Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > ミュージカル『「翼の創世記」Genesis of Wings』Aチームゲネプロレポート

ミュージカル『「翼の創世記」Genesis of Wings』Aチームゲネプロレポート

ステージ

ニュース

チケットぴあ

ミュージカル『「翼の創世記」Genesis of Wings』Aチームゲネプロ (撮影:渡部孝弘)

続きを読む

フォトギャラリー(29件)

すべて見る

演出家・石丸さち子がひたむきな情熱を傾け、魅力的なキャスト・クリエイター陣と共に創り上げたオリジナルミュージカル『「翼の創世記」Genesis of Wings』。人類史上初の動力有人飛行を成し遂げたライト兄弟を描いた作品にふさわしく、見事な“ファースト・フライト”と言うべき作品だ。11月29日の初日に先立って行われた、Aチーム(ウィルバー:上川一哉、オーヴィル:鈴木勝吾、キャサリン:門田奈菜)のゲネプロの模様をレポートしよう。

演劇のイマジネーションによって、心揺さぶられる“フライト”へ

老人となったオーヴィル・ライトは思いをはせる。既にこの世にはいない、敬愛してやまない兄・ウィルバー、そしてずっと自分たちを献身的に支えてくれた妹・キャサリンに。そしてセリフの中に登場する父母も含めたライト一家の姿が、年譜のような形でつづられていく。同時に、自転車の製造・販売で成功した兄弟が、空を飛ぶ鳥の姿に惹かれ、自身も空を飛ぶことを望み、精魂込めて作り上げた飛行機械によってそれを実現させた姿を描いている。さらには、その飛行機をめぐって彼らにもたらされた苦悩をも……。

劇場に入ると、スケッチや計算式がチョークで書かれた黒板状の壁面が目に飛び込んでくる。実際に飛行機を作り上げるまでに、ウィルバーとオーヴィルの兄弟はどれほどの試行錯誤を繰り返したことか。そのすさまじい過程の一端が、開幕前に既に感じられる。

そして、舞台に置かれた机や蓋付きの箱の数々。それらがキャスト3人の手によって巧みに動かされ、時には作業台に、時にはベッドに、時にはグライダーにと変化し、また中から本や服などの小道具も出てくる。その場で俳優たちが演じ、観客の想像力と相まって形作られる、演劇ならではのイマジネーションが小気味よい。特に彼らが飛行に挑む場面は「なるほど!」と内心声をあげてしまったほど。長き思索のトンネルを抜けた先に希望の空が広がっているような、解放感がもたらされる。

効果的、かつ印象的な舞台美術と共に、森大輔による音楽もこの作品を彩る大きな魅力だ。時にはコミカルに、時には高揚感を、そして時には彼らの苦悩を、詩情あふれるメロディーと、森自身による演奏とで巧みに表現している。ウィルバーの「空白」「悔い」やオーヴィルの「死は空から降ってくる」「あの頃」、キャサリンの「My Nature Way」といったソロナンバー、また山場となる「ファーストフライト」「翼の創世記」など、聴きごたえのある楽曲ばかりだ。兄弟の心の絆を表すかのようなハーモニーは、観客の心を震わせるに違いない。

これらの楽曲を歌いこなしつつ、キャスト3人はそれぞれの心情を体当たりで演じ切った。上川と鈴木はそれぞれの喜びや苦しみを熱演し、時にはコミカルな場面でスタッフも思わず笑ってしまっていたほどの変顔やオーバーアクションも交える。弟の憧れであり続ける兄を演じた上川は、穏やかな中に情熱の炎を秘めているウィルバーがまさに適役。そんな兄と共に歩み、しかし兄弟の中で一番長生きしたがゆえに苦しみも深いオーヴィルを演じた鈴木も、あどけない少年から青年、そして中年から老年へと、年齢を重ねていくさまを巧みに表現し演技力の高さを印象づけた。特に終盤の、年老いたオーヴィルの述懐はまさに圧巻。思わず息をのんだ。門田は兄たちの一番の理解者であり、彼らを支え続けた明るさや意思の強さを十二分に伝え、魅力的な妹、魅力的な女性であり続けた。キャストによってかなり色合いが変わりそうでもあり、クワトロキャストのウィルバー(上川一哉・上口耕平・鈴木勝吾・百名ヒロキ)、トリプルキャストのオーヴィル(鈴木勝吾・工藤広夢・DION)とキャサリン(門田奈菜・福室莉音・山﨑玲奈)、それぞれに楽しみだ。

そしてオリジナルミュージカルとして0からこの作品を創り上げた、企画・脚本・作詞・演出の石丸さち子。数々の舞台で腕をふるっている敏腕演出家だが、間違いなくこの『翼の創世記』は彼女の最高傑作のひとつに数えられるだろう。アメリカまで取材に赴いてライト兄弟にまつわる場所を訪ね、また日本で紹介されていない関連資料を手に入れて読み解き、それらを基に執筆したと聞いた。そこに込められた愛とリスペクト、さらにキャストの演技、技術面も含めた演出など、すべてが高い精度でかみ合っていることが感じられる。再演を重ね、さらに大きく飛躍してほしい作品が生まれたことを喜べる、そのことが素直に嬉しい。

ぜひとも観届けたい“フライト”は、11月29日(金)~12月25日(水) ブルースクエア四谷にて。

取材・分:金井まゆみ 撮影:渡部孝弘

<公演情報>
ミュージカル『「翼の創世記」Genesis of Wings』

公演期間:2024年11月29日(金)〜12月25日(水)
会場:ブルースクエア四谷

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/wings/

フォトギャラリー(29件)

すべて見る