アナログスイッチ21st situation『寝不足の高杉晋作』奥谷知弘×田鶴翔吾×佐藤慎哉インタビュー
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左から)田鶴翔吾、奥谷知弘、佐藤慎哉 (撮影:黒豆直樹)
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すべて見る「笑い損ねた日には、ちゃんとしたコメディを。」というコンセプトを掲げ、ワンシチュエーションコメディで人気を博す劇団「アナログスイッチ」の最新作『寝不足の高杉晋作』が新宿シアタートップスにて11月13日(水) より開幕する。幕末の志士・高杉晋作を主人公に、幕府との戦争のさなかに戦場から忽然と姿を消し、愛人と宿でくつろぐ晋作と彼を戦場に連れ戻そうとする人々のやり取りをコミカルに描き出す。高杉晋作役の奥谷知弘、坂本龍馬役の田鶴翔吾、作・演出の佐藤慎哉が鋭意制作中の本作について語ってくれた。
――幕末を舞台にした映画や演劇はたくさんありますが、戦いそのものではなく、そのさなかに戦場を抜け出した高杉晋作を中心にした会話劇を描くという着想はどのように?
佐藤 高杉晋作の歌で「おもしろき こともなき世をおもしろく」という有名なものがあるんですけど、僕は中学生くらいの頃からあの歌がずっと好きで、晋作のその考え方も好きだったんですね。それでいつか高杉晋作の話を書きたいと思っていたんですが、もうひとつ、「三千世界の鴉(からす)を殺し、主と朝寝がしてみたい」という歌も好きで、幕末の時代に忠義を大切に生きる志士たちとはちょっと違って、人間臭さが見えるんですよね。「お前と朝までゆっくり寝ていたいのに、周りがうるさくて寝てらんねぇ……」という人間臭さが魅力的だなと思います。そういう部分を今回、書いてみようと筆をとりました。
――高杉晋作や坂本龍馬は多くの俳優さんが一度は演じてみたいと思う役だと思いますが、今回のお話や役柄についてどのような印象を持たれましたか?
奥谷 僕自身、高杉晋作という人物について、名前は知ってたんですけど、そんなに深く知らなくて、お話をいただいて、改めてどんな人物だったのか調べながらいま台本を読み進めているんですけど、慎哉さんもおっしゃったように、人間臭いところもあるし、アナログスイッチさんらしいコメディ要素もあるなという印象でした。僕は今回でアナログスイッチさんに参加するのは3回目なんです。これまでの2回は、全員が面白いキャラという感じで、コメディを自分から発する側だったんですけど、今回の晋作の役は、わりとちゃんと芝居しないといけないというのを感じていて、模索中です。コミカルな部分としっかりと芝居をするところのバランスを取りながらやっていかないといけないなと。物語は、ワンシチュエーションのコメディですごく面白いです。
田鶴 僕自身、坂本龍馬について“人たらし”というか、みんなの間に立ってちょっとずつ繋いでいく人物という印象があって、今回の物語でも、読み合わせをしていて気づいたんですけど、坂本龍馬という役は、いわゆる“オフ芝居”――照明が当たっていないところでのお芝居で、いろんな布石を打っていかないといけない役だなと思いました。頼りないんだけどリーダーなんですよね。これがメチャクチャ頼れるリーダーだと高杉晋作とケンカしちゃう。周りのみんなの呼吸で変わってくる役だなとも思っています。僕もわりとおちゃらけ系なんですけど(笑)、あんまり好き勝手やるとめちゃくちゃになっちゃうし、その塩梅が面白い役だなと思います。
――読み合わせを中心に、ここまで進めてきての、奥谷さんの高杉晋作、田鶴さんの坂本龍馬の印象はいかがですか?
