【コラム】ミュージカル『SIX』はここがすごい! 来日版&日本キャスト版の見どころを紹介
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すべて見る16世紀の英国から現代へ蘇った王妃たちがガールズバンドを結成する!? 英国史上最もスキャンダラスな暴君として知られるヘンリー8世の元王妃たち6名が、「誰がいちばん悲惨な目にあったのか」を競い歌う話題のミュージカル『SIX』。その来日公演版が1月8日(水)、ついに幕を開ける。80分ノンストップ! “歴史上最もエネルギッシュなミュージカル”の魅力を、季刊連載ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイドでもおなじみのミュージカル文筆家・町田麻子さんに、ロンドン・ウエストエンド、そしてニューヨーク・ブロードウェイでの観劇体験、続いて上演される日本キャスト版への期待と共に綴っていただきました。
16世紀の英国、テューダー朝。長兄の早世により王位を継承することとなった弟ヘンリー(ヘンリー8世)。その在位38年間、離婚と処刑を繰り返し、6度の結婚を経験する。
1人目の妃キャサリン・オブ・アラゴンは、長年連れ添ったにも関わらず王が愛人と結婚する為に離婚。2人目の妃アン・ブーリンは略奪婚に成功し王妃の座を得るも斬首に処せられる。3番目の妃ジェーン・シーモアは王待望の息子を産むが産褥死。4番目の妃アナ・オブ・クレーヴスは結婚前に見た肖像画と似ていないという理由で即離婚。5番目の妃キャサリン・ハワードは、前恋人との密会が疑われ斬首。6番目の妃キャサリン・パーは、王に先立たれ生き残る。王に虐げられた彼女らが現代に蘇り、「彼女たち」の歴史を歌い上げる――。
大興奮したロンドン版
『SIX』を初めて観たのは2019年末のウエストエンド。感想は、「おんもしろかった……!」の一言に尽きる。いや、尽きてはまずいのでもう少し述べると、とにかくまず、音楽と振付が最高にイイ。それはもう、体が疼いて疼いて仕方ないほどに、観ている最中から早くスタオベしたくてしたくて堪らなくなるほどにイイ。そしてその音楽と振付が、セット、衣裳、照明といった演出要素と完璧に一体化している。現代に蘇ったヘンリー8世の6人の妻たちがリードボーカルの座を奪い合う物語、と聞くとライブ的な公演を思い浮かべがちだが、そして実際見栄えとしてはライブそのものなのだが、諸要素が渾然一体となって物語を紡ぐというミュージカルの醍醐味がその中に詰まっている。
むせび泣いたブロードウェイ版
2度目の観劇は2022年春、コロナ禍を経て再開されたばかりのブロードウェイ。海外旅行に様々な手続きが必要だった時期で、行くだけで既に疲れ果てていた感があったため、なんとしてでも気分を上げたくて、到着初日の一本に選んだのがこの『SIX』だった。これが大正解で、開演“6”分前のアナウンスで「Welcome back to Broadway!」と言われた時の、あの腹の底から湧き上がるような感動は生涯忘れられるものではないし、観ている間もカーテンコール中にも帰り道にも、大げさではなく何度もむせび泣きしてしまった。
むせび泣くようなイタいオタクは筆者くらいだったかもしれないが、また劇場で演劇が観られる喜びと作品の面白さに気分が高揚していたのは皆同じ。最前列に座っていたある青年などは、舞台上でクイーンが歌い踊っている真っ最中に、なんと立ち上がって自分も歌い踊り始めてしまった。そんな青年に周りの観客も出演者も、白い目で見るどころか大喝采。最終的にはクイーンが、「It’s MY song!」と座らせてさらなる大喝采を浴びていた。係員が飛んできて、いさめるか連れ出すかしてもおかしくないようなハプニングがこれほどハッピーな決着をみたのは、そもそも盛り上がることが大好きなブロードウェイで、しかも再開直後というタイミングだったことももちろんあろうが、『SIX』だからこそでもあるだろう。それくらい、とにかく楽しくて気持ち良くて解放的な作品なのである。
来日版に寄せる期待
ここで少し余談を。筆者は小学生のある時期をロンドンで過ごし、現地の学校に通っていた。慣れない英語で授業を受ける日々は目まぐるしく、学べたことも覚えていることも少ないが、歴史の授業に何度も登場したヘンリー8世の名前や経歴、周辺人物については忘れられないものがある。特に2番目の妻アン・ブーリンのことは、指が6本あったらしいというトリビアまでも含め、帰国してからもずっと記憶に残っていた。英国におけるヘンリー8世はそれくらい――きっと日本で言う徳川家康くらい――、学校で繰り返し習うがゆえに、誰もがそこそこ詳しく知っている人物だ。
