“こつこつ”と、3つのギリシア悲劇を再構成!
新国立劇場『テーバイ』特集
11月7日(木)、東京・新国立劇場小劇場にて開幕する『テーバイ』は、ソポクレスによる『オイディプス王』『コロノスのオイディプス』『アンティゴネ』という3つのギリシア悲劇を再構成し、「ひとつの国が没落していく姿」を描き出すという意欲作だ。構成、上演台本、演出は船岩祐太。新国立劇場が展開する「こつこつプロジェクト」から誕生した作品として注目されるが、作り手たちが重ねてきた「こつこつ」は、いったいどんな舞台となって私たちの前に現れるのだろう。
「こつこつプロジェクト」とは?
画期的ギリシア悲劇『テーバイ』とは?
植本純米 ×加藤理恵×木戸邑弥インタビュー
現代につながるギリシア悲劇の魅力を語る!
「こつこつ」と、1年かけて作品づくりに取り組むプロジェクト
「こつこつプロジェクト」は、「作り手が通常の1カ月の稽古ではできないことを試し、作り、壊して、また作る場にしたい」という小川絵梨子演劇芸術監督の思いからスタート。1年をかけて、参加者が話し合いや試演を重ね作品理解を深めながら、より豊かな作品づくりを行うという試みだ。演劇の稽古期間は、多くの場合約1カ月。決して長くはないその日数で、説得力ある、魅力的な舞台をつくりあげる俳優、スタッフたちのプロの仕事には尊敬の念を抱かずにいられないが、もし、もっと時間があったら? 遠回りしたり後戻りしたりしたら?──そこで何が生まれるのか、観客としても興味津々だ。
その第一期が始動したのは2019年3月。シェイクスピア『リチャード三世』に取り組んだ西悟志、別役実の『あーぶくたった、にいたった』を演出した西沢栄治、大澤遊はヤスミナ・レザ作『スペインの戯曲』と、3人の演出家が1年がかりで向き合う戯曲のリーディング公演を行った。
その後、同年5月から6月にかけて、それぞれが1st試演会、8月から11月にかけては2nd試演会として稽古場での上演を実施。翌2020年3月には3rd試演会を新国立劇場小劇場で上演した。1st、2nd、3rdとその都度、演出家と芸術監督、制作スタッフが協議を重ね、作品の方向性、可能性を見極める。それぞれが課題、目的を設け、試行錯誤を重ねたり実験的な挑戦にのぞんだりも。第一期はコロナ禍と重なったことで大幅な予定変更があったものの、1カ月の稽古ではなし得ない、こうしたプロジェクトでなければ実現できない、ある意味贅沢な創作の場となったという。また、2021/2022シーズンの新国立劇場演劇公演ラインアップには、第一期参加作品から西沢演出の『あーぶくたった、にいたった』が登場、「こつこつ」のひとつの成果を披露して話題に。
また2021年4月には第二期「こつこつプロジェクト」がスタート。福山桜子がカナダの作家、パニッチの『7ストーリーズ』を、船岩祐太は自身で手がけた『テーバイ』を、柳沼昭徳が三好十郎の『夜の道づれ』に取り組み、やはり3〜4カ月ごとに試演を重ねてきた。第二期からは、船岩の『テーバイ』が上演されるほか、2025年2月にこつこつプロジェクトStudio公演として柳沼演出による『夜の道づれ』も上演される。今年夏には第三期がスタート。第二期から継続して参加する柳沼昭徳に加え、栗原崇、鈴木アツトら3人の演出家が、いまも「こつこつ」し続けている。
「こつこつ」を経て、テーバイ三部作を等身大の人間ドラマに
そんな新国立劇場ならではのユニークな取り組みにより誕生した『テーバイ』。構成、上演台本、演出を担う船岩祐太は、自身が主宰する演劇集団砂地で古典戯曲を原典とした作品を中心に発表している。手がけてきたのは、シェイクスピア、ジョン・フォードにイプセン、また鶴屋南北や河竹黙阿弥と実に多彩、2017年にはギリシア悲劇──アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスによる5本の作品をひとつにまとめた『アトレウス』というチャレンジングな作品も上演している。
そんな彼がこのプロジェクトでじっくり向き合ってきたのは、知らぬうちに父殺し、近親相姦を犯したテーバイの王の物語『オイディプス王』、テーバイ追放後、放浪するオイディプスの、神々との和解とその死までを描く『コロノスのオイディプス』、オイディプスの娘アンティゴネが、兄弟の埋葬をめぐりテーバイの王クレオンと対立する『アンティゴネ』という、ソポクレスの“テーバイ三部作”。この壮大なギリシア悲劇を、オイディプスやアンティゴネだけでなく、3作品に共通して登場する人物、クレオンにも焦点を当てることで、「個人と国家」をめぐる等身大の人間ドラマにまとめ上げるという。
新国立劇場の演劇『テーバイ』-「こつこつプロジェクト」メイキング映像
上演に向けてのメッセージで、船岩は「古典作品を題材にする喜びは現代と古典の接点の発見にあると思っている」と触れつつ、このプロジェクトの最中に、「現代の方がめまぐるしく変容」していったと明かす。そんな中で「こつこつ」してきた彼ならば、ともすると客席に座るのにちょっと身構えてしまいがちなギリシア悲劇を、いまの私たちの心に直接響く、より生き生きとした画期的な作品として打ち出してくれるのではと期待。
出演は、船岩とともに「こつこつプロジェクト」から参加した植本純米、加藤理恵、木戸邑弥らに加え、今井朋彦、久保酎吉、池田有希子ら新たなキャストが合流。その地道な取り組みの成果が舞台上に表れるその場に、ぜひ立会いたい。
プロフィール
船岩祐太(ふないわ・ゆうた)
桐朋学園芸術短期大学芸術科演劇専攻卒業。地人会の木村光一氏、演劇企画集団THE・ガジラの鐘下辰男氏に師事。また小劇場から商業演劇まで様々な作品に演出助手、演出部として参加。2007年に演劇集団 砂地を結成。演劇集団 砂地では古典戯曲を原典とした作品を中心に発表。主な作品に演劇集団 砂地『Disk』(世田谷ネクストジェネレーション)『アトレウス』、『楡の木陰の欲望』『胎内』など。
〈公演情報〉
『テーバイ』
原作:ソポクレス『オイディプス王』『コロノスのオイディプス』『アンティゴネ』
翻訳:高津春繁(『オイディプス王』『コロノスのオイディプス』)、呉 茂一(『アンティゴネ』)による
構成・上演台本・演出:船岩祐太
出演:植本純米 / 加藤理恵 / 今井朋彦
久保酎吉 / 池田有希子 / 木戸邑弥
高川裕也 / 藤波瞬平 / 國松卓 / 小山あずさ
2024年11月7日(木)~11月24日(日)
会場:東京・新国立劇場 小劇場
公式サイト
「こつこつプロジェクト」とは?
画期的ギリシア悲劇『テーバイ』とは?
植本純米 ×加藤理恵×木戸邑弥インタビュー
現代につながるギリシア悲劇の魅力を語る!