岡宮来夢「日本の作品は世界で待たれている」“進撃ミュ”ニューヨーク公演で感じた手ごたえ
ステージ
インタビュー
岡宮来夢 (撮影:興梠真帆)
続きを読むフォトギャラリー(5件)
すべて見る幕が上がり「ドーン!」という効果音が放たれた瞬間、ニューヨーク・シティ・センターの盛り上がりが最高潮に達したと感じて、岡宮来夢は「いける!」と思ったという。2024年10月に、アメリカ・ニューヨークで行われた「『進撃の巨人』-the Musical-」初の海外公演。演出・植木豪率いるカンパニーは全4回の上演でニューヨークを訪れた観客をおおいに沸かせた。主人公・エレン・イェーガーを演じる役者としてその渦の中心にいた岡宮が見たもの、そして日本凱旋公演にあたって感じていることは何だろうか。率直な思いを語ってもらった。
最高の盛り上がりでニューヨークに迎えられて
――「『進撃の巨人』-the Musical-」のニューヨーク公演が決定したと知ってから、実際に現地に向かう頃までを振り返った時に、どのようなことを思い出しますか?
初演(2023年1月)でエレン役のお話をいただいた時から、「海外にもっていけたら」というお話は伺っていたんです。そして、これは確か千秋楽の後だったと思いますが、リヴァイ役の松田凌くんも「僕たちの力なら、この背中にある自由の翼をもって世界に飛び立つことができるだろう。俺は行きたい」って力強く言っていた。それだけのお客様の盛り上がりや手応えは感じていたので、僕も「これは本当に海外でやれる日が来るんじゃないか」と思っていました。
――「やれる」という手応えを感じての実現だったんですね。
でもいざ決まってみると、話を聞いた段階では実感は湧かなかったです。自分が海外で舞台に立つとは夢にも思ってなかったし、想像もできてなかったんです。
――実感が沸かないところからの準備開始だったと。
そこから「ニューヨークに行きたい」とお話しして、写真集の撮影で行ったり、プライベートでも行ったりして。ニューヨーク・シティ・センターまで行って外観を見たりして、だんだんと実感できるようになってきました。ただ、正直な気持ちとしては不安が圧倒的で。
――不安しかなかった?
不安が8に対して、楽しみが2くらいの割合でした。ニューヨークのあれだけ大きな劇場(メインステージは約2250人収容可能)で日本の作品が上演されるなんて、日本の演劇史に残るような出来事じゃないですか。その真ん中に立つのは、ブロードウェーで戦っている世界レベルの歌声をもっている人たちと同じくらいできないとダメなんじゃないか。自分はいったいどのくらいのレベルなんだろう。そんな不安を抱えて稽古していました。
――実際にニューヨークに到着して、幕を開けてみて、いかがでしたか。
キャストが本番の衣裳を身に着けてタイムズスクエアで写真を撮影した時に、海外の「進撃の巨人」ファンの方たちが大勢いたんです。泣きながら「エレン!」って声をかけてくれる人もいて、「本当に日本のアニメやマンガって海外で人気なんだな」と思いましたし、開幕前のプレスコールでも現地の記者の方たちが「Wao!」って喜んでくださったんです。目が肥えているはずの記者の方たちがそんなふうに反応してくれるっていうことは、本当に楽しんでもらえるんじゃないかと感じたし、幕が開けたら世界20か国以上からお客様が観に来てくださっていました。
――良い反応を目の当たりにしたんですね。
初日の幕が開く前から会場が大賑わいで、豪さんが「今日は来てくれてありがとうございます」って挨拶したら「ワーッ!」っと盛り上がる様子も舞台袖から見ていました。そして幕開けの「ドーン!」という効果音で最高潮に盛り上がったので、「いける!」「いかなきゃ!」と。人間離れした動きをする巨人たちが登場して、それに対してリヴァイがワイヤーアクションで戦うところで「ウワー!」って、それこそ会場の屋根が吹っ飛ぶんじゃないかと思ったくらい。「これはすごいな」ってそこで実感してからは不安がなくなって、楽しみしかありませんでした。
――ニューヨーク滞在中、共演のキャストさんやスタッフの方たちとはどんなふうに過ごしましたか。
大半が現地のスタッフさんだったので、場当たりはすごく大変でした。僕らの伝えたいことを英語でうまく伝えられなくて、通訳さんを介してやるから、かなり時間がかかったんですよね。それと、Tシャツの袖が上腕二頭筋にめり込むぐらいのすごくマッチョな大道具さんがいたんです。「触ってみたいな。触っても良い?」って聞いたら「OK!」って言ってくれたので、 BA(Blade Attackers)の皆も一緒に触らせてもらって大盛り上がり。それからは、その大道具さんの筋肉に触ってから舞台に出ていくのがルーティンになりました(笑)。
――意外なスキンシップでコミュニケーションしてたんですね。
すごくフランクで、フレンドリーな方が多かったんです。最終日には『進撃の巨人』の大ファンなスタッフさんが私物のパーカーとかグッズをいろいろ持ってきたり、ずっと舞台袖で見守ってくださったりしていて。すごい愛を感じました。
――キャストの皆さんとはいかがでした?