何が言いたいかというと、まず『SIX』は、そんな英国だから生まれ得たミュージカルだということ。しかしそれでいて、そんな英国でこそ受ける作品かと思いきや、ブロードウェイでも受けまくっているということ。そして、ということは日本でも、まず間違いなく受けるということだ。たとえヘンリー8世のことを徳川家康ほどは知らなくても、新しくて面白くて楽しくて気持ち良くて現代社会を映す解放的なミュージカルに、日本の観客も大興奮したりむせび泣いたりすることだろう。また2度観たことで、キャストによって印象が変わる作品であるとも感じたため、3度目の観劇に臨めるのが個人的にも楽しみだ。
日本キャスト版のmy裏テーマ
というのが来日版『SIX』に寄せる期待なら、日本キャスト版にはまた別の見どころも感じている。実は筆者、初めて観た時から日本版を勝手に思い描き、5年にわたって“妄想”を膨らませ続けていた。それは、とかく男性俳優たちに注目が集まりがちな日本ミュージカル界にあって、女性俳優もまた百花繚乱であることを示すのに、これほど最適な作品はないと思ったから。歌って踊れて芝居もできる、実力一本でのし上がってきたような“腕に覚えアリ系”ミュージカル女優たちが、ここぞとばかりにその実力を発揮したら、クイーンズの自分賛歌にはさらなるパワーが加わるはず!と確信してやまなかったのだ。
そうは言っても、若手・実力派・女性俳優が主役を張るのは難しい日本ミュージカル界である。知名度の点で分がある、ベテランや映像俳優を中心としたキャスティングをなんとなく予想していた。だが発表されたのは、知名度もあるがそれを実力が上回るソニンを筆頭に、まさに腕に覚えアリ系の12人。構想ならぬ妄想5年、理想的な形で実現するのが本当に喜ばしいし、和製クイーンズが作品の面白さを体現すると同時に実力を見せつけ、観客を圧倒する姿を見届けるのが、日本キャスト版『SIX』における個人的裏テーマである。
文:町田麻子
<公演情報>
ミュージカル『SIX』
原作:トビー・マーロウ&ルーシー・モス
演出:ルーシー・モス&ジェイミー・アーミテージ
振付:キャリーアン・イングルーユ
【楽曲リスト】
1. Ex-Wives(全員)
2. No Way(キャサリン・オブ・アラゴン)
3. Don‘t Lose Ur Head(アン・ブーリン)
4. Heart of Stone(ジェーン・シーモア)
5. Haus of Holbein(全員)
6. Get Down(アナ・オブ・クレーヴス)
7. All You Wanna Do(キャサリン・ハワード)
8. I Don‘t Need Your Love(キャサリン・パー)
9. SIX(全員)
10. The MegaSIX(全員)
■来日公演版
原作:トビー・マーロウ&ルーシー・モス
演出:ルーシー・モス&ジェイミー・アーミテージ
振付:キャリーアン・イングルーユ
【配役/キャスト】
キャサリン・オブ・アラゴン:ビリー・カー
アン・ブーリン:イナ・トレスヴァレス
ジェーン・シーモア:リバティ・ストッター
アナ・オブ・クレーヴス:ハンナ・ヴィクトリア
キャサリン・ハワード:リジー・エメリー
キャサリン・パー:エロイーズ・ロード
(オルタネイト)
アラゴン/パー:ミリー・ウィローズ
ブーリン/シーモア:エリン・サマーヘイズ
クレーヴス/ハワード:ローレン・サント=クイン
(スーパースウィング)
イジー・フォームバイ=ジャクソン
日程:2025年1月8日(水)~1月26日(日)
会場:東京・EX THEATER ROPPONGI
■日本キャスト版
翻訳・訳詞:土器屋利行
演出補:アレクサンドラ・スペンサー・ジョーンズ/西祐子
振付補:フレイヤ・サンズ/飯作絵梨子
音楽スーパーバイザー補:ケイティ・リチャードソン/田中葵
【配役/キャスト】(全役Wキャスト・各役五十音順)
キャサリン・オブ・アラゴン:鈴木瑛美子・ソニン(東京のみ)
アン・ブーリン:田村芽実(東京・愛知のみ)・皆本麻帆
ジェーン・シーモア:原田真絢・遥海
アナ・オブ・クレーヴス:エリアンナ・菅谷真理恵
キャサリン・ハワード:鈴木愛理・豊原江理佳
キャサリン・パー:和希そら・斎藤瑠希
(バンドメンバー)
キーボード:田中葵、ベース:shizupi、ギター:中村芽依、ドラム:山内楽
【東京公演】
2025年1月31日(金)~2月21日(金)
会場:EX THEATER ROPPONGI
【愛知公演】
2025年2月28日(金)~3月2日(日)
会場:御園座
【大阪公演】
2025年3月7日(金)~3月16日(日)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/six-musical/
公式サイト:
https://www.umegei.com/six/
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