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アートやデザインと密接な関係にある“工芸の今”を知る「KOGEI Art Fair Kanazawa 2024」【レポート】

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工芸の新しい美意識や価値観を世界に発信する、国内唯一の工芸に特化したアートフェア「KOGEI Art Fair Kanazawa 2024」が、11月30日(土)・12月1日(日)、ハイアット セントリック 金沢で開催された。8回目の今年は、過去最多となる40ギャラリーから211名のアーティストが参加。11月29日のメディア内覧会からレポートする。

工芸は今、アートやデザインと密接な関係にある

「KOGEI Art Fair Kanazawa 2024」のディレクターを務めるのは、文化芸術活動を通じた北陸地域の活性化に取り組む「ノエチカ」の取締役/ディレクター、薄井寛。薄井は、全体の概要説明の中で「現代の工芸作家の間で芸術表現が盛んになってきている」と語った。そうした大型作品から手に取りやすいサイズの作品までが、ホテルの客室のインテリアを活かして展示される。「生活の場面をイメージしやすいため、工芸と来場者との距離感が縮まり、暮らしの中でどんな作品を楽しみたいか考えながら見て回ることができます」。

「KOGEI Art Fair Kanazawa 2024」概要について説明するディレクターの薄井寛

併せて、ギャラリーツアーやトークイベントなど特別プログラムも充実。今回初めて金沢市内の古美術店の協力を得て、「古美術探訪」と称して茶道体験や店主によるレクチャーを開催。昨年に引き続き「工房見学」も行われ、今年は池田晃将、杉田明彦ら5名の作家の工房を訪ねるプログラムも用意された。 また、同アートフェアのリードスポンサーを務める三菱UFJフィナンシャル・グループは、2023年から「伝統と革新」をコンセプトとして、工芸の文化や技術の継承を目指し、次世代の工芸作家を支援する「MUFG工芸プロジェクト」を行っている。そのアーティストの一人である木工職人・中川周士が制作した「木桶の茶室」で、裏千家今日庵業躰・奈良宗久による茶席「MUFG茶会」が行われた。人間国宝の父に学んだ木桶を現代に残そうとする中川と、「工芸を通してお茶を感じていただきたい」という奈良。茶室近くの陳列ケースには「MUFG工芸プロジェクト」から選ばれた作品が展示され。茶会でも使用された。

「MUFG茶会」が行われた中川周士「木桶の茶室」
左から中川周士、奈良宗久、総合監修を務めた秋元雄史

「MUFG工芸プロジェクト」および「MUFG茶会」の総合監修を務める秋元雄史(東京藝術大学名誉教授)は、「近年の工芸は、アートやデザインと密接な関係にある」と示唆する。「工芸的な技術を活用したアートピースが増えてきていますね。もう一方で、デザインとの関係も強くなってきていて、これまでの伝統的な工芸品とは異なり、今の暮らしや感性に合う、現代的な感覚を取り入れた実用品が提案されています。用途があるものも、用途がないものも、自分の思う世界を皆さんに見ていただく表現物であるということが前面に出ています」と語った。

「MUFG工芸プロジェクト」展示風景。左から家長百加、野田怜眞、石渡結ほか

生活シーンが凝縮されたホテル空間に工芸作品を展示

それでは全国から集結した40のギャラリーからピックアップして紹介したい。まず、やきものの産地・岐阜県多治見市から、多治見市文化工房ギャラリーヴォイスが参加。「やきものの現在(いま)、土から成るかたち」という展覧会形式で、萩野由梨、黒川徹、タカハシ アオイ、スウェーデン出身のエイデロブ・マチルダら40歳代以下の作家を紹介した。まさに「芸術表現としての工芸」の代表格といえる。

多治見市文化工房ギャラリーヴォイス

地元・金沢からは、縁煌(えにしら)、As Baku Bなど6つのギャラリーが出展。galleria PONTE ガレリアポンテでは、眞壁陸二の絵画、石渡結のファイバースカルプチャーなど、今の時代性とともに普遍性を感じる作品が響きあう。また、Art Shop 月映(つきばえ)では、陶、漆、金属、ガラスなどの素材と形が融合する立体アートを展示。日本で漆工芸を追求する韓国出身の隗楠(ウェイ ナン)など、国内外の美術館に作品が収蔵されている作家たちだ。

縁煌。箔デザイナー高岡愛(壁面)、九谷焼 赤絵線描作家の太田恵利香(左)ほか
galleria PONTE ガレリアポンテ
Art Shop 月映
As Baku B。手前は、森正響一のフィギュアサイズの作品

