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フォーサイス作品初挑戦の新国立劇場バレエ団渡邊峻郁、Co.山田うん『オバケッタ』で活躍の吉﨑裕哉が熱い対談を展開

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左から)渡邊峻郁、吉﨑裕哉(撮影:阿部章仁)

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新国立劇場バレエ団プリンシパルの渡邊峻郁、Co.山田うんで活躍する吉﨑裕哉という、異色の組み合わせによる対談が実現した。ともに、2025年3月に新国立劇場で上演される舞台に出演するダンサーだ。渡邊は、20世紀のバレエの3つの名作を上演する「バレエ・コフレ」で、鬼才ウィリアム・フォーサイスによる傑作『精確さによる目眩くスリル』に挑戦、吉﨑は『オバケッタ』再演での登場だ。実はふたりとも同い年、お互い密かにリスペクトし合っていることも発覚したこの対談。ふたりは、劇場のはからいでお互いの稽古場を見学、大いに刺激を受けた様子だ。

──先日、お互いにリハーサルを見学し合われたとのことですが、実は、おふたりは元々お知り合いだったそうですね。

渡邊 ふたりとも4年前の新国立劇場のダンス公演『舞姫と牧神たちの午後 2021』に出演していて、僕はそこで吉﨑さんの踊り(『極地の空』)を観ているんです。すごくしなやかで、全然力みがなく、カッコよかったです。

吉﨑 渡邊さんの踊りは本当に美しいですね。リハーサルでも自分を美しく見せる哲学みたいなのが見えてきて、それが背中から伝わってきました。興味があります。

渡邊 え……僕は吉﨑さんに対して全く同じことを思っていたんですよ。自分の踊りの見せ方、この角度、この入り方が一番カッコよく見えるというのを、よく研究されていると感じました。僕は『オバケッタ』の初演を拝見しているのですが、そのときからすごくクールだなと思って注目していました。

吉﨑 僕も、新国立劇場のバレエ公演のキャストが発表されたら、絶対にチェックします。あ、渡邊さんがいる!って。

渡邊 ええっ!?

吉﨑 バレエをやらずにダンスの世界に入ったので、憧れがすごく強いんです。美しいライン、基礎がある人を羨ましく思います。渡邊さんの舞台は『夏の夜の夢』(2023年)を拝見しました。

渡邊 わあ、ありがとうございます。先日見ていただいた『精確さによる目眩くスリル』のリハーサルは、始まってまだ1週間くらいの時点でしたから、全然まだまだの状態でしたが。

吉﨑 『精確さによる目眩くスリル』は、フォーサイス作品の中でもバレエダンサーに向けてつくられた、バレエの徹底した基礎がないとできない作品ですよね。その中でオフバランスだったり抜いたりといった要素が入ってきて、すごくチャレンジされていた。本番の舞台でどんなふうに現れてくるのか、興味深いです。

──ダンサーの皆さんにとって、フォーサイスとはどのような振付家なのでしょうか。

吉﨑裕哉

吉﨑 僕は新潟のNoismというカンパニーでクラシックバレエをベースとしたコンテンポラリーダンスを踊っていたので、フォーサイス、キリアン、ベジャールを、現代のダンスを築いてきた偉大な先人たちと捉えています。そのフォーサイスの作品を日本で観ることができるなら、絶対観なきゃ駄目でしょ!と(笑)。しかも新国の、確かな技術があるダンサーたちが踊るのですから。

渡邊 ヨーロッパのカンパニーにいたとき、この作品を上演する機会があり、僕は別の振付家の作品を踊っていたのですが、こんな大変な作品があるんだと興味を抱きました。まさか日本に帰ってきて踊ることになると思っていなかったので、出演が決まってすごく嬉しく思いました。従来のバレエだけでは表現できない挑戦があり、だからといってすべてが自由ではなく、厳密な決まりごとの中で自由に踊る、という感覚ですね。

吉﨑 思ったよりずっと細かく指導されていましたね。首のつけ方とかアームスの出し方も、「こう」じゃなくて、「こう!」と。

渡邊 しっかり見てくださって(笑)。

吉﨑 僕も振付をするのですが、振付は言語、つまり文章みたいなもので、そこに句読点が入るか入らないか、「私は」なのか「私が」なのか、そういう違い、一言一句にこだわった作品だと思い、僕は嬉しくなりました。

渡邊 今日は女性と一緒に踊る場面を稽古してきたのですが、女性と並走して踊りつつ、視線は合っているけどお互いに全然違う動きを別のカウントでやる、という感覚です。とにかくカウントがすごく厳密で、1カ所でもズレると全てが崩れるし、ここだけは絶対にふたりがぴたりと合う、というところもある。