佐藤 知弘は3回目で、結構長い付き合いなんですけどスロースターターと言いますか(笑)、最初は「え? そう読むんだ?」というところがあるんですけど、最終的に着実に仕上げて面白いものを持ってきてくれるという信頼があります。
奥谷 読み合わせ苦手なんです(苦笑)。
佐藤 田鶴さんに関しては「すごいな」と思ったんですけど、1回目は「あぁ、そう読むんだ」という感じだったんですけど、2回目を前にすごく読み込んで自分でいろいろ変えてきて、それがすごく面白かったです。対応力がすごいんですよね。ご自身でもさっき言ってましたが、周りの空気感や間を感じ取って、変えてきてるんですよね。すごく面白かったです。
田鶴 僕も結構スロースターターだと思います(笑)。疑問を感じたことがあると、とりあえず披露してみないとわかんないんですよね。だから稽古場でやってみて「全然違うよね」となって「そうですよね」とまた違う方向へ行くというタイプなんです。特に今回、みなさん「はじめまして」だったのもあって、読み合わせでも「あぁ、こう読むんだ」ということの連続でした。テンポとかリズムによって笑いもすごく変わってくるし、役者によって役を活かすことも殺すこともできるお芝居だなと思います。
佐藤 9人全員が本当に気を抜く瞬間がないと思います。
――コミカルなシーンでは、ある“道具”を駆使して伝言ゲームのようなやり取りが展開しますが、まさにひとりひとりの言い方やリズムによって、伝わり方がかなり変わってきそうですね。
田鶴 あれは本を読んでて震えましたね(笑)。スタートがほぼ僕なので、僕の言い方ひとつで後ろの人たちの選択肢がつぶれるんですよ。オチをしっかりと伝えなきゃいけないんですけど、その間の人たちのテンポ感とかどうなるのか……? 日によって言い方とか変えたら周りの人たちは大変だろうなぁ……(笑)。
佐藤 あれはしびれるよね。あそこは早く立ち稽古やらなきゃね(笑)。
――奥谷さんは、3回目ということでアナログスイッチさんの面白さをどんなところに感じていますか?
奥谷 まず、みなさんの仲が良いんですよね。全員で楽しく作品をつくっているという感じがすごく強いですし、その空気感が作品にそのまま反映されているなと思います。僕自身、気張ることなく、良い意味でニュートラルな気持ちで臨めるんですよね。まあ、主宰が素晴らしいんでね……。
佐藤 どうした、急に(笑)。
田鶴 急にゴリゴリゴマすり始めたな(笑)!
――外部から劇団の中に入っていくとはいえ、主演ということで「座長として引っ張ろう」という意識は……?
奥谷 いやぁ、僕があんまり「うぇい、行くぞ!」みたいな感じではないんでね(笑)。
田鶴 ないんだ?
奥谷 僕がそれやったら気持ち悪くないですか(笑)?
佐藤 劇団自体がそういう感じじゃないですからね。張り切って誰かが前に行くとかっていうのはないよね。
――田鶴さんはアナログスイッチに参加してみていかがですか?
田鶴 僕は関西の人間なので、小突き合いとかしばき合いのレベルで面白さを判断するところがあるんですよね、それは物理的なやり取りだけでなく、言葉のやり取りも含めてなんですけど。アナログスイッチさんは、みなさんの小突き合いがメチャクチャ面白いんですよ。単純な「なんでやねん!」「バシン!」っていうやり取りではなくて、嫁姑のやりとりの面白さみたいな、お互いが自分のカードをチラ見せし合っているような。それが舞台の上だけでなく、普段の関係値の中でできてるなというのを見ていて感じるので、僕も早くそこに混ざりたいですね。
――奥谷さんと田鶴さん、お互いの印象も教えてください。
奥谷 読み合わせが隣同士の並びだったんですけど……「イケメンだなぁ」と(笑)。
田鶴 デートする(笑)?
奥谷 読み合わせの段階でもう坂本龍馬でしたね。
田鶴 経験を積んだ役者さんって、いろんな武器を持って読み合わせに来るわけですよ。人によっては、他を制圧するような空気をまとって読まれる方もいるんですけど、僕はあれがすごく苦手なんですよね、主演であれどんな立場であれ。知弘は意識してなのかどうなのかわからないけど、すごくフラットでニュートラルなんですよね。だから周りも、そこでいろいろ考えて味をつけていけるんです。それは慎哉さんが言う“スロースターター”と言うことなのかもしれないけど、こちらからしたらすごくやりやすいです。余白を残して一緒につくっていけるんですよね。
奥谷 そうなんです!
田鶴 メチャクチャ得意げじゃん(笑)!
佐藤 さっき「読み合わせ苦手」って言ってたじゃん(笑)。
取材・文・撮影:黒豆直樹
<公演情報>
アナログスイッチ 21st situation『寝不足の高杉晋作』
公演期間:2024年11月13日(水)〜11月17日(日)
会場:新宿シアタートップス
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