一色洋平と山口乃々華に聞く“死を恐れるヒーロー”の物語。音楽劇『愛と正義』が描くもの
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左から)一色洋平、山口乃々華(撮影:石阪大輔)
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すべて見る「範宙遊泳」の山本卓卓の新作を、元「劇団子供鉅人」の益山貴司が演出する異色作。KAAT神奈川芸術劇場主催による本作は、ヒーローたちの苦悩や葛藤を、音楽劇の形で描き出す。そこで主人公のコチを演じる一色洋平と、コチの妻・ソチ役の山口乃々華に、作品への想い、またここまでの稽古の手応えなどを聞かせてもらった。
“ヒーローもの”という非日常性に同居する日常性
――かつてないほど新鮮でユニークな組み合わせが実現しました。今回のお話があった時の心境は?
一色 最初にいただいた企画書から、すでに面白さがプンプン香ってきました。脚本の(山本)卓卓さんはすごく独創的な世界観をお持ちの方ですが、それを演出なさるのが益山(貴司)さんというまた違った独創的な世界観をお持ちの方で。このおもちゃ箱に混ぜてもらえるのは、演劇人として本当に光栄だなと思いました。
山口 私は勉強不足でおふたりのことをあまり存じ上げていなかったのですが、企画書を拝見した際に、なんだか楽しそう、と思いました。また『愛と正義』というタイトルが、小難しさとか、絶対に理解出来ないようなものではない、その遠過ぎない感覚に惹かれて、ぜひやらせていただきたいと思いました。
――“ヒーローもの”ではありますが、山本さんの脚本だけあってひと筋縄ではいかない内容ですね。
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一色 僕は最初に読んだ時、“優しいSF”というのがまずパンと思い浮かびました。ヒーローをどう描くのかと思っていたら、自身のことを後回しにする人ばかり出て来る。確かにヒーローってそういう立場にありますよね。でもそんな僕演じるコチが、乃々ちゃん演じるコチの妻・ソチのおかげで初めて自分の命を見つめ直す。卓卓さんからも、「ちゃんと死を恐れてください」というリクエストがありました。
山口 ヒーローものということで非日常的な部分もありつつ、日常的に感じる部分もあるお話だなと思いました。ヒーローたちが名言のようないい言葉を発するシーンがありますが、それも現実離れしておらず、ちゃんとリアルに生きている人間が、いろいろな思いを抱えた上で戦い、発している言葉なんですよね。作品の印象としては、“壮大であり近い”みたいな。だからこそ共感出来る部分がたくさんあると思います。
一色 確かに! “壮大であり近い”っていうのは、本当に言い得て妙だと思います。
――改めてご自身が演じるコチ、ソチについて、どんな人物として現段階では捉えていますか?
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一色 表面張力でなんとか保っていたコップの水が、ツンとソチがやってくれたおかげでタラタラッとこぼれていく。それが冒頭のシーンのコチであり、そこから始まっていく物語なのだと思います。そして序盤にコチが言う「疲れた」という台詞。これは非常に重要だと考えています。
山口 ソチはすごく愛の人というか、柔らかくて、優しくて、ちょっと達観している。そんな人だと思っていました。でも益山さんから、「もっと大人で、強く、感情をバンと激しく出すような人にして欲しい」というオーダーを受けて。今はまだ考え中ですが、コチが好きだからこそ、守りたいからこそ強い。そしてそれによって感情が怒りに向くこともある。そんなふうに作っていけたらいいのかなと思っています。
「〇〇と〇〇」の「と」が表す、“対立”以外の選択肢
――コチとソチに大きな変化を与えるのがウチ、そしてアクです。ふたりにとってどういう存在なのだと思いますか?
一色 まずはウチとアクのふた役を演じられる坂口(涼太郎)さんがとにかくうまいです! いわゆるヒール(悪役)ではありますが、坂口さんのある種独特な孤独によって、訥々と台詞を読んでいるだけでちょっと泣きそうになる。今回益山さんが「これを絶対にエンターテインメントにします」とおっしゃっていて、その演出はとてもありがたいのですが、坂口さんのようにその人から香るものを大事にしないと、卓卓さんが書いてくれた人間は表現出来ないと思っています。
山口 ソチはウチのことは本当に嫌いで、ただただ嫌だ!と思いながら接していると思います。ただアクは結構本当のことをしゃべってくれるので、アクの言うことを聞いておくと筋が見えるというか。そしてやっぱりこれを巻き起こしているのはアクであり、この作品の中心にいる存在なのだと思います。
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――『愛と正義』というのは非常に直球なタイトルですが、この作品だからこそどういったものがお客様に伝えられるのではないかと思いますか?
一色 「〇〇と〇〇」の「と」って、「VS」みたいな使われ方をすることもあると思うんです。でもこの作品においては対立するものではない、そして二者択一ではない、ない混ぜにすることが出来るものだと思っていて。そして受け入れるしかないことって世の中にいっぱいあると思うんですが、受け入れるしかないことを受け入れる。それがスタート地点になる作品なのかなと思います。
山口 私はこの『愛と正義』を言い換えるとしたらなんだろうってずっと考えていて……。
一色 確かに稽古していると言い換えたくなるよね。このタイトルは結構僕らにとっても手がかりになっていて、言い換えることでグッとシーンに入りやすくなったりするので。
山口 まさに! 私が言いたいことを一色さんがすべて言語化してくださる……。 と言いつつまだ私の中では答えが見つかっていないので、私自身謎解きをするように、これからの稽古を重ねていけたらと思います。
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取材・文:野上瑠美子 撮影:石阪大輔
<公演情報>
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
音楽劇『愛と正義』
作:山本卓卓
演出:益山貴司
音楽:イガキアキコ
振付:黒田育世
出演:
一色洋平 山口乃々華 福原冠 入手杏奈 坂口涼太郎
大江麻美子(BATIK) 岡田玲奈(BATIK)
2025年2月21日(金)~2025年3月2日(日)
会場:神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 <中スタジオ>
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2556945
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