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「届いたと感じた」──野田秀樹『正三角関係』ロンドン公演報告会で思い語る。今後の展望も

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野田秀樹(ロンドン公演『Love in Action』報告会より) 撮影:緒⽅⼀貴

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NODA・MAPが2024年7月から10月にかけて、東京、福岡、大阪で上演した『正三角関係』は、野田秀樹がドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を下敷きに描いた、ある花火師一家の物語。松本潤、長澤まさみ、永山瑛太の舞台初競演が大きな話題となり、その後のロンドン公演も大盛況のうちに幕を閉じた。11月12日、都内で実施された海外公演報告会に登壇した野田が、ロンドンでの手応え、作品に込めた思いを明かした。

ロンドン公演の会場は、思い出深いあの劇場

『Love in Action』ロンドン公演より (c)Alex Brenner

『正三角関係』のロンドン公演でのタイトルは、『Love in Action』。サドラーズ・ウェルズ劇場での上演は、10月31日から11月2日に全4公演が行われた。公演全体の手応えについて、「大好評であったことは間違いありません」と話す野田。『Q』(英題「A Night At The Kabuki」2022年にワールドツアー実施)の時もソールドアウトでしたし、今回も満員。観た人の言葉も直接聞きましたが、『Q』と違ったのは、日本人が原爆のことを取り上げるということを予想だにしなかったようなので、ずしんと、入っていく感じがありました」と振り返る。

『Love in Action』ロンドン公演より (c)Alex Brenner

「“ほっぺたを引っ叩かれたような感じでした”──それは、欧米の人間が本来書いておかなくちゃいけなかったことが書かれていた、ということ。届いているんだなというふうに、感じました。それから“観たことのない芝居だった”“幻覚を見ているようだった”という声も。ただ、日本の、というよりアジアからのお客さんが圧倒的に多かった。これは松本(潤)を起用したことも影響しているのかなとは思いますが、こうしたモチーフをもっていったので、もう少し、西洋の人に観てもらいたかった、とも思いました。今後の課題になるかと思います」

ロンドン公演時の劇場の様子、カーテンコールの映像が披露されると、会場となったサドラーズ・ウェルズ劇場について、「私の30年前のロンドン留学は、この劇場でやっていたテアトル・ド・コンプリシテのワークショップに参加したことから始まったんです」と感慨深げに語った。

撮影:緒⽅⼀貴

この日聞き手として参加した演劇評論家の内田洋一から、数々の劇評に触れての感想を問われると、「年とったんだな、と思いました(笑)。皆、自分より若い。若い人が書いている劇評、若い人の言葉だと感じました。原爆の話というのは彼らにとって思いがけないこと。まさにそうだと思います。イギリスに暮らしていて、原爆が投下された側のことなど考えたこともなく生きている。同時に、私のスラップスティックス的なもの、そういう笑いが、簡単に受け入れられるようになった。世界的にそうなってきていると思います。若い頃にロンドン公演をしたときは、批判的な層がかなりいたんです。また今回、初日のパーティーで会った方と演劇における世界的な危機感について話をしましたが、いまイギリスでも、お客を呼べるのはアニメかトップスターを真ん中に配したものだというんです。一概に悪いこととは言えないけれど、演劇の、演劇である所以、そのような芝居がどれだけ人を呼べているのか、と思いました」

題材としたのは、長崎の原爆投下。英米文化圏での上演は最初から狙っていたことなのかと問われると、「書いているときから決めていた」と野田。ロンドンでは以前、『源氏物語』をモチーフとした『ザ・ダイバー』(2008年)を上演しているが、イギリスの人々は日本の文化や歴史のことを全く知らず、関心を示すものとそうでないものとで批評が分かれた。「そこに何か一石を投じていきたい。原爆という問題は、自分たちにもかえってくる問題。自分のスタイルは非常に軽い芝居に見えやすく、こんなに軽々しく原爆を表現していいのかと言われるかと思いましたが、それはなかったと思います」。

『Love in Action』ロンドン公演より (c)Alex Brenner
『Love in Action』ロンドン公演より (c)Alex Brenner