渡邊峻郁

吉﨑 超絶技巧、ですね。それをあのレベルで踊っているのを見せつけられたので、同じダンサーとしてすごいなと思います。フォーサイスの振付は、従来のバレエとは違う筋肉を使ったり、疲れる場所が違っていたりするのですか。

渡邊 それはありますね。意外とオフバランスが多用されていて、外どちらかの足に乗ってないと次に行けない、ということが多い。しかも比較的深い位置が多く、プリエをすごく大事にされています。

『オバケッタ』前半はワクワク、後半は──

──渡邊さんは『オバケッタ』の初演(2021年)をご覧になられたそうですね。

渡邊 すごく引き込まれました。前半と後半とかなり雰囲気が違っていたのが印象的でした。前半はキャラクターが次々と現れて、キャラクターソングみたいのがあって──。

吉﨑 僕が踊るのは電気男という、家のインテリアのライトを擬人化したキャラクターで、黄色い手袋つけてピカピカしています(笑)。歌は、あれは、自分で歌っているんですよ。録音ではありますが。

『オバケッタ』稽古より
『オバケッタ』稽古より

渡邊 吉﨑さんの記事を読ませていただいたのですが、ミュージカルの学校に行かれていたそうですね。

吉﨑 いまもミュージカルに出ていますが、自分の声の録音で踊るのは不思議な感じです。歌い方によって踊りは変わりますから、録音もちょっとした大仕事。今回も再録音をして、本番に向けて、自分が一番テンション上がりやすい歌い方を心がけました。全体の構成としては、1部が賑やかなのと比べて、2部は打って変わって死後の世界、お化けたちの世界で、群舞が多い。ゆめたという主人公が亡くなったおばあちゃんに会うという話で、割と抽象的な感じになります。

渡邊 スタジオでの皆さんの集中力、すごかったですね。もちろんとても和やかな雰囲気なのですが、音が流れた瞬間の切り替えは、本当にすごくて、僕たちのリハーサルも、改めて気を引き締めなければと思いました。

吉﨑 基本的に皆、ふざけているので、切り替えがはっきり見えただけかもしれません (笑)。

──『オバケッタ』初演の際はどのように作品づくりを進められたのでしょうか。

吉﨑 うんさんはわりと、僕らに委ねてくれるんです。たとえば、壁男というキャラクターと電気男の、3人で踊るシーンがありますが、そこはブルース調の音楽を出して、「これでこういう感じのニュアンスでつくってみて」と。結構ざっくりなので(笑)、めちゃめちゃ迷走、苦労した記憶があります。ほかにもメデューサとかカッパとかいろんなキャラクターが出てくるので、それぞれで振付を考える。うんさんも細かいところはわからないままつくっていて、僕らから出てきたアイデアをさらに膨らませ、相互作用みたいな感じでつくっていき、結局何がどちらのアイデアでどうなっていったかわからないながら、「できた!」となる(笑)。間違いなくうんさんにヴィジョンはあるけれど、皆でつくったものでもあるんですね。新国立劇場でコンテンポラリーを上演できるなんて、とても光栄なこと。だから中途半端なことはできないし、意気込みはかなり強いです。

『オバケッタ』稽古より

渡邊 踊ってみたいですよね、『オバケッタ』。……いや、無理! こんな素晴らしい方たちの中に入ったら恥ずかしすぎます(笑)。実は、初演を観たあと、山田うんさんの映像をいろいろ探して見ていたんですよね。地域密着の活動もされている方と知りましたが、ダンサーのエネルギーが作品の中ですごく放出されているように思います。

吉﨑 Co.山田うんに入ろうと思ったきっかけは、作品を観て、山田うんって何を考えているんだろう、何を思ってこんなに面白いことをやっているんだろうと興味を持ったからなんです。加入して5、6年経ちますが、やっぱりいまだにわからない(笑)。理にかなっていない動きもあるけれど、でもだんだん、かなってくる。そこにはうんさんなりの哲学があって、人前で踊ったときに、面白くつながる。ダンサーの熱量を引き出すのも、肉体を躍動させるのもうまい。すごいなって思います。

『オバケッタ』稽古より

渡邊 『オバケッタ』は小さな子も大人も楽しめる要素がたっぷり盛り込まれていますし、ダンスをよくご覧になる方にとっても見応えのある素晴らしい舞台です。装置も絵本の中の、夢の世界。絵本作家の方が美術を手がけられていて、カラフルできれいですよね。こういう夢って、皆、きっと見たことがあると思います。おばあちゃんに会う夢は僕も経験したことがある。前半はワクワク、後半は、心の奥にちょっと響くものがあって、死について感覚的に受け取ることで、「楽しかった」だけではない、何かちょっと考えさせるものが残る。公演を観たあと、散歩しながら家に帰る間は放心状態。個人的な経験も思い出されたりして、いろいろ考えちゃいました。劇場に足を運んで、ワクワク楽しむもよし、胸をキュッとさせてもよしで、多分、それぞれの楽しみ方がある──今日はこれを言うことができてとても嬉しい! 実は今日、吉﨑さんに会えるのを本当に楽しみにしていたんです。

