Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 監督が語る映画『TATAMI』。緊張感みなぎる傑作はこうして生まれた

監督が語る映画『TATAMI』。緊張感みなぎる傑作はこうして生まれた

映画

ニュース

ぴあ

『TATAMI』撮影中の模様

続きを読む

フォトギャラリー(6件)

すべて見る

関連動画

すべて見る

女子柔道の世界を舞台に、政治的な駆け引きに巻き込まれてしまった選手とコーチの緊迫のドラマを描く『TATAMI』が28日(金)から公開になる。

本作には複雑に絡み合う国際情勢や人権やスポーツに人生をかける者たちへの真摯なメッセージが込められているが、まず何より映画として圧倒的に完成度が高く、その洗練された語り、俳優陣の演技から生み出される緊張感に圧倒される。この極めて志の高いサスペンスエンターテイメントはいかにして誕生したのか? 本作では出演と監督を務めたザーラ・アミールに話を聞いた。

物語の舞台はジョージアのトビリシで開催中の世界柔道選手権の会場。イラン代表のレイラ・ホセイニは金メダルを目指して順調に初戦を突破。元柔道選手で現在はコーチのマルヤム・ガンバリのサポートもあり、レイラは次の試合も一本勝ちを決めて三回戦に駒を進める。しかし、マルヤムにイランの柔道協会の会長から「レイラ・ホセイニ選手を棄権させてほしい」との電話がかかってくる。

イランとイスラエルは敵対国だが、このままレイラが勝ち進めば、決勝でイスラエルの選手と戦う可能性が出てくる。だからレイラを棄権させろ……これが政府からの一方的な命令だ。マルヤムはレイラを説得しようとするが、初の世界王者を目指すレイラは聞き入れない。説得を試みるマルヤム、何があっても試合に出ようとするレイラ、そしてレイラの家族の元と会場にはイランの工作員の姿が……。刻一刻と時が過ぎ、大会が進行する中、レイラとマルヤムは決断を迫られる。

ザーラ・アミール監督 photo by Kris Dewitte

本作でコーチのマルヤム・ガンバリを演じたザーラ・アミールはイランで生まれ、2008年にフランスに亡命した俳優だ。『聖地には蜘蛛が巣を張る』でカンヌ映画祭女優賞に輝くなど俳優活動で高い評価を集める一方、自身の制作会社を率いてフィルムメイカーとしても活動している。当初、アミールはコーチ役とキャスティングなどを担当する予定だったが、ガイ・ナッティヴ監督から共に監督することを提案されたという。

「チームが一生懸命になってひとつの仕事に取り組めば、良い結果になると初めから信じていました。でも、本作はとても低予算の作品で、撮影も25日しかありませんでした。この期間でパーフェクトな結果を出すには関わっている全員が協力をして作品に取り組む必要があり、私とガイがそれぞれ監督として持ち場を分けなければならかったのです。彼が撮影するパート、私が撮影するパートを分けて取り組み、私が演じている場面はガイが監督をしましたが、カットがかかるとモニターで自分の演技をチェックしていました。それはとても複雑なプロセスではありましたが、お互いに分け合いながら仕事をしていった結果、映画が完成したわけです」

物語は止まることなく常に状況が動いていき、カメラはレイラとマルヤムの姿を追い続ける。ふたりはある時は“選手とコーチ”であり、ある時は“柔道の道をいく先輩と後輩”であり、ある時は“対立するふたり”になる。お互いの行動が相手に影響を与え、揺さぶり、そして対峙するべき壁になる。彼女たちを演じた俳優ふたりの化学反応が本作の最大の見どころだ。

「レイラを演じたアリエンヌ・マンディはとても協力的な俳優で、撮影前から本当に柔道をやるために何か月も練習をして、実際の撮影ではジョージアのプロの柔道選手を相手にしたのです。練習はLAで行われたのですが、私も彼女が練習している場所にはずっと足を運んでいました。そこで私は彼女の柔道コーチがどういう指導をするのか? どういう仕草をするのか? ずっと観察していましたし、この段階から私はアリエンヌのことを観察することができたわけです。

彼女はアメリカで生まれ、アメリカで育っているのでペルシャ語が上手なわけではありません。でも彼女は普通のイラン人のようにペルシャ語を喋れるようになろうとすごい努力をするし、本当に勉強家で、いろんなことを学び取ろうとする力のある人でした。彼女は撮影中も『もし、カメラの前で何かミスしていることがあれば、どんなことでも言ってほしい』と言ってくれましたから、私は彼女と共に行動して、一緒に演技をして、ペルシャ語が少し違う時は“こんな感じに喋ると自然だよ”とか会話しながら演技ができました。おそらく私たちはお互いに息が合っていたのだと思います」

本作の語りはとても洗練されていて、重厚なドラマを描きながら、緊張感の途切れないサスペンスのような時間が続く。

「カメラはとても重要な要素でした。本作の撮影監督はドキュメンタリーや短編を手がけてきた人で、長編映画を撮るのは初めてだったんです。でも、ふたりの関係の変化や状況をとてもよく理解していて、ペルシャ語を理解していないのに、どこでカメラが近づけばいいのか? どこで離れるべきなのか? 本当にうまくやってくれました。私としてはアリエンヌと私と撮影のトッド・マーティンの3人でひとつの画をつくっていった印象です」

観客は単に“レイラはどうなってしまうのか?”を見守るだけでなく、彼女とコーチの感情の変化や駆け引きをつぶさに観ていくことになるだろう。

「この物語では忙しく物事が過ぎていきますから、レイラもマルヤムも自分たちの気持ちをわかりやすく表に出す暇はないんです。ふたりは政治的なプレッシャーにさらされていて、世界的な試合会場ですから周囲にはたくさんのカメラがあり、そこでは自分を制御することが求められます。レイラとマルヤムはお互いに嘘を言い合っていますし、ふたりは“国の代表”として会場にいるわけですから当然のように石のような表情を浮かべることになります。つまり、本作は設定的に“自分の感情を表に出すことができない”のです」

彼女たちは何を考えているのか? 何に迷い、怯え、何を乗り越えようとしているのか? そして、彼女たちが最後に下す決断は? 観客の想像力が常に刺激され続ける103分。人間の内面を直接描くことのできない映画だからできる、常に流れていく時間と共にある映画でしか描けない傑作の登場だ。

『TATAMI』
2月28日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開
(C)2023 Judo Production LLC. All Rights Reserved

フォトギャラリー(6件)

すべて見る

関連動画

すべて見る