、信じられないくらい音を重ねてやっていたんですよ。ひとりでやってるのにめちゃくちゃ音を重ねるって、矛盾してるじゃないですか。だけど今、手伝ってくれる人が増えて、最近はめちゃくちゃ音が減ってるんですよ。それはたぶん、寂しさがなくなったから、音にもそういう隙間を作る余裕が生まれたんじゃないかな、と今思いました。
――じゃあ、SuUの音も今まさに変わっていってるということでしょうか?
すずき 結構変わってると思いますね。音数をめちゃくちゃ減らしているし、ライブは5人でやってるんですけど、「3人でいいんじゃねえかな」みたいな音楽を作ったりもしています。
――そうやって変わっていってる中で、9月28日に開催されるのが新体制初の自主企画『骨-日-』ですけど、下北沢SHELTERで昼間にやるという。これ、なんで昼公演にしたんですか?
すずき まあ、いろんな理由はありますけど、打ち上げを長くやりたいっていう(笑)。昼の3時くらいから開いてる居酒屋ありますかね? って、スタッフの人と相談しています、今。
――この節目で時速36kmを誘ったのは?
すずき シンプルに好きっていう理由ですね。これは人が好きとかじゃなくて、曲が好きで誘いました。ものすごくいい音楽を作る人たちなので、ツーマンでお互い違う角度からいいものを見せられればなと思って。
――SuUと時速って、バンドとしての対バンみたいなのってやっていましたっけ?
すずき いや、サーキットフェスとか、何十組とか出てるようなところでしかやったことないですね。ツーマンは初です。フォーマンとかもないと思う。だからめちゃくちゃ楽しみですね。まあ、満を持してというか、このタイミングのために今までバンドで対バンしなかったんじゃないかなって、勝手に思ってますけど。
――ああ、いいですね。
すずき でも確かに、今までなんで対バンしなかったんだろう。弾き語りではいっぱいやってるんですけど......たぶん誘っても出てくれなかったんですよ。もしかして嫌われているのかな?(笑)
<ライブ情報>
『骨-日-』
2024年9月28日(土) 東京・下北沢SHELTER
開場12:00 / 開演13:00
出演:SuU、時速36km
【チケット情報】
スタンディング:3,800円(税込)
※ドリンク代別途必要
※予定枚数終了
SuU 公式X:
https://x.com/suutaguu
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