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KERA CROSS 第六弾『消失』演出・河原雅彦インタビュー

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河原雅彦 (撮影/引地信彦)

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ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)の戯曲の中から選りすぐりの名作を、才気溢れる演出家たちが新たに創り上げる連続上演シリーズKERA CROSSの第六弾『消失』が東京、大阪で上演される。クリスマスの夜にパーティの計画を練る兄弟をはじめ、彼らの家に集った6名の“善意”の掛け違いが破滅を導いていくさまを描く本作。演出を務めるのは過去に『カメレオンズ・リップ』(2021)、『室温〜夜の音楽〜』(2022)と2度にわたりKERA脚本作品を手掛けている河原雅彦。稽古が進行中の年の瀬の12月下旬、河原にいまの思いを聞いた。

ナイロン100℃代表作『消失』に挑む河原雅彦が語る
同時代の異端児KERAのすごさ

『消失』は2004年にナイロン100℃で初演された。「救いもなにもあったもんじゃない……」というのが本作に対する河原の印象だという。

河原 そういう作品が僕はもともと好きなんですよね。KERAさんは、いろんなアプローチの作品を生んできましたが、救いのないものもいくつか書かれていて、その中でも、『消失』はかなりない方だなと(笑)。好きな作品ではありました。

2015年には、初演と同じキャストで再演されているが、再演が発表された際にKERAは「とうとう『消失』を再演することになった」、「11年前の初演時にはまだマシだったと思えた世の中は、今や崖っぷちに立っている感があり」というコメントを残している。
そこから、さらに9年を経ての上演となるが、河原は「さらに大変(な時代)ということですよね」(河原)と語りつつ、決してこうした厳しさを増す時代背景だけが今回、『消失』の上演を決めた理由ではないと語る。

河原 KERAさんはもちろん尊敬する先輩ではありますが、僕の思いとしては、同じ時代に演劇をやっている人間として「良いものは残っていったほうがいい」というのがあります。古典と言われているものもたくさん上演されていますが、そんな古いものだけでなく、いまも生きている作家さんが残している良い作品はどんどん上演されていったほうがいいと。このKERA CROSSという企画自体、そういう思いもあってのものだと思いますし、たまたま、この時代、このタイミングとなりましたが、特に「この時代にこの作品を」ということではなかったです。

過去に河原が演出を手掛けたKERA作品(『カメレオンズ・リップ』、『室温〜夜の音楽〜』)が、KERAの演出による初演時は、プロデュース公演であったのに対し、『消失』はナイロン100℃で上演された作品。その違いが、河原にとって今回、大きな挑戦となると感じているという。

河原 『カメレオンズ・リップ』、『室温〜夜の音楽〜』、『消失』は僕の中でパッと浮かんだ好きな作品だったんですけど、劇団公演だと、KERAさんがかなり容赦なく書いてる印象なんですよね。信頼できる阿吽の呼吸の俳優だけで、濃密なものを作れるので。預かる身としては、とても上級というか……。

KERAさんは本当に特異な作家さんで、新作の時は稽古しながら台本を書かれていて、それが定番の作家って他にいらっしゃらないと思うんですけど(笑)、おそらく都度、都度、俳優さんの様子を観察しながら、それをキャラクターに落とし込んだりしてると思うんです。単純に言うと、密度が高い、しかも『消失』は少人数で、古参の俳優さんと作られているので、最初に手を付けるにはとても……、肩を慣らしてからじゃないと一筋縄ではいかないということで、まず2作品をやらせていただいて、いよいよ『消失』をやってみようかなと。

『室温〜夜の音楽〜』であれば、バンドの「たま」さんの楽曲を使った音楽劇ですけど、それをバンドごと「在日ファンク」に変えたり僕なりのアプローチを盛り込めたし、『カメレオンズ・リップ』にもそういう部分はありました。でも、『消失』は本当に密度の高い会話劇なので。KERAさんの作品をやる時って、普段使わない神経を使う感覚なんですよ。足の人差し指って普段は意識して使わないけど、僕的にはそこを必死に神経通わせてる感じというか。

