名作ミュージカル『ユタと不思議な仲間たち』でベテランと新星が初役に挑む

――長年にわたり本作が愛されてきた理由は、どんなところにあると思いますか？

加藤　初めて関わった27歳の時から、やればやるほど奥行きが深くなっていく、一生忘れられない作品です。これまではユタ役として舞台に立ってきましたが、周りのすべての登場人物たちが勇気とか、友情とか、命の尊厳とか、生きていく上でなによりも大切なものをくれる。すると僕の心の奥までビシャッと響くものがあって。きっとお客様もそういったところに共感して、喜んでいただいているのかなと思います。

佐藤　人って生きていると立ち止まる瞬間とか、もうダメかもって思う瞬間が絶対にあると思うんです。でも周りの人からもらえるパワー、言葉によって乗り越えられることがあって、それがユタにとっては座敷わらしという存在なんですよね。だからユタに自分を照らし合わせて共感したり、強くなっていくユタを見て自分も頑張ろうと思える。そういったパワーを持った作品だと思います。

――加藤さんは寅吉役が、佐藤さんはユタ役だけでなく、本作への参加自体が初となります。

加藤　ユタにとって寅吉というのは、いろんなことを教えてくれる、父親代わりのような存在ですよね。自分にも子供がいるのでいろいろな思いが巡りますし、もともとユタをやっていた時からいつかは寅吉をやりたいと思っていて。ついに念願が叶い嬉しいですが、方言がこんなに難しいとは！（笑）　ただ美しい南部弁というのは浅利（慶太）先生が特にこだわられていたことですし、この作品の大きな魅力。だからこそなんとか頑張りたいなと思います。

佐藤　これまではアンサンブルをやることが多かったので、初めてユタという大きな役をいただき、これは一世一代の挑戦になるなと思いました。演出の（野村）玲子さんには「そのままの志有でいいんだよ」と言っていただいているので、受け継ぐところはしっかりと受け継ぎつつ、自分らしさも大切に演じられたらと思っています。

加藤　僕から志有くんのように次の世代に伝えていく、繋いでいくという意味でも、やり続けることが大事な作品だと思います。

――長年加藤さんが演じてこられたユタ役を佐藤さんに受け継がれたように、浅利慶太さんの演出は野村玲子さんへと受け継がれています。

加藤　そうなんですよね。野村さんは僕なんかよりも遥か前から『ユタ～』に出演しているので、いろんなことを知っているんです。さらに浅利先生の数々の作品から学んだことを書き留めて、記憶を起こして、それをすべて『ユタ～』に重ねている。あとは先ほどもお話した、お客様の心にビシャッと響くものをとても大事に作品を作り上げているので、本当にお見事だと思いますね。

佐藤　僕は昨年の『夢から醒めた夢』で初めて浅利演出事務所の公演に関わらせてもらい、それこそ当時はなにもわからない状態でした。でも玲子さんが時に厳しく、時に優しく教えてくださって。そしてこんなポンコツな僕とも（笑）、常に一緒に悩んでくださるのが本当にありがたいなと！

加藤　本当にそう。野村さんは同じ俳優でもあるので、痛いところも、かゆいところも全部わかっているんですよね。

佐藤　とことん寄り添ってくださいますし、玲子さんから浅利先生の教えを伺えることも多く、俳優としてとても勉強になります。

――改めてこの作品を通して、お客様にはどんな時間、体験をお届け出来たらいいなと思いますか？

加藤　今日のようなデジタル時代に、伝説やおとぎ話を信じてみてと言ったところで、鼻で笑われるかもしれません。でもこの作品を観たら、ちょっと信じてみようかなって、一歩踏み込んでみようかなって勇気をもらえるんじゃないかと思っていて。劇場でしか得られないもの、それが“劇場の奇跡”だと思うので、ぜひこの機会に足を運んで、体感していただきたいです。

佐藤　劇中ユタは「何かをするためにこの世での存在をゆるされたんだ」と座敷わらしに言ってもらうのですが、僕はこの台詞がすごく好きなんですよね。ドキっとするというか、もしかしたら自分も誰かのためになっているのかもしれないなと感じられて。観た方にもそういう自分の存在価値みたいなものを感じてもらいたいですし、「生きているだけで素晴らしい」っていう、命の大切さについて改めて考えてもらえたら嬉しいなと思います。

取材・文：野上瑠美子

＜公演情報＞
ミュージカル『ユタと不思議な仲間たち』

公演期間：2024年10月31日(木)～11月16日(土)
会場：自由劇場
チケット情報：
https://w.pia.jp/t/yuta/