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「演劇を観て、人を好きになってほしい」朝夏まなと×ノゾエ征爾 舞台『ロボット』で初タッグ

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インタビュー

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左から)ノゾエ征爾、朝夏まなと(撮影:坂本彩美)

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チェコの劇作家カレル・チャペックの代表作『ロボット』がシアタートラムに登場。1920年に書かれた戯曲の世界観が、ノゾエ征爾の潤色・演出で現代に再生する。人造人間=ロボットの進化によって労働から解放された人間たちが、やがてロボットの反乱によって人間撲滅の危機に瀕するシニカルユーモア満載の衝撃作だ。数々のミュージカル舞台で華やかに活躍する朝夏まなとが、水田航生、渡辺いっけいなど実力派の布陣とともに本格会話劇に初挑戦。初顔合わせとなる朝夏とノゾエが、発進したばかりの熱気&笑いあふれる稽古場の様子を語り合った。

ヘレナと朝夏さんの声の距離感がとてもいい

――およそ100年前、1920年に書かれた戯曲です。まずはその出会いからお話しいただけますか?

ノゾエ 世田谷パブリックシアター芸術監督の白井晃さんに上演作品の候補をいくつかご提案いただき、そのひとつにこの『ロボット』がありました。すぐにこれをやろうと考えたわけではなく、少し時間が経ってから、共感出来る部分があるな、いろいろと考えさせられるなあと思えて来て、やりたくなったんですね。ここに描かれるロボットの進化は100年前には空想の部分もあったでしょうが、今はロボットに助けられないとやっていけない状況も出て来ていますよね。今後どう一緒に進んでいくべきか、というのが今の僕らの現実だと思うんです。今あらためて考える必要がある、そう思わせてくれる作品じゃないかなと。

朝夏 私はいつもマイクをつけて演じる、大きな劇場での公演が多かったんですね。お客様との距離が近いシアタートラムは観劇に来るのが嬉しくなる、大好きな劇場です。なので、今回のお話をいただいた時は、新たな挑戦をさせていただける!と感じてすぐに「やらせてください」と返事をしました。それから戯曲を読みまして、最初は難しいと思ったけれど、そのうちにどんどん物語にのめり込んでしまって。こんなお話を100年前に考えつくカレル・チャペックさんの脳ミソはどうなっていたんだろう!?と思いました(笑)。ノゾエさんの書かれた上演台本を読んだら、内容としては100年前のことでも現代の言葉遣いになっているので、もっと身近に感じる話になっているなという印象ですね。

――舞台となるのは人間に代わってすべての労働を担うロボットを製造販売する、孤島にある工場。朝夏さんが演じるヘレナは社長令嬢でありながら人権団体の代表として、ロボットの人権!?を守るべく渡辺いっけいさん扮するロボット会社社長に訴えに来るところから物語は始まります。ノゾエさんは、ヘレナを演じる朝夏さんにはどのようなイメージを持たれたのでしょうか。

ノゾエ 今回が“はじめまして”ですが、本読みを聞いてすぐに、良かった〜と思いました(笑)。朝夏さんの明るい雰囲気も含めて、楽しい創作になるだろうなと。僕はいつも俳優さんに会うまでは、キャラクターにあまり具体的なイメージを持ち過ぎないようにしているんです。とは言っても、どうしたってある程度のイメージはありますよね。ヘレナに朝夏さんの声が合わさった時に、その距離感がとてもいいなと感じました。

朝夏 私のほうは、稽古に入る前はノゾエさんってどんな方なんだろうと興味津々で(笑)。これまで、共演の方々も演出家の方も初めてという現場がなかったので。

ノゾエ あ、そうなんですか。

朝夏 はい。ミュージカルの世界だと結構顔見知りの方が多く、だいたいどなたか知り合いの方がいらしていたんですよね。だから最初の本読みの日はガクガクに緊張して行ったんですけど、ノゾエさんが最初のご挨拶の時に、ある俳優さんが「ノゾエさんの稽古場は日本一、風通しがいい」っておっしゃったお話をしてくださって(笑)。

