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革命児ボブ・ディランの凄さを体感! ティモシー・シャラメ主演『名もなき者』──【おとなの映画ガイド】

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『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』 (C) 2024 Searchlight Pictures.

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米アカデミー賞の主要8部門にノミネートされた『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』が、2月28日(金)、日本公開される。20世紀を代表するアーティスト ボブ・ディランが、1961年に彗星のごとく現れ、65年に衝撃的なライブを行うまでの約5年間を、時代背景を交えながら描く。主演はティモシー・シャラメ。名曲『風に吹かれて』をはじめ、全ての楽曲を自身で歌っているが、その歌声、姿、かもしだすオーラは、まるで若き日のディランがそこにいるようだ。

『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』

ボブ・ディランといえば、あのしゃがれ声と突き放したような歌い方を想起する。『風に吹かれて』を初めて聴いたとき、20歳そこそこの若者の歌だとはとても思えなかった。きれいな声で歌うピーター・ポール&マリーのカバーの方がずっと耳触りがよかった。そんなふうにある種の違和感を持った人はいたと思う。いまから考えると、あの声で世界をつかんだ、といえるのだが。

2016年に彼がノーベル文学賞を受賞したとき、吉田拓郎は「ボブ・ディランがいたから今日があるような気もする。多くのことがそこから始まったと僕は思うのだ」とコメントした。1960年代初頭、ミュージックシーンに突然現れ、混迷と激動が渦巻くアメリカで、「時代は変る」と歌った彼は、世界中のミュージシャンや若者たちにとってのあこがれ、生きる指針のような存在となった。

この映画は、そのボブ・ディランというスーパースターが、1961年にヒッチハイクでニューヨークにたどり着いた19歳のときから、ニューポート・フォークフェスティバルで衝撃的なライブをするまでの、初期5年間を描いている。『時代は変る』や、代表曲の『風に吹かれて』『ライク・ア・ローリング・ストーン』など、伝説の歌が生まれる歴史の現場が再現される。

描かれているディラン像は、ナイーブな感性の持ち主。だが、あの独特な歌い方をはじめ、どうすれば目立つか、自己プロデュースするしたたかな一面も垣間見られ、通り一遍の伝記映画ではない。

自信家で、天衣無縫。フォークの女神といわれたジョーン・バエズ(モニカ・バルバロ)との恋も描かれているが、ディランは、あの『ドンナ・ドンナ(ドナドナ)』に代表される透き通ったバエズの歌を「歯医者の壁にかかっている絵」といい放ったりする。

そんな彼を、ティモシー・シャラメが演じた。『君の名前で僕を呼んで』でブレイクし、『DUNE/デューン 砂の惑星』で人気を不動のものにした俳優。本作をドラマチックなドキュメンタリーのように魅せているのは、シャラメの卓越したパフォーマンスにある、といってもいい。

パンデミックやハリウッドのストライキが影響し、撮影入りが延び延びになった5年間に、シャラメは絶え間ない訓練を続けて、歌唱だけでなく、ギターとハーモニカまでマスター。ライブのシーンから、作曲しながら口ずさむ場面まで、すべて実際に彼自身が歌っている。その再現力は、ボブ・ディランが自身のSNSに「ティミーは卓越した俳優だから、きっと完璧に信憑性のある私になっているにちがいない」と投稿したほどだ。

映画の前半は「名もなき者」だったディランが名声を勝ち取るまで。後半は、彼のミュージシャンとしての孤独な闘いが描かれる。

成功したミュージシャンにありがちなことだが、大ヒット曲があると、どうしてもそのイメージに縛られる。業界もそれを期待する。しかし、ディランが思いを馳せていたのは、もっと違う地平線だ。

“フォークのプリンス”、“フォークソング運動のリーダー”と称賛されるが、「彼らは僕にずっと『風に吹かれて』を歌い続けてほしいのさ」と反抗し、ロックに傾斜していく。

1965年のニューポート・フォークフェスティバルは、この映画のクライマックスだ。トリに登場したディランは、新曲の『ライク・ア・ローリング・ストーン』をロックバンド編成で歌うが、伝統的なフォークソングを期待した聴衆とフェスの運営者たちだけでなく、かつて自分をひきあげてくれたピート・シーガー(エドワード・ノートン)たちからも総スカンをくらう。

映画では、フォークソングの歴史上、伝説とされるこの事件の、裏側も含めた一部始終が再現される。

なにものにも縛られず、自由でありたいと考え、恋人や影響をうけたさまざまなひとたちとの決別を覚悟し、「遠くまで行くんだ、ひとりで行くんだ。」そう決意した若き日のボブ・ディランの、いうなれば「青年は荒野をめざす」映画。監督は『フォードvsフェラーリ』の名匠ジェームズ・マンゴールド。

かつて彼の歌や生き方に衝撃を受けた世代はもちろん、できれば、若いひとたちに観てほしい1本だ。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C) 2024 Searchlight Pictures.

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