藤田俊太郎の演出がさらに奥深い魅力を獲得したミュージカル『手紙』2025
ステージ
ニュース

ミュージカル『手紙』2025より (撮影/山口喜久義)
続きを読むフォトギャラリー(5件)
すべて見る犯罪加害者となった兄と、唯一の家族である弟にスポットを当て、彼らの心情と人生を描いた東野圭吾の大ヒット小説『手紙』を原作に立ち上げたオリジナルミュージカル『手紙』の4回目の上演が2025年に再び実現した。脚本・作詞を高橋知伽江、作曲・音楽監督・作詞を深沢桂子、演出を藤田俊太郎が務め、物語の主軸を担う兄弟を2022年に引き続き村井良大、spiが演じる。さらに、優河、鈴木悠仁、青木滉平、稲葉通陽、青野紗穂、染谷洸太、遠藤瑠美子、五十嵐可絵、川口竜也といったキャストが顔を揃え、新たな魅力を湛えたステージで観客を魅了する。
村井が演じるのは、大学進学を前に突如として「殺人犯の家族」となってしまった武島直貴。優しい兄が人を殺すはずないという困惑、兄が犯行を犯したのは自分の大学進学費用のためだという自責の念、周囲からの心無い言葉。優秀な青年が過酷な現実に打ちのめされていく過程を丁寧に描き、見ているものの心を抉る。
spiが演じるのは、両親の代わりに弟を育てていたが体を壊し、金目当てで盗みに入った家で殺人まで犯してしまった兄・剛志。弟思いだが短絡的な青年であることが、手紙を読む声や刑務所内での会話から見えてくる。

刑務所の中で罪と向き合いながらも穏やかに過ごす兄と、夢や希望を見つけても「強盗殺人犯の弟」というレッテルによって道を絶たれて苦しみ続ける弟。決して明るい物語ではないが、そのぶん事情を理解してくれた仲間たちとバンドを組んだ直貴の力強い歌声、心から信頼できる存在に出会った時の喜びが胸を打つ。
村井は直貴が置かれた状況に合わせて声音を変え、歌唱によって心情の変化をわかりやすく伝えている。対するspiは、非常に聞き取りやすい発声とまっすぐな音色で、剛志の愚直さや変わらなさを表現している印象を受けた。ともに事件を悔い、償いたいと思っている兄弟の間にあるズレが、美しい歌唱からも伺えるのが切ない。

学校、職場、社宅……それぞれの場所で理不尽な差別が降りかかり、苦しい状況が続く直貴の人生だが、事件が起きても変わらない友情を持って接してくれる親友・祐輔(鈴木悠仁)、常に寄り添い支えてくれる由美子(優河)の存在が希望を与えてくれる。
一方で、冷酷に思える周囲の人々、厳しくも冷静に「世間の目」について諭す平野社長らの存在も印象深い。同じように苦しんできた被害者家族の姿も描かれ、一つの事件が人々に与える影響の大きさや深さについて改めて考えさせられた。
誰に共感し、誰の考えや価値観に反発を覚えるか。見る人の立場や年齢でも、受け取り方が変わるのではないだろうか。

舞台セットはシンプルだが、照明を使って陰影を演出する絵作りや、時代背景を伝えるための映像を上手く盛り込んでおり、物語への没入感を高めてくれる。原作ファンはもちろん、映画やドラマで見た方も、新鮮な気持ちで楽しめるだろうと感じた。
また、作中の音楽は生演奏となっており、シーンによってはミュージシャンの姿が見えるのも魅力の一つ。ライブハウスで朝美(青野紗穂)が見事な歌声を披露したり、スペシウムの一員になった直貴が祐輔、コータ(青木滉平)、アツシ(稲葉通陽)と一緒に楽曲を演奏したりと、本物のライブさながらの熱さも見応え抜群だ。

新たな演出や変更を加え、さらに磨き上げられたミュージカル『手紙』2025。本作は3月23日(日) まで東京建物 Brillia HALLで上演中。3月29日(土) 〜31日(月) には大阪・SkyシアターMBS、4月5日(土)〜6日(日) には岡山・岡山芸術創造劇場 ハレノワ大劇場でも公演が行われる。
取材・文/吉田沙奈
撮影/山口喜久義
<公演情報>
ミュージカル『手紙』2025
【東京公演】
日程:2025年3月7日(金)〜23日(日)
会場:東京建物 Brillia HALL
【大阪公演】
日程:2025年3月29日(土)〜31日(月)
会場:SkyシアターMBS
【岡山公演】
日程:2025年4月5日(土)・6日(日)
会場:岡山芸術創造劇場ハレノワ 大劇場
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/tegami2025/
フォトギャラリー(5件)
すべて見る