Text:石角友香 Photo:kondohmidori
VINTAGE ROCKとぴあがタッグを組み、今見て欲しいアーティストラインナップで届けるオムニバスイベント『FUTURE RESERVE』。その6回目がarko lemming(アルコ レミング)、SAGOSAID(サゴセッド)、秋山璃月(アキヤマリツキ)の3組で、2月20日に下北沢・近松で開催された。それぞれ異なるジャンルと個性を持つ3組だが、人や時代に媚びないスタンスがどこか共通していた。
一番手はシンガーソングライターの秋山璃月が弾き語りスタイルで登場。一度はメジャーデビューしたものの、自分の意思とペースで活動するためにインディーズに戻ったが、自発的に作品を送り出せる時代背景もあり、音楽主体でリスナーを拡大している。昨年は「SUMMER SONIC」やあいみょんの対バンツアーにも出演。そして対バンのコールはトモフスキーや豊田道倫、奇妙礼太郎ら枚挙にいとまがない。
いきなりステージに現れ、一言も発さずに歌い始めたのは「帰り」と題されたごく小さく歌うモノローグのような曲。その場で生まれた感情をダイレクトに発する歌とギターに音量の大小は関係なく、オーディエンスは全身の感覚を開いて見入っている。長い前髪に隠れているが、少年性が溢れだす甘さとストイックさが同居する歌は表情以上に雄弁だ。間髪入れずにタイトル通り行動に移す前にこねられる理屈に思い当たるフシがある「偏見」、短く謝辞を述べ、代表曲「勝手な彼女」へ。音源ではバンドアレンジも聴けるこの曲を弾き語りでも聴き劣りしない多彩なリフで表現する。弾き語りならではの自由な緩急でスローな「ラリーボーイ」で、景色も体感もガラッと変えていく。SoundCloudに上がっているこの曲の宅録っぽい“近さ”がライブでも損なわれていない。人に曲を届けるということが必ずしも増幅の一方向じゃないことを証明する親密な表現を成り立たせているのは、身も蓋もないが気迫だ。
ブラジル音楽を不安定にしたようなコードの「エントロピー」では、言葉を捲し立て、足はリズムを刻むというより踊っているようで、BPMは遅くても体感は速いという奇跡が起こっていた。そして孤独の中に自分を見つけて曲を作っているであろう彼のスタンスがかなりストレートに表現された「記憶喪失」で加速し、スローな「グッバイソング」では“外で食べてきた帰りが好き”とか“買ってきてくれたジュースが好き”という近しい人でしか感じられない歌詞がすごく響く。しかも柔らかい歌唱なのに死生観すら漂っている。計り知れないものを感じていると、最後の曲を前に「次の二組はバンドなので大きな音が鳴ると思います。楽しんで行ってください」と言った端から、これが弾き語りか?と驚くボリュームで「原始時代」をノイジーに、フリーキーに歌い切った。彼なりの、いや、彼にしかできない戦い方を見た。
今回、出演者はすべてソロプロジェクトだが、制作形態もバンドスタイルをとっているのがSAGOSAIDだ。元々、京都を拠点に活動していたバンドshe saidのボーカル&ギターだったSAGOがソロとなってスタートしたのがSAGOSAIDで、現在は東京西調布で“Studio REIMEI”の運営も行っている。ちなみにギタリストの新间(VINCE;NT)も共同運営者だ。
そしてこの日のサポートメンバーはベースのkimchang、ドラムの寺本花菜子もVINCE;NTのメンバーであり、加えてもうひとりのギタリスト田澤守を加えたトリプルギターの5人編成。サウンドチェックの段階から轟音に心拍が上がる。
ステージ袖に下がらず、そのまま本番に突入したバンドは新间のフィードバックノイズなど、一瞬でざらついた90’sのグランジやオルタナティヴロックの匂いを発生させて、「Brainstop」に突入。この日は新曲以外は2023年リリースのアルバム『Tough Love Therapy』を軸にしたセットリスト。日本語詞を導入したこのアルバムでは、SAGOの気だるくハスキーなボーカルの個性はもちろん、意味が肉体を通じて理解できる歌詞が増えたことで曲への没入感が上がる。シームレスにシューゲイズ色の強い「Stay soft,touch my skin」と続き、音の壁の快感に堕ちる。
かと思えば、シンプルなリフがキャッチーな「Disease」が見える景色を塗り替えた。全編日本語詞のこの曲が纏う、メンタルをやられる日常も恋も絡み合った微熱のような感覚とポップな曲調の組み合わせがいい。続いて披露した新曲2曲は個人的にはグランジでもニルヴァーナよりダイナソーJr.を感じた曲、そしてSAGOのジャグリーなギターがキモとおぼしき曲。もしかしたら次のアルバムに入るのかもしれない。