戦争があったことを身体で感じている世代として

これまで『パンドラの鐘』(1999年)、『オイル』(2003年)などの作品で原爆を題材としてきた野田だが、原爆について扱うのはこれが最後と明かす。記者から「今後、第二次世界大戦について書くことは?」と問われると、「わかりません。最後、というつもりで書きました。もう一回書けるって思うなよ、という気持ちでした」と述べるとともに、戦争を書くことについて、こうも語った。
「自分は昭和30年生まれ。戦争が終わった10年後に生まれ、戦争に負けた国に育ち、そうこうしているうちにベトナム戦争。若い頃は戦争体験者がたくさんいて、小説家はそれを実体験として書いていましたが、自分には書く資格がないと思い、一切手を伸ばしていなかった。ただ、『パンドラの鐘』を書いたときは、少しずつ戦争が遠くなりすぎた世代が増えてきた。そうなると、戦争があったということを身体に感じている世代として書くように。自分の日常とか人生は、大したことがないじゃないですか(苦笑)。こういったことを書くべきなのかなと思うのは、私の劇作家としての癖みたいなものかもしれません」

撮影:緒⽅⼀貴

今回のロンドン公演は、日本で上演した新作を同じ年に海外で上演するというNODA・MAP初の試みでもあった。舞台装置や字幕の準備のため、野田は日本での初日の約3カ月前に既に台本を書き上げていたとも。野田作品の面白さを字幕で伝える難しさ、工夫についても紹介された。さらに内田が、野田の海外進出について「サブカルチャーが認められるプロセスだった」としながら、今後の海外公演についての野田の考えを聞いた。
「私に限らず、世界的にサブのはずだったものがサブではなくなっているように感じる。私はいまから急に作品を変えられるわけではないので、これでやっていくつもりです。今回、公演にテアトル・ド・コンプリシテのプロデューサーたちが来ていましたが、1993年にロンドンに留学していろんなことを知ったと話すと、コンプリシテでは若い人が逆に私の作品から影響を受けているという。面白い話になっているなと感じました。再来年、海外にまた行きたいなと思っています。再来年だとすると新作を持っていかなくてはいけないことになりますが、それでやっていきたい。一作一作、ひとつずつを、自分の遺作だと思って作るしかない、という気はしています。おそらくこれが60代最後の作品。次は70代最初の作品です」

12月2日(月) からは、8月の東京公演で収録された『正三角関係』舞台映像の世界配信がスタートする。

<配信情報>
NODA・MAP第27回公演『正三角関係』

作・演出:野田秀樹
出演:
松本潤 長澤まさみ 永山瑛太
村岡希美 池谷のぶえ 小松和重
野田秀樹 竹中直人

秋山遊楽 石川詩織 兼光ほのか 菊沢将憲 久保田武人 後東ようこ
近藤彩香 白倉裕二 代田正彦 八条院蔵人 引間文佳 間瀬奈都美
的場祐太 水口早香 森田真和 吉田朋弘 李そじん

配信期間:2024年12月2日(月) 12:00~2025年1月14日(火) 23:59
チケット販売期間:2024年11月25日(月) 12:00~ 2025年1月14日(火) 18:00
※PPV(ペイパービュー)形式。配信期間中、1回のチケット購入でひとり1回視聴可能。
※再生開始から4時間以内の視聴制限あり。

配信エリア:
日本、北米(アメリカ・カナダ・メキシコ)、南米(ブラジル・ペルー)、ヨーロッパ(イギリス・ドイツ・フランス・イタリア・スペイン)、アジア(韓国・台湾・香港・マカオ・シンガポール・マレーシア・タイ)、オセアニア(オーストラリア・ニュージーランド)
※海外からの視聴は、ソニー・ミュージックソリューションズ(Stagecrowd)限定。

収録日・場所:2024年8月3日 東京・東京芸術劇場プレイハウス

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/seisankaku-pls/

公式サイト:
https://www.nodamap.com/seisankaku/

<公演情報>

【東京公演】※公演終了
2024年7月11日(木)~8月25日(日)
会場:東京芸術劇場プレイハウス

【北九州公演】※公演終了
2024年9月5日(木)~9月11日(水)
会場:J:COM北九州芸術劇場 大ホール

【大阪公演】※公演終了
2024月9月19日(木)~10月10日(木)
会場:SkyシアターMBS

【ロンドン公演】※公演終了
10月31日(木)~11月2日(土)
会場:サドラーズ・ウェルズ劇場

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