アルミン役の(小西)詠斗とは、日本では観劇スタイルが違うから歓声がなくても盛り上がってないわけじゃないってちゃんと思い出しておかないとね、なんて話をしました。
――それくらいすごい歓声だったんですね。日本の場合は、拍手で熱さを伝えていると思います。それにしても、またとない経験をされましたね。
なかなかないことだと思います。それに「日本の作品は世界で待たれているし、もっともっと海外に行くべきだ」と思いました。
ダイナミックなステージで、エレンとしてがむしゃらに
――これだけ海外でも日本のマンガ・アニメが人気なわけですからね。ニューヨーク公演を経て、エレンという役柄、あるいは『進撃の巨人』という作品そのものへの感じ方・考え方に変化はありましたか?
それは、初演の時に演技プランも含めて考え抜いていたので、特に変わりませんでした。それよりも、慣れない環境の中でいかにコンディションを保つか、初演の後に自分が得た技術などでどうクオリティを上げられるか、といったことを考えていました。僕のエレン像としては、特に始まりの頃はかなり瑞々しくて、エネルギッシュで、器用じゃないからいい、っていう気がするんです。本当に舞台上で苦しくて、つらくて、悲しくて、怒っててっていうエレンの強いエネルギーが、たとえば喉をつぶさないためのテクニックだとかを気にして逆にお客様に届かないようなことになってしまったら、意味がない。そこのせめぎ合いというか、「これ以上やったら明日に響くな」っていう部分と「もう少しいけるかも」っていうギリギリを行き来しながら演じていました。
――エレンは、感情の昂ぶりが本当に激しい役どころですもんね。
だから終わった後はすごく疲れてしまうんですけど、でも楽しくて。そこに僕を選んでいただいた理由もあるだろうし、それに応えたいと思うので。
――植木豪さんの演出は、どういうところが魅力だと感じていますか。
ひと言ではとうてい言い切れないけど、あえて言うなら「ダイナミック」。僕は『進撃の巨人』の単行本を読んだ時に、ずっとクライマックスのテンションが途切れることなく続いている作品だと思ったんです。豪さんが演出する、ずっとダイナミックで一瞬も飽きさせない、一瞬も観客を離さないスピード感やテンポ感は、この作品にばっちり合っている。「これは豪さんだからできた作品だ」と思います。
――そんな舞台におけるエレンとして、岡宮さんが思うエレンの魅力とは?
BAは豪さんと一緒にずっと活動されてきた方が多くて、本当にハイレベル。そんなダンサーさんたちの中でセンターに立たなくてはいけないので、一生懸命練習してかなり頑張っています。そのがむしゃらな感じは、エレンと重なるんじゃないでしょうか。きっとエレンもけっして器用ではなくて、並大抵ではない、我々の想像をはるかに超える努力をしているだろうと思うので。
――素敵な場面や楽曲ばかりの作品ではありますが、あえて特に岡宮さんお気に入りのシーン、あるいは楽曲を紹介してもらえますか。
これはニューヨーク公演であらためて思ったんですけど、ミカサのソロ(「ツナグ」)はすごくいい歌だなって。初演、そしてニューヨークで高月彩良ちゃんが演じたミカサはものすごく素敵でしたし、日本凱旋公演で七木奏音ちゃんが演じるミカサも楽しみ。ジャンもニューヨーク公演の松田昇大くんから日本凱旋公演では福澤侑くんに変わるので、また少し空気感も変わりますね。侑くんは初演でジャンを演じているけど、奏音ちゃんはある意味もうできあがっているカンパニーに入らなきゃいけないので、すごく大変だと思うんですよね。なるべくみんなでサポートできたらいいなと思います。
――もしかしたら、そうやって皆でサポートするために結集するパワーが、日本凱旋公演そのもののパワーアップにも繋がりそうですね。
ニューヨーク公演を経て、皆自信もついたと思いますし。楽曲の話に戻ると、ミカサのソロと、幼少期の時のアルミンとエレンの歌(「A New Step」)、あと最後の方で兵士たち皆で歌う「Battlecry」。このあたりは特に聴き応えもあるし、「なんか、いいな」って。アルミンとエレンで歌う曲も、キラキラしていればいるほど、その後すぐに地獄が来るので、その落差がいいなって思います。
