朗読劇『したいとか、したくないとかの話じゃない』2025 津田健次郎インタビュー
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津田健次郎
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すべて見る2023年公演での映像を多用した斬新な演出も好評だった、足立紳の小説を原作にした夫婦二人芝居の朗読劇が待望の再演を果たす。前回に続き共同脚本を足立紳と新井友香、演出を新井友香が担う2025年版で夫・孝志役を演じるのは、声優として絶大な人気を誇り、近年は俳優としても数多くのドラマ・映画に出演している津田健次郎。複雑な事情を抱えて揺れ動く夫婦の姿を丁寧に、ときに大胆に描く本作への思いを津田にきいた。
本作で描いているのは、コロナ禍で私たちの生活に、そしてエンターテインメント業界においてもさまざまな制約が必要となり多大な影響を受けていた頃のこと。津田自身は当時どのように感じ、価値観などに変化はあったのだろうか。
津田 僕自身の価値観は、それほど変わらなかったような気がします。むしろ、エンタメとかアートというものは現実的な部分ではあまり役に立たない、不要不急のものであるということをあらためて認識しました。人間の生命維持には役に立たない存在なのだから、けっして奢るべきではないという前提に立ったうえで“何ができるだろうか”ということを考えるようになりました。
エンターテインメントのもつ力が、問われる場面だということだろうか。
津田 それでも人間はご飯だけでは生きていけない、そのためにほんの少しでもできることはある、ということがコロナ禍、そして多くの災害を経験したことで、はっきり浮かび上がった感じはあります。ほぼ無力ですけど、無力なりに一つひとつ丁寧につくっていけば、何かを生み出せるかもしれない。そのために、謙虚に全力を尽くしていくことを再認識しました。
そうした思いを抱えて取り組む本作は、タイトルから察せられる部分もあるが夫婦の“セックスレス”がきっかけとなって夫婦関係が動いていく。津田自身は初演や原作、そして脚本にふれて、どのように感じたのだろう。
津田 コメディとシリアスがほどよく混じっていて、笑いあり、身につまされる部分あり、感動ありの作品になっています。性事情を含めた夫婦の話がわりと生々しく出てくるので、ご覧になる方はびっくりするかもしれませんが、とても真面目な夫婦の話でもあります。
夫婦間の究極のプライベートとでも言うべきデリケートなトピックを扱っているだけに、老若男女それぞれ受けとめ方も違ってくるだろう。津田自身は、当然ながら演じる孝志の目線で読んでいるという。
津田 とても正直で、不器用な男です。でもただのダメ男ではなく、不純な中に垣間見える純粋さといいますか、そういうところが素敵。良い部分も悪い部分も、そのまま出てくると面白くなりそうです。脚本に出てくる生々しさみたいなものをきちんと立ち上げられたら、そのダメさ加減も含めて、味になっていくのではないかと思います。

もうひとりの登場人物である妻の恭子は、家事・育児に追われていた毎日から、脚本コンクールで賞をとったことで状況が大きく変化していく。夫として、津田の目には恭子がどのように映っているのか聞いてみた。
津田 特に物語の序盤ははっきりものが言えないし、グズグズしていてダメなところもある女性だと思います。でも自分の立ち位置が決まればはっきりものが言えるようになってくるタイプだし、なかなか力強い。愛情の深さや優しさもしっかりあって、最後の最後まで粘ろうと努力してくれる部分にも懐の深さを感じる。すごく魅力的な人だと思います。
ふたり芝居だからこその濃密さ
二人芝居の相手役、板谷由夏について「『強い女性』を演じられている姿が素敵」と津田はコメントしている。どういったところに強さを感じたのだろうか。
津田 もちろん、強さはすごく感じます。でもとても柔らかい人という印象もあって、どちらも持ち合わせていらっしゃる。今回の役にすごくフィットするんじゃないかと思います。どう演じるかは、演出の新井さんを含めて、いろいろディスカッションしながら立ち上げられるといいかなと思います。
たった二人の出演者で紡いでいく会話劇。その難しさは、きっと観客の想像を超えたものがあるだろうと察せられるが。
津田 会話が密になっていくと言いますか、濃くなっていく感じにはなるでしょうね。逆に言えば、二人芝居だからこそ、会話がうまくかみ合わなかったら何も立ち上がってこない。そこが面白い部分でもあり、難しい部分でもある。これまで大人数の芝居も少人数の芝居も経験していますが、少人数の芝居は好きですね。密度が濃くなるので、その分面白いと思います。
夫婦の会話はほぼすべて口喧嘩のような容赦のないかけ合いですが、そこから立ち上がるコメディ的な部分、「それ、言っちゃだめじゃん!」みたいなことって結構ありますよね。本当は思っていないことも、売り言葉に買い言葉で出ちゃったりするとか。そういう部分がコミカルでもあり、お客さまもおそらく身につまされるでしょうし、とても面白い要素のひとつではないでしょうか。
激しくコミカルな口喧嘩を朗読で表現するということは、一般的な芝居とは異なる制約も生まれるだろう。
津田 僕はもともと舞台出身ですから、動いた方がニュアンスも出しやすいなという瞬間はあります。動きに制限をかけて会話だけで成立させていく朗読劇は、いつも難しいなと思います。お客さまにとってはもちろん観ていただくものではありますが、基本的には聴いていただくもの。準備段階でいろいろ計算したり分析したりして、実際に演じる時は逆にそうやって準備したものをどうやってうまく捨てていくか。それが、“見せる”のではなく“その場に存在する”夫婦が生々しく会話をしている姿が立ち上がってくることにつながる。そうして頭の中でキャラクターが動き始めたら、一番理想的な、完成形なのかなという気がします。
今年は声優デビュー30周年という節目の年でもある津田。自身がこの先目指す表現、表現者としてのありようをどのように思い描いているのだろう。
津田 イメージしているものはありますけど……恥ずかしいから言わない(笑)。本当に簡単に言えば、「いい芝居ができるようになりたい」ということに尽きます。“いい芝居”っていったい何なのか、その定義は人それぞれ。自分の定義の中で、いい芝居をできるようになりたい。また作り手側としてもやっていきたいので、そちらでもいい作品をお届けできたら。これは芝居を始めた当初から、ずっと抱えている思いです。当初はよくわかってない部分もいっぱいありましたし、ひたすらがむしゃらにやっていましたが、経験を重ねて目指すものの輪郭は少しはっきりしてきました。

そんな、2025年現在の津田健次郎が送る朗読劇。最後はやはり、読者へのお誘いのメッセージで締めてもらおう。
津田 とても生々しい、不器用なダメダメ夫婦の会話劇ですが、私たちが演じる夫婦の姿をご覧になっていろいろ考えていただけるような、日常の景色が少し変わってみえるような作品にできればと思っております。老若男女、性別問わず楽しんでいただきたいのですが、性的表現は入っておりますのでご理解のうえご覧いただければと思います。いい作品にできるように頑張りますので、ぜひ劇場まで足を運んでください。
取材・文/金井まゆみ
<公演情報>
朗読劇『したいとか、したくないとかの話じゃない』2025
日程:2025年5月23日(金)〜25日(日)
会場:渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/shitaitoka/
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