堂本剛に森崎ウィンが聞くエンターテイナーの生き方「好きなことだけやっていくのって大変ですか?」
映画
インタビュー
左から)森崎ウィン、堂本剛 (撮影:映美)
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すべて見る自分の好きなことをして、生きていきたい。
そう願う人は、きっと多い。でも、現実はなかなかうまくいかなくて。自分の居場所はもっと他にある、と思いながら袋小路でもがいている。はた目には、好きなことで生きているように見える芸能や芸術の世界にいる人も悩みは同じだ。
10月18日公開の映画『まる』は、アートの道を志しながらも、それだけでは身を立てられず、人気現代美術家のもとで、ただ機械のように仕事をこなす無気力な男性・沢田の物語。何の気なしに描いた〇(まる)が知らぬ間にバズったことから、一躍注目の現代アーティストへと押し上げられていく沢田は、いつしか「やりたいこと」と「求められること」のギャップに翻弄されていく。
はたして人は好きなことだけで生きていけるのか。主人公・沢田を演じた堂本剛と、沢田の同僚であるミャンマー出身のコンビニ店員・モーを演じた森崎ウィンが本音をぶつけ合った。
すぐシャッターを下ろすイメージがあるってよく言われます
――まずはお互いの印象について聞かせていただけますか。
堂本 森崎くんはそのままです。そのままこの感じの人で、裏表がないなっていう印象ですけど。
森崎 僕はとにかく優しかったって印象でした。
堂本 そう? 何にもしてないけど。
森崎 「ギター、何本持ってるんですか」とか、僕のちょっとした質問にもサラッとこのトーンで答えてくださるから。意外とスンッて感じのタイプじゃないんだなと。
堂本 それはすごい勘違いされるところでもあるけど。人見知りが激しいから、自分から話しかけるのがあんまり得意ではなくて。
森崎 わかります。急に距離つめられたらちょっとウッてなりますよね。
堂本 そう。ただ、この年齢だからそんなことも言ってられへんしと思って、最近は大丈夫やけど。性格的に人とワイワイガヤガヤするっていうのが人生であんまりなかったから、現場でも必要以上に自分から話しかけることをしてこなくて。すぐシャッターを下ろすイメージがあるっていうのは確かによく言われます。
森崎 1回、テレビの現場でお会いしたときがあって。そのときはすごくオープンだったので。
堂本 面白かったでしょ?
森崎 はい(笑)。でもお芝居の現場ってなると、シーンによってはスッとシャッターを下ろす方もいらっしゃるんで。沢田もいろんなものを背負ってる役なんで、どういう感じなんだろうって思いながら現場に入ったんですけど、すごく話しやすかったです。
堂本 そこで言うと、僕は役をそんなに引っ張らないんです。本当に淡白、そこは。
森崎 役に入るのはカメラが回ったときだけ?
堂本 ギリギリまでしょうもないこと言ってるけど、「よーい」って言ったら普通に芝居を始める。で、「カット」ってなったら、そのままくだけて、みたいなことが多いかな。
森崎 特に今回はコンビニでふたりきりのシーンが多かったんで、どうしようかなと。
堂本 あそこのコンビニ面白かったね。ちっちゃいクレーンゲームがあって。あれがまた一つの楽しみで。
森崎 ずっとひとりでやってらっしゃいましたよね(笑)。それ見て、これは絡むのやめようと思って、スッと休憩所に行きました(笑)。
大人からよく「好きなことだけでは生きていけない」と言われてきた
――劇中、「自分の好きなことだけやって生きていける大人なんて、そんなにいないよ」という台詞がありました。ぜひこの台詞についておふたりが感じたことを聞きたいのですが。
堂本 (森崎に)どうですか?
