
TBSの“本気”がつまったドキュメンタリーの祭典
「TBSドキュメンタリー映画祭2025」特集
3月14日(金)より6都市にて順次開催
近年、劇場公開作だけでなく、You TubeやNETFLIXなどでもたくさんのドキュメンタリー作品が制作・配信され、その人気も高まっているドキュメンタリー作品。そんなドキュメンタリーに、開局以来、力を注いできたTBSが“テレビで伝えきれない事実や想い”を発信すべく立ち上げた「TBSドキュメンタリー映画祭」が今年もいよいよ開幕!
今回上映されるのは、社会派からエンタメ色が濃いものまでバラエティ豊かな全17作品。本特集では「ぴあ水先案内人」の皆さんの期待&おススメや、同映画祭のアンバサダーを務めた経験もあり、ぴあでもお馴染みのLiLiCoさんのインタビューをお届けします!
ぴあ「水先案内人」が
期待&おススメする作品は?
LiLiCoさんが語る
TBSドキュメンタリー映画祭の魅力
LiLiCoさんが語るTBSドキュメンタリー映画祭2025
「教育現場の方々にこそ、この映画祭をフル活用してほしい!」

いよいよスタートしたTBSドキュメンタリー映画祭2025。ここでは、2023年より同映画祭のアンバサダーを務めている映画コメンテーター・LiLiCoさんに、LiLiCoさん視点の注目作品についてたっぷり語っていただきました!
これがドキュメンタリーの力、ということを思い知った作品
今年も開催されました、『TBSドキュメンタリー映画祭2025』。アンバサダーとして、そしてドキュメンタリー大好きな映画コメンテーターとして、今回上映される作品をいくつかピックアップしてご紹介します。

まずは『REASON~あの日、HIPHOPに憧れた少年たち~』。2023年の『伝説のラッパー紅桜 ~壮絶人生、刑務所からの再起~』をもとにした映画『ダメな奴』の続編になります。ラッパーとしてカルトな人気を誇る紅桜さんが、恐喝やドラッグの罪で刑務所に服役し、出所から家族再生、復活ライブまでを収めたのが前作。今作では、紅桜さんと彼が所属する津山のHIPHOPクルーのひとり、4PRIDEさんを中心に、彼ら自身と彼らの家族に密着しました。
私のポリシーは「ドラッグに手を出すのは絶対ダメ」なんですが、前作はすごく気に入っていたんです。なぜなら、私の考え方を変えてくれた作品だったから。クスリはダメですよ。今でもそれは変わりません。が、絶対に許せなかったはずなのに、前作を観たことでダメで切り捨てるのではなく、そういう人もいる、くらいまでに許せるようになったから。それは紅桜さん自身のキャラクターはもちろん、奥さんや子どものエピソードから、絶対に許すことができないことは主観であり、そこに客観が必要だということが分かったからです。
これがドキュメンタリーの力、ということを思い知った作品となったんですね。今回の新作も、喜怒哀楽を隠さずにMCバトルに挑みつつ、新たな家族の問題を抱える紅桜さん、そして彼の友だちでもある4PRIDEさんのさらに壮絶な人生を描き出していて驚かされました。ぶっちゃけヒップホップにはあまり興味のなかった私が、2作を通して興味を持ち、好きになるきっかけが生まれた、と感じています。
バスケットボールに興味がない人でも、生きるヒントを感じ取れるんじゃないでしょうか
興味がないけど引き込まれて、今や興味津々になったのはBリーグの選手を追った『渡邊雄太 ~傷だらけの挑戦者~』。NBAの継続契約を辞して日本に戻り、Bリーグで活躍する渡邊雄太さんに密着しています。

これね……若い頃の自分と母の関係を思い出しちゃったんですよ。渡邊さんは帰国して活躍していても「都落ち」って言われることがあることが描かれるんですが、ほんと余計なお世話。人のことをジャッジするなんておかしいでしょ。
でも、これがあったんですよ。私が10代の頃に「日本でタレントになる」と母に決意を告げたときに、彼女は「どうせ1年で戻ってくる」って言ったんですね。私の心は折れるどころか、それで火がついたんですが、その後の苦労はいわずもがな。でも、一度決めた夢だから貫いてきたんですね。渡邊さんもある思いを抱えて日本のBリーグを盛り上げようと必死に奮闘しているんですが、その姿に感銘を受けました。
また、彼は10年以上アメリカで活躍をしてきたからか、私とちょっと社会貢献やトラブルへの対処の考え方が似ているのもよかった。日本人の多くは失敗が怖いと感じていると思うんですが、私や渡邊さんはそうじゃない。常に前向きで、壁にぶつかったときこそめげずに次の手を考えるんです。バスケットボールに興味がない人でも、生きるヒントを感じ取れるんじゃないでしょうか。
最後に彼への質問があるんですが、その問いかけは5年後にあらためてドキュメンタリーの続編で聞いてみたいですね。その質問は観てからのお楽しみ。スポーツ担当のディレクターが監督を務めているので、そんじょそこらのインタビュアーにはできない踏み込んだ内容になっています。

こういう人たちもいるんだ、っていうのを知ることができ、目からウロコでした
こういう人たちもいるんだ、っていうのを知ることができるのもドキュメンタリーの良さ。その点で『jABBKLAB~誰も置いてかないダンススポット~』は目からウロコでした。福岡で活動するダンススポット・jABBKLABは、主宰のご夫妻がCMやTV番組の振り付けを手掛ける人気のダンサー。そんな彼らのダンスラボに密着しています。