ノゾエ ハハハ、それは完全に個人の意見なんですけど、場が和むといいかな〜と思ってちょっと言ったまでで。

朝夏 はい、一気に和みました(笑)。その通りでしたけど、やっぱりその日の本読みはとても緊張しました。今も台本を持って動きながら、読み合わせの稽古をやっていまして。これほど長く読み合わせの稽古をやることも、これまでなかったんです。初日に本読みをしたら、次からはもう立ち稽古で、歌稽古や振付があって。

ノゾエ なるほど〜。

朝夏 こんなに真摯にお芝居だけに向き合えることがとても新鮮で、刺激がありますし、面白いです。毎日、自分が出せるもの、その時に感じたものをすべて提示して、ノゾエさんに「もうちょっといけますか?」とか言ってもらいながら、いろいろと試している最中ですね。

「アベンジャーズ」のような共演者たちと対峙する刺激的な稽古場

――俳優さんによる本読みでの感触はいかがでしたか?

ノゾエ 想像していたよりもだいぶ面白かったです。俳優さんの力も大きいし、バランスも良かったんでしょうね。生きた言葉ってこんなにいいんだ!と感じられて。翻訳家の栗栖茜先生も初日にいらしてくださったんですけど、「素晴らしかった、面白かった」とおっしゃってくださいました。とても前向きな空気が稽古場にあると感じられたことが、何よりも良かったですね。笑いもたくさん起こっていましたし。

朝夏 キャストの皆さん、どの方を見ても面白くて。ヘレナは唯一、外から孤島にやって来る人物なので、この座組における私自身もすごくリンクしているなと感じていますね。私、いっけいさんの社長さんを始め、ここに登場する工場の技師や博士などのオジサマ方が「アベンジャーズ」に見えて仕方がないんですけど(笑)。その方々の中に乗り込んでいくガッツある女性、そんな感じでいかないと、皆さんのパワーに飲み込まれてしまう気がして。皆さん毎回違う表現をされるので、ゲラの私は笑いを堪えるのが大変です(笑)。それだけ刺激のある中に入れさせてもらえたことが幸せだなと。皆さんからたくさん学ばせていただいています。

ノゾエ いっけいさんは過去のどの作品を見ても、ご本人が生き生きと楽しんでいらっしゃる印象があったんですね。今回稽古場でご一緒して、本当にそうでした(笑)。ものすごく夢中になって、ずっと芝居のことを考えている“演劇大好き小僧”みたいな感じで、そのエネルギーに圧倒されますね。

――いっけいさんが劇場公式サイトの動画コメントで、ノゾエさんのことを「掴みどころのない人」とおっしゃっていますね。

ノゾエ ああ〜、かもしれない。よく言われるので。僕のほうこそ、いっけいさんにそう思っていますけどね(笑)。何を考えていらっしゃるんだろうって。まあ僕としては、演出家というのは権力者じゃないし、何か優位的なポジションにいるわけでもない、ってことは早めに示したいなと思っていて。「僕は何も知らないし、わかってないです。一緒に探して一緒に迷いましょう」ということを、わざと示すところがあるので、それがもしかしたら掴みどころのない雰囲気になってしまうのかもしれません。

朝夏 稽古場のお隣の席がいっけいさんなので、よくお話をさせていただいています。

ノゾエ どんな話をされているんですか?

朝夏 ご自宅に防音室を作ったんですって。

ノゾエ 稽古場を(笑)!?

朝夏 はい。「ちょっと狭くて、そこで大きい声出して練習していたら酸欠になっちゃった」っておっしゃっていました。(一同笑)それで、「朝夏さん、あんなに叫んでいるけど酸欠にならないの?」って聞かれました。

ノゾエ ハハハ!

