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KAAT×新ロイヤル大衆舎『花と龍』 福田転球、山内圭哉、長塚圭史、大堀こういちが語る演劇の醍醐味

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インタビュー

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新ロイヤル大衆舎メンバー(前列左から:福田転球、大堀こういち 後列左から:長塚圭史、山内圭哉) (撮影:You Ishii)

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福田転球、山内圭哉、長塚圭史、大堀こういちの4人が、2017年に結成した演劇ユニット・新ロイヤル大衆舎。2021年の『王将』─三部作─に続いて、KAAT神奈川芸術劇場との共同公演『花と龍』を立ち上げる。原作は、芥川賞作家・火野葦平が自身の両親をモデルに書いた長編小説。明治時代の終わりを舞台に、船の荷役労働を生業とする人々を描く芝居は、新ロイヤル大衆舎ならではの、そして演劇だからこその楽しみに満ちたものになりそうだ。たとえば、舞台上に屋台が出て、実際に買って食べられる席を用意しているのもそのひとつ。4人が作り出そうとしている世界を、たっぷり語り合ってもらった。

花道に桟敷席も! 芝居小屋のような賑やかな空間で、力強く生きた明治の男と女を観る

──まずは、KAATとの共同公演の第2弾に、『花と龍』をやろうと思われた経緯からお聞きできればと思います。

長塚 『王将』はそもそも、新ロイヤル大衆舎の旗揚げ公演として2017年に「楽園」で上演したもので、それが非常にハッピーな公演になったんです。小さな劇場だったので道路が舞台袖になり(笑)、結果街と融合して、道行く人たちがちょっとお芝居に出会える空間になった。それで、僕がKAATの芸術監督に就任した際に、劇場入口のアトリウムに特設劇場を作って屋台も出して公演をやろうとしたのですが、コロナ禍で賑わいまでは実現しませんでした。その再挑戦に『花と龍』がいいんじゃないか、もしかしたらみんなも惹かれるんじゃないかと思って、まず3人に、「どう?」と原作を渡したのが始まりでした。

大堀 読んで、めちゃくちゃ面白かったです。脚本の齋藤雅文さんがおっしゃっていたんですけど、人間として真っ当に生きるということがストレートに書かれていて。こんなヒーローみたいな男が活躍した時代を、現代の人に見せられたらいいなと惹かれましたね。

山内 真っ当に生きるということの尊さを、今はより濃く感じますからね。自分がどうやって得するかっていうことにエネルギーを注いでいる人が多い世の中で、この物語の主人公の玉井金五郎とその妻・マンの生き方を目の当たりにして、人ってこうやって生きていくべきやなと、自分のことも鑑みました。

──その金五郎を演じられるのが福田転球さん。原作はどんな印象でしたか。

福田 『花と龍』というタイトルから男の話なのかなと思っていたら、原作は女性のマンのエピソードから始まったので、それがまず意外で。しかも、そのマンが、オッサンに水車小屋で乱暴されそうになったところ、下半身を攻撃してかわすんです。

山内 芝居には出てこない話なんですけどね。

福田 出てこないんですけど、僕はそこが大好きで(笑)。これ絶対面白いわと、そこからどんどん惹き込まれていきました。

大堀 ただ、原作の小説は上下巻ある長い話だったから、これをどう芝居にするのかなとは思いましたけど(笑)。

長塚 でも、新ロイヤル大衆舎には、“大堀さんの語り”という仕掛けがあるので。その仕掛けを使えば豊かにできる可能性があるなと。

──具体的にはどう舞台化していかれたのでしょうか。

長塚 まず脚本を齋藤さんにお願いしました。自分が脚本に起こすことももちろん考えたんですけど、僕はメンバーを知りすぎているので、どうしても“新ロイヤル大衆舎風”に寄ってしまう。そうじゃなくて純粋にこの『花と龍』の魅力を舞台に書き起こすにはどうしたらいいだろうと考えたときに、KAATの『蜘蛛巣城』(23年)で戯曲を使用させていただいてましたし、劇団新派の作演出家であり、また商業演劇でも活躍していらっしゃるので、これはその様式のなかで書いてもらうのがいいかもしれないと思ったんです。だから、新ロイヤル大衆舎のことや、人数とか予算も含めた規模など関係なく書いていただいたもので、それが逆にハードルにもなって面白くなっているんですよね。