誰も置いてかない、というのは文字どおりで、こうしろああしろというメソッドはなし。年齢もレベルもバラバラの生徒たちを束ねることなく、自由に楽しく、それでいて自主的にダンスを身につけられるようにそっと寄り添う姿が印象に残ります。これはほんっと東京じゃないのがいい。全国出張レッスンも手掛けていますが、東京を拠点にしていたらここまで自由なスタイルを貫けないでしょうし、地元の活性化や、出張先の街の活性化につながる未来が見えますもん。
そしてここの生徒さんたちがこれまた素晴らしい。少々の競争心はあるものの、張り合うことなく楽しく好きなことに打ち込むことで、気持ちよく清々しく上達していくんです。これはダンスに限らず、どんなことでも楽しむことが大事、ということの証明になるでしょう。
ひと握り数名の人しかいけない高みに上り詰めた小澤さんの才能と苦労、それを感じさせない人柄に感動
あと、驚かされたものが3つ。まずは『小澤征爾〜魂のタクト、奇跡の第九~ <テレビ版 特別上映>』。知らない人はいないだろう、世界の小澤こと小澤征爾さんが、外国で名指揮者となり凱旋帰国したときの貴重な映像をまとめた作品です。

小澤さんの若い頃はもちろん、音楽とは縁が遠かった子どもの頃の話も驚きですが、何よりあらためて驚かされたのは、指揮者として名前を轟かせることがどれだけ難しいかということ。ほんとにひと握り数名の人しかいけない高みに上り詰めた小澤さんの才能と苦労、それを感じさせない人柄に感動しました。
また私個人的に驚いたのは、本作の監督。実は大久保監督はTBSドキュメンタリー映画祭の初代プロデューサーであり、それ以前は数々の有名番組のプロデューサーだった人なんです(笑)。この映画祭のアンバサダーを依頼してきたのは彼だったのに、いつの間にか作り手になっていたことに驚きでした。

アマゾンで現在進行形で起きている問題を暴いていて、「人が一番の害じゃない……」と思ってしまいました
ふたつめは『埋もれる叫び~南米アマゾンで広がる子ども達の異変』。アマゾンの密林地帯に暮らす人々が水銀汚染に苦しんでいる事実に迫った作品です。

水銀が有害ってことを知ったのは、子どもの頃。体温計が割れて玉になった水銀を触ろうとしたときに、母がものすごい勢いで怒ったんですね。それでなんとなく危ないものだということは知っていたんですが、ここまで人体に影響があるとは……。
しかも、ジャングルの奥地に住んでいる人たちを診察する医者はおらず、おまけにジャングルの木々を不法伐採する闇業者との確執など、アマゾンで現在進行形で起きている問題を暴いていて、あらゆる方向から「人が一番の害じゃない……」と思ってしまいました。いわばヒトコワです。
歴史が苦手な私が、これをきっかけにもっと知りたくなった作品
そして3つめは歴史が苦手な私が、これをきっかけにもっと知りたくなった『巣鴨日記 あるBC級戦犯の生涯』。第二次世界大戦にまつわる作品は『War Bride 91歳の戦争花嫁』や『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』もありますが、これは強烈でした。

そもそも巣鴨プリズンのことを全く知らなかったのもありますが、選択肢がなく自己犠牲を強いられ、それを受け入れてきた当時の社会への憤りを感じます。フィクションや報道で見る戦後のエピソードでは実感がわかない人も多いでしょうし、そもそも観ない人が大多数。これがドキュメンタリー映画だから、観て、知識を広げることができるんですよね。知ることの大切さを学びました。

駆け足でどどっと紹介しましたが、これらだけではありません。地域によっては観られない作品もありますが、全部で17作品、それぞれに知識をつけることこそ、人としての務めということが身にしみる作品ばかりです。
アンバサダーを務めさせていただいていて常々思っているのが、この映画祭こそ、学校の先生が率先して観て、生徒たち、子どもたちに教えてほしいんですよね。なんなら子どもたちを劇場に連れて課外授業にしてもいいと思うほど。というのも、日本の親世代は、子どもにはまだ早い、と勝手に判断をして危なっかしいテーマの映像は見せないことが多いですよね。それじゃダメ。たとえばドラッグのことだったら、依存してしまう理由をきちんと教えないと、大人になってからも危険性が分からないはずなんです。
教育現場の方々にこそ、この映画祭をフル活用していただいて、観た後で議論を交わしてほしいなと思っています。そうすることで、問題点の言語化ができますし、言語化することで全く知らなかったり興味がなかったことに目を向けるチャンスが生まれます。これこそがドキュメンタリーの醍醐味です。ぜひとも幅広い世代の方々に今年も楽しんでいただきたいと切に願っています。
取材・文:よしひろまさみち
撮影:川野結李歌

プロフィール
LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。
夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が、講談社より発売中。
TBSドキュメンタリー映画祭2025
2025年3月14日(金)~4月3日(木)
東京:ヒューマントラストシネマ渋谷
2025年3月28日(金)~4月10日(木)
大阪:テアトル梅田
2025年3月28日(金)~4月10日(木)
名古屋:センチュリーシネマ
2025年3月28日(金)~4月10日(木)
京都:アップリンク京都
2025年3月28日(金)~4月10日(木)
福岡:キノシネマ天神
2025年4月5日(土)~4月11日(金)
札幌:シアターキノ