万能グローブガラパゴスダイナモス×ゴジゲン×小山田壮平『見上げんな!』――インタビュー:松居大悟×多田香織――『見上げんな!』は「人生の伏線回収のような作品」
ステージ
インタビュー

左から:松居大悟、多田香織 (撮影/関 信行)
続きを読むフォトギャラリー(5件)
すべて見る福岡市民ホール開館記念公演として4月4日から福岡、大阪、東京の三都市で上演される『見上げんな!』。福岡を拠点に活動する万能グローブガラパゴスダイナモス(以下、ガラパ)の川口大樹が脚本、福岡で育ち東京で活躍する劇団ゴジゲンの松居大悟が演出。さらにandymori解散後、福岡で暮らす小山田壮平が音楽を担当する。この福岡づくしの公演について、演出の松居と、かつてガラパに所属し、今作に出演する俳優・多田香織(ひなた旅行舎)のふたりに話を聞いた。
時が来た。17年来の関係の二劇団がタッグ
──松居さんと多田さんのおふたりは、いつ頃からのお知り合いですか?
松居大悟(以下、松居) 万能グローブガラパゴスダイナモスの主宰で今作にも出演する椎木(樹人)、脚本の川口(大樹)くんとは、僕が劇団ゴジゲンを作る前に出会ってるんですよ。で、ゴジゲンを旗揚げした後、2009年に福岡公演を北九州でやって(第5回公演『たぶん犯人は父』)。同時期にガラパがやっていた『ボスがイエスマン』に多田ちゃんが出ていたことは覚えています。
多田香織(以下、多田) そうですね。劇場で椎木さんと松居さんが話していた記憶があります。
松居 でも多田ちゃんと直接話したのはかなり後になってからだよね。

──お互いの団体の印象は?
多田 登場人物がわちゃわちゃしているという点で、ゴジゲンとガラパは一見、似ているように見えるんです。でも、ガラパはそれぞれの思惑や主義主張がからみあって物語が転がっていくのに対して、ゴジゲンの作品には人間観察の面白さがある。実はかなり違うのかなと思います。
松居 実際に今、川口くんの執筆過程を見ていると、「お客さまを楽しませたい」という目的は同じだけど、僕とは作り方が真逆だなと思います。川口くんは役の配置と思惑をまず全部整えて、動かしていく。動機ファーストなんです。僕はテーマを決めたらそれをひたすら掘り下げて、そこにどういう人が必要かを考える。だから、今回そんな川口くんの脚本をどう演出しようか、今から楽しみで。
多田 本当ですね!

松居 多田ちゃんについて言うと、ガラパの作品の中でもよくテーマやストーリーを背負っていた印象があって。だからわりとガラパの中でも「物語の筋を通す人」という感じで、コメディを作っている僕とは近いようで交わらないのかなと思っていた。でもこういう機会があって嬉しいですね。多田ちゃん、川口くんの脚本作品に出るのはガラパをやめて以来でしょ? なんでやろうと思ったの?
多田 ケンカ別れするようにやめたわけではなかったですし、福岡に帰ったときにはメンバーと会ったりもしていました。さらに距離を置いて時間も経ったことで、本当に純粋にガラパの作品を楽しめるようになって。いつかまた一緒にやりたいねと言い合っていたのが実現した感じです。
松居 椎木も、飲むたびに「一緒にやりたい」と言っていたけど、福岡市民ホールで、小山田壮平くんも巻き込んでというのは僕らだけではできないことだから。「時が来た」という感じはあるよね。
福岡と東京が混じり合うことで生まれるもの

──松居さんは、脚本について川口さんと相談しているとのことでしたが。
松居 川口くんの壁打ち相手というか。脚本に煮詰まったときに電話で悩みを聞いて、解決法を話したり、一緒になって「わかんないね」と言ったり。そんなことを2時間くらい続けて、川口くんが「そういうことか」と勝手に解決したり。
多田 面白い(笑)。
──「東京で暮らす駆け出しの映像作家に故郷・福岡でのMV監督の依頼が届くが、バンドが解散状態」というあらすじは、MV監督でもある松居さん自身にも重なります。どんな作品になりそうですか?
松居 今回、せっかく福岡で頑張っている人と、僕らのように東京に行った人とが混じり合うから、福岡と東京の距離感が伝わるような、哀愁を感じられるようなものがいいよねという話は最初からしていました。開館記念だけど、終わりの匂いがする話にしようと。
川口くんと話してみたら、お互いに抱えているものがあるんですよ。九州で頑張っている側からしたら「東京は演劇人口が多いから羨ましい」という気持ちがあるし、僕らは僕らで福岡に対して惹かれる思いや後ろめたさがあったりもする。それらを作品で笑い飛ばせたらと思いますね。
多田 途中までの脚本を読んでみて、まさにガラパとゴジゲン、そして小山田さんの三者が混じり合うお祭り公演にふさわしい、熱い作品になりそうだなと思いました。
松居 「福岡」「演劇」という共通点はあるけれど、キャストもスタッフもそれぞれ出自や方法論が違う。そんな人たちが集まったら、何かが生まれる気がしていて。小山田くんとも僕が福岡に帰ったときに集まって打ち合わせを何度かしていて、歌はもうかなり仕上がっています。
多田 松居さん×川口さん×小山田さんの組み合わせは、最初で最後かもしれない。このスペシャルな公演の儚さを一緒に体験いただきたいですよね。
松居 『見上げんな!』は、羨ましさや悔しさを持ったことのある人なら楽しめる作品だと思います。そして最後に小山田くんの音楽があるから、どうなったって大丈夫という保証がある(笑)。
──最後に、福岡から東京に出てきたおふたりにとって、福岡のいちばんの思い出を教えてください。
多田 一番かはわからないけど、思い出すのはファミレスのジョイフルですね。10年前に上京しているから、福岡の思い出は20代で止まっているんです。ガラパにいた頃、まだ事務所もなかったからひたすらみんなでジョイフルに溜まっていたなって。
松居 いいな、そういうの。僕は母親がめっちゃ演劇が好きで、福岡に来る公演によく連れて行ってもらっていたんですよ。三谷幸喜さんの『アパッチ砦の攻防』『笑の大学』とか、G2さんの『MIDSUMMER CAROL』とか。そのたびに、「テレビでも映画でも本でも得られない面白さだ」と衝撃を受けていたんですが、中でも阿佐ヶ谷スパイダースの『ポルノ』が印象的で。市長選挙の話だったんですけど、ビラがバーッと客席に落ちてきた瞬間、「演劇ってすごい」と強く思った。それが今の人生のきっかけになっているから、『見上げんな!』も誰かにとってそういう作品になったらいいなと思います。

取材・文/釣木文恵
撮影/関 信行
<公演情報>
万能グローブガラパゴスダイナモス×ゴジゲン×小山田壮平 『見上げんな!』
【福岡公演】
2025年4月4日(金)~6日(日)
福岡市民ホール 中ホール
【大阪公演】
2025年4月17日(木)~20日(日)
近鉄アート館
【東京公演】
2025年4月24日(木)~27日(日)
新国立劇場 小劇場
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/miagenna/
フォトギャラリー(5件)
すべて見る