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オペラが始まる! 新国立劇場《ウィリアム・テル》稽古初日レポート

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撮影:堀田力丸

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10月にベッリーニの《夢遊病の女》で開幕した新国立劇場のオペラ2024/25シーズン。今季ふたつ目の演目はロッシーニの大作《ウィリアム・テル(ギヨーム・テル)》の新制作プロダクションだ。10月下旬に行なわれたその立ち稽古初日、冒頭の顔合わせと演出コンセプト説明会の様子が報道陣に公開された。

「久しぶり!」
「ご無沙汰してます」
「よろしくお願いします」
新国立劇場の地下にあるリハーサル室。歌手たちが入ってくるたびに、笑顔で挨拶を交わす光景があちこちで見られる。
キャストが一堂に会するのはこの日が最初。いよいよ始まるという、いい緊張感も感じられる。

撮影:堀田力丸

定刻となり、指揮者、演出家、舞台スタッフ、音楽スタッフ、クリエイティブスタッフ、そして歌手たちが紹介されたあと、芸術監督であり、当公演の指揮者でもある大野和士からひとこと。歓迎の挨拶もそこそこに、大野の考える作品のポイントが英語で語られた。

まず最初に挙げられたのが、この作品における合唱の重要さ。壮麗な、また動的な音楽を歌う合唱は非常に印象的。それだけでなく、合唱とソリストのコントラストも重要で、合唱は多くの役を演じ、さまざまな場面のベースを作ったあとにソリストが登場する。

そして最も重要なのが、アルノルドとマティルドのラブシーン。このスタイルのオペラには欠かせないシーンだが、シラーの原作にはラブストーリーはない。ロッシーニはこの物語をオペラとして構築するために、ふたりに愛の二重唱を与え、このラブシーンがあるからこそ、《ウィリアム・テル》は「オペラ」になった。オペラ全体の基本となる重要な要素なのだと説く言葉に力が入る。

撮影:堀田力丸

続いて、今回の演出・美術・衣裳を手がけるヤニス・コッコスによるコンセプト説明が始まった。演出そのもののコンセプトというより、その背景となる、作品自体を彼がどのように解釈しているかという丁寧な内容。かいつまんでご紹介する。

過去の作品を超越した、ロッシーニ最後のオペラ

《ウィリアム・テル》は、ロッシーニ最後のオペラ作品。彼のそれまでの作品を超越して、さらに先に行くような作品なので、それ以上先に行けなくなった。ここで彼がオペラ創作の筆を折ったのは芸術的に興味深い決断だと思う。

時代の先を行くモダンさに取り組むロッシーニらしい精神は、ダンス部分にも現れており、今回はナタリー・ヴァン・パリスの振付により、ストーリーに直結しない、異なる次元を語るものになる。

作品のふたつの大きなテーマが、「自然」と「自由の希求」。それはロマン主義の基礎になる要素だ。自然はロッシーニの音楽そのものにもしっかりと描かれているし、物語の中でスイスの人々は、自然と強いつながりを持っている。そして徐々に圧政者から逃れて自由を求める。

この状況は今日の私たちにも語りかける。世界には紛争が絶えない。対立は時代に関係なく存在している。その対立の図式から外れているのがアルノルドとマティルドだ。ふたりは愛に生きることによって社会的な現実の外に身を置くことになる。その葛藤が描かれる。

私は、この作品の最後を次のように解釈している。アルノルドは自身の過去と決別し、マティルドとも決別することを決断する。マティルドも、自分が属していた集団を捨ててしまったがために、すべてを失って完全に孤独になるのだと。非常にロマン主義らしいテーマだ。

ギヨーム・テルは革命の指導者。最初は必ずしも反乱に加わろうと思っていなかったスイスの農民たちも、彼によって少しずつ思いをつないでいく。ロマン主義では、まず指導的な立場の人物の動きがあって、そこから大きく動き始めるのだ。

このオペラは、動きのあるオラトリオとも捉えることができる。その劇的な部分を大事にして取り組みたい。4時間を超える作品を、1時間ぐらいに感じてもらえるように、よく動く作品にしたい。オペラ転換期の重要な作品。この傑作を東京のお客様にお伝えしたい。

登場人物の心情まで──丁寧で根気のいる演技指導

撮影:堀田力丸

休憩ののち、さっそく立ち稽古が始まった。まず序曲から。本来は音楽だけの序曲だが、今回はそこにも動きがつく。興味深かったのは、演技指導の手順。まず最初に、その登場人物がなぜそこにいるのか、どんな経緯があって、何を考えているのかという人物描写の背景から丁寧に説明していく。それを一人ひとりに行なっていくのだから根気のいる仕事だ。上演時間4時間を超えるオペラに、ひととおり演技をつけ終えるだけでも、いったいどれぐらいの時間がかかるのだろう。5回しか上演しないのが、とてももったいない気がした。

稽古はピアノ伴奏で大野が指揮しながら進む。先述のように、全体の稽古はこの日が初日だが、すでに全員が暗譜で歌える状態なのは当然なのだろう。

1時間ほどで休憩が入ったタイミングで稽古場をあとにした。長大な作品ということもあり、なかなか上演機会のない作品。1か月後の公演初日が楽しみだ。

世界水準のベルカントの名手が顔を揃える公演。題名役テル(バリトン)には、当役で世界的にも名声を獲得しているゲジム・ミシュケタ。アルノルド(テノール)には、新国立劇場の《セビリアの理髪師》(2020年)や《チェネレントラ》(2021年)でも旋風を巻き起こしたルネ・バルベラ。そしてマティルド(ソプラノ)にはスター歌手として揺るぎない人気と実力を誇るオルガ・ペレチャッコ。さらに安井陽子(ソプラノ/ジェミ)、妻屋秀和(バス/ジェスレル)、齊藤純子(メゾソプラノ/エドヴィージュ)ら、日本人歌手たちも実力派が揃う豪華な陣容だ。

新国立劇場のロッシーニ《ウィリアム・テル(ギヨーム・テル)》は、11月20日(水)から30日(土)まで全5公演。東京・初台の新国立劇場オペラパレスで。

取材・文:宮本明

ジョアキーノ・ロッシーニ
ウィリアム・テル<新制作>

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2453262

11月20日(水)~11月30日(土)
新国立劇場 オペラパレス

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