朝夏 「ここは空気がいっぱいあるから大丈夫です」って答えました。いっけいさん、チャーミングですよね(笑)。

ノゾエ やっぱり家でも夢中になっちゃうんだ。本当に少年みたいですね。

「この物語にある問いを共有しましょう」

――最初にノゾエさんがおっしゃったように今はAIなどが発達し、私たちの都合に合ったロボットを制作出来る時代になりました。この作品からどんなことが気づけるでしょうか。

ノゾエ そうですね。僕らが優位的な立場から皆さんに何かを提示するというよりも「この物語にある問いを共有しましょう」といった感じですね。僕らも作品を上演することで、何かひとつの明確な答えに行き着くわけじゃない。「でも、こういう現実ってあるよね」と見つめ直すといいますか。あらためて皆で「もう何も考えないわけにはいかないね、思考し続けることが大事だよね」と。「こんなことが現実になったら怖い」と感じるだけじゃなく、「じゃあどうしていくか、それを考える時代だよね」と、皆さんと一緒にこの問いに向き合えたらいいなと思うし、観劇後にそういった会話がたくさん生まれるといいなと。シアタートラムのある三軒茶屋には美味しいお店がいっぱいあるので(笑)、「今すぐ帰る気分じゃない。どこかに入って話そう」みたいなことになってくれたらすごく嬉しいですね。

朝夏 稽古場で自分の出ていないシーンを見ていて思うのは、ロボットを題材としているけれど、とても人間らしさを感じる作品でもあるんですよね。「無駄に感じることを、人間はしないではいられない」といった台詞が出てきますけど、今やるべきことに追われている現代人は、人間らしい感覚を忘れがちになっているかもしれないな、なんて考えます。例えば、花を愛でて美しいと思う、ゆったりした心とか。私が観客としてこの作品を見たら、そうした“人間だからこそ”の部分を大事にしたいと思うだろうな……と思いました。

――孤島にある工場の物語で、舞台空間をどのように作るのか、気になります。

ノゾエ 舞台空間に関して……ひとつ、起きましたよね(笑)。

朝夏 はい。私には初めての出来事で、びっくりしました(笑)。

ノゾエ ほぼ確定していた舞台セットがあったんですけど、稽古初日に本読みをしてみて「あ、違った」と思ってしまって。それでガラッと大きく変更しました。物語が十二分に強いし、俳優の体も、言葉も強い。そこから話が十分立って来ると考えた時に、空間がそれを制約するようなことにはしたくないなと。それで演劇的な自由度の高い、抽象的な空間に変えました。

朝夏 模型を見せていただいて、すごい!と。ノゾエさんの説明を聞いた時に、皆さんからハア〜ッと声が漏れるくらい、驚きがありましたよね。

――劇場で、その驚きをぜひ体感したいです。

朝夏 シアタートラムは、作品の世界に没入する感覚を強く感じられる劇場だと思うんですね。今回はお客様も、孤島で一緒にいろんなことを体験している気持ちになれるのではないでしょうか。想像力が必要な舞台セットであるぶん、お客様に投げかける部分が多い作品になると思うので。その1ピースとなってノゾエさんが望んでいらっしゃる世界観をきちんと表現出来るように、これからますます挑戦していきたいと思います。

ノゾエ 得られることがたくさんある作品だと思いますね。舞台空間や、物語自体もそうですけども、そこだけじゃなく、俳優さんが本当に面白いですから。贅沢な作品になるんじゃないかなと思っていますし、やっぱり俳優さんに惚れてほしいですよね。演劇を観て、人を好きになってほしいなと思います。

取材・文:上野紀子 撮影:坂本彩美
ヘアメイク(朝夏まなと):根津しずえ

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<公演情報>
『ロボット』

原作:カレル・チャペック『ロボット』(海山社・栗栖茜訳)
潤色・演出:ノゾエ征爾

出演:水田航生 朝夏まなと/菅原永二 加治将樹 坂田聡 山本圭祐 小林きな子 内田健司 柴田鷹雄 根本大介/渡辺いっけい

【東京公演】
2024年11月16日(土)~12月1日(日)
会場:シアタートラム

【兵庫公演】
2024年12月14日(土)・15日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2453292

公式サイト:
https://setagaya-pt.jp/stage/15694/

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