風間俊介「のたうち回って作り上げたい」 新作『フロイスーその死、書き残さずー』でこまつ座初出演に挑む
ステージ
インタビュー

風間俊介 (撮影:You Ishii)
続きを読むフォトギャラリー(6件)
すべて見る内乱の続く戦国時代の日本でキリスト教の布教活動に努め、貴重な資料となる『日本史』を執筆したことで有名な宣教師ルイス・フロイス。井上ひさしの書いた評伝小説『わが友フロイス』と同じく、フロイスを題材に、井上を師とする劇作家・長田育恵の書き下ろした完全オリジナル作品が、こまつ座の新作公演として登場する。主人公フロイスに扮するのは舞台、映画、テレビドラマ等数々の作品に出演するほか、情報番組のパーソナリティーなど活躍の場を広げている俳優、風間俊介。こまつ座初出演、そして演出を担う栗山民也との“再会”を心待ちにしているという風間に、新作舞台にかける思いを聞いた。
台本の、奥行きの広さに恐れ慄きました

――こまつ座の作品に初登場ですね。主に井上ひさし作品を上演するこまつ座の舞台にどのような印象をお持ちでしたか?
人間の剥き出しの感情を見せることで、つねに真理に触れる……そんな印象でしょうか。剥き出しがゆえに汗の匂いだったり、泥臭さといったものを感じるのだけれども、それが美しいと思える瞬間がある……というのが、勝手ながら僕の中ではイメージとしてありますね。こまつ座さんは多くの役者たちが憧れる場所でもあります。今回は演劇全体に受け入れてもらえたような、そんな気持ちにさせてくれる挑戦だなと思っています。
――今回の作品は、井上ひさしさんが小説『わが友フロイス』で描いた人物、戦国時代の日本で布教活動に努めた宣教師ルイス・フロイスを題材に、劇作家の長田育恵さんが書き下ろした完全オリジナル作品です。
台本を読んで、すごく面白くて心が動かされたのと同時に、その奥行きの広さに恐れ慄きました。最初に読んだ時の理解度は20%にいかないくらいかなと思ったんですけど、日が経つごとに、物語はわかるけれど、この作品の本当の奥行きという意味では、もしかしたら10%にも辿り着いていないんじゃないかなと。どの角度でこの登山を始めたらいいのか、今の段階ではわからなくて。なので、演出の栗山さんと早く会いたいなと思っています(笑)。歴史上の人物なので学問としての資料は山ほどあるとしても、そこに生きる人たちの感情のうねりだったり、確かにそこに人がいたという手触りみたいなものは、やはり資料では探れないんですね。僕も過去に本やドキュメンタリーなどで“隠れキリシタン”といったワードは触れてきたけれど、この台本を読んで、ここまで生々しく感じ取れたことは今までなかったんです。その時代、その場所には人がいて、その人たちの匂いや手触りがあって然るべきなんですが、急にその気配が立ち上がってきたように思いました。
――長田さんの書かれたフロイスを演じるのは「風間俊介さんだ」と、栗山さんが思われたのでしょうね。
いやあ、どうなんですかね。以前、舞台『恭しき娼婦』(2022年上演)で初めて栗山さんと一緒に作品を作らせていただいた時は、なんて幸せな時間なんだろう!と思ったんですよね。栗山さんは多くを語る方ではないけれど、稽古場でおっしゃる一言一言に愛が溢れている人だなと感じました。その時の舞台では僕の中に反省点や課題みたいなものがたくさん残ったので、またこうしてお仕事をご一緒出来るチャンスをいただけて嬉しいです。でもきっと今回も、「俺、やり切ったぜ!」とはならなそうな気はしているんですよ(笑)。やり切ったと思う時というのは何か傲慢さを感じるし、たぶん、もっと頑張れたかもしれない、もっとこうしたら良かったかもしれないと思う時のほうがいいのだろうなと。もちろんお客様には「これが私の、この作品のベストです」と言えるものをお届けしますが、それはその時のベストであって、後で振り返ったら、もうちょっとこうしたら……ということが山ほど出てくる公演になるんじゃないかなと。栗山さんとのお仕事では、その気持ちがとくに強く出るような気がしています。

