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【インタビュー】エストニア国立男声合唱団指揮者 ミック・ウレオヤ

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インタビュー

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(C)Jaan Krivel

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今回6年ぶりに再来日を果たすエストニア国立男声合唱団。2018年シベリウス:クレルヴォ交響曲などNHK交響楽団との共演が話題になりましたが、まだまだどんな合唱団なのか気になっている人も多いのではないでしょうか。そこで、合唱団の芸術監督を務める指揮者ミック・ウレオヤ氏にメールインタビュー!知られざる合唱の国エストニアを紐解きます。

――まずは、エストニア国立男声合唱団について教えてください。

ミック・ウレオヤ氏(以下M):エストニア国立男声合唱団(ENMC)は国内合唱界の伝説的存在である作曲家グスタフ・エルネサクスにより、1944年に設立されました。今年ちょうど創立80周年をお祝いしているところです。ENMCは合唱団としては非常に珍しいプロの男声合唱団です。そのため、ショスタコーヴィチの交響曲第 13 番「バービイ・ヤール」、シベリウスの交響曲「クレルヴォ」、シェーンベルクの「グレの歌」など、男声合唱が重要な役割を担う作品を演奏することにおいて私たちは類まれな経験を有しています。

また、過去 80 年間のエストニアにおける男声合唱作品について語るとき、すべての主要な作品は ENMC のために (または ENMCによる委嘱によって) 作曲されたと言っても過言ではありません。エストニアの文化やエストニア音楽史はエストニア国立男声合唱団と密接に結びついているといえるでしょう。

――国立の合唱団、それも「男声合唱団」というのはかなり珍しいのではと思います。

M:そうですね。私たちは公務員であり、職業を聞かれれば「仕事は合唱団員」と答えます。フルタイムで合唱団員として働いているのです。これは日本では少々驚かれることかもしれませんね。

――国から保証された状態で合唱を続けられるのですね。なぜエストニアではそれほどまでに歌が尊重されるのでしょうか。

M:エストニアの合唱の歴史は、「エストニア歌と踊りの祭典(Laulupidu)」の歴史と深く結びついています。1869 年に始まり、歌い継がれてきた民謡を発表する場となりました。今でも5 年ごとに開催され2万人以上の歌手が参加し、10万人の観衆がタリン歌の広場に集まります。そしてこの祭典は「歌う革命」にも繋がっていったのです。

歌の広場 ©ToBreatheAsOne – Flickr

「歌う革命」とは…
エストニアは歌によって独立を勝ち得た唯一無二の国である。第二次大戦後ソビエト連邦に併合されたエストニアは自国の民族音楽を歌うことを禁じられていた。その中でこの祭典は民族高揚運動の一環として民族独立の大きな力となり、「歌う革命」に昇華した。同様の運動はラトビア・リトアニアにも見られ、1991年バルト三国は、ソビエトからの独立を果たしている。

――今回の選曲について教えてください。どのような意図があるのでしょうか。

M:前半は宗教音楽というくくりで(シューベルトの曲の歌詞は実際には宗教的ではありませんが、非常に哲学的です)、古典的な宗教的男声合唱のレパートリーを幅広く取り上げます。またそのなかで、現在世界で最も重要な作曲家の一人であるエストニア人作曲家アルヴォ・ペルトの作品を二曲も演奏できることを嬉しく思います。

後半は、フィン・ウゴル語(ヨーロッパ北東部からシベリア西部にかけて話されるフィンランド語・エストニア語・ハンガリー語を含む語派)と日本の民話がテーマです。私たちはエストニアの合唱界で最も重要なヴェリヨ・トルミスの作品が大好きで、世界中どこにいても彼の音楽を演奏したいと思っています。

――堅田優衣さんの作品「てまんかい-奄美の八月踊り」とはどのように出会ったのですか?

M:この作品のことを、フィンランドの男声合唱団・ヘルシンキ大学男声合唱団の指揮者で私の良き友人であるパシ・ヒヨッキから聞きました。私はすぐにこの作品を気に入りました。日本の民謡に基づいているため、同じく民謡を題材にするトルミスの作品と非常によく合います。日本の作曲家の作品をプログラムに取り入れることは、私たちにとっていつも大きな喜びです。

――トルミスという作曲家はエストニアの合唱界においてとても大切な存在だと思いますが、数ある彼の作品の中から今回は「鉄への呪い」を選曲されています。やはりこの曲を選ばれたのには意味があるのですね?

M:トルミスの「鉄への呪い(英題:Curse upon Iron)」は私たちにとって常に意味深い作品でした。今日ではその意味の重要さがさらに増しています。ウクライナでは戦争が続いており、その戦闘はウクライナの領土で起きていますが、ほぼ全世界が多かれ少なかれ関与しています。世界を見渡せば、台湾・中国間の緊張は日々高まっており、中東では大きな紛争が起きています。私たち人類は過去の教訓を学んでいないようです。「鉄への呪い」は、私たちが鉄を支配せず、鉄が私たちを支配するようになるとどうなるかを我々に思い出させます。

今回のプログラムは、もうひとつの素晴らしい作品、イタリアの作曲家ジョヴァンニ・ボナートの「深い平和」で終わります。この曲は、より良い未来が可能であり、すべての美と平和が私たちの魂の中にあるという希望を与えてくれます。

――最後に、日本の皆様に向けてメッセージをお願いします。

M:今回のプログラムの中には西村英将氏の特別な作品があります。英将さんは私たちの大切な同僚で、6年前に重病で亡くなりました。この曲はふたつのメロディーから構成されています。ひとつは日本のメロディー、もうひとつはエストニアのメロディーで、どちらもそれぞれ母国でよく知られているものです。地球の対極に住んでいる私たちですが、英将さんの作品は、私たちが愛するメロディーがひとつの作品の中に見事におさまり完璧なハーモニーを形成することを教えてくれます。このことから学ぼうではありませんか。

――ありがとうございました!

取材・文:テンポプリモ

エストニア国立男声合唱団

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2453021

2025年2月8日㈯ 16:00開演
すみだトリフォニーホール 大ホール

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