森崎 まさに親とか先輩とか、20代でバイトしていたときに店長クラスの人から言われてきた言葉で。そのときの僕はまだ世間を知らないから、「俺はやりたいことをして生きていくんだ」って若さゆえの尖りで突っ走ってたんですけど、30を過ぎた頃くらいから、好きなことだけではやっていけないという言葉の重みを改めて知ることが結構あるんですよね。
堂本 うんうん。
森崎 好きなことをやるためには、やらなきゃいけないこともやらなくちゃいけないっていう。これは仕事だけじゃなく日常生活もそうですけど、自分中心ではすべては回らないじゃないですか。それが今の日本社会だよなって感じることが多いので、あの台詞は夢とか仕事に限らず、普段の生活から言えることなのかなと思いました。
堂本 僕はその逆で。
森崎 そうなんですか。
堂本 僕も若いときにさんざんそういうことを言われてきた。そのときは僕もなにくそ根性でいろいろ思ったりもしたし、逆にそうなのかもしれないなと納得したりもして。両極の自分がいた感じはある。
森崎 剛さんは、ちょっと俯瞰的に自分を見てるところがあるんですか。
堂本 AB型なんで、ちっちゃい頃から俯瞰で見る癖があるの。めちゃくちゃ物事を冷静に見ちゃうのよ。
森崎 うわ〜って熱くなっているのを、上のほうからふ〜んって眺めている自分がいるみたいな。
堂本 自分の感情が本物であればあるほど、その逆の感情も感じ取ろうとしちゃう。たとえば、僕にはこれが大好きだって言えるものがある。でも、それを自分と同じくらいの熱量でみんなが好きなわけじゃないし。逆に言うと、僕には僕の好きなものがあるんだから、他の人にもその人にとっての大好きがあるよな、ということを自然と考えちゃうんですよね。俯瞰で物事を見ながら、じゃあ僕の感情は今どうあるべきかを決める癖はあると思う。
森崎 何となくわかる気がします。
堂本 そういう時期を過ぎて、「自分のやりたいことだけやって生きていけるやん」というのに気づきはじめたのが、今という感じかな。
森崎 マジっすか。
堂本 特に僕の場合は、今、自分ひとりでやってるので。そうすると、自分のやりたいことだけやって生きていくというふうにならざるを得ない。
森崎 それは、自分のやることを自分で決められるからですか。
堂本 そう。ひとりだと自分に向いていないとか合ってないとか思うお仕事をやることがないので。「これ、どうしてもやってもらえないですか」「え〜、僕で大丈夫ですか? わかりました、ちょっと頑張ってみます」みたいなことがない。今は自分自身が変わることなく、どういう場所や人と関わることでエンターテインメントができるかが一番。だから、好きなことだけでは生きていけないみたいなジレンマは感じていないかな。
自分のしたいことだけをやるにはルールが一つある
森崎 ちょっと後輩としての質問をしていいですか。
堂本 いいですよ。
森崎 そこに行くまでって、好きなことだけでは生きていけないよねっていうことを深く経験して、言い方が失礼になったら申し訳ないですけど、そこを耐え抜いたからということですか。
堂本 ええよ。失礼ちゃうから。「耐えた」っていうワードで言うとね、「耐えたわりには」ですね。「耐えたからこそ」ではなかったです。
森崎 「耐えたわりには」?
堂本 「耐えたわりには」、なんや、やっぱり自分の好きなことをやって生きていけるんやっていう。
森崎 なるほど。やっぱりそうだったんだって。
堂本 もちろんすべての人に好かれる必要性がある場所を目指すとか、とにかくすべてを得たいという望みがあるのであれば、きっと自分のやりたくないこともやらないとあかんと思うけど。
森崎 そうですね。
堂本 こんな車に乗りたい。こんな家に住みたい。こんな服着たい。こんなところでご飯食べられるような毎日を送りたい。そういう欲求が多すぎると、純粋に自分のしたいエンタメだけじゃなくて、ビジネス的なことも考えざるを得ない。けど、僕の場合は別にこれさえあればいいなって思うところに着地しちゃったから、あとはその道をずっと歩いてればいいだけなんですよ。
森崎 そうか。すごいよくわかりました。
堂本 なんか、飛ぼうとするからしんどいよね。
森崎 俺はまだ飛ぼうとしているのかもしれないです。小林聡美さん演じるギャラリーのオーナーが言うじゃないですか。「求められていることに応えるのもアーティストとしての義務なのよ」って。たぶん僕は今そこにいて。そこを超越したら、剛さんが今いらっしゃる次元に辿り着けるのかなって。
堂本 もし僕が森崎さんに一つ伝えてあげられることがあるとしたら、自分のしたいことだけをやるにはルールが一つあると思っていて。
森崎 ルールって何ですか。
堂本 自分が魅力的になっていくこと。それは、周りの人から見てもそうやし、自分にとってもそう。「これしてるときの堂本さんってなんかいいですね」って言ってもらえるようになっていかなきゃ、したいことだけやるのは難しいと思う。
森崎 うわあ、ありがとうございます…! なんか僕の悩み相談になっちゃった(笑)。
堂本 全然ええよ(笑)。
森崎 やっぱり経験してきた人の言葉は響きが全然違いますね。たぶん僕にはまだその経験が足りなくて。人から「いいですね」と言ってもらえるところまでいけていない。だから、そうなれるためにも、100%自分が望んでないことでもやっていかなきゃいけないし、人から求められることにどんどん応えていく時期なんだろうなと思いました。
堂本 自分らしく生きることに対して怖がっている人って多くて。勇気が出なくて踏みとどまってしまうこともあるかもしれないけど、やってみたら意外と簡単だったというのが僕の実感です。だから、そうしたい人はそうしたらいいなってめっちゃ思ってる。自分らしく生きるって、とても素敵なことなんだよと伝えたいですね。
取材・文:横川良明 撮影:映美
<作品情報>
映画『まる』
10月18日(金) より全国公開
公式サイト:
https://maru.asmik-ace.co.jp/
(C)2024 Asmik Ace, Inc.
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