――稽古が進む中で、フロイスという役を与えられた意味を、知る瞬間が来るかもしれない?
そうですね。ただ、僕個人の意見ですけど、「この役はこの人じゃなければ出来なかった」ということはないと思っているんですよ。僕がやらなかったら他の誰かがやっただろうし、それでいいと思いますし。「この人じゃなきゃダメ」という作品には、むしろ幅がないですよね。「他の誰かがやったらこうなる」というふうに形を変えていけるのが、演劇でありドラマであって。配役とはそういうものだと思います。でも、誰かがやったとしても素晴らしい作品になるであろう、この作品に、結果的に自分が出ることになった。このフロイスという役を、僕にしか出来ないものとして捉えるつもりはないけれど、僕がやったからこうなった、という形を見せられたらいいなと思っています。
謎に包まれたフロイス自身の感情を探して
――お話を伺っていて、考え方や謙虚な姿勢が宣教師というキャラクターにとても合っているなと感じます(笑)。
本当ですか(笑)? でもここに出てくるフロイスという人は、とても難しいんですよ。彼の使命だったり、教えの正しさ、教えに沿った人生の解き方といったものは描かれているけれど、フロイス自身の感情についてはびっくりするくらい書かれていないんです。使命に向かうなかで、求めていたものが足りなかったり、うまくいかないことに対する憤りなどは感じますが、彼自身がどういう人なのかというのは……僕が読み取れていないだけなのか、むしろ、その使命自体がこの人自身なのか、今の段階ではまったく見えて来ないんです。『日本史』という素晴らしい歴史書を書き遺したけれど、自分のことは一切書いていない(笑)。大変な作品だけど、演者たち全員でのたうち回って作り上げたいなと思います。のたうち回るエネルギーが、きっとその時代のうねりに変わってくれるのではないかなと期待していますね。


――映像のお仕事でも活躍されていますが、ご自身の中で舞台という場をどう考えていらっしゃいますか?
これも僕個人の考えですが、映像の仕事は、お客様と同じように観客席に座ることが可能なんですよ。自分も客観的にお客さんとして観ることができる。でも舞台では、それは一生叶わないことですよね。昨今は舞台の配信とかオンラインのものが増えて来て、それはそれですごく発展性があると思いますが、それ故に、アナログが贅沢品となっているのを感じます。お芝居をやっている人のところに人が集まり、お芝居を観る。一番シンプルな演劇というものが、一番の贅沢品に変わろうとしている。デジタルが反映している世の中だからこそ、なんて贅沢な時間なんだ!と、その幸せを享受できるものが演劇かなと思います。

ただ、僕は演劇も映画もテレビも全部好きだから、優劣をつけたくないんですよ。全部の客席に座ったことがあって、全部素敵だと思っているので。なので、これは僕のワガママですけど、いいバランスでどのお仕事も続けていきたいですね。
――この新しい挑戦で、多くの観客に“贅沢な時間”を味わわせていただけると期待しています。
皆が底抜けに元気になる物語、明日からやるぞ!と思える作品も素晴らしいけれど、悲しみに寄り添ったり、自分は人生をどう生きたいのかなと立ち返らせる力を持った演劇も、僕はすごく意義のあるものだと思っていて、どうやらこの作品は後者になりそうな気がしています。何も考えたくない、楽しいものだけ食べていたいという人にはお勧めしないけど(笑)、このインタビューを最後まで読んでくれた人はたぶん、ちゃんと咀嚼してちゃんと血肉にする人だと思うんです。そんな貴方には絶対に客席に座ってほしい、この芝居を目撃してほしいと僕は思っています。
取材・文:上野紀子 撮影:You Ishii
<公演情報>
こまつ座 第153回公演『フロイス-その死、書き残さず-』
作:長田育恵
演出:栗山民也
出演:風間俊介 川床明日香 釆澤靖起 久保酎吉 増子倭文江 戸次重幸
【東京公演】
2025年3月8日(土)~30日(日)
会場:紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYA
【兵庫公演】
2025年4月5日(土)
会場:兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
【岩手公演】
2025年4月12日(土)
会場:奥州市文化会館(Zホール)大ホール
【群馬公演】
2025年4月16日(水)
会場:高崎芸術劇場スタジオシアター
【宮城公演】
2025年4月18日(金)
会場:仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール
【大阪公演】
4月25日(金)・26日(土)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2456303
こまつ座 公式サイト:
https://www.komatsuza.co.jp/
フォトギャラリー(6件)
すべて見る