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藤ヶ谷太輔と奈緒がW主演『傲慢と善良』──マッチングアプリで出会い、結婚寸前のカップルに起こったこと……【おとなの映画ガイド】

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『傲慢と善良』 (C)2024「傲慢と善良」製作委員会

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映画『傲慢と善良』が9月27日(金)から全国で公開される。原作は、発表以来多くの読者の心を揺さぶり続け、発行部数が100万部を突破した辻村深月の同名小説。マッチングアプリで出会ったカップルのその後を描いた恋愛ミステリーなのだけれど、主役を演じる藤ヶ谷太輔と奈緒が、この原作の持ち味といえる“人の心の機微”の普遍的な部分を見事に体現していて、婚活とか、恋愛とか、そういう事の渦中にいる世代はもちろん、卒業しましたっていう人にもきっと刺さる作品だ。

『傲慢と善良』

そもそも『傲慢と善良』というタイトルを見ただけで、どういうこと?と一瞬考え、惹きつけられる人も多いと思う。ふたつの言葉は、相反するはずなのに、妙に繋がりがあるような気がしてくる。特に「傲慢」はインパクトが強い。

調べてみると、“傲慢”は「おごり高ぶって人をあなどること」(広辞苑)。そして“善良”は「性質が正直で温順なこと」だそう。

舞台は東京。小さなビールの醸造会社を継ぎ、社長をしているイケメンで、これまでの人生をわりと順調に過ごしてきた架〈かける〉(藤ヶ谷太輔)は、長年つきあってきた彼女にフラれてしまい、マッチングアプリで婚活を始める。 そこで出会ったのが真実〈まみ〉(奈緒)だった。真実は、どんなことにも口出しする郷里の両親から離れ、東京でひとり暮らしを始めたという英会話教室の事務員。控えめで気の利く女性だ。

よくこんな好条件の男性が残っていたなと思える架と、いかにも善良そうで人の気持ちをおもんぱかる真実。ふたりはたがいに好感をもち、条件も問題ないので、結婚を前提につきあい始めるのだが、架がいまひとつ煮え切らず、交際1年を過ぎても話が前に進まない。

架は、人生を絶対に失敗したくないと思っていて慎重なのか……、ぐずぐずしている。「それって、自己愛強くて傲慢じゃない? 」と言えなくもないが、彼自身は気づいていない。

しかし、そんな架も、ついに決心してプロポーズ。なのに、直後の夜、真実が失踪!

映画は、突然の事態に動転した架が、真実の行方を捜すミステリー仕立てとなり、彼女の過去をたどっていく展開。両親との関係、結婚している姉、親の勧めで何度か試した結婚相談所、そこで紹介された相手。いずれも架の考える“真実像”を変えるような証言はなかった。一方で、架の友人たちは、勝手な憶測を話す。混乱する架だが、真実への思いは逆に強くなっていく……。

監督は、絵画に魅せられた学生を描く『ブルーピリオド』を8月に公開したばかりの萩原健太郎。脚本はドラマ『最愛』など、数々の名作を手掛けてきた清水友佳子。舞台となる場所や展開に原作と多少異なるところがあるが、「小説と形が違っても原作通りと思える、練りに練られた珠玉のラストシーン」と著者・辻村深月も太鼓判を押すできのよさという。冒頭、善良さの象徴のように使われる白いバラや、性格がにじみ出るインテリア、SNSなどが効果的に使われている。

藤ヶ谷太輔は『そして僕は途方に暮れる』でも「人間の隠れた弱さ」を繊細に演じきった俳優力の持ち主。さらに並々ならぬ原作へのリスペクトもあってか、びっくりするほどハマっている。奈緒については、言わずもがな。あの笑顔だけで、ストーリーの行間を語れる役者だ。なによりも、フツーに近所にいそうなふたりなのがいい。

架の友人役で桜庭ななみ、災害ボランティア役の倉悠貴。他に、真実の支配的な母親役として宮崎美子、飲み屋のママ役に西田尚美、結婚相談所の所長役を演じる前田美波里など、実力のある俳優がキャスティングされている。

前田が演じる結婚相談所所長のセリフが印象的だ。

「現代の日本の婚活は、傲慢と善良。自分の価値感に重きを置きすぎで、皆さん、傲慢です。その一方で自己愛がとても強い。……善良に生きている人ほど、誰かに決めてもらうことが多すぎて“自分がない”」。

その傲慢と善良が矛盾なく同じ人のなかに存在してしまう不思議な時代だ、という架のその後に影響を与えるこのセリフ、決して婚活世代の20代や30代に限ったことではなく、どの世代が観ても、共感とはまたちがう、なにか響くところがあるはず。

現代人の気持ちが浮き上がるところもあり、それでいて、「大恋愛映画」にもなっているのです。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C)2024「傲慢と善良」製作委員会

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