最後のセクションは日本語詞を取り入れてからの代表曲と言えそうな、「Broken Song」から。過剰な生を持て余して暴走した時や、それによってついた傷について歌う愛しい曲だ。そして「Chinese restaurant」が8ビートの爆走を見せ、ラストは再び音の壁が迫るカタルシスで圧倒する新曲でフィニッシュ。演奏以外では終始、初めての会場でむずかしいとか、メンバー同士の軽口で素を見せていたSAGO。が、少なくとも自分は演奏が終わったあと、彼らの佇まいを含めて圧倒的な信頼感を抱いた。ニューリリースの報せが待たれる。
トリは有島コレスケによるソロプロジェクト、arko lemmingが登場した。近年、ドレスコーズや崎山蒼志、yama、0.8秒と衝撃。など多数の音源、ライブをベース、ギター、ドラムでサポートするマルチプレーヤーである彼。2015年のソロ1stアルバム『PLANKON』以降、作詞作曲、演奏すべてをこなすひとりバンドとして活動し、バンド形態のライブも見せてきたが、基本的に制作はひとり。そのスタイルに変化を見せ始めた2024年からのモードが今回のライブでも見て取れた。というのも、ライブ中のMCで判明したのだが、サポートメンバーはギターにしんきろうのまちのスズキヨウスケ、ベースに自身もソロアーティストの中川昌利、ドラムには有島も所属し、現在は活動休止中のtoldの赤羽進互で、目下制作中の新曲に彼らが参加しており、有島自身もしんきろうのまちや中川の作品に参加しているのだという。
ライブはメロディの良さや彼のモノローグっぽいボーカルが味わえる「mitsumete」でスタート。この日はソロ集大成的な3rdアルバム『satellite-3』からの選曲が軸だったが、リリース時の淡々とした歌の表現に色彩が加わった印象を受ける。続く「stop!」もアンニュイな声質とポップの強度があるメロディの相性がよく、オルタナティヴなシーンにあって、歌ものに秀でたサポート陣の緩急を心得た演奏がハマっている。有島はギターを提げたまま、マイクを握り身振りも交えて歌う。グッとニューウェーヴ的なリフで空気を変えたのはソロ初期のナンバー「灯台」。今のバンドアレンジでさらにタイトな1曲になっていた。そこからスズキのリバービーなギターが幻惑的なムードを醸す「恋する惑星」へとイメージが跳躍する。彼の音楽をひとつのジャンルで語ることは難しいが、シャンソンやボサノバを含むAORのようなややこしい形容をしたくなるのは、王道のポップスとは異なるアレンジや歌詞の切り口のせいだろう。
終盤を前に6月の自主企画、7年ぶりの新曲リリースを発表するとフロアから歓声が上がる。曰く「ツイ廃なので、自分のアカウントだとインフォメーションが埋もれてしまうので、告知用のアカウントを開設しました」とのこと。MCに続いてはライブで披露されている新曲で、現在未発表の「日々の泡」が、オーセンティックな曲の良さでオーディエンスを包み込む。そして本編ラストはまさにオルタナ!なソリッドなリフとクールな8ビートが走り出す「星に願いを」で締めくくった。アンコールに応えて再登場した有島は冒頭に書いたようにサポートメンバーとの関係や作品制作について話し、「ズブズブでやらせてもらってます」と微苦笑を誘う。2025年、本格化するarko lemmingを示唆するようなラストの「未完成な僕らは」の演奏がフラットに心に残った。
<公演情報>
『FUTURE RESERVE vol.6』
2025年2月20日 下北沢近松
セットリスト
■秋山璃月
1. 帰り
2. 偏見
3. 勝手な彼女
4. ラリーボーイ
5. エントロピー
6. 記憶喪失
7. グッドバイソング
8. 原始時代
■SAGOSAID
1. Brainstop
2. Stay soft, touch my skin
3. Disease
4. Am I afraid of dying?
5. Morning boy
6. Broken song
7. Chinese restaurant
8. iimmaaggee
■arko lemming
1. mitsumete
2. stop!
3. 灯台
4. 恋する惑星
5. 日々の泡
6. 星に願いを
en. 未完成な僕らは
■秋山璃月X:
https://x.com/ritsukiakiyama
■SAGOSAID公式サイト:
https://sagosaid.com/
■arko lemming X:
https://x.com/arko_lemming
<次回公演情報>
VINTAGE ROCK×チケットぴあpresents
FUTURE RESERVE vol.7
2025年3月19日(水) 東京・青山月見ル君想フ
開場18:45 / 開演19:15
出演:乙女絵画 / 成山剛(sleepy.ab) / fumi(band set)
【チケット情報】
前売:3,500円(税込/ドリンク代別途)
学割:3,000円(税込/ドリンク代別途)※要学生証
https://w.pia.jp/t/futurereserve-vol7/
VINTAGE ROCK HP:
https://www.vintage-rock.com