そんな、一筋縄ではいかない高難度の戯曲に挑むにあたって、河原がキャストとして選んだのは、藤井隆、入野自由、岡本圭人、坪倉由幸、佐藤仁美、猫背椿の6名。河原は「僕のアベンジャーズ」と絶大な信頼を寄せる。

河原 この人たちであれば、地球を救ってくれるんじゃないかって(笑)。作・演出(=KERA)が残しているものって、もうそれがひとつの“答え”なんですよね。作家が演出しているわけで、まごうことなき正解がすでに出ているわけです。独自色にこだわり過ぎてもなかなかいい方向にはいかない。まあ、それはそれで模索するとして、まずは作品の“髄”をしっかり押さえつつ、それでもやる人間が変わればフレッシュなものになるというのは、2本やって感じたことでした。

今回は、特別濃厚な結晶ではあるんですけど、でも稽古をやってるとやっぱり面白いんです。そこに(初演、再演に出演した)みのすけさんもいないし、大倉(孝二)くんもいなくて、藤井さんと自由くんでやっているけど、そこにふたりの味わいがちゃんとあって、すごく面白くなっています。とにかく、髄をみんなで捉えながら進めるということがとても大事だし、それは時間のかかる作業ですけど、楽しく取り組めています。

最初の話に戻っちゃうけど、やっぱり、良い作品は残していくべきだし、もったいないと思うんです。日本の演劇って、消費ばっかりされていく感じだけど、やっぱり良いものは長く上演されたほうがいいし、『消失』はそんな普遍性がある作品だと思います。

改めて、同時代の演劇人として、河原から見たケラリーノ・サンドロヴィッチとはどんな存在なのか?

河原 いまでこそ、すっかり押しも押されぬ演劇人として定着していますけど、音楽活動もされているし、もともとサブカルチャーから出てこられた方なので、それまでの演劇にない感覚を持ち込まれたひとだと思います。あの作風の豊かさも、これまでの多岐にわたった活動の礎である知識や視野の広さが大きいと思います。ナンセンスもやりますけど、本当にワケわかんないですもん(笑)。もともと異端児から始まって、長くやることでそれがひとつの王道になる――KERAさんもそういう方だと思います。

一方で、今なお新しい作風を模索されていたりもして、本当に唯一無二だなと。僕自身、KERAさんの作品を観るのは好きだけど、自分が作るものとは全然違うし、直接的に影響を受けた部分は薄いと思います。でも、当たり前ですけど、そうやって選択肢としていろんなものがあるのは良いことですし、そういう意味で、KERAさんが作品を作り続けているということに勝手に安心感を抱いているし、大変リスペクトしている演劇人のおひとりですね。

現在進行形の稽古について「3~4行おきに止まっています」、「その場、その場で変化する空気感をみんなで共有しながら進めています」と語っていた河原。実際にインタビュー後に見学させてもらった稽古では、藤井、坪倉、岡本らのシーンが行なわれていたが、ちょっとしたセリフやリアクションを何度も繰り返しつつ、ニュアンスを突き詰めていく光景が見られた。

河原曰く、登場人物たちは「全員が全員、裏で重たい何かを抱えている」、「『こんなはずじゃなかったのに……』という人たちばかり」。KERAが生み出したこの独特の哀しみを背負った人々を、河原が選んだ“アベンジャーズ”たちがどのように表現し、河原独自のどんな新たな世界を構築していくのか? 「救いのない作品とはいえ、やっぱり笑えるようになっている」という河原の言葉を信じ、完成を楽しみに待ちたい。

取材・文/黒豆直樹
撮影(河原雅彦)/引地信彦

<公演情報>
KERA CROSS 第六弾『消失』

【東京公演】
日程:2025年1月18日(土)〜2月2日(日)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

【大阪公演】
日程:2025年2月6日(木)・7日(金)
会場:サンケイホールブリーゼ

チケット情報
https://w.pia.jp/t/keracross-6/

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