――シーンについてはいかがですか。
BA(Blade Attackers)のシーンですね。ニューヨーク公演で、皆さん本当に世界レベルのパフォーマーなんだって実感しました。第一、豪さん自身がブレイクダンスの世界チャンピオンですし。身体表現を使った舞台っていう意味では間違いなく日本トップレベルだし、本当に素敵な楽曲ばかり。楽しみにしてもらえたらと思います。
ギリシャでパワーを充填し、2025年へ
――最後に、2024年の岡宮さんを振り返って、「岡宮来夢・2024年ビッグニュース」を挙げてもらえますか。
まだ年内のスケジュール全部が終わったわけではないけれど、自分がお願いしたこととはいえかなりのハードスケジュールでした。周りのスタッフの皆さんや共演している方たちに助けていただきながら「体調管理第一」「健康第一」に努めて、全公演ここまで駆け抜けてこれたことは自分としても誇らしいし、良かったなとも思うし、ホッとしている部分でもあります。皆さんのご協力あってのことですから。あと、ずっと行ってみたかったギリシャに行けたこと。信じられないくらい綺麗な夕陽、透き通った海、パルテノン神殿、ギリシャの料理、優しい現地の方々……パワーをもらって帰ってきたし、「また行けるように仕事を頑張ろう」と思ったくらいギリシャが大好きになりました。
――そうしてリフレッシュして、2025年も既に多くの出演作品が発表されていますね。
『1789-バスティーユの恋人たち-』は、母親が「来夢にぴったり。いつかやってもらいたい」って言っていたんです。「いつか叶ったらいいな」とは思っていたけど、本当に実現しました。親孝行できました! 『四月は君の嘘』は、僕が人生で一番泣いたミュージカルなんです。演出の上田一豪さんと『ファンタスティックス』(2022年)以来にご一緒できること、あの楽曲を歌えることが楽しみでしかたない。音楽朗読劇『三毛猫ホームズ』も、演出の石丸さち子さんといつかご一緒してみたいと思っていたんです。お芝居に熱い方だと聞きますし、僕自身もっともっと芝居がうまくなりたいので、こちらもとても楽しみです。
――舞台本番を楽しみにしています。ありがとうございました。
ニューヨークを経てパワーアップした公演を、ぜひ見届けてもらいたい。公演は12月13日(金)~22日(日)、東京・TOKYO DOME CITY HALLにて。2025年1月に大阪公演あり。
取材・文:金井まゆみ 撮影:興梠真帆
ヘアメイク:田中紫央 スタイリスト:ホカリキュウ
<公演情報>
『「進撃の巨人」-the Musical-』日本凱旋公演
原作:諫山創『進撃の巨人』(別冊少年マガジン/講談社)
演出:植木豪
脚本:畑雅文
音楽監督:KEN THE 390
作詞:三浦香
出演:
エレン・イェーガー役:岡宮来夢
ミカサ・アッカーマン役:七木奏音
アルミン・アルレルト役:小西詠斗
ジャン・キルシュタイン役:福澤侑
マルコ・ボット役:泰江和明
コニー・スプリンガー役:高橋祐理
サシャ・ブラウス役:星波
ハンネス役:村田充
キース・シャーディス役:林野健志
ディモ・リーブス役:冨田昌則
カルラ・イェーガー役:舞羽美海
グリシャ・イェーガー役:唐橋充
ハンジ・ゾエ役:立道梨緒奈
リヴァイ役:松田凌
エルヴィン・スミス役:大野拓朗
<Blade Attackers>
Toyotaka RYO gash! SHINSUKE HILOMU
Dolton KENTA GeN KIMUTAKU
下尾浩章 横田遼 橋渡竜馬 白濱孝次
中西彩加 安川摩吏紗 松本ユキ子 陸 NONN 河島樹来 加藤貴彦
【東京公演】
2024年12月13日(金)~12月22日(日)
会場:TOKYO DOME CITY HALL
【大阪公演】
2025年1月11日(土)~1月13日(月・祝)
会場:オリックス劇場
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/shingeki-musical/
公式サイト:
https://www.shingeki-musical.com/
(C)諫山創・講談社/「進撃の巨人」-the Musical-製作委員会 2024
フォトギャラリー(5件)
すべて見る