観たらきっと世界が広がるフォーサイス作品

──「バレエ・コフレ」の見どころについてもぜひ聞かせてください。

渡邊 そうでした(笑)。「コフレ」はフランス語で宝石箱という意味で、3つの異なる魅力をもつ作品を楽しめる公演です。僕らが取り組むフォーサイス作品では、『精確さによる目眩くスリル』のタイトルどおり、ダンサーの精密なテクニックと、そこからちょっと抜け出るような挑戦的な部分を感じていただけたら。『火の鳥』は20世紀初頭からいまに残る名作です。また『エチュード』は、バーレッスンから始まりますが、バレエ団の実力が問われる作品。ダンサーそれぞれの美しさ、コール・ド・バレエの美しさをたっぷり味わえて、新国立劇場バレエ団にぴったりな作品だと思います。

吉﨑 熱く語ってくださったので、『オバケッタ』について僕から話すことはもうないのですが(笑)、誰しも生と死というものからは逃れられないですし、そこをテーマにしながら、子どもも、昔子どもだった人にも観ていただける。何か必ず、引っかかるところがあると思います。気軽に劇場に来ていただけたら嬉しいです。

渡邊 これは絶対観たいですね。

吉﨑 フォーサイス作品は、バレエを習っている中高生、若い世代の方が観たら、きっと世界が広がりますね。バレエに対する固定観念が覆るというか、コンテンポラリーダンスがバレエから派生していったという、その流れを感じることもできる。そうしたことを気にしないダンサーも多いけれど、僕は、いろんな先人たちが紡いできた流れを大事にしたいなって思っているんです。

渡邊 なるほど!! だから吉﨑さんの動きは綺麗なんですね。『極地の空』を拝見したとき、こう、このポジション(と、立ち上がってポーズ)の、ここをこうしたときのここ! ここ!! ここの手の先がすごく綺麗で、それで、きっとクラシックを踊られてきた方なんだなと思っていました。

吉﨑 いや、ダンスを始めたのは19歳と遅く、ちゃんとバレエを習うようになったのもNoismに入ってからの22歳。基礎がないとずっと言われ続け、悔しい思いをしました。遅く始めたけれど、でも、近づくことはきっとできる。5番ポジションがきれいに入らなくても、美しい筋肉の使い方とか、指先の表現を大事にしたい。クラシックバレエへの憧れが、僕をそうさせているんだと思います。

渡邊 吉﨑さんのこだわりの一端を知ることができました──って、純粋な一ファンの発言になっちゃいました(笑)。

渡邊が出演する新国立劇場バレエ団「バレエ・コフレ」は、2025年3月14日(金) ~3月16日(日)新国立劇場 オペラパレスにて上演、また吉﨑が出演する『オバケッタ』は、2025年3月29日(土) ~3月30日(日)に新国立劇場 小劇場で公演ののち、4月5日(土)には大分、4月12日(土)に松本での上演も予定されている。チケットは発売中。

取材・文:加藤智子 撮影:阿部章仁


<公演情報>
新国立劇場バレエ団「バレエ・コフレ」
『火の鳥』

振付:ミハイル・フォーキン
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
美術:ディック・バード
衣裳:ナターリヤ・ゴンチャローワ
照明:沢田祐二

『精確さによる目眩くスリル』

振付:ウィリアム・フォーサイス
音楽:フランツ・シューベルト
美術・照明:ウィリアム・フォーサイス
衣裳:ステファン・ギャロウェイ

『エチュード』

振付:ハラルド・ランダー
音楽:カール・チェルニー/クヌドーゲ・リーサゲル編曲
ステージング:ジョニー・エリアセン
アーティスティック・アドヴァイザー:リズ・ランダー
照明:ハラルド・ランダー

芸術監督:吉田都
出演:新国立劇場バレエ団
指揮:マーティン・イェーツ
管弦楽:東京交響楽団

日程:2025年3月14日(金) 〜16日(日)
会場:東京・新国立劇場 オペラパレス

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2557342

公式サイト:
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/triplebill/


『オバケッタ』

演出・振付・作詞:山田うん
音楽:ヲノサトル
美術:ザ・キャビンカンパニー
照明:櫛田晃代
衣裳:池田木綿子
音響:黒野尚

日程:2025年3月29日(土)~3月30日(日)
会場:東京・新国立劇場 小劇場

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2557910

公式サイト:
https://www.nntt.jac.go.jp/dance/obachetta/

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