東京から、現代アートを中心としたギャラリーも多数参加した。「超絶技巧」「固体衝撃」「怜悧美学」をコンセプトとするレントゲンは、知性の技術ともいうべき「巧術」をテーマに展示。小山登美夫ギャラリーでは、陶による彫刻などを手がける90歳の伊藤慶二から90年代生まれの沖田愛有美、山下茜里まで幅広い世代を紹介。岡崎裕子、スナ・フジタら人気の陶器も。TARO NASUでは、サイモン・フジワラ、中井波花らによる純粋芸術と工芸の境界線を模索する作品を紹介。日用品の姿を借りて、さまざまな旗を重ねて分断するものを重ね合わせたライアン・ガンダーの作品が秀逸だ。KOTARO NUKAGAでは、川井雄仁、井上七海などを紹介。多和田有希と福本双紅はユニットを組み、古い写真の人物の顔を自分たちの顔に変えて陶器に転写するプロジェクトを行った。

レントゲン。佐藤好彦の12弦ギターほか
小山登美夫ギャラリー
小山登美夫ギャラリー。豆やビーズなどを固めた廣瀬智央の彫刻
TARO NASU。ベッド上にライアン・ガンダーの作品
KOTARO NUKAGA
KOTARO NUKAGA。川井雄仁作品

また、老舗ギャラリーの存在感も大きい。1913年創業の春風洞画廊では、2020年に没した愛知県常滑市出身の巨匠・鯉江良二の60年代の前衛作品を紹介。版画技法を駆使し色彩と陰影で魅せる小野耕石の作品、杉田明彦の漆工芸が取り囲む。また、近現代の巨匠陶芸家を紹介する「しぶや黒田陶苑」では、今回は、お盆と道具の取り合わせをテーマに、内田鋼一、鎌田克慈、丸田宗一郎、新里明士らの作品を展示。北大路魯山人といった物故作家の作品も扱われている。

春風洞画廊
しぶや黒田陶苑

さらにギャラリーごとに趣向の異なる展示空間が続く。古美術から近現代の日本美術までを扱う秋華洞(銀座)と、戦後美術からコンテンポラリーアートまでを扱うGALLERY SCENA(ギャラリー セナ 原宿・神宮前)はShukado+SCENAの名で出展。なかでもガラス作家のマスタニメイと広垣彩子の作品は、どちらも繊細でありながら異なる表情を見せる。また、芦屋画廊kyotoでは、工芸技の持つ意味や美を、作家独自に再解釈した現代アートを紹介していた。

Shukado+SCENA。左から、マスタニメイ、広垣彩子のガラス作品
芦屋画廊kyoto。イタリアで活動する陶芸家・沢田一葉の陶作品

また、長野県松本市と東京・南青山の2拠点で活動するギャラリー石榴(せきりゅう)も目を引く。漆やテキスタイルなど、工芸に属する素材と向き合い、新しい表現を模索する現代作家たちを紹介。

ギャラリー石榴。大曽根俊輔、ARADOMO、中居瑞奈子、矢部桜
ギャラリー石榴。ベルリン在住のアストリッド・コッペによるホーローを用いた平面作品

ほか、暮らしを彩る作品、身に纏うアクセサリー作品などにも魅了される。北海道から福岡まで、各地の特色も感じられ、あっという間に時間が過ぎていく。

GALLERY龍屋(愛知)。家具職人・北奥美帆の動物型ソファー

アートフェアは作品購入の楽しみを知るチャンスでもある。11月29日、コレクターの高橋隆史(株式会社ブレインパッド共同創業者/取締役会長、一般社団法人データサイエンティスト協会代表理事)による「アート購入の意味-その楽しみから悩みまで-」と題したトークを聞いた。作品はもちろん、以前なら考えられなかったアーティストなどとの交流が何よりの財産であり、仕事や生活にも変化がもたらされていると語る。

「アート購入の意味-その楽しみから悩みまで-」をテーマにトークを行ったコレクターの高橋隆史(株式会社ブレインパッド共同創業者/取締役会長、一般社団法人データサイエンティスト協会代表理事)

作品購入は、アーティストたちの活動支援につながる。多種多様な作品を見比べながら、自分が本当に気に入った作品を見つけることができるアートフェアは絶好の機会。来年の開催を、MUFGプロジェクトの経過なども追いながら待ちたい。

取材・文:白坂由里

<開催情報>
「KOGEI Art Fair Kanazawa 2024」

日時:2024年11月29日(金)~12月1日(日) ※会期終了
会場:ハイアット セントリック 金沢
公式HP:
https://kogei-artfair.jp/

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