山内 新橋演舞場を想定して書いてあるよね。

長塚 だから、KAATに花道を作ります。桟敷席もあります。賑やかな芝居小屋みたいになったらいいなと思って、舞台に屋台を出すことにもしました。桟敷と1階席が飲食可能になるので、屋台で購入したものをそこで食べていただきながら観ていただけます。

エネルギーが渦巻く明治時代を舞台に、「生きる」ことを問い直す

──原作が上下巻の長い物語であるという点は、どのように考えられましたか。

長塚 新ロイヤル大衆舎だけの公演だったら、『王将』のように三部作にしても良かったのかもしれませんが、地方公演もできることになったので、まずは上巻だけで一本の作品にしようと決めて、齋藤さんと一緒に、この作品の時代背景や物語の魅力を語り合いながら作っていきました。

KAAT×新ロイヤル大衆舎 vol.2『花と龍』チラシ

日本がまだ駆け出しのようなこの明治時代ってやっぱり魅力的なんです。日清戦争に勝って日露戦争にまさに勝利せんとしていて、その後昭和にかけて悪い方向に進んでいくわけですが、この頃はまだ、小さな国でもこんなことができるんだと活気に湧いている。石炭というエネルギーができて、主人公たちもその荷役を生業としているわけですが、まさしくエネルギーが渦巻いている状態です。そして、まだ秩序みたいなものが形成されていないから、実際に力の強い者が権力を持っている時代。そのなかで、金五郎とマンという名もなきふたりが出会って、争いごとは嫌いなのに荒々しい権力者と渡り合って、労働環境改善に動いていく。それがまた実話で、ふたりの血がアフガニスタンで用水路を開いた中村哲さんにつながっていくというのが(中村さんは火野葦平の甥にあたる)。

山内 その事実を圭史から聞いたとき、俺、震えるくらい感動しましたから。

長塚 中村さんが劇中に出てくることはないですけど、その流れを持つことはこの物語の大きな力になっていると思います。

──そんな時代を力強く生きた金五郎を、どう表現しようと稽古されていますか。

福田 正直、時代のことはよくわからないですけど、でも、金五郎が上へ上へ、前へ前へ行こうとするにあたって、マンや荷役の仲間が支えてくれているのを、稽古場で感じるんです。マンを演じる安藤玉恵さんも本当に支えて力になってくれていて、マンに対する思いが日に日に強くなっていく。稽古を重ねるって、こうやって気持ちが積み上がっていくことなんだなと、改めて思いますね。

山内 力強く生きている人を表現しようとすると形しか見えてこないけど、その世界で生きていることを稽古場で作っていくっていうことですよね。そもそも僕ら役者の面白さって、疑似体験ができることだと思うんですけど。荷役という仕事も、稽古で実際に自分の手でやっているから、仕事に対するプライドとかも感じるようになってくる。その結果、何かが匂い立って、力強さが見えてくればいいんじゃないかなと思うんですよ。

長塚 毎日毎日大変ですよ。朝早くからみんなで荷揚げして。

山内 家族と他人の境目も曖昧になっていくというか。

長塚 組があって、組のみんなで働いて飯食ってまた働く。もう家族以上の関係ですよ。

山内 だから、人とつながるって豊かなことで。人と関わることが面倒くさくなっている今の若い子たちが、人はひとりでは生きていけないんだなっていうことを、ひとつ感じてくれたらいいなと思うんですよね。

長塚 あと、上海コレラが流行してたくさん人が死ぬ話が出てくるけれども、金五郎と弟分の新之助(松田凌)は生き延びる。その死と生の狭間みたいなところを僕らもコロナ禍で経験しているから考えたと齋藤さんが仰っていて。今、演出しながら、一寸先に死があるなかで、じゃあ如何に生きるか問うことも、面白さのひとつになるなと思っています。

福田 金五郎が、夢か現実かわからないけど、生きるのはもういいかと思う瞬間があって。それこそそこは僕も、もうええかと思っても踏みとどまってもう一回前に行こう、強く生きていきたいと感じられる。そういうことも観る人に伝えられたらいいなと思います。

70人規模の舞台を18人で 嘘を本当にしていく演劇の醍醐味を味わって

──大堀さんは稽古していてどんなことを感じておられますか。

大堀 さっき圭史くんが大堀の語りがあるから成立すると言ってましたけど、そもそもこれは、齋藤さんがキャストが70人いればできるとおっしゃっていた作品なんです。だから相当な無理をしてこの世界を作っているわけで、語りですべてを説明できるのかと……。

山内 でも、『王将』でもやったじゃないですか。あれも70人規模ですよ。

長塚 そのうちの40人分くらいを大堀さんが担っていた(笑)。

大堀 今回もいろいろやるんですけどね。猫とかまで。ま、でも、その無理をエンターテインメントにするというのが今回の醍醐味でもあるような気がするので。さっき出てきたヤツが違う役で出てきたみたいなことも、お客さんの想像力で補っていただいて。

長塚 キャストが18人しかいませんから、仲間だったヤツが次のシーンでは敵になっていたりする(笑)。でも、その大いなる嘘を本当にしていくのが醍醐味だとは思います。

山内 演劇って何でも成立するから面白いんですよね。とくに新ロイヤル大衆舎をやると、自分がなんで演劇を面白いと思ったかっていうことが再認識できるんですけど。男が女を演じたり、ないものをあるものとしてやったり、演劇の醍醐味がギュッと詰まっている。それをお客さんにも楽しんでもらえたらいいですよね。

──さらに今回の公演では、2月19日(水) 14時の回で、鑑賞サポートとリラックスパフォーマンスの要素を盛り込んだ「やさしい鑑賞回」を実施されます。リラックスパフォーマンスというのは、発達障害のある方など、従来の劇場空間では不安がある人たちも安心して鑑賞できるように配慮された公演形態で、そのリラックスパフォーマンスと、これまでも取り組んできた鑑賞サポート、両方の要素を取り入れて、多くの方が一緒に楽しめる公演をKAATは目指しているそうですね。KAATでは初の試みになるそうですが、長塚さんからその取組みについてもお話しください。

長塚 新ロイヤル大衆舎ならフレキシブルに対応できるかなと思って、これを最初のトライアル公演にしました。もしかしたら、子ども向けの劇やもっと短い時間の劇のほうが、実施には向いているかもしれないんですけど、普通にお芝居を観たかった方たちにとっていい機会になればいいなと思っています。配慮としては、真っ暗にしない、音量を抑える、上演中に声が出たり体を動かしてもいい、寝て観ていい席もあるといったことがあります。出入りも自由で、苦しくなったら外に出て、モニターで鑑賞してもいいですし。視覚・聴覚に障害がある方は機器が使えます。今回は飲食可能な空間になっているので、その自由さともマッチすると思うんです。それと同時に、サポートを必要としない方も一緒に観ることがあればいいなと僕は思っていて。さっきもお客さんの想像力で大嘘が成立するという話がありましたけど、いろんな人が同じ空間で観ることで豊かなものが生まれて劇場のエネルギーを感じて、それが喜びになる気がするので。

大堀 あと、キャスティングについても若い人とやりたいんだけどって言ってたよね。

山内 そう。俺らもう先輩に頼るのではなく、若い子とやっていかないといけないんじゃないかって。それは俺もハッとした。先輩とやるほうが刺激をもらえるけど、もらうばかりでどうすんねんと。

長塚 それについては今日思ったんだけど、僕ら下は49歳上は61歳というメンバーですよ。それが毎日フル回転して、若い子たちと一緒に芝居をやれているというのは、中年の夢だなと(笑)。

福田・山内・大堀 (爆笑!)

長塚 これは幸福だなと感じた。こうやって若い世代の人たちと、演劇を面白がれて、それを共有できる時間を持てるっていうのが。若い世代にとってもこれが、これから自分たちもいろんなことやっていけるぞと思ってもらえる力になったらいいなと思うんです。

山内 結局、人のつながりなんです。『花と龍』もそういう話なんですよ。

取材・文:大内弓子 撮影:You Ishii

<公演情報>
KAAT×新ロイヤル大衆舎 vol.2
『花と龍』

原作:火野葦平
脚本:齋藤雅文
演出:長塚圭史
音楽:山内圭哉

出演:
福田転球 安藤玉恵
松田凌 村岡希美 稲荷卓央 北村優衣
森田涼花 成松修 新名基浩 大鶴美仁音 坂本慶介 北川雅
馬場煇平 白倉基陽 永真
山内圭哉 長塚圭史 大堀こういち

2025年2月8日(土)~2025年2月22日(土)
会場:神奈川・KAAT神奈川芸術劇場<ホール>

(ツアー公演)
【富山公演】
2025年3月1日(土)・2日(日)
会場:オーバード・ホール 中ホール

style="font-size:12pt;" 【兵庫公演】
3月8日(土)・9日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

【福岡公演】
3月15日(土)・16日(日)
会場:J:COM北九州芸術劇場 中劇場

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2455789

公式サイト
https://www.kaat.jp/